「
桜ー!!」
「翔君?」
「主将が肉まん奢ってくれるって!
桜も行こう!」
居残り練習が終わり、モップがけも影山と争いつつ終わらせた日向は、体育館を出る
桜の背中を見つけて駆け寄った。
桜は日向の誘いにパチリと瞬きすると、「ごめんね」と謝る。
「私、やる事あるから……」
「そうなの?」
「うん。また今度ね」
「分かった!おーい影山!
桜、今日来ないって!」
「ああ?」
日向の声に不機嫌そうに皺を寄せた影山だったが、
桜に気づくと「何かあったのか?」と聞く。
「ううん。ただ少しやる事あるの。遅くなると思うから、ひぃ君も先に帰ってて」
「けどお前、帰りどうすんだ。一人だろ」
「大丈夫だよ」
「…………用済んだら電話しろ」
「え?」
「迎え行く」
「でも……」
「ランニングついでだ」
「……うん、ありがとう。じゃあまた後で」
「おう」
桜は日向にも手を振ったあと、体育館を後にする。
日向は影山をじっと見たあと、密かに疑問に思っていたことを投げかける。
「……お前さ、
羽鳥さんにちょっと過保護じゃね?」
「は?」
「確かに
羽鳥さん美人だし優しいし可愛いし、女の子だから夜道危ないのも分かるけど」
「……約束してんだよ、ずっと前から」
「約束?」
「………………」
「あ!おい無視か!」
「飛雄、桜ちゃんのこと好き?」
「うん。すき。ばれーとおなじくらい」
「お……おお!思ったよりも気持ちがでかかった……。
それじゃあ…………」
「ひぃ君。お待たせしました」
「おう」
「あれ。ランニングしなくていいの?」
「ここに来る前に遠回りして走ってきた」
「そっか。私と歩いて帰るために?」
「…………別に」
「ふふ。優しいね」
「……るせ」
「それじゃあ、守ってあげないとね」
「まもる?」
「そう。飛雄がバレーと同じくらい大切だって思えるなら」
「わかった」
「じゃあ、じいちゃんとの約束」
「ん」
「いやぁ……二人の晴れ姿、見られるといいなぁ」
「?」
*********
そうして迎えた、インターハイ予選前日。
練習が終わり、明日の大会の流れを確認し、解散の挨拶をしようとした時だった。
「あーちょっと待って!もう一ついいかな。
清水さんと
羽鳥さんから!」
武田の言葉に、部員たちも意外だったようで不思議そうにこちらを見る。
「……激励とか、そういうの、得意じゃないので……。
桜ちゃん」
「はい。武田先生、お願いします」
「任せて!」
「あ、先生、運ぶのは私が……っ」
「いいのいいの!」
軽快に二階のギャラリーへと登っていく武田の肩には、なにか黒い布のようなものがかけられている。
なんだなんだ?と部員たちも
桜達のいる真下へと移動して経過を見守る。
「せーの!」
武田の掛け声で、ギャラリーの手すりを大きな布が覆う。
ひらひらと掲げられた「飛べ」という文字に、見守っていた部員達がそれぞれ声を漏らす。
「おお!」
「こんなのあったんだ!」
「掃除してたら見つけたから、
桜ちゃんと綺麗にした」
「おー!!燃えてきたー!!」
「流石潔子さんと
羽鳥ちゃん!!いい仕事するっす!!」
「「よっしゃあ!!じゃあ気合い入れて!!」」とテンションの上がる西谷と田中を澤村が「まだだ!」と遮る。
「多分……まだ終わってない」
「…………が……」
((が?))
「頑張れ」
小さな声だったが、清水のエールは確かに部員達の心に届く。
しかし、辺りはシーンと静まり返り、恥ずかしそうに走り去る清水の足音とそれを微笑ましそうに見る
桜と武田の小さな笑い声が響く。
衝撃を受けた感情は、澤村達から溢れ出した涙によって一気に溢れた。
「清水……っ!!こんなの初めて……っ!!」
「主将まで……!?」
感激のあまり涙の止まらない澤村を日向と影山が驚きの表情で見ている中、月島と山口はもう一つの奇妙な光景にドン引きしていた。
「……この人たち声すら出てない」
「いつもあんなにうるさいのに……」
そう。二人の視線の先には無言で大量の涙を流す田中と西谷の姿があった。
そしてそれは溢れに溢れまくり、最終的に全員が声を出して泣き始めた。
「ちょっとなにこれ!収拾つかないんだけど!!」
あまりの光景に月島も突っ込まずにはいられなかった。
「一回戦!絶対勝つぞー!」
「「「オーッス!!!」」」
うおおおお!!!と歓喜する部員たちを、清水は恥ずかしそうに見る。
「清水先輩、良かったですね」
「……うん」
こうして、大会前日の夜は更けていった。
そしてついに、インターハイ予選の日を迎える……。
……To be continued