第五章 BLESSING from Deep Blue
出勤してきたツバサが、ROG. COMPANYの正面ロビーに入ったとき。前方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「きみぃ〜?なんだね?その格好は?我が社の社員でいるつもりなら、せめてスラックスくらい履いて…、いや、きみはまだ若そうだな?入社して日が浅いなら、まずスーツで出社してくるべきだろう?そう思わんかね?」
あれは、一般事務の風間(かざま)だ。「現場主義の叩き上げ」を自称する、中年の男性社員である。一応、専務。
ツバサの記憶が正しければ、社内の風紀を守るを名目に、ああやって、若い社員のファッションチェックを勝手に執り行う…、まあ、要するに、難癖をつけて絡みに行くような、底意地の悪い男。
だが、ツバサの注目しているのは風間の悪癖ではなく、彼に絡まれている社員の方だった。
水色がかったプラチナブロンド、柄シャツをインナーにしたツナギ姿。―――あれは、どう見ても、レイジである。
レイジは、ルカに並ぶほどの高身長を誇るうえ、ガタイもそこそこよろしい。それなりに目立つ容姿の持ち主だった。故に、今朝は、風間に目を付けられたのだろう。
ロビーを行き交う外野は、風間の『ダル絡み』を鬱陶しそうに眺めるものもいれば、普段見かけないレイジに対して、珍しい動物でも見るかのような視線を送ったり、はたまた、「自分じゃなくて良かった…」と安堵したりしているようだ。
ツバサは、レイジの方へ、一直線に歩き始める。彼女のブーツの踵が鳴らす音を聞き、そして何気なく振り向いた社員のひとりが「ひっ…?!」と、小さく悲鳴を上げて。ツバサに道を譲る。その光景、かつて海を割った男の神話の如く。
「いや…、社長は自由な社風を求めているし…。それに、服装に対しても『仕事の質に関係のない事柄だ』と、普段から社内では豪語してて…」
レイジが風間に弁明するのが聞こえた。だが、風間は怒り出す。
「口答えかね?!この私を誰だと思っている?!これだから最近の若者は―――」
その瞬間。ツバサが両者の傍に辿り着いた。レイジと風間は勿論、周りのものたちすら、一体、ツバサが何をする気なのか?、と思ったとき。
「―――おはようございます、前岩田十二級高等幹部」
ツバサはそう挨拶すると、レイジに向かって、社会人の模範ともいえる、美しいお辞儀をした。彼女の口から飛び出してきた、『前岩田十二級高等幹部』というワードに、周囲がざわつく。レイジが肩を竦めるのが分かった。ツバサは次いで、風間に向き直る。
「おはようございます、風間専務。
専務に置きましては、社内風紀に心を配ってくださり、誠に感謝申し上げます。
その後、一般事務の方は、お変わりないでしょうか?」
「え、ええ、まあ…、あの、おかげさまでして…」
しどろもどろ。先程までの威勢のよさが噓のよう。明かされたレイジの肩書きと、『化け物の部下』であるツバサがわざと放つ圧に、あっという間に委縮してしまったようだ。所詮は、この程度の男でしかない。ツバサは風間が見せた隙を逃さず、畳み掛けを始める。
「本社非公認における、社員のファッションチェックをするのは、ハラスメントの観点において非常にデリケートなテーマになりかねません。
とはいえ、風間専務の熱意を蔑ろにはしません。我々Room ELは、社員ひとりひとりの声を大切にします。
よって、僭越ながら、事務員の私からルカ三級高等幹部へ、専務を中心とした『社内風紀を守るチーム』の立ち上げの提案を致します。早ければ、今日付けで、専務のデスクにルカよりメールが届くでしょうから、ご対応のほどよろしくお願いします」
一気に言い放たれた、怒涛の台詞。ツバサの抑揚の少ない声と、光の差さない緑眼に圧倒されて、風間は「そ、そのような大役…!め、滅相もございません…!」と、ぶるぶる!、と首を横に振りながら、顔を青褪めさせて、拒否をする。
「そうですか。では、私の方からルカには、『いま見たことを、そのまま報告する』に留めておきますね」
風間の反応を見たツバサは、そこでやり取りを終わりにした。そして、レイジに「遅刻します。行きましょう」と言って、エレベーターホールの方へと足を向けた。レイジが後ろからついてくるのが分かる。
