そんな烏養の言葉に答えるように、田中と東峰を筆頭にどんどん攻めの姿勢で音駒に立ち向かっていく。
そしてとうとう音駒と二点差にまで追いつき、烏野も20点台に乗った。
流れも完全にこちらに来ている。
一方音駒は焦ることなく、冷静に柔軟に烏野に対抗していた。
一点差になってもそれは変わらず、ツーアタックを仕掛ける程の落ち着きを保っていた。
「ああ!忘れた頃にやってくる!音駒のマッチポイント!」
武田は頭を抱え、タイムアウトを使い切りあとのない烏養も眉間にシワを寄せ、一向にペースを乱さない音駒に心の中で(さすが大人ネコ)と感心してしまう。
「大丈夫です!みんなまだ、ギラギラしてますから!」
武田の言う通り、日向達はこれで終わりにしてたまるかと攻めるスタイルを帰ることなく果敢に攻めていく。
音駒から一点を取り返し、烏野はローテによりブロックの要であるミドルブロッカーを100%引き付け、なおかつそれをかわして得点できる可能性のある日向と、単体での攻撃力トップの東峰が前衛に上がってきた。
逆転するには最大のチャンスなのである。
「ここで一点取れば、デュースですね」
「ええ。デュースに持ち込めば、逆転のチャンスが生まれる。この一本が正念場ですね!」
清水と武田の言葉に同意するように、
桜もぎゅっとスコアブックを持つ手に力を込めた。
そして相手側のサーブは綺麗にセッターの影山に返ってくる。
(日向の速攻はまだ危なっかしい。ここは……)
「東峰さん!!」
東峰が叩き出したスパイクは、リベロの夜久の方へ真っ直ぐに突っ込んでいく。
それを綺麗に返した夜久だったが、ボールはそのまま烏野のコートへ。
「くそ!すまん!」
「東峰!ダイレクトだ!」
「やべえ!」
「叩け旭!!」
返ってきたボールを東峰はそのまま再びスパイクを叩き込む。
しかしそれも相手はレシーブを決め、再び烏野のコートへ返る。
「ああ!また向こうのチャンスボール……!」
「それでいい」
「え?」
「不格好でも、攻撃の形にならなくても、ボールを繋いでいる限りは負けないんだ」
「チャンスボール!」
返ってきたボールを田中がレシーブし、影山の元へ返ってくる。
その瞬間、影山は背後へ飛び込んでくる日向に、ただならぬ雰囲気を感じ取った。
(日向のこの感じ……。初めて戦った時と同じ……。土壇場での、圧倒的存在感!)
「ここにいる」
「ここに持ってこい」と……
呼んでいる!!
「あ!」
日向のスパイクに飛び込んだ夜久のレシーブは、そのままネットに突っ込み、フォローした海の腕を掠めてコートへと落ちていく。
「……強いスパイクを打てる方が勝つんじゃないんだ」
しかし落ちるボール落下地点には、ギリギリで飛び込んでくる孤爪の姿があった。
振りかぶるように右腕で返したボールは、ネットを超えて烏野コートの後衛アウトライン手前へと……。
「ボールを落とした方が負けるんだ」
手を伸ばした西谷に届くことなく、落ちた。
ーこれが、“ 繋ぐ”ということだー
ホイッスルと共に、音駒チームの歓声が響く。
桜と清水はしゅんと肩を落とし、武田もドサッとベンチに腰を落とした。
「うちにしてはミスも少なかったし、強力な武器はきっちり機能してた。
でも……勝てなかった。
あれが個人じゃなく、チームとして鍛えられたチームなんだろうな……。完敗だ」
烏養の言葉に、
桜達も今日の負けは、実りのある負けだったと噛み締めていた時、「もう一回!!」という声が響いた。
その声はもちろん、まだまだ体力の有り余っている最強の囮。
「もう一回……やろう!」
そんな日向の言葉に、猫又監督もそのつもりだと快く頷いた。
「もう一回が有り得るのが練習試合だからな!」
こうして、リベンジマッチが始まった。
それは一回だけで終わることなく、もう一回……もう一回と繰り返すこと、四セット。
「こりゃあ、文句無しの完敗だな」
「そうですね……」
桜は並べられた試合結果を見て苦笑する。
後半セットはデュースにまで持ち込み、最後の六セット目は30点台まで追い詰めたものの、結果音駒の六セット全勝となった。
「さすがにみんな……バテバテですね」
そう。コートに立つメンバーのほとんどは息を切らして座り込んでしまっていた……。
「もう一回!!」
「!?」
ただ一人、最早反射の様に食いついた日向に、流石の影山も信じられないとばかりに振り向く。
猫又も体力馬鹿な日向にさすがに突っ込まずにはいられなかった。
「ああ!?お前めちゃくちゃ動いてるだろ!体力底なしか!?」
「こらこらダメだ!新幹線の時間があるんだ!」
しかし最後は烏養にどうどうと宥められ、ようやく練習試合は幕を閉じたのであった……。