駅へと向かう音駒を皆が手を振って見送る。
何故か田中のように泣いているものもいたが、各々が親しくなった相手に向かって手を振っていて、
桜はそれを少し後ろで微笑ましく見守っていた。
そんな中、黒尾と研磨の二人と目が合うと、黒尾は大きく手を振って、研磨も控えめにひらひらと
桜に挨拶するように手を振ってきた。
桜はそれに少し驚きつつも、ぺこりと頭を下げて手を振り返す。
「そう言えば
羽鳥さん、トサカヘッドの人といつの間に仲良くなったの!?さっきもメアド交換してた!」
「(トサカヘッド?)黒尾さんはジョギングで日向君がはぐれた時に会ったんだよ。黒尾さんも研磨君探してたから」
「へぇ!そうなん……え?今……な、なんて?」
「え?日向君がはぐれた時……」
「そ、そこじゃなくてぐへ!「その後。なんつった」」
日向がどこか挙動不審に聞いてくるので答えようとしたが、どうやら知りたかった部分では無かったようで、今度は影山が日向の顔面をがしっと掴んだまま割り込んできた。
「黒尾さんも研磨君探してた……」
「んのボゲェ!!」
「わっ」
「な、なんで研磨の名前……!?も、もしかしてつ、つつつつつ……」
「津?」
「なに?
羽鳥さんとうとう音駒に鞍替えしたわけ?へぇ……?」
「ツ、ツッキー顔怖いよ!!」
「黙れ山口」
「ごめんツッキー!というか何の話?」
「
羽鳥さんが音駒に鞍替えした話」
「え?
羽鳥さんそれどういうこと!?」
「あの……ちょっとみんな落ち着いて……」
とは言いつつ、唯一最初の罵倒以来何も言ってこない影山に
桜は内心冷や汗が止まらなかった。
黙り込む=マジギレなのはこの長年の関係から十分察すれる。
「威圧感ハンパねぇ……」
「
羽鳥さんセコムってやつだべ」
「と、止めなくていいのかな……」
「面白そうだからもう少し見てみたい」
「同感」
「スガはともかく大地まで……」
どうやら頼みの保護者達も好奇心の方が勝ってしまったようで、他のメンツも面白そうな顔で見守っている。田中と西谷に関しては混ざりたそうだ。
「私さっきまでずっと研磨君のこと同級生だと思ってたの」
「え?研磨二年生だぞ?」
「だって名前しか聞いてなかったし、日向君もタメ口で話してたから……」
「……それがなんで名前呼びになんだよ。先輩なら尚更だろ」
「私も最初孤爪君って呼んでたし、先輩だって気付いた時に敬語に改めようと思ったんだけど、研磨君が「そういうの苦手だから」って……。名前は、研磨君が「
桜」って呼んでくれたから私も……」
「ずるい!!俺も名前で呼びたい!!」
「え?うん。いいよ」
「いいの!?」
日向は自分の方が
桜と仲良しなのに!となんとも子供じみた理由で悔しかったらしく、あっさりと
桜が了承すると嬉しそうに目を輝かせた。
「
桜!」
「うん。翔君」
「お、おお!!」
微笑みながら名前を呼び返した
桜に、日向は感動のあまりぴょんぴょんと飛び跳ねる。
すると
桜はロックオンとばかりに月島達をじぃっと見る。
「……なに。言っとくけど、僕は呼ばないから」
「えー……」
「お、俺もちょっと今はハードルが……」
「ハードル?」
「とりあえずそんなことより今は王様の機嫌どうにかしたら?」
月島の指す方を見ると、名前を呼ばれてテンションの高い日向の頭を鷲づかんでる影山の姿があった。
「ちょ……ひぃ君何やってるの!」
「こいつがぴょんぴょん跳ね回ってるのがわりぃ」
「理不尽だ!!」
「おーらおらお前らその辺にしとけ」
これ以上は乱闘になりそうなので、見届けていた澤村がパンパンと手を叩く。
澤村に言われてはと影山は素直に日向を離す。
痛てぇ……と涙目になる日向と、ツンとしている影山を宥める
桜。
そんな三人を呆れ気味に見ている月島と山口。
「影山のやつ、完全に今のはヤキモチだな」
「本人は自覚なさそうだけど……」
「別に気にすることないのになぁ……」
一年生五人を見つつも、菅原はそう呟いた。
「ひぃ君、ほら帰るよ?」
「……おう」
名前呼びよりも、この世で一人しか呼ばないあだ名を持っている方が、特別な気がするけど。
ましてやそれが、大切な存在ならば。
「バレーもだけど、これから色々大変そうだな!」
「?」
頭の後ろで手を組みながら、菅原はこれからどんどん生まれてくるでろう関係値の予感に、どこか他人事のようにわくわくしていたのであった……。
……To be continued