エレベーターに乗り込んだふたりには、もう見えない。風間が「化け物に…目を付けられた…」と、この世の終わりのような顔をして、一般事務の区画へ、ヨロヨロ…と歩いて去っていくのが。…見えない、だけであって、知らない、とも言ってはいない。
17階で乗り換えをしたタイミングで、沈黙を守っていたレイジが口を開いた。
「…、ツバサ、大丈夫そ…?」
「……、まだ、行ける…。せめて、執務室につくまでは…」
「…いざとなったら担いで運ぶから、そのときは許してくれ、我が同士よ…」
「…うん…、ありがとう、レイ…」
ふたりきりになった特別エレベーターのなかで、レイジとツバサが会話をする。間も無く、エレベーターは25階に到着した。
廊下を歩き、ツバサはRoom ELの扉でタイムカードを打刻し、「おはようございます…」と細い声を出しながら、中へと入っていく。レイジも「失礼します」と断りを入れてから、後に続いた。
「おはよう、アリスちゃん、っと、あれ?レイジじゃーん。何かあったの?」
「どうした、御曹司?今朝は早いんだな。珍しい」
ルカとソラに出迎えられたところで、ツバサはドッとチカラを抜いた。というより、自然と抜けて、倒れそうになったに等しい。「わー!ツバサッ!」とレイジが慌てて支える。その様子には、さすがのソラも瞠目した。ルカは「あれま~」と零してから。
「ナオト~、急患かも~?」
「おやおや、今、先生が行きますからね」
ルカがそう給湯室に向かって言うと、奥からナオトの穏やかな声が聞こえてきた。そして、ナオトは自分のタンブラーを持って、すぐに出てくる。
「呼吸はありますか?意識はありますか?呼びかけには応じますか?そもそも、生きてます?」
「いや、その内容は医者としてどうなんよ…?」
「仕事に関して手を抜いたことは一切ありませんよ、と、しかと公言しておきます」
ナオトの雑な質問に対して、レイジは呆れたが。まあ、此処(Room EL)だし、と納得もする。それに、この一瞬の光景を見ただけで、ナオトが粗方の事情を察知したことも悟った。
「それで、ツバサさんがこうなった経緯や理由を、レイジさんはご存知でしょうか?」
ナオトが改めて、レイジに問いかけた。彼のオッドアイの視線はツバサに向いており、手は彼女の脈拍を取っている。レイジはそれを見ながら、ナオトの質問に答えた。
「さっき、正面ロビーで、俺が変なおっさん専務に絡まれて…。それをツバサが、撃退してくれたんだよ…。
凄かったんだって、ツバサ。圧力のかけ方がルカ兄で、弁術はソラのそれで…、まるでハイブリッドだったわー…。
まあ、かなり気を張ってたのは分かったから、此処に着けば、気は抜けると思ったけど…、いや、まさか座り込むまでになるとは思わなくね?って話…」
「よく分かりました。ありがとうございます。
ツバサさん、立てますか?一旦、ソファーで休みましょう」
レイジの説明を受けたナオトは、ツバサを促す。が、彼女の身体を支えたのは、レイジだった。
慣れないプレッシャーの掛け方をしたせいで、変にチカラを使い切ってしまったツバサはレイジに支えられたまま、よろり、とソファーに座る。すると、ルカが彼女の隣に座ると、持って来た湯呑みを差し出した。
「ソラがちょっぱやで作ってくれた、インスタントの緑茶だよ〜。アリスちゃん、まずはひとくち、頑張ってみようか」
「…うん」
ルカから受け取った湯呑みから、ツバサは緑茶を一口飲む。飲みやすい温度に調整された緑茶は、ツバサの喉を潤すと同時に、おかしな緊張を齎されていた心身に安らぎを与えてくれた。おかげで、湯呑みの中身はすぐに半分になる。ほぅ…、とツバサの唇から、安堵の溜め息が漏れた。
「脈拍は正常です。瞳孔も開いておりません。呼吸も問題はなさそうです。
無理にでも診断を下せと仰るのであれば、過度に緊張したことによる、一時的なパニック障害に類似するものと致しますが…。ルカさん、如何なさいますか?」
「ありがとう、ナオト。診断書が必要な場面は来ないだろうから、今は何もしなくていいよ」
「かしこまりました。では、僕はデスク周りの立ち上げに戻ります」
ルカとのやり取りを終えたナオトは、宣言通り、自分のデスクへと帰って行った。事を始終静観していたソラは、ナオトの背中を視線だけで追った後、レイジを見やる。
「御曹司、当室の事務員を送り届けてくれて、感謝申し上げる。
だが、そろそろお前も自分の執務室に行かなければ、遅刻扱いになるんじゃないか?
