「……烏野は使いませんね。例のトスを見ない速攻」
「その代わりか、荒削りだが普通の速攻が出来るようになってる。下手くそながら、コースの打ち分けまでしよる。この短期間に、余程有意義な練習試合でもしたかな?」
青城のコーチと監督の会話を耳に拾い、
桜は思わず笑みを浮かべる。
彼らの頑張りが、ちゃんと実っている事が嬉しかった。
でもまぁ……。
「どんまい日向!」
「すいません!!」
(レシーブはやっぱりまだ難しいね)
こればかりは一朝一夕ではどうにも出来ない。
桜はペコペコと頭を下げる日向に苦笑しながらも、しっかりと声をかける。
「翔君ドンマイ!大丈夫だよー」
「!うん!!」
桜の言葉に日向は一気に顔をキラキラさせてこっちに手を振ってくる。
「犬……」
「犬だな」
「?」
それを横から見ていた金田一と岩泉の呟きは、
桜には届かなかったようで、首を傾げるだけに終わった。
その後も試合は烏野優勢で続く。まだレシーブが未熟ではあるものの、その隙間を守護神である西谷がフォローすることで、流れは途切れることなく続く。
「あっという間に一セット目取りそうですね」
「あのリベロ相当厄介だぞ。それに髭のあんちゃんが入ったことで、影山のトスも前より幅が出てる」
「東峰先輩は、烏野のエースですから。ひぃ君も違った形でトスを合わせられるの楽しいみたいです」
「……どうでもいいけど、その“ひぃ君”てのはなんだ?」
「?ひぃ君はひぃ君です」
「岩泉さん、気にしたら負けです。あいつら前からこうなんで……」
「……仲良いんだな」
「はい」
ほんわかと笑顔で返されたら何も言えない。
岩泉はとりあえず後ろで「飛雄ばっかりズルくない!?
桜ちゃん俺のことも徹君て呼ん」と言いかける及川を蹴っておいた。
「烏野一セット取った……っ」
桜はほっと胸をなで下ろして反対側のコートへ向かう烏野のみんなを見守る。
その間、各々がこっちに向かって手を振ってきたのでそれににこやかに振り返すのも忘れない。
そうして二セット目。影山のサーブから始まった。
彼はあっという間にノータッチエースで五点を取っていく。
「ひぃ君ナイッサー!」
「一セット目とってますます調子に乗ってきたな烏野は」
「だけど……きっと、相手チームも諦めていませんよ」
「え?」
「だってまだ、“終わってないから”」
まだ。まだ負けてない。
まだ、終わってない。
相手チームの、諦めない気持ちの声。
音として聞こえてくるわけではないけれど、強く伝わってきていた。
そして、烏野は、そんな本気で向かってくるチームの思いを……。
「くっそがぁぁぁぁ!!次は、絶対拾う!!」
「一本取り返すぞ!!」
「「「おう!!」」」
本気で立ち向かっていくことで応える。
例えそれが、誰も注目しない、警戒しない学校だとしても。
それが、相手にとってどれだけ嬉しいことなのか。
きっとそれは、本気で戦った人にしか、分からない。