ピーっと試合終了の笛が鳴ったと同時に
桜は走り出す。
ドキドキと速る心をそのままに、第一試合の時とは比べ物にならないくらいに早く足を動かす。
「!
桜?」
「あ!
桜ー!」
はぁ……はぁ……と息を切らして体育館へと飛び込んできた
桜を見て、影山は目を丸くし、日向は試合の疲れはどこへやら、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「…………っ」
「どうし……」
気付けば
桜はたまらず影山に抱きついていた。
抱きつかれた影山はもちろん、いつもの彼女からはあまり見られない行動に、周りもぽかんとしてしまう。
「ちょ……おい……っ」
「凄かった……。凄かったよ!
東峰先輩の攻撃も、西谷先輩のレシーブも、月島君のブロックも、澤村先輩や田中先輩も、二人の速攻も本当に凄かった……!」
抱きついていた身体を離し、捲し立てるように話す
桜は、本当に興奮しているのだろう。
まるで一冊の本を読み切った時のような笑顔だった。
「
桜!俺凄かった!?かっこよかった!」
「もちろんだよ!」
「
羽鳥ちゃん!俺達は!?」
「もちろん、素敵でした!」
うおー!!と本当に先程の試合の疲れはどこに行ったんだと言わんばかりに日向達は
桜の笑顔と賞賛に感動している。
そして影山は、そんな
桜の頭をぺしっと叩く。
「うぇ?」
「少し落ち着け。本読み切った後みたいになってるぞ」
「
羽鳥さんてそうなんだ……」
「どんだけ本好きなの……」
そんな月島と山口のツッコミも聞こえていないのか、
桜は落ち着くようにとりあえず息を吐く。
「
羽鳥さんも、応援ありがとうな」
「声バッチリ聞こえてたよ」
「いいえ……!リベンジ、おめでとうございます」
「おう。まだまだ勝つぞ!」
そして澤村達は、応援してくれていたギャラリーにも頭を下げる。
そんな彼らを後ろで見守りながら、武田は烏養に気になっていた事を聞く。
「あの、烏養君。最後のトス、今のベストって言ったのは、どういう……?」
「レシーブが乱されて、思うように攻撃ができない時、どうしたってラストボールは、エースのポジションのレフトに集まってくる。
その、言わば攻撃の最後の砦には、自分の手で、あの壁から点をもぎ取ったかを実感して欲しかった」
「なるほど……。次のプレーの自信に繋がるわけですね?」
「特に東峰は、前回も伊達工にこっぴどくやられたみたいだしなー。でも、もう大丈夫だろ!囮無しにも、鉄壁相手に怯まず戦えた。それに、自分にトスが上がるって事は、スパイカーにとって、それだけで誇りだ。
自分はまだセッターの信頼を勝ち得ているという、何よりの証拠だから。
二人のセッターにトスを託されたんだから、自信を持てないわけないよな」
「翔君とひぃ君の速攻も、上手く連携取れてよかったね」
「そう言えば相手のチーム、サインに気付かなかったな!」
「おう。当分有効に使えそうだ」
「ほんと、脳みそ筋肉なのによく考えたよね、アレ」
プークスーと笑う月島に反論したくも出来ず、日向と影山は悔しそうに顔をゆがめる。
「か……考えたの俺らじゃねぇ……っ」
「あーやっぱり?誰に考えてもらったの?」
「菅原さん!」
「でも見た感じだと、伊達工もタイプ的には烏野に似てるような感じがしたから、気付かれなかったのは不幸中の幸いという可能性も……」
「似たタイプ?」
「どちらかと言うと考えるよりも物理的に殴ってくる……みたいな」
「怖!伊達工怖!!」
「その伊達工とさっきまで戦ってたんだよ?」
「お、おう……」
日向と
桜のツッコミのいない会話に月島と山口が呆れている中、影山はふむ……と少し考え込む。
「ひぃ君?」
「……及川さんだったら、もしかしたら呆気なく気づかれるかもしれない……」
「青城……。そう言えば次の対戦相手って……」
そんな
桜の言葉を「きゃー!!」という黄色い声が遮る。
何事だと
桜達がコートを見ると、そこには話題の人物である及川がサーブを打とうとしていた。
「……王者も、ダークホースも……。全部食って全国に行くのは……俺たちだよ」
……To be continued