リモートワークがメインであるはずのお前が出社しているということは、本日は就業時間通りに仕事が始まるはずだろう?」
「あーね」
ソラに促されたレイジはソファーを離れる。ルカが何やらツバサに色々と話しかけている様子を見ながら、あ、そうだ、と、ソラに向かって口を開く。
「そう言えば…、ルカ兄のホルダーって、ツバサなんだっけ…?」
「…。ルカから、聞いたのか?」
「本人が、俺にならもう隠す必要ないから、って、自然とカミングアウトしてきた」
「そうか…、それで?そこに何か気になることでもあったのか?」
レイジが口にしたテーマは、ソラにとって極めてデリケートに見えるモノだった。一度はRoom ELのメンバーに受け入れて貰った事実とはいえ、やはり、ルカ関係の情報には慎重にならざるを得ない。
だが、そんなソラの胸中を知ってか知らずか。レイジは、平素の脱力気味の声音のまま、のんびりと言葉を続けた。
「いやさ…、俺にとってルカ兄って、父親代わりで、格闘技の師匠みたいなもんで、まあ、それで兄呼ばわりしてるからさ…。その男の命令権を持つ女性ってなると、…それってつまり、俺にとって、『姉』になるんじゃね?って、ふと思ってさあ…」
「……まあ、お前がそう帰結するなら、それでも良いんじゃないか?
あとは、ツバサ本人が、御曹司に姉と呼ばれて不快な気持ちにならないかどうかの確認を取れ。下手をすれば、ハラスメントだ」
レイジの偉く独特な感性から来たコメントに対して、ソラは、もっと深刻な話が出てくるのかと身構えていた分、少し拍子抜けをする。とはいえ、然るべき忠告は忘れない。
そして素直にそれに従ったレイジは、「ツバサー」と、これまた聞いている方が気が抜けそうな無気力さを醸し出す声で、彼女を呼んだ。振り向いたツバサに、レイジが提案する。
「これからツバサのこと、姉ちゃんって呼んでも良い?」
「うん、別にいいよ。むしろ、レイがそれに納得してるなら…」
秒で成立した。何も疑問点が無いらしい。思い返せば、セイラもツバサのことを「ねえさま」と呼んでいる。ルカの「アリスちゃん」呼びにも未だにツバサからのツッコミが無いあたり、彼女は自身の呼称に対する強い拘り等は持ち合わせていないということだ。つまり、「呼ばれたのが自分だと分かれば、返事をする」というタイプ。
それに、ツバサとレイジの間には、『広い界隈に於ける、マイナー推しが共通している』が故に、強固たる絆がある。正直、それ云々を抜きにしたとしても、ソラからすれば、ツバサとレイジという男女がつるむ絵面に対して、『ふたりが恋仲に見えない』ことの方が重要だった。
何故ならば、ルカのツバサへの溺愛っぷりは、どう見ても、彼女が自分のホルダーだから、という領域を越えているから。…そこを邪魔する輩が現れてしまっては、ソラが請け負うであろう『裏方の処理』が面倒この上ない。
そこまでつらつらと考えながらも、自分のデスクのパソコンも立ち上がった頃だろうか、とソラが思ったときだった。
ピンポーン!と、来客を報せるドアベルが鳴った。
「俺が出る」
腰を浮かせかけたツバサを制して、ソラが対応する。インターホンで「はい、どちら様でしょうか」と淡泊な声で問うと。
『ローザリンデ五級高等幹部ですわ。先程、正面ロビーで起こったことについて、事務員さんに確認したいことがありますの。通してくださる?』
令嬢モードをしている方のローザリンデだ。ソラはごく小さな溜め息を零した後、扉を開錠した。
「どうぞ。但し、そろそろ就業時間ですので、可能な限り、手短にお願いします」
「勿論ですわ。通してくれてありがとうございます、ソラ秘書官」
言葉は表面上だが、水面下では視線だけの殴り合い。「こんな時間に何しに来たんだ?」、「お前には関係ねーよ!」。言語化するなら、このあたりだろうか。
「失礼しますわよ、ルカ三級高等幹部」
「どーぞ、遠慮なく。でも、言いたいことがあるなら、ソラの進言通り、短くしてね?こう見えて、ウチは、結構、忙しいんだよね~」
ルカがそう言うと、ローザリンデの纏う空気が変わった。令嬢からおれモードに切り替わったようだ。
「風間のおっさん、出勤してきたおれを見るなり、その場で泣きついて来やがったぞ?
『ルカ三級高等幹部の権力を笠に着て、ただの事務員如きが脅しに来た!パワハラだ!』ってなァ?」
耳が早い、というか。ローザリンデの台詞を信じるならば、風間はわざわざ彼女を待ち伏せしていたようにも見える。Room ELにクレームを言いたいが、本人たちに直接は言えない。ならば、その外郭の関係者へ。…となると、一般の社員が思い至れるのは、ローザリンデしかいない。一応、出向中という名目のナオトも外郭といえばそうなのだが、彼にはクレームが通らない、すなわち言っても意味が無いのは、既に社内では知れ渡っている。ナオトも「化け物」としてカウントされている、という理由付きで。
「その弁明だと、オレが直接、風間専務に言いに行けば、大人しくなるハズだね。ソラ~、アポイント取って~?」
「ははは、対応が早くて助かるぜ。こういうときばかりは、お前が軍事兵器で良かったと思えらァ」
ルカの対応の早さに、ローザリンデはからからと笑う。ツバサは確かに、あの場で風間へ通告した。「Roon ELは、社員ひとりひとりの声を大切にする」と。苦楽関係なく、社員の声を拾い上げる平等さ。だがそれが、毒か薬かと問われると、誰も言明は出来ない。しない方が良い。
「じゃ、後は頼んだ。まあ、もし何かあったら、今日のおれはずっと執務室にいる予定だから、メッセージ飛ばしてくれ。
ほら!行くぞ御曹司ぃ!仕事部屋が隣同士、今まで通り、仲良くしよーや!よそ様の執務室からは、さっさと出る出る!」
「ちょ、急に扱いが雑…ッ!?
