その後、各々準備やウォーミングアップを行い、ついに試合時間が近付く。
日向は初めてユニフォームでの試合に、ワクワクが隠せないようだった。
「正直言って俺たちは、顔合わせたばっかで、でこぼこで、ちぐはぐで、しかも今日がこのメンツで初試合だ。
音駒という未知のチーム相手に、どんな壁にぶち当たるか分からない。
でも壁にぶち当たった時は、それを超えるチャンスだ!!」
「「「オース!!」」」
円陣を組み気合を入れる日向達。
それを外で見守りながら、
桜もスコアブックを持つ手をぎゅっと握りしめた。
「ではこれより、音駒高校対烏野高校の練習試合を始めます!」
「「「よろしくお願いします!!」」」「日向、今日は緊張してないな?」
「はい!」
各校のスターティングメンバーがコートに入る。
桜はふと影山の表情が気になり、ボソッと思っているであろうことを言ってみた。
「“ちょっとくらい油断しろよコノヤロォ”」
「え!?」
「……って、相手の7番さんに思ってそうですね、ひぃくん」
「あ、そ、そうだな……」
菅原は急に柄が悪くなった
桜に驚いたものの、コートで日向と笑顔で話している相手チームの犬岡を見て、「確かに」と笑った。
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「なんか……気持ち悪ぃな……」
「え?」
試合が始まってから数分、烏野がリードしているものの、烏養はどこか引っ掛かりを感じていた。
日向と影山の変人速攻は特に問題もなく決まり、相手のチームもまだ戸惑っているように見えた。
けれど……。
「様子を伺っているっつーか……観察されてるっつーか……」
「暗闇でじぃっと相手の動きを見てる猫みたいな……」
「そう!それだ」
桜の言葉にビシッと指をさす烏養。
そして
桜は、音駒側のとある選手が気になっていた。
それは、最初に日向と意気投合していた、犬岡という7番。
「……彼、日向君の動きに着いてきていますね」
「ああ……しかも音駒はブロック三枚をサイドに寄せた……」
「“デディケートシフト”……ですか?」
「ああ」
一方、影山も犬岡の動きの変化に気付いていた。
(このブロック……エースを徹底マークする為じゃなくて、もしかして……)
「日向の動きの誘導……?」
影山と烏養の予想通り、犬岡は日向の動きだけをひたすら追っかけていた。
何度も何度も日向が飛ぶ度に犬岡はその都度ブロックで阻もうとする。
そうしていく内に、ワンタッチの回数が増えていった。
そして犬岡だけでなく、セッターである研磨も相手の隙を見てツーアタックを仕掛けるなど、少しずつじわじわと烏野を追い詰めていった。
「前前!」
「っすまんノヤっさんカバー頼む!!」
「任せろ!」
「ライト!」
「え!?影山がトス呼んだ!?」
西谷が二回目のカバーに入り、東峰もアタックするには難しい位置にいたため、誰もが相手のチャンスボールになると思った矢先、影山がトスを呼んだ。
それに日向や他のメンバーが驚いている中、影山は綺麗にストレートを決める。
あまりにも綺麗に決まったので、攻撃型である田中と東峰は頬をひきつらせた。
「おい!今のがストレートだからな!サイドライン沿いまっすぐ!ちゃんと打ち分けできるようになれよ!!」
ビシッと日向に言い放つ影山を、ぐぬぬ……と日向も悔しそうに唸り、田中も「ハイスペックマジ腹立つわぁ……」と青筋を浮かべていた。
「ひぃ君ナイスキー」
「末恐ろしいやつだな……」
その後、烏野が18-16でリードを続けるものの、少しずつ点差が縮まっていった。
特に何か特別なことをしているわけでもない、突出した選手がいるわけでもない。
それでも確実に。
「……目立たないですね」
「あ?」
「うちの影山君は素人から見ても、すごい感じがビジビシ伝わってくるけど、音駒のセッター君は何か凄いことをやっているのかもしれないけど、見ててもよく分からない」
「……それは、あの安定したレシーブのせいだ。多彩な攻撃を仕掛けるために、何より重要なのは、セッターの頭上に綺麗に返ってくるあのレシーブだ。
あのレシーブがあるから、向こうのセッターは本領を発揮できてるんだ。
セッターである影山が、圧倒的才能ででこぼこなチームを繋ぐのが烏野なら、セッターである孤爪を、全員のレシーブ力で支えるのが音駒」
ー俺たちは血液だ。
滞りなく流れろ。酸素を回せ。
脳が、正常に働くためにー