そして、いよいよ音駒との練習試合前日。
桜達マネージャーは、クリーニング屋に預けていたユニフォームを取りに行き、ほつれた箇所やその他気になる点をちょいちょいと直していった。
「よし。これで最後です」
「ありがとう
桜ちゃん」
「こうして見ると、やっぱりインパクト強いですね。烏野のユニフォーム」
「黒とオレンジのカラーリングって、なかなかないもんね」
清水はそう言って、烏野のユニフォームをそっと撫でる。
「……今まで、見てただけだったんだ」
「?」
「頑張ってるみんなを見て、私もやる事をただやっているだけだったの。そうしていたら、あっという間に最後の年になっちゃった」
「……でも、きっとその三年の間、みんな潔子先輩にたくさん救われてきたと思います」
「え?」
「ドリンク作ったり、洗濯や掃除したり、スコア付けたり、やっていることは小さなことかもしれないけど、それは必ずチームを動かす力になっています。私も、そうなりたいです」
そう笑った
桜に、清水も思わず笑みがこぼれる。そして思う、彼女はもうとっくに、チームを動かす力になれていると。
「……ありがとう」
だって、あなたの言葉に、こんなにも笑顔になれるのだから。
出来上がったユニフォームを紙袋に入れて、
桜と清水は体育館に戻った。
「先生」
「お。出来た?」
「はい。クリーニングとか直し、終わりました。ユニフォーム」
練習を中断し、一人一人にユニフォームを手渡していく。
日向はテレビで見た同じユニフォームに目を輝かせた。
「おおー!テレビで見たやつ!」
襟と脇から腰にかけてのラインはオレンジだが、黒地の生地で作られたそれは烏野に相応しい色だった。
そして日向は、既に着替えていた西谷の姿が目に入る。
「あ!ノヤっさんだけオレンジだ!目立つ!」
西谷のユニフォームは日向達とは真逆のカラーリングで、オレンジが主調となっていた。
「そりゃお前!俺は主役だからな!」
「主役……!おおー!!」
「リベロは試合中、何回もコートを出入りするから、わかりやすいように一人だけ違うんだよ。バカ」
「し、知ってるし!全然知ってるし!」
影山の「嘘つけ」という視線から逃れるように日向は影山の持つユニフォームの背番号に目が入る。
影山の背番号は「9」
そして自分に与えられた数字は「10」
「か……影山が一桁……っ!!」
「「言うと思った」」
影山より後ろだと……!?と苦々しい顔をする日向に、予想していた月島と田中はふっと鼻で笑う。
「一年でユニフォーム貰えるだけありがたいと思え」
「わ、分かってる!」
「そっか。番号までは覚えてないか」
「テレビで一回見たきりだもんな?」
「え?」
「小さな巨人が全国に行った時の番号、“10”だったぞ」
澤村がそう言うと、日向はパァァァっ!と顔を輝かせた。これはもしや……!
「コーチの粋な計らいですか!?」
「いや、たまたま」「じゃあ運命だ!」
「たまたまだろ」
「妬むなよ影山君」
「なんで俺が妬むんだよ!!」
「ちなみに、日向の好きな小さな巨人がいた頃が、過去烏野が一番強かった時期だが……その頃烏野は、音駒に一度も勝っていない。負けっぱなしで終わってる。汚名返上してくれ!」
「「「オス!!」」」
******
「ふぅ……」
風呂上がりの火照った体に、涼しい風が心地よい。
何か飲み物でも買おうかなと自販機に立ち寄ると、そこにいた人物に
桜は頬が緩む。
「ひぃ君」
「おう。……お前、風呂上がったばっかか?」
「うん」
じぃっと自分を見下ろす瞳に、
桜が首を傾げると、影山はそっとこちらに手を伸ばしてくる。そしてそっと肩に触れる。
「え……」
「お前さ」
「何……?」
周りは静かで薄暗く、聞こえるのは自販機の稼働する音と、時折入ってくる風の音だけ。
自分と影山しかいない空気に、
桜はふと思う。
(あれ……。ひぃ君て、こんなに大きかったっけ……)
単純に身長ではない。肩幅も、自分に触れる手も、こんなに大きかっただろうか……。
そんな風に考えていると、ポスッと頭にタオルが被らされる。
それはさっきまで自分の肩にかかっていたタオルで。
「髪、まだ濡れてるぞ」
「あ、ありがとう……」
わしゃわしゃと自分の代わりに髪を拭いてくれる影山の手に、やっぱり大きいなと感じさせられる。
「明日、練習試合だね」
「おう」
「頑張ろうね」
「おう」
明日もこの大きな手で、日向達の道を切り開いてくれるだろう。
そう思うと、先程とは違うドキドキが溢れてきた。
「部屋まで送る」
「うん、ありがとう」
明日はいよいよ、音駒高校との練習試合。
その先には、どんな景色が見えるだろうか。
……To be continued