じゃあ、姉ちゃん、また連絡するから、って、ちょ、ちょ、腕引っ張りすぎだってのッ。お、お邪魔しましたー…!」
ローザリンデは早々に去って行った。そして彼女に引っ張って行かれる形で、レイジも退室する。
「さて、そろそろお仕事の時間だよ~。皆、今日もよろしくお願いします♪」
ルカがそう言って、微笑んだ。
*****
「おはよーございます」
ローザリンデが自分の執務室に入ると、横から挨拶が聞こえた。セイラだ。アルバイトの時間帯限定のジャージメイド姿だ。
「おう!おはよう、セイラ。
今日のシフトは午前からだったか。助かるぜ。でもこんなに朝が早いと、ツライだろ?」
「ツライっちゃあツライんすけど、此処、給料バチバチに良いんで。そこでチャラですかねー?」
「あっはっはっは!そりゃあ良いこと聞いたぜ!なら、たくさんこき使って、その分、たんまり稼がせてやるよ!」
その会話は、とても雇い主と高校生アルバイトのものとは思えぬ内容だが。セイラの性格と仕事ぶりを知っているローザリンデからすれば、この軽率さなど些末なこと。否、これこそがセイラの持つ貴重な個性だと考えている。子ども個人の特性は、周囲の大人が見守り、そして育むものだ。
「あ。そういえば、姉御。これ、昨日の最後の掃除で拾いましたよー?」
「おん?なんだ、なんだ?」
セイラがおもむろにスタッフ用の棚から何かを取り出して、ローザリンデへと手渡す。『拾得物』の文字が入った小袋に包まれたそれは、アクリルキーホルダーだった。表面は傷だらけで、プリントも端の方が剥げている部分がある。だが、セイラが発見した時点で、これは既にこういう状態であった。そのうえ。
「それ、プリテトの不思議の国のアリスコラボのヤツっすよねー?あんまし、持ってるひと見ないから、めずらしー、って思ったんすけど…、…姉御?」
回収したアクリルキーホルダーのレアリティの高さを話そうとしたセイラだったが。ふと、呆然とした表情で、手元のそれを見つめるローザリンデの顔色が気になり、言葉を切って、彼女を呼ぶ。すると。
「…! お、おう!
いやあびっくりしたぜ!てっきり失くしちまったとばかり思ってたからよ~!」
セイラの呼びかけで、ハッと我に返ったかのようにした後。いつものようにローザリンデは喋りだした。
「こいつを何処で見つけてくれたんだ?」
「此処の仮眠室のベッド下。箒で埃を掻き出してたら、一緒に出てきたんすよ。一応、他にも何か落ちてるかもって確認したけど、それ以外は無いっぽかったんで」
「そうかそうか!マジでありがとな!セイラ!
お礼に、今日のコーヒーはおれが奢ってやるよ。お前、今日は昼で上がりだろ?帰りに社内のカフェテリアに寄って、このローザリンデ様の名前でツケときな」
「え、いいの?…まあ、姉御がいいなら、いいのか。
了解っす。ゴチでーす」
「そうそう。自分の仕事に対する報酬は、素直に受け取っておけ~」
そのとき。就業を告げるチャイムが鳴った。
早速、昨日から引き継いだ仮眠室の掃除の続きをするため、セイラは掃除用具を持って、奥の部屋へと向かう。その背を見送ったローザリンデは、自分のデスクの椅子に座ると。
「…ッッ、~~~~~~ッッ」
セイラが発見してくれたアクリルキーホルダーを。ぎゅう、と握り締めて。声にならない声を出した。深紅とグレーが入り混じった不思議な色味の双眸に、薄らと涙が溜まっている。
「…良かった…、見つかって良かった…ッ…、ほんとよかった…ッ、…もう二度と逢えないって…、そんな意味なのかもって…、ッ…」
セイラに聞こえない、そして、悟らせもしないように。気配を殺して、ローザリンデはアクリルキーホルダーを見つめながら、何処までも静かに涙した。
そして、涙を拭った指先で、アクリルキーホルダーの表面を撫でる。
「お前は忘れても、おれは絶対に忘れない…。だって、おれたち、ずっと友達だから…。
―――…なあ、ツバサ…」
そう呟いたローザリンデの言葉は、誰にも拾われず、ただただ、執務室内の空気と消えた。
to be continued...
