第六章 Awaken The TRUE ALICE
落月が槍を振りかぶろうとしたところで、ルカはその巨大な槍身を左の拳で弾き飛ばした。さすがに並大抵ではない堅牢さを兼ね備えているのか、パンチひとつでは壊すことが出来ない様子。現にルカの拳を受けていながら、ヒビも入っていない。さすが『ルカを壊すための槍』という目的で創られた兵器。どうやら伊達ではないらしい。ルカは落月の周囲を飛び回りながら、その全容を解明しようとしていた。どう立ち回れば、上手く壊すことが出来るのかを、ひたすら考える。
その間、撃星は威嚇射撃を繰り返して、落月の気を引く。落月の本来の攻撃対象はルカだが、その邪魔をするものがいるのであれば、そちらを排除する機能も備わっている。案の定、落月は、自身の周囲をちょろちょろと飛び回るルカより、作戦の邪魔をする撃星の排除へと舵を取り始めた。落月の槍が、撃星に向かって振り翳された。それと同時に、落月の多足から、そこに格納されていたらしい機関砲が、おびただしい門数で飛び出してくる。
「なるほど、独活の大木ではないってコトか」
ルカが関心めいて呟いた。刹那、機関砲が火を噴く。ルカは浮遊ユニットの出力を上げて、銃弾を回避し始めた。
落月は機関砲でルカめがけて銃弾を撒き散らしながらも、振りかぶったその槍を、撃星に向かって薙ぐ。撃星も本体の剣で、それを受け止めた。
ドガァァァァアアンンッッッ!!!!!!と、耳をつんざくような音を立て、天と地を揺るがしながら、兵器殺しの槍と、槍殺しの剣が、かち合う。―――この世の終わりに、音が存在するというのならば。それは、これのことなのかもしれない。
落月から豪雨の如く飛んでくる銃弾の一発も掠りもさせず、ルカは飛び回る。自分の手さえ、落月本体に当てることが出来れば、同調変換のチカラで、落月そのものを崩壊させることは可能なはずだ。だが、この銃撃の激しさを見るに、この兵器を開発した人間たちは、その隙をルカに与えないように算段している。確かに、200年以上かけて創ってきただけのことはあり、実に良く設計されている兵器だとも、ルカには評価が出来た。だが。
「そろぼち、弾切れになるんじゃない?」
回避行動に徹しながらも、ルカはふっと笑って、そう言う。途端、落月の機関銃が、沈黙した。ルカの予感は当たった。銃弾が切れた。だが。落月の胴体に、数多くの小窓が開いたかと思えば。今度はそこから太いケーブルが飛び出して、ルカに向かって高速で伸びて行った。豆鉄砲が当たらないなら、直接捕まえてしまえ、という作戦。
ルカは向かってくる捕縛ケーブルを、先ほどよりも早いスピードで回避する。だが、ケーブルの一本が、浮遊ユニットを掠めた。たったそれだけだったのに、凄まじいダメージを負ったユニットは、たちまち滞空能力を失う。ルカが落ちる。だが、彼は残った方のユニットでバランスを取りながらも、その間に襲ってくる捕縛ケーブルを叩きのめしつつ、落月の槍身へと上手く不時着した。捕縛ケーブルの勢いは止まらない。ルカは使い物にならなくなった脚の浮遊ユニットを即座に脱ぎ捨て、今も尚、動き続けている槍の上を走り出す。不安定な場所なうえに、ルカはハイヒール。だが、そんな小さな条件如きでは、彼を足止めすることなど出来ない。
「撃星!剣で落月の槍を攻撃!」
ルカが命じるのを聞いた撃星が、巨大な剣を振りかぶる。ルカはそこをめがけて、神速で槍の上を走り抜けた。捕縛ケーブルは尚も追ってくる。
そして、槍と剣がぶつかり合おうとする直前の、その双方の間に、ルカが飛び出して。―――直後、槍と剣が、轟音を立ててかち合う。それと同時に、ルカを追っていた捕縛ケーブルは、兵器同士の刃に挟まれた結果、全て纏めて千切れてしまった。ルカは、これを狙っていた。そのルカは―――…?
