その後も試合は少しずつ進んでいく。
道宮たちが何よりも驚いていたのは、やはり日向達の速攻だった。
「今度は普通の速攻?」
「トスの速さを使い分けてるってこと!?」
「……凄い……っ」
道宮も思わず言葉がこぼれる。
澤村から以前に「面白い一年が入ってきた」と聞いていたが、間違いなく彼らのことを言っていたのだろう。
桜は、日向達の攻撃も然る事乍ら、それに何度も食らいついていく青根の凄さにも目を引いていた。
恵まれた体格だけじゃない。彼の「鉄壁」としてのプライドが、絶対に通すまいと冷静さも保ちながらのブロックを生み出しているのだというのがヒシヒシと伝わってくる。
18対15。このまま烏野が先に20点台に乗りたいところだ。
桜は強く強く両手を握りしめる。
(大丈夫。どんなに壁に阻まれても、どんなに立ち止まりそうになっても)
「っしゃー!!」
「西谷ぁ!!」
(烏野には……最強の守護神がいてくれるから……!!)
「影山!」
「はい!」
(烏野は前衛三枚……誰が来る!?)
澤村、日向、田中が飛び込んでくる。
そして大きく声を上げたのは日向だった。
「持ってこーい!!」
その声に、大きく反応した青根はすぐさま日向の飛び込んでくる場所へと思い切り飛び上がった。
「っ十番!!」
しかし大きく振りかぶった日向の後ろから、高く舞い上がる一つの影。
その姿に、青根達は目を見開く。
自分たちよりも高い場所にいたのは、三ヶ月前、自分達が封じたはずの相手。
エースの前の道を……切り開く!!
影山のトスは、真っ直ぐに東峰へと向かっていく。
その瞬間、東峰の景色は、ネットの向こう側が開けたようにパアッと広がっていた。
(ああ……そうだ……。これだ)
忘れていた感覚。大切に、大切にしていたあの頃の大好きだった景色。
それが今、目の前に確かに広がっていた。
「っしゃあー!!」
「きゃー!!」
東峰の攻撃が決まり、烏養や女子達は嬉しそうに声を上げた。
桜もパチパチパチと拍手をして東峰を讃えた。
「旭!!」
「旭さん!!」
「お前ら……すごいよ!ありがとうな!」
「何言ってんすか!決めたの旭さんでしょ!堂々してほら!」
その様子を、菅原はコートの外で見守っていた。
伊達工の試合前、影山と日向に託した、「エースの道も切り開いて欲しい」という自分の思いを、影山達はしっかり受け継いでくれた。
菅原は胸に溢れてくる想いを強く拳に込めて「っし!!」と静かにガッツポーズした。
「……どうした」
「……今決めたの、俺じゃないのに。俺、スパイク打ってないのに……」
日向は自分の手のひらを見つめ、強く握りしめる。
相手が真正面で自分へと向かってくる、あの瞬間。
「すごく……ゾクゾクした」
「……最強の囮も、エースに劣らずかっこいいだろ」
「……最強の……囮」
小さな烏が、自分のあるべき姿を実感した時、それはきっと、何倍もの大きな力になるだろう。
日向の中で、この時確かに自分の在るべき姿の意味を感じ取った瞬間だった。
「さぁ、こっちの手持ちの武器はこれで全部さらした。
こっからが正念場だぞ」
……To be continued