「きみぃ〜?なんだね?その格好は?我が社の社員でいるつもりなら、せめてスラックスくらい履いて…、いや、きみはまだ若そうだな?入社して日が浅いなら、まずスーツで出社してくるべきだろう?そう思わんかね?」
あれは、一般事務の風間(かざま)だ。「現場主義の叩き上げ」を自称する、中年の男性社員である。一応、専務。
ツバサの記憶が正しければ、社内の風紀を守るを名目に、ああやって、若い社員のファッションチェックを勝手に執り行う…、まあ、要するに、難癖をつけて絡みに行くような、底意地の悪い男。
だが、ツバサの注目しているのは風間の悪癖ではなく、彼に絡まれている社員の方だった。
水色がかったプラチナブロンド、柄シャツをインナーにしたツナギ姿。―――あれは、どう見ても、レイジである。
レイジは、ルカに並ぶほどの高身長を誇るうえ、ガタイもそこそこよろしい。それなりに目立つ容姿の持ち主だった。故に、今朝は、風間に目を付けられたのだろう。
ロビーを行き交う外野は、風間の『ダル絡み』を鬱陶しそうに眺めるものもいれば、普段見かけないレイジに対して、珍しい動物でも見るかのような視線を送ったり、はたまた、「自分じゃなくて良かった…」と安堵したりしているようだ。
ツバサは、レイジの方へ、一直線に歩き始める。彼女のブーツの踵が鳴らす音を聞き、そして何気なく振り向いた社員のひとりが「ひっ…?!」と、小さく悲鳴を上げて。ツバサに道を譲る。その光景、かつて海を割った男の神話の如く。
「いや…、社長は自由な社風を求めているし…。それに、服装に対しても『仕事の質に関係のない事柄だ』と、普段から社内では豪語してて…」
レイジが風間に弁明するのが聞こえた。だが、風間は怒り出す。
「口答えかね?!この私を誰だと思っている?!これだから最近の若者は―――」
その瞬間。ツバサが両者の傍に辿り着いた。レイジと風間は勿論、周りのものたちすら、一体、ツバサが何をする気なのか?、と思ったとき。
「―――おはようございます、前岩田十二級高等幹部」
ツバサはそう挨拶すると、レイジに向かって、社会人の模範ともいえる、美しいお辞儀をした。彼女の口から飛び出してきた、『前岩田十二級高等幹部』というワードに、周囲がざわつく。レイジが肩を竦めるのが分かった。ツバサは次いで、風間に向き直る。
「おはようございます、風間専務。
専務に置きましては、社内風紀に心を配ってくださり、誠に感謝申し上げます。
その後、一般事務の方は、お変わりないでしょうか?」
「え、ええ、まあ…、あの、おかげさまでして…」
しどろもどろ。先程までの威勢のよさが噓のよう。明かされたレイジの肩書きと、『化け物の部下』であるツバサがわざと放つ圧に、あっという間に委縮してしまったようだ。所詮は、この程度の男でしかない。ツバサは風間が見せた隙を逃さず、畳み掛けを始める。
「本社非公認における、社員のファッションチェックをするのは、ハラスメントの観点において非常にデリケートなテーマになりかねません。
とはいえ、風間専務の熱意を蔑ろにはしません。我々Room ELは、社員ひとりひとりの声を大切にします。
よって、僭越ながら、事務員の私からルカ三級高等幹部へ、専務を中心とした『社内風紀を守るチーム』の立ち上げの提案を致します。早ければ、今日付けで、専務のデスクにルカよりメールが届くでしょうから、ご対応のほどよろしくお願いします」
一気に言い放たれた、怒涛の台詞。ツバサの抑揚の少ない声と、光の差さない緑眼に圧倒されて、風間は「そ、そのような大役…!め、滅相もございません…!」と、ぶるぶる!、と首を横に振りながら、顔を青褪めさせて、拒否をする。
「そうですか。では、私の方からルカには、『いま見たことを、そのまま報告する』に留めておきますね」
風間の反応を見たツバサは、そこでやり取りを終わりにした。そして、レイジに「遅刻します。行きましょう」と言って、エレベーターホールの方へと足を向けた。レイジが後ろからついてくるのが分かる。
エレベーターに乗り込んだふたりには、もう見えない。風間が「化け物に…目を付けられた…」と、この世の終わりのような顔をして、一般事務の区画へ、ヨロヨロ…と歩いて去っていくのが。…見えない、だけであって、知らない、とも言ってはいない。
17階で乗り換えをしたタイミングで、沈黙を守っていたレイジが口を開いた。
「…、ツバサ、大丈夫そ…?」
「……、まだ、行ける…。せめて、執務室につくまでは…」
「…いざとなったら担いで運ぶから、そのときは許してくれ、我が同士よ…」
「…うん…、ありがとう、レイ…」
ふたりきりになった特別エレベーターのなかで、レイジとツバサが会話をする。間も無く、エレベーターは25階に到着した。
廊下を歩き、ツバサはRoom ELの扉でタイムカードを打刻し、「おはようございます…」と細い声を出しながら、中へと入っていく。レイジも「失礼します」と断りを入れてから、後に続いた。