「―――さあ、次は何を出してくるの?」
撃星の胴体に手を掛けた状態で、本機の脚に立っているルカは、涼しい笑顔で、そう言った。煽っているようにも見えるが、相手が自我も何も持ち合わせていない、ただの破壊のための兵器であることは、彼とて承知している。
手札を全て失った落月は、本体の槍でルカを射抜こうと、再び振りかぶろうとしてくるが。ルカはその前に、自らが降り立っていた撃星から飛び上がって、落月の多足に乗る形で、その胴体を目前とした。
青色のネイルが印象的な手を翳して、ルカは告げる。
「じゃあ、キミを壊すよ」
掌を当てた瞬間、ルカの中に、落月を構成する全ての物質の情報が流れ込んでくる。そして瞬時に解析されていくそれらが、同調変換のチカラで、崩壊を始めた。
あらゆる部分から崩れ始めた落月が、ぐらぐらと不安定に傾いでは、軋んだ轟音を上げる。
ランダムに流れ込んでくる物質の情報を、解析していっては崩壊へと繋げていくルカは。―――辿り着いた落月の最深奥のデータの中にあったモノを見る。
――『すごいぞ!まだ子犬のようなサイズなのに、もう10cmの鉄板を貫いた!』
――『この子こそ、人類の希望に違いない!』
そう言う人間たちがかわるがわるに、そう声をかける。これは、落月の『記憶』だ。この人間たちは、落月の開発に取り組んでいた技術者たちに違いない。
――『可愛いなあ、すごいなあ。大きくなれよお』
老齢の技術者が、落月の頭を撫でた。その視線、言動。まるで、愛しい飼い犬にするかのような、それでしかなく。
そうか。この強大な破壊兵器とて、最初は子犬のようなサイズから始まった。そして、技術者たちは、自分たちの手で落月を創っていくことに、少なからずの喜びを覚えていたに違いない。確かにROG. COMPANYは、ルカを世間から隠すためのものだったのかもしれないが、それでも玩具会社として動いていくなかで、社内の人間たちがモノづくりの楽しさの日々とて、感じていた可能性はある。―――それが、今、ルカが見ている、落月の記憶。
兵器として何もかもが巨大化していくなかで、どんどんと上書きされていったであろうメモリーのなか。こうして、自分を創った人間たちの顔と言葉を、落月は『覚えている』。そして、それを抱いて、崩壊していこうとしている。
「キミのことは、オレが背負っていくよ。―――生まれてきてくれて、ありがとう。おやすみ」
ルカがそう呟くと、落月の崩壊の速度が進んだ。それに伴い、落月の機体から上がっていた軋みが、益々、音量を上げる。それはさながら、鋼鉄の喉を搔き毟るような、断末魔。崩壊への軋みと悲鳴が交じり合い、天と地が痛みに歪むかのようだった。
そして、全ての物質の変換を終えたルカは、当てていた手を外した後。落月から一息で離れて、撃星へと乗り移る。すると。
軋んでいた音が止み、刹那、静寂が訪れた。
落月が、波間に攫われた砂浜の城のように、その形を無くしていく。
やがて、ルカを壊すためと創られた槍は。自身の欠片一粒も遺さずに、消えて行った。
それを見届けたルカは、今度は撃星からヒルカリオを見下ろす。
「愛しい、愛しい、檻の島。これからも、オレの居場所でいてくれる?」
ルカがそう呟くと、一陣の風が吹いた。呷られた彼の深青のロングポニーテールは翻り、その耳を飾る赤い宝石のピアスが、きらり、と輝く。
to be continued...
その間、撃星は威嚇射撃を繰り返して、落月の気を引く。落月の本来の攻撃対象はルカだが、その邪魔をするものがいるのであれば、そちらを排除する機能も備わっている。案の定、落月は、自身の周囲をちょろちょろと飛び回るルカより、作戦の邪魔をする撃星の排除へと舵を取り始めた。落月の槍が、撃星に向かって振り翳された。それと同時に、落月の多足から、そこに格納されていたらしい機関砲が、おびただしい門数で飛び出してくる。
「なるほど、独活の大木ではないってコトか」
ルカが関心めいて呟いた。刹那、機関砲が火を噴く。ルカは浮遊ユニットの出力を上げて、銃弾を回避し始めた。
落月は機関砲でルカめがけて銃弾を撒き散らしながらも、振りかぶったその槍を、撃星に向かって薙ぐ。撃星も本体の剣で、それを受け止めた。
ドガァァァァアアンンッッッ!!!!!!と、耳をつんざくような音を立て、天と地を揺るがしながら、兵器殺しの槍と、槍殺しの剣が、かち合う。―――この世の終わりに、音が存在するというのならば。それは、これのことなのかもしれない。
落月から豪雨の如く飛んでくる銃弾の一発も掠りもさせず、ルカは飛び回る。自分の手さえ、落月本体に当てることが出来れば、同調変換のチカラで、落月そのものを崩壊させることは可能なはずだ。だが、この銃撃の激しさを見るに、この兵器を開発した人間たちは、その隙をルカに与えないように算段している。確かに、200年以上かけて創ってきただけのことはあり、実に良く設計されている兵器だとも、ルカには評価が出来た。だが。
「そろぼち、弾切れになるんじゃない?」
回避行動に徹しながらも、ルカはふっと笑って、そう言う。途端、落月の機関銃が、沈黙した。ルカの予感は当たった。銃弾が切れた。だが。落月の胴体に、数多くの小窓が開いたかと思えば。今度はそこから太いケーブルが飛び出して、ルカに向かって高速で伸びて行った。豆鉄砲が当たらないなら、直接捕まえてしまえ、という作戦。
ルカは向かってくる捕縛ケーブルを、先ほどよりも早いスピードで回避する。だが、ケーブルの一本が、浮遊ユニットを掠めた。たったそれだけだったのに、凄まじいダメージを負ったユニットは、たちまち滞空能力を失う。ルカが落ちる。だが、彼は残った方のユニットでバランスを取りながらも、その間に襲ってくる捕縛ケーブルを叩きのめしつつ、落月の槍身へと上手く不時着した。捕縛ケーブルの勢いは止まらない。ルカは使い物にならなくなった脚の浮遊ユニットを即座に脱ぎ捨て、今も尚、動き続けている槍の上を走り出す。不安定な場所なうえに、ルカはハイヒール。だが、そんな小さな条件如きでは、彼を足止めすることなど出来ない。
「撃星!剣で落月の槍を攻撃!」
ルカが命じるのを聞いた撃星が、巨大な剣を振りかぶる。ルカはそこをめがけて、神速で槍の上を走り抜けた。捕縛ケーブルは尚も追ってくる。
そして、槍と剣がぶつかり合おうとする直前の、その双方の間に、ルカが飛び出して。―――直後、槍と剣が、轟音を立ててかち合う。それと同時に、ルカを追っていた捕縛ケーブルは、兵器同士の刃に挟まれた結果、全て纏めて千切れてしまった。ルカは、これを狙っていた。そのルカは―――…?
