試合はその後相手のサーブからスタートし、それは、縁下のレシーブにより綺麗にセッターに返ってくる。
日向の目の前にあるブロックは、影山の宣言通り三枚。
(……っブロックデカい……っ)
「躱せ!!」「!」
「それ以外に出来ることあんのかボゲ!!」
「っ!」
打ち抜けないなら……躱す!!
日向は、一度躱してスパイクの体制を整えた所に、追いついてきたブロックをもう一度躱してコートの端へと走った。
ブロック嫌だ……。止められるのは嫌だ!!
目の前にブロックがいたら、俺に勝ち目なんかない。
エースみたいな戦い方が出来ない……っ。
でも……っ!
“俺がいれば
お前は最強だ!!”
躱して躱して放った日向のスパイクは、レシーブの手を弾いてコートの外へ落ちる。
「お前はエースじゃないけど!そのスピードとバネと、俺のトスがあれば、どんなブロックとだって勝負できる!!
エースが打ち抜いた一点も、お前が躱して決めた一点も、同じ一点だ!!
エースって冠がついてなくても、お前は誰よりもたくさんの得点を叩き出して、だからこそ、敵はお前をマークして、他のスパイカーはお前の囮のおかげで自由になる!!エースもだ!!」
「ね!?」と影山は田中に勢いのままに返すと、田中は「お、おう!!」と答えた。
「おうおうそうだぞ!お前の囮があるのと無いのとじゃ、俺達の決定率が全然違うんだぞ!」
「それでもお前は!今の自分の役割がかっこ悪いと思うのか!?」
そう力の限り叫んだ影山は、はぁはぁと息を切らして日向を見る。
日向は、そんな影山の言葉を噛み締めながら、赤くなった自分の手のひらを見つめる。
「……わない」「ああっ!?」
「思わない!!」「……っよし!!」
強く頷いた影山と日向の様子に、呆然と眺めていた一同はゆっくりと肩の力を抜く。
何だかとても熱いシーンを見せられた気分だ。
東峰は、真っ直ぐ見てくる日向に「今の一発、凄かった」と賞賛の言葉を送る。
日向はそれを聞いて、嬉しそうに顔を輝かせた。
そして影山と共に、澤村頭を下げる。
「練習、中断してすみませんでした!」
「すみませんでした!!」
「あ、いや……うん」
「続き……」
「「お願いします!!」」
すっかり元の空気を取り戻した日向達に、
桜もホッと息を吐いた。
「……先生。あの二人……」
「日向君と影山君ですか?」
「同じ中学出身か?小学校から一緒とか……」
「いやいや!彼らはこの前会ったばかりですよ!最初は馬が会わずに大変だったみたいで!」
「ふむ…………」
「?烏養君……?」
「……非情だな」
その後、何とか調子を取り戻した日向達が奮闘したものの、町内会チームの勝利で幕を閉じた。
試合終了後、
桜はスタスタと日向と影山の元へ向かう。
「ひぃ君、日向君」
「あ?」
「え?」
二人が
桜へ顔を向けたと同時に、おでこにペちっと軽い衝撃が走る。
全然痛くもなかったがつい反動で「って」と声を漏らす二人と、まさか
桜が手を出すと思ってなかったのか、周りも「
羽鳥さん!?」とびっくりしている。
「何すんだ
桜ボゲ!!」
「二人とも、本音をぶつけ合うのは結構だけど、ちゃんと時と場所を考えること。結果良かったかもしれないけど、公式試合でやったら即下げられちゃうかもしれないんだからね?ひぃ君はよくわかってると思うけど」
「ぐ……っ」
「おお……あの影山が言い負かされている……」
「
羽鳥ちゃんすげぇな!」
「あの二人幼馴染なんだよ」
「何!?何と羨ましい響き……っ!」
初めての光景に言葉を漏らす東峰と西谷。田中が言及してやると、西谷は別の所に感動しているようだった。
しかし……なんというか………怒ってるようでも効果音的には「めっ」と言った感じが似合っている……。
「なんか和むな……」
「ああ……和む」
周りを和ませているとも知らぬ
桜は、影山と日向に「分かった?」と言い聞かせている。
「……わぁったよ」
「ご、ごめん……」
「……よし。……二人とも」
「「?」」
「ナイスキー」
そう言って両手をあげた
桜を見て、日向と影山は一度目を合わせた後、
桜の手にパンっと強く自分の手を合わせた。
「「おう!!」」
こうして、色々波乱を起こした練習試合は無事終了したのであった。
*****
ストレッチ後、各々が片付けを行う中で、日向は東峰に声をかける。
「旭さん!俺は、エースじゃないけど、エースの前に道を作ることは出来ます!
最強の囮……やります!!
か、影山のトスが無きゃ出来ないけど…………っだから!だから……ええっと……!」
頑張って下さい……?頑張りましょう……?いやそれでは生意気な気がするし……!と日向が言葉に悩んでいると、東峰が「日向……だっけ?」と逆に声をかけてきた。
「エースってさ、大体WSのレフトのポジションがそう呼ばれるけど……俺とか田中とか」
「はい」
「三枚ブロックをぶち抜けるとか、大事なところでトスが集まるとか、それは確かにエースの役目だけど……」
“そのスピードとバネと、俺のトスがあれば
どんなブロックとだって勝負出来る!!”
「あんな風にセッターに言わせられるっていうのも、とんでもなくすごいと思うよ!」
「?」
「えっと……だからあの……なんだ、どんな呼び名でもポジションでも、敵チームに一番恐れられる選手が一番かっこいいと思わないか?
“あのMBやべぇぞ!気をつけろ!”とか言われてさ」
コクコク!と強く頷く日向。東峰はそんな日向を見つめて、強く投げかけた。
「……負けないからな」
「………っ!オス!!」
「あ……でも俺は、レギュラーに戻して貰えたらの話だけど……」
そう自信なさげに言った東峰の後ろで、菅原が吹き出す。
「旭はでっかいくせに、ほんと気は小さいな!」
「ちゃんとお前も復活したな?スガ」
「うじうじくよくよイジイジしててすみませんでした!主将!」
「そこまで言ってない……。頼れる西谷も戻ってきたし」
「オッス!」
「でも、教頭突き飛ばしたりするのは、二度と無しね?」
東峰との溝を作り、部活停止命令のトドメの出来事を指摘され、元気に手を挙げた西谷は一瞬固まる。
その様子を離れて見ていた
桜は、隣に立つ影山を見上げる。
「良かったね、みんな戻ってきて」
「おう」
「……さっきはあんなこと言ったけど」
「?」
「……かっこよかったよ。あの時のひい君」
「!」
「やっぱり、二人はいいコンビになるね」
あんな風に日向に全力で思いをぶつかっていけるようになった影山の姿は、
桜にとって何よりも嬉しい事だった。
「楽しみだな……これからも」
「……俺は、絶対にお前を春高に連れていく。もっともっとスパイカーを活かすところ、見せてやるからな」
「……うん」
「じゃあ一発締めてとっとと上がれ!」
烏養の号令で、影山はチームの輪に戻っていく。
桜もその輪の外で、烏養達と共に円陣を組む皆を見守っていた。
「烏野ー!!っファイ!!」
「「「オーッス!!」」」
紆余曲折あったものの……
烏野排球部、ついに再始動。
……To be continued