「それにしても、やっぱり音駒は凄かったですね」
「うん」
水道でスクイズボトルを洗う中、
桜と清水は今日の試合を振り返る。
結局全戦全敗だったけれど、とても実りのある試合だった。
日向と影山にとっても、速攻を使いこなすいい機会になったことだろう。
「みんなの試合見てて、ライバルってああいう関係のことを言うのかもしれないって思った」
「そうですね……。試合の中で力をお互いに引き出してさらにそれに負けまいとする。また以前のような関係に近づいたと思います」
「うん。そうなると嬉しい」
「はい」
そうにこやかに話していると、二人してくしゅんとくしゃみをしてしまい、それもおかしくてくすくすと笑ってしまった。
「ふふ。誰か噂してるんでしょうか」
「そうかも」
冗談のつもりだったが、丁度その頃、体育館のとある場所で正に噂されていたとは思いもしない二人であった。
スクイズの洗浄が終わり、
桜は体育館の方の片付けを手伝うために戻ってくると、何故かビクビクした孤爪がこちらへ走ってきた。
「わ」
「!!あ……」
「孤爪君?どうかしたの?」
「あ……えっと……」
俯いて視線をさ迷わせている孤爪に、もしかしたら会話するのが苦手なのかもと思い、
桜はすとんと孤爪より少し下の目線になるようにしゃがんだ。
「……な、なにしてんの」
「下からの方が落ち着かない?」
「…………?」
「正面で向き合ってると、緊張しちゃうもんね」
そう言われて、孤爪はようやく自分と話しやすいように気を使っているのだと知った。
しかし、これはこれでなんか逆に見上げられてる感が否めない。
「そ、それはそれでなんか……」
「あら……」
「えっと、普通でいいよ……」
「ほんと?ありがとう」
そうして
桜は改めて孤爪と向き合った。
それでもまぁ身長は孤爪の方が高いので結果見上げるのだが。
「それで、どうかしたの?大分怯えてたけど」
「えっと……あれ……」
「あれ?」
孤爪が振り返ることなく後ろの方を指さしていたので、その先を追うと、凄まじい顔でこちらを見ている影山の姿があった。
「あー……ごめんなさい。ひぃ君目付き悪くて……」
「ひぃ君……?」
「セッターの、影山飛雄君。幼馴染なんだ。きっと孤爪君のこと同じセッターだから興味あるんだと思う」
「そ、そうなの……。でもなんか……怖い」
「うん……。だよね。すいません」
何せあの顔のせいで実際の子猫にも逃げられるのだ。人見知りな孤爪が怖がるのも無理ないかもしれない。
「えっと、改めて。烏野高校バレー部マネージャーの、
羽鳥桜、一年です」
「孤爪……研磨……。二年」
「二年……二年?」
あれ。てっきり日向がタメ口で話していたから同級生だと思っていたら……二年……?
「二年生……っ!ごめんなさい……私……」
「いいよ。上下関係とか苦手だから……」
「でも……」
「
桜」
「はい?」
「……って呼ぶから、友達……としてなら敬語いらないでしょ……」
「……うん。研磨君」
友達……。その言葉を孤爪から聞けたことが嬉しくて、
桜は思わず頬をゆるめる。
そんな二人の姿を、黒尾は「珍しいねぇ」と笑って見守っていた。
「おい」
「ん?わ……ひぃ君眉間に皺凄いよ……!」
孤爪と別れて、烏野のベンチの方へ戻ってくると、影山が先程のような凄まじい顔のまま詰め寄ってきた。
「お前、なんで音駒のセッターと知り合いなんだ」
「日向君がジョギングではぐれた日に会ったんだよ。ちゃんと会話したのはさっきが初めてだったけど」
「んぬん……」
「何その声」
ふふっと影山から漏れた謎の声に笑うと、影山は眉間の皺を少し緩め、はぁ……とため息をついた。
「お前、その内誘拐されそうだな」
「なんで?」
「誰とでも馴れ馴れしくなるから」
「いや……さすがの私もそこまででは……」
「ほーんと。欲しい本買ってあげるよーとか言われて着いていかないでよ?」
「月島君まで……そこまで子どもじゃないです」
「見た目はガキだろ」
「う……身長の話はダメだよ。ほらほら二人とも、まだ片付け終わってないんだから働いた働いた」
「ちょっと……押さないでくれる?」
「こいつより俺の方が働いた」
「はぁ?ちょっかい出してたくせによく言うよ」
「ああ!?」
「喧嘩しないの」
片付けが終わり、音駒と共に体育館を出た時には夕暮れになっていた。
お互いに交流も深まったようで、和やかに会話する中、何故か山本と田中が涙を流しながら握手を交わしていた。
その様子を
桜が不思議そうに見ていると、「あ、あの!」と後ろから声をかけられ、
桜は振り返る。
そこには、日向と仲良くなった犬岡がいた。
「えっと……!俺一年の犬岡って言います!」
「一年の
羽鳥桜です。同級生だね」
「う、うん!それであの……メアド交換してください!!」
ガバッ!!と告白するかのように右手を差し出され頭を下げられ、
桜は「え?え?」と若干戸惑う。
犬岡の声はそれなりに周りに通ってしまったので、その場にいる全員の視線を集めた。
「犬岡おま……!なんって羨ましい!!」
「ほぉ?犬岡もやるねぇ」
悔しそうな視線と面白そうな視線が混ざって刺さってくる状況に、
桜は戸惑いつつもこくりと頷く。
「えっと、私でよければ」
「ほ、本当!?」
「あ、じゃあ俺も。研磨の分もな」
「ちょっとクロ……」
「
羽鳥さんが音駒に取られる!!」
「なに!?音駒に
羽鳥ちゃんは渡さねぇぞ!なぁ龍!!」
「おうともよ!!」
「いや……ただの連絡交換でしょ」
(そう言いつつも眉間のシワすごいよツッキー!!)
「………あいつ……」
「影山落ち着け!」
と、最後はなんとも言えないカオスな状況になったものの、こうしてGW合宿は無事全日程を終えたのであった。
そしていよいよ……インターハイ予選が始まる。
……To be continued