「―――さあ、次は何を出してくるの?」
撃星の胴体に手を掛けた状態で、本機の脚に立っているルカは、涼しい笑顔で、そう言った。煽っているようにも見えるが、相手が自我も何も持ち合わせていない、ただの破壊のための兵器であることは、彼とて承知している。
手札を全て失った落月は、本体の槍でルカを射抜こうと、再び振りかぶろうとしてくるが。ルカはその前に、自らが降り立っていた撃星から飛び上がって、落月の多足に乗る形で、その胴体を目前とした。
青色のネイルが印象的な手を翳して、ルカは告げる。
「じゃあ、キミを壊すよ」
掌を当てた瞬間、ルカの中に、落月を構成する全ての物質の情報が流れ込んでくる。そして瞬時に解析されていくそれらが、同調変換のチカラで、崩壊を始めた。
あらゆる部分から崩れ始めた落月が、ぐらぐらと不安定に傾いでは、軋んだ轟音を上げる。
ランダムに流れ込んでくる物質の情報を、解析していっては崩壊へと繋げていくルカは。―――辿り着いた落月の最深奥のデータの中にあったモノを見る。
――『すごいぞ!まだ子犬のようなサイズなのに、もう10cmの鉄板を貫いた!』
――『この子こそ、人類の希望に違いない!』
そう言う人間たちがかわるがわるに、そう声をかける。これは、落月の『記憶』だ。この人間たちは、落月の開発に取り組んでいた技術者たちに違いない。
――『可愛いなあ、すごいなあ。大きくなれよお』
老齢の技術者が、落月の頭を撫でた。その視線、言動。まるで、愛しい飼い犬にするかのような、それでしかなく。
そうか。この強大な破壊兵器とて、最初は子犬のようなサイズから始まった。そして、技術者たちは、自分たちの手で落月を創っていくことに、少なからずの喜びを覚えていたに違いない。確かにROG. COMPANYは、ルカを世間から隠すためのものだったのかもしれないが、それでも玩具会社として動いていくなかで、社内の人間たちがモノづくりの楽しさの日々とて、感じていた可能性はある。―――それが、今、ルカが見ている、落月の記憶。
兵器として何もかもが巨大化していくなかで、どんどんと上書きされていったであろうメモリーのなか。こうして、自分を創った人間たちの顔と言葉を、落月は『覚えている』。そして、それを抱いて、崩壊していこうとしている。
「キミのことは、オレが背負っていくよ。―――生まれてきてくれて、ありがとう。おやすみ」
ルカがそう呟くと、落月の崩壊の速度が進んだ。それに伴い、落月の機体から上がっていた軋みが、益々、音量を上げる。それはさながら、鋼鉄の喉を搔き毟るような、断末魔。崩壊への軋みと悲鳴が交じり合い、天と地が痛みに歪むかのようだった。
そして、全ての物質の変換を終えたルカは、当てていた手を外した後。落月から一息で離れて、撃星へと乗り移る。すると。
軋んでいた音が止み、刹那、静寂が訪れた。
落月が、波間に攫われた砂浜の城のように、その形を無くしていく。
やがて、ルカを壊すためと創られた槍は。自身の欠片一粒も遺さずに、消えて行った。
それを見届けたルカは、今度は撃星からヒルカリオを見下ろす。
「愛しい、愛しい、檻の島。これからも、オレの居場所でいてくれる?」
ルカがそう呟くと、一陣の風が吹いた。呷られた彼の深青のロングポニーテールは翻り、その耳を飾る赤い宝石のピアスが、きらり、と輝く。
to be continued...
