「日向君と影山君の速攻は、なかなか合いませんね……」
少しづつコツを掴んでいるものの、やはりまだ上手く噛み合わない日向達を見て、武田は眉を下げる。
「今までの、影山が完璧に日向に合わせる変人速攻と違って、今やろうとしてるのは、普通の速攻だからな……。
日向にも、技術的な成長が必要なんだ。
何度も何度も合わせて、体に覚え込ませるしかない。
でも、そうやって鍛えていって、使い分けが出来るようになったら……」
その時は「鬼と金棒」じゃなく……。
“ 鬼と鬼”だな。
日向達が自らの課題に向かっている間、田中や東峰はそれをフォローするかのように次々と得点を決めていく。
そしてその姿が、更に日向達を鼓舞する。
(俺だって止められっぱなしじゃない。止めてやる!)
「日向。影山にも力み過ぎんなって言われたろ。視野を広くな?」
「あ……はい!」
澤村の助言を受けて、日向はおとりにつられそうになるも影に飛び出してきた犬岡の姿を捉える。
犬岡のスパイクは素早く反応しブロックを仕掛けた日向のワンタッチによってチャンスボールに変わる。
そして日向は着地後、直ぐに逆サイドへと走る。
犬岡もにがしてたまるかと素早い反応で日向を追いかけた。
「……ぎりぎりの戦いの中で互いに影響し合い、時に実力以上の力を引き出す。
まさに好敵手か……」
そう呟く猫又監督は、しみじみながらも嬉しさが滲み出ていた。
怒涛のラリーが続くも、変わらず音駒が三点リードしたまま、二十点も間近に迫っていた。
「あ、ローテーションが回って、7番さんが後衛に下がりましたね」
「うん」
桜がスコアからコートへと目を移すと、犬岡がサーブに入り、日向の前には前衛に回った黒尾が立ちはだかる。
ここからでは何言ってるのかよく聞こえないが、どうやら早速黒尾にいじられているようだ。
「7番さんよりは、黒尾さんは日向君達の即効に見慣れていないから、今ならいつもの速攻出来るかもしれませんね」
「そうね。影山はどうするかな……」
「んー……でもきっと……」
ピッとサーブの笛が鳴ると同時に、犬岡がサーブを打つ。
影山が選んだ手段は、やはりいつも通りの変人速攻だった。
それを見た烏養は「いい判断なんじゃねぇかな」と腕を組んだ。
「今はあの三年のミドルブロッカーには、変人速攻の方が有効だと思う。手練のミドルブロッカーからすれば、当然普通の速攻の方が止めやすいだろうからな」
「日向君嬉しそう」
久しぶりにスパイクが決まったからか、日向は目をキラキラさせてスパイクを放った手を見つめていた。
一方黒尾は変人速攻に動揺する事なく、取り返す一手に出る。
レシーブと同時に四人が攻撃に走り、ブロック三枚を囮三人で引き付け、完全にブロックが振られたタイミングでトスを上げる。
安定したレシーブのおかげで、多種多様の戦術で攻めていった。
「わ……凄い。今の入り乱れてましたね」
「何つーか、すげえ安定感のある速攻だな。いつも危なっかしい日向を見てるからかもしんねぇけど」
その後も、黒尾はブロックをクイックに見せかけて引き付け、タイミングずらしてスパイクを決める“一人時間差”を応用してくるなど、烏野にとって未知なるプレーで追い詰めていく。
これにより、先に二十点台へと乗った。
本当ならばタイムアウトを挟みたい所だが、既に二回使ってしまっているため、それは出来ない。
「何と言うか……。あの1番君が前衛に上がってから、あっちは攻撃に熟練感みたいなものがありますね」
「そうだな。一年がスタメンの半数を占めて、しかもこの前メンバーが揃ったばっかのうちのレベルが1だとすると、向こうは10も20も上だ」
「向こうは立派な大人ネコで、こっちは産まれたての雛カラス……ですか……」
「ああそれ、そんな感じだ」
そう話す烏養と武田の横で、
桜は悶々とその光景を思い浮かべる。
ちょっと……いやかなり可愛い。
「ふふ……」
「?どうしたの?」
「いえ、想像したら可愛くて」
「あー……ふふっ。そうかもね」
桜と清水が顔を見合わせて笑っていると、烏養はガバッと立ち上がり選手達を鼓舞する。
「パワーとスピードでガンガン攻めろ!!」
「力でねじ伏せろってことだな……?」
「なんかそれ、悪役っぽい……」
「いいじゃねぇか悪役!!カラスっつうのも悪ゆくっぽいしよ……?」
「烏養君!顔が怖いですよ!?」
ギラギラと闘志に火がついた田中と少し引き気味の日向達に笑いながらも、烏養も田中と同じくらい凄みが増した表情で、ギラギラと目を研ぎ澄ませる。
「下手くそな速攻もレシーブも、力技でなんとかする!
荒削りで不格好な、今のお前らの武器だ!!
今持ってるお前らの武器ありったけで、攻めて!攻めて!攻めまくれ!!」