「おはよう、アリスちゃん、っと、あれ?レイジじゃーん。何かあったの?」
「どうした、御曹司?今朝は早いんだな。珍しい」
ルカとソラに出迎えられたところで、ツバサはドッとチカラを抜いた。というより、自然と抜けて、倒れそうになったに等しい。「わー!ツバサッ!」とレイジが慌てて支える。その様子には、さすがのソラも瞠目した。ルカは「あれま~」と零してから。
「ナオト~、急患かも~?」
「おやおや、今、先生が行きますからね」
ルカがそう給湯室に向かって言うと、奥からナオトの穏やかな声が聞こえてきた。そして、ナオトは自分のタンブラーを持って、すぐに出てくる。
「呼吸はありますか?意識はありますか?呼びかけには応じますか?そもそも、生きてます?」
「いや、その内容は医者としてどうなんよ…?」
「仕事に関して手を抜いたことは一切ありませんよ、と、しかと公言しておきます」
ナオトの雑な質問に対して、レイジは呆れたが。まあ、此処(Room EL)だし、と納得もする。それに、この一瞬の光景を見ただけで、ナオトが粗方の事情を察知したことも悟った。
「それで、ツバサさんがこうなった経緯や理由を、レイジさんはご存知でしょうか?」
ナオトが改めて、レイジに問いかけた。彼のオッドアイの視線はツバサに向いており、手は彼女の脈拍を取っている。レイジはそれを見ながら、ナオトの質問に答えた。
「さっき、正面ロビーで、俺が変なおっさん専務に絡まれて…。それをツバサが、撃退してくれたんだよ…。
凄かったんだって、ツバサ。圧力のかけ方がルカ兄で、弁術はソラのそれで…、まるでハイブリッドだったわー…。
まあ、かなり気を張ってたのは分かったから、此処に着けば、気は抜けると思ったけど…、いや、まさか座り込むまでになるとは思わなくね?って話…」
「よく分かりました。ありがとうございます。
ツバサさん、立てますか?一旦、ソファーで休みましょう」
レイジの説明を受けたナオトは、ツバサを促す。が、彼女の身体を支えたのは、レイジだった。
慣れないプレッシャーの掛け方をしたせいで、変にチカラを使い切ってしまったツバサはレイジに支えられたまま、よろり、とソファーに座る。すると、ルカが彼女の隣に座ると、持って来た湯呑みを差し出した。
「ソラがちょっぱやで作ってくれた、インスタントの緑茶だよ〜。アリスちゃん、まずはひとくち、頑張ってみようか」
「…うん」
ルカから受け取った湯呑みから、ツバサは緑茶を一口飲む。飲みやすい温度に調整された緑茶は、ツバサの喉を潤すと同時に、おかしな緊張を齎されていた心身に安らぎを与えてくれた。おかげで、湯呑みの中身はすぐに半分になる。ほぅ…、とツバサの唇から、安堵の溜め息が漏れた。
「脈拍は正常です。瞳孔も開いておりません。呼吸も問題はなさそうです。
無理にでも診断を下せと仰るのであれば、過度に緊張したことによる、一時的なパニック障害に類似するものと致しますが…。ルカさん、如何なさいますか?」
「ありがとう、ナオト。診断書が必要な場面は来ないだろうから、今は何もしなくていいよ」
「かしこまりました。では、僕はデスク周りの立ち上げに戻ります」
ルカとのやり取りを終えたナオトは、宣言通り、自分のデスクへと帰って行った。事を始終静観していたソラは、ナオトの背中を視線だけで追った後、レイジを見やる。
「御曹司、当室の事務員を送り届けてくれて、感謝申し上げる。
だが、そろそろお前も自分の執務室に行かなければ、遅刻扱いになるんじゃないか?
リモートワークがメインであるはずのお前が出社しているということは、本日は就業時間通りに仕事が始まるはずだろう?」
「あーね」
ソラに促されたレイジはソファーを離れる。ルカが何やらツバサに色々と話しかけている様子を見ながら、あ、そうだ、と、ソラに向かって口を開く。
「そう言えば…、ルカ兄のホルダーって、ツバサなんだっけ…?」
「…。ルカから、聞いたのか?」
「本人が、俺にならもう隠す必要ないから、って、自然とカミングアウトしてきた」
「そうか…、それで?そこに何か気になることでもあったのか?」
レイジが口にしたテーマは、ソラにとって極めてデリケートに見えるモノだった。一度はRoom ELのメンバーに受け入れて貰った事実とはいえ、やはり、ルカ関係の情報には慎重にならざるを得ない。
だが、そんなソラの胸中を知ってか知らずか。レイジは、平素の脱力気味の声音のまま、のんびりと言葉を続けた。
「いやさ…、俺にとってルカ兄って、父親代わりで、格闘技の師匠みたいなもんで、まあ、それで兄呼ばわりしてるからさ…。その男の命令権を持つ女性ってなると、…それってつまり、俺にとって、『姉』になるんじゃね?って、ふと思ってさあ…」
「……まあ、お前がそう帰結するなら、それでも良いんじゃないか?
