第一章 ALICE in New World

【2週間後】

「はい、…では、面接は9日の、午前11時15分からとさせていただきます。よろしくお願い致します。特殊対応室のツバサがご案内を致しました。ありがとうございます。失礼致します」

ツバサは外線を切り、取っていたメモを整理する。とはいえ、用意されていたテンプレートがあるので、整理することも余りない。

先の『右藤さゆりの案件』を処理し終えたいま、Room ELが請け負っている仕事は、『一般事務の中途採用の面接申し込みの受付』である。
右藤の自殺を誘因した大量の一般事務の社員を一斉に解雇したことに対しては、さすがにあのROG. COMPANYとはいえ、事務が人員不足に陥る羽目となる。社長から受けた仕事をこなしただけとはいえ、その結果を「一斉解雇」に持ち込んだ因子を蒔いたのはあくまで、Room EL。なので、急遽、行われることになった、一般事務の中途採用の面接の受付窓口の一端となる運びとなったのだ。
中途採用とはいえ、一流企業のROG. COMPANYとなれば、「チャンスだ!」とばかりに、転職、再就職、果てはまだ学生の身である人間まで、幅広い層が応募してくる。
その電話を淡々と捌きながら、ツバサは次のコールが鳴るであろう数分先までの間で、糖分と水分補給を済ませるのだった。


――――……。

「採用枠が、正社員28人、派遣・パートが43人に対して…、応募してきた人数の合計は~?
 …、1385人!ひゃ~!弊社ってば人気者~!
 比率が、男性41%、女性54%、性別無回答5%~!多様性~!」

採用面接の受付業務が終わった後。ルカが締め作業に入りながら、楽しそうにコメントを残していく。それを横目に見ながら、ソラは淹れ直したコーヒーを啜り、ツバサは冷蔵庫に常備している焼きプリンを食べていた。
ルカの仕事が終われば、3人でラーメンを食べに行く約束をしている。勿論、ルカの奢りで。ちなみに、案件を終えた打ち上げではない。それはまた別途に用意するとのことを、ツバサは今朝、ソラから聞いていた。この後にラーメンを食べに行くのは、慣れない業務域の電話対応でカロリーを消費したがために、それらが終わった途端、盛大に腹の虫を鳴らしたツバサを見たルカが、即時提案したものである。
席の予約はルカが手ずから行ってくれたため、お腹を空かせた状態で、店頭に並ぶ必要はない。ツバサはスマートフォンでラーメン屋のメニューに眺めながら、そこに書いてある、にんにく抜きの焼き餃子を、ひとりで何人前までなら食べてもいいのだろうか…、などと考えていた。すると。

「よし!終わり~。
 さあて、オレたちは上がっちゃお~」

ルカが仕事を片付けたらしい。爆速すぎるが、これは彼の通常運転なのだから、ルカという男は本当に優秀だ。否、彼に関しては、「逸脱」と評するのが正しい気もした。

早々に帰り支度を終えた3人は、Room ELから出て、一斉に打刻機を社員証を翳す。


――『おつかれさまでした。現在の時刻、午後6時03分です。
   全てのスタッフの帰宅を確認いたしました。照明をオフにします』


最後にルカが打刻すると。いつも通りの音声が鳴り、Room ELの照明が落ちて、扉に鍵がかかる。

それを確認すると。
ルカを中心に、なんてことないお喋りをしながら、3人は廊下を歩いて行くのだった。



―――fin.
1/10ページ
スキ