『COMPANY's Pawn』短編・番外編
私は、占い師だ。繁華街の隅っこで、きちんと行政から許可を貰って、店を出している。冷やかしも多いけれど、水商売のひとや、バイト帰りの学生たちに、「よく当たる」と人気者なのだ。
そして。今夜も何人かのお客様を迎えて。そろそろ店じまい、というときに。…―――現れたのだ。そのひとは。
私の店を目指しているのではない。明らかに、どこかへの道筋半ば。あるいは、帰宅途中。だからこそ。思わず、呼び止めてしまった。
「あ、あの!そこのお方…!」
「? 俺か?」
うわっ、イケボだ…!顔もいいけど、声もいい…、って今はそれどころじゃない。
呼び止めた手前、何か言わないと…。と思ったとき、私には「視えて」しまった。彼の「運命」が。
私は視えてしまったことを、口にする。
「…直近、あなたには、運命の相手が、現れます」
「…占い、か」
「興味、ありますか?」
「どういった運命の相手なのか、にもよるが…」
「詳しく見て差し上げますよ?お時間も、10分ほどで」
「そうか」
私の商売文句に納得してくれたのか。彼は椅子に座ってくれた。間近で見ると、その美貌を改めて伺うことが出来る。
この端麗な顔に、私は一目で恋に落ちてしまった。しかし、同時に。彼に対して、かなり近い将来、「運命の相手」が現れることも、咄嗟に視えてしまった。どうせ叶わぬ恋ならば。商売と称して、会話くらいはしてみたい。例え、10分程度でも。
カードを切っていると、彼が見つめてくるのが分かった。惚れた相手と見つめ合えないのと、手元に集中する意味も込めて、私は何とか邪念を振り払いつつも、カードを切り終えた。
引いたカードを読み解くと…。要するに。
「…「急ぎ、手に入れよ」とのことです」
「そうか。余計なことを考えている暇は、なさそうだな」
「ええ、おそらくは…」
私が伝えると、少しだけ目を伏せた。
羨ましい。こんなに素敵なひとから、考えている暇もないくらい、今すぐに求められる相手が。
よく当たる自分の占いが、今だけ。今この瞬間だけ。少し、恨めしくなった。すると。
彼はジャケットの内ポケットから紙とペンを出して、何かをサラサラと書いた後。
今度は財布からお札を取り出して、それと一緒に、占い用のカードが並んだ机の上に置いた。
「そちらの都合の良いときで構わない」
「え…」
そう言うと同時に、彼は椅子から立ち上がって。おもむろに私の頭を優しく撫でた。咄嗟の出来事に、理解が追い付かない。
目を白黒させる私が愉快だったのか。彼はフッと小さく笑った。それを見た私の顔に熱が集まり、心臓が高鳴るのが分かる。
その場を後にした彼の後ろ姿が見えなくなった頃。私はハッと我に返り、手元を見た。
5000円札と、……これは、名刺?
『ROG. COMPANY 三級高等幹部専属秘書官 ソラ』
ソラ?ソラ…。これがあのひとの名前…。
あら?そういえば、何か書いてなかったっけ…?
思い立ち、印刷面から裏返しにすると。
メッセージアプリのIDと、「I've got a crush on you.」という一文が。流麗な文字で書かれていた。
うそ…。こんなことって…あるの…?
占い師は自分自身は占えない。でも、相手を通して「自分の運命」を見つけられるなんて。全然、考えにも至らなかった。しかも。
(あなたの虜、なんて…!)
口説き文句までイケメンだなんて、ズルすぎる。
彼の名刺を胸に抱き、上弦の月が昇った夜空を見上げた。
高鳴る鼓動は、占い用のカードを切らなくても、何を示唆しているのかが分かる。
この恋は成就する、と。
そして。今夜も何人かのお客様を迎えて。そろそろ店じまい、というときに。…―――現れたのだ。そのひとは。
私の店を目指しているのではない。明らかに、どこかへの道筋半ば。あるいは、帰宅途中。だからこそ。思わず、呼び止めてしまった。
「あ、あの!そこのお方…!」
「? 俺か?」
うわっ、イケボだ…!顔もいいけど、声もいい…、って今はそれどころじゃない。
呼び止めた手前、何か言わないと…。と思ったとき、私には「視えて」しまった。彼の「運命」が。
私は視えてしまったことを、口にする。
「…直近、あなたには、運命の相手が、現れます」
「…占い、か」
「興味、ありますか?」
「どういった運命の相手なのか、にもよるが…」
「詳しく見て差し上げますよ?お時間も、10分ほどで」
「そうか」
私の商売文句に納得してくれたのか。彼は椅子に座ってくれた。間近で見ると、その美貌を改めて伺うことが出来る。
この端麗な顔に、私は一目で恋に落ちてしまった。しかし、同時に。彼に対して、かなり近い将来、「運命の相手」が現れることも、咄嗟に視えてしまった。どうせ叶わぬ恋ならば。商売と称して、会話くらいはしてみたい。例え、10分程度でも。
カードを切っていると、彼が見つめてくるのが分かった。惚れた相手と見つめ合えないのと、手元に集中する意味も込めて、私は何とか邪念を振り払いつつも、カードを切り終えた。
引いたカードを読み解くと…。要するに。
「…「急ぎ、手に入れよ」とのことです」
「そうか。余計なことを考えている暇は、なさそうだな」
「ええ、おそらくは…」
私が伝えると、少しだけ目を伏せた。
羨ましい。こんなに素敵なひとから、考えている暇もないくらい、今すぐに求められる相手が。
よく当たる自分の占いが、今だけ。今この瞬間だけ。少し、恨めしくなった。すると。
彼はジャケットの内ポケットから紙とペンを出して、何かをサラサラと書いた後。
今度は財布からお札を取り出して、それと一緒に、占い用のカードが並んだ机の上に置いた。
「そちらの都合の良いときで構わない」
「え…」
そう言うと同時に、彼は椅子から立ち上がって。おもむろに私の頭を優しく撫でた。咄嗟の出来事に、理解が追い付かない。
目を白黒させる私が愉快だったのか。彼はフッと小さく笑った。それを見た私の顔に熱が集まり、心臓が高鳴るのが分かる。
その場を後にした彼の後ろ姿が見えなくなった頃。私はハッと我に返り、手元を見た。
5000円札と、……これは、名刺?
『ROG. COMPANY 三級高等幹部専属秘書官 ソラ』
ソラ?ソラ…。これがあのひとの名前…。
あら?そういえば、何か書いてなかったっけ…?
思い立ち、印刷面から裏返しにすると。
メッセージアプリのIDと、「I've got a crush on you.」という一文が。流麗な文字で書かれていた。
うそ…。こんなことって…あるの…?
占い師は自分自身は占えない。でも、相手を通して「自分の運命」を見つけられるなんて。全然、考えにも至らなかった。しかも。
(あなたの虜、なんて…!)
口説き文句までイケメンだなんて、ズルすぎる。
彼の名刺を胸に抱き、上弦の月が昇った夜空を見上げた。
高鳴る鼓動は、占い用のカードを切らなくても、何を示唆しているのかが分かる。
この恋は成就する、と。