あとは、ツバサ本人が、御曹司に姉と呼ばれて不快な気持ちにならないかどうかの確認を取れ。下手をすれば、ハラスメントだ」
レイジの偉く独特な感性から来たコメントに対して、ソラは、もっと深刻な話が出てくるのかと身構えていた分、少し拍子抜けをする。とはいえ、然るべき忠告は忘れない。
そして素直にそれに従ったレイジは、「ツバサー」と、これまた聞いている方が気が抜けそうな無気力さを醸し出す声で、彼女を呼んだ。振り向いたツバサに、レイジが提案する。
「これからツバサのこと、姉ちゃんって呼んでも良い?」
「うん、別にいいよ。むしろ、レイがそれに納得してるなら…」
秒で成立した。何も疑問点が無いらしい。思い返せば、セイラもツバサのことを「ねえさま」と呼んでいる。ルカの「アリスちゃん」呼びにも未だにツバサからのツッコミが無いあたり、彼女は自身の呼称に対する強い拘り等は持ち合わせていないということだ。つまり、「呼ばれたのが自分だと分かれば、返事をする」というタイプ。
それに、ツバサとレイジの間には、『広い界隈に於ける、マイナー推しが共通している』が故に、強固たる絆がある。正直、それ云々を抜きにしたとしても、ソラからすれば、ツバサとレイジという男女がつるむ絵面に対して、『ふたりが恋仲に見えない』ことの方が重要だった。
何故ならば、ルカのツバサへの溺愛っぷりは、どう見ても、彼女が自分のホルダーだから、という領域を越えているから。…そこを邪魔する輩が現れてしまっては、ソラが請け負うであろう『裏方の処理』が面倒この上ない。
そこまでつらつらと考えながらも、自分のデスクのパソコンも立ち上がった頃だろうか、とソラが思ったときだった。
ピンポーン!と、来客を報せるドアベルが鳴った。
「俺が出る」
腰を浮かせかけたツバサを制して、ソラが対応する。インターホンで「はい、どちら様でしょうか」と淡泊な声で問うと。
『ローザリンデ五級高等幹部ですわ。先程、正面ロビーで起こったことについて、事務員さんに確認したいことがありますの。通してくださる?』
令嬢モードをしている方のローザリンデだ。ソラはごく小さな溜め息を零した後、扉を開錠した。
「どうぞ。但し、そろそろ就業時間ですので、可能な限り、手短にお願いします」
「勿論ですわ。通してくれてありがとうございます、ソラ秘書官」
言葉は表面上だが、水面下では視線だけの殴り合い。「こんな時間に何しに来たんだ?」、「お前には関係ねーよ!」。言語化するなら、このあたりだろうか。
「失礼しますわよ、ルカ三級高等幹部」
「どーぞ、遠慮なく。でも、言いたいことがあるなら、ソラの進言通り、短くしてね?こう見えて、ウチは、結構、忙しいんだよね~」
ルカがそう言うと、ローザリンデの纏う空気が変わった。令嬢からおれモードに切り替わったようだ。
「風間のおっさん、出勤してきたおれを見るなり、その場で泣きついて来やがったぞ?
『ルカ三級高等幹部の権力を笠に着て、ただの事務員如きが脅しに来た!パワハラだ!』ってなァ?」
耳が早い、というか。ローザリンデの台詞を信じるならば、風間はわざわざ彼女を待ち伏せしていたようにも見える。Room ELにクレームを言いたいが、本人たちに直接は言えない。ならば、その外郭の関係者へ。…となると、一般の社員が思い至れるのは、ローザリンデしかいない。一応、出向中という名目のナオトも外郭といえばそうなのだが、彼にはクレームが通らない、すなわち言っても意味が無いのは、既に社内では知れ渡っている。ナオトも「化け物」としてカウントされている、という理由付きで。
「その弁明だと、オレが直接、風間専務に言いに行けば、大人しくなるハズだね。ソラ~、アポイント取って~?」
「ははは、対応が早くて助かるぜ。こういうときばかりは、お前が軍事兵器で良かったと思えらァ」
ルカの対応の早さに、ローザリンデはからからと笑う。ツバサは確かに、あの場で風間へ通告した。「Roon ELは、社員ひとりひとりの声を大切にする」と。苦楽関係なく、社員の声を拾い上げる平等さ。だがそれが、毒か薬かと問われると、誰も言明は出来ない。しない方が良い。
「じゃ、後は頼んだ。まあ、もし何かあったら、今日のおれはずっと執務室にいる予定だから、メッセージ飛ばしてくれ。
ほら!行くぞ御曹司ぃ!仕事部屋が隣同士、今まで通り、仲良くしよーや!よそ様の執務室からは、さっさと出る出る!」
「ちょ、急に扱いが雑…ッ!?
じゃあ、姉ちゃん、また連絡するから、って、ちょ、ちょ、腕引っ張りすぎだってのッ。お、お邪魔しましたー…!」
ローザリンデは早々に去って行った。そして彼女に引っ張って行かれる形で、レイジも退室する。
「さて、そろそろお仕事の時間だよ~。皆、今日もよろしくお願いします♪」
ルカがそう言って、微笑んだ。
*****
「おはよーございます」
ローザリンデが自分の執務室に入ると、横から挨拶が聞こえた。セイラだ。アルバイトの時間帯限定のジャージメイド姿だ。
「おう!おはよう、セイラ。
今日のシフトは午前からだったか。助かるぜ。でもこんなに朝が早いと、ツライだろ?」
「ツライっちゃあツライんすけど、此処、給料バチバチに良いんで。そこでチャラですかねー?」
「あっはっはっは!そりゃあ良いこと聞いたぜ!なら、たくさんこき使って、その分、たんまり稼がせてやるよ!」
その会話は、とても雇い主と高校生アルバイトのものとは思えぬ内容だが。セイラの性格と仕事ぶりを知っているローザリンデからすれば、この軽率さなど些末なこと。否、これこそがセイラの持つ貴重な個性だと考えている。子ども個人の特性は、周囲の大人が見守り、そして育むものだ。
「あ。そういえば、姉御。これ、昨日の最後の掃除で拾いましたよー?」
「おん?なんだ、なんだ?」
セイラがおもむろにスタッフ用の棚から何かを取り出して、ローザリンデへと手渡す。『拾得物』の文字が入った小袋に包まれたそれは、アクリルキーホルダーだった。表面は傷だらけで、プリントも端の方が剥げている部分がある。だが、セイラが発見した時点で、これは既にこういう状態であった。そのうえ。
「それ、プリテトの不思議の国のアリスコラボのヤツっすよねー?あんまし、持ってるひと見ないから、めずらしー、って思ったんすけど…、…姉御?」
回収したアクリルキーホルダーのレアリティの高さを話そうとしたセイラだったが。ふと、呆然とした表情で、手元のそれを見つめるローザリンデの顔色が気になり、言葉を切って、彼女を呼ぶ。すると。
「…! お、おう!
いやあびっくりしたぜ!てっきり失くしちまったとばかり思ってたからよ~!」
セイラの呼びかけで、ハッと我に返ったかのようにした後。いつものようにローザリンデは喋りだした。
「こいつを何処で見つけてくれたんだ?」
「此処の仮眠室のベッド下。箒で埃を掻き出してたら、一緒に出てきたんすよ。一応、他にも何か落ちてるかもって確認したけど、それ以外は無いっぽかったんで」
「そうかそうか!マジでありがとな!セイラ!
お礼に、今日のコーヒーはおれが奢ってやるよ。お前、今日は昼で上がりだろ?帰りに社内のカフェテリアに寄って、このローザリンデ様の名前でツケときな」
「え、いいの?…まあ、姉御がいいなら、いいのか。
了解っす。ゴチでーす」
「そうそう。自分の仕事に対する報酬は、素直に受け取っておけ~」
そのとき。就業を告げるチャイムが鳴った。
早速、昨日から引き継いだ仮眠室の掃除の続きをするため、セイラは掃除用具を持って、奥の部屋へと向かう。その背を見送ったローザリンデは、自分のデスクの椅子に座ると。
「…ッッ、~~~~~~ッッ」
セイラが発見してくれたアクリルキーホルダーを。ぎゅう、と握り締めて。声にならない声を出した。深紅とグレーが入り混じった不思議な色味の双眸に、薄らと涙が溜まっている。
「…良かった…、見つかって良かった…ッ…、ほんとよかった…ッ、…もう二度と逢えないって…、そんな意味なのかもって…、ッ…」
セイラに聞こえない、そして、悟らせもしないように。気配を殺して、ローザリンデはアクリルキーホルダーを見つめながら、何処までも静かに涙した。
そして、涙を拭った指先で、アクリルキーホルダーの表面を撫でる。
「お前は忘れても、おれは絶対に忘れない…。だって、おれたち、ずっと友達だから…。
―――…なあ、ツバサ…」
そう呟いたローザリンデの言葉は、誰にも拾われず、ただただ、執務室内の空気と消えた。
to be continued...