シリーズ・短編
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夜が冷え込むようになった秋の帰り道、委員会の雑用で遅くなってしまったけれど、隣を歩くヒロくんの存在だけでそんなことは気にならない。肌にかかる冷たい夜風とは裏腹に、彼がいる右側と胸の真ん中あたりはぽかぽかと暖かかった。
「冷えてきたなー」
『そうだね……こんな時間まで付き合わせてごめんね』
「いやいいよ。第一お前ひとりでやってたらもっと遅くなってたろ」
『それは、まぁごもっともなんだけど』
不意に一際冷たい風に吹かれて身体が震える。最近の冷え込みに耐えかねてタンスから引っ張り出してきたカーディガンでも、隙間から滑り込んでくる秋風は防ぎきれないようだ。それは私だけではなくヒロくんも同じなようで、首を引っ込める亀のように縮こまっている。
「……さすがに寒いな」
『時間も遅いし、余計にね』
「そうだ、手貸して」
言うが早いか、私の右手をとったヒロくんはその左手をそのまま自分の上着のポケットに突っ込んだ。つまり私の手はヒロくんに捕らえられたまま、彼の上着のポケットに入っているという事だ。
「こうすればちょっとは暖まるだろ」
『あ、ったかいけどさ……、これ、恥ずかしくないかな』
「なんで?」
そんなキョトンとした顔をされるといたたまれなくなるのは何故か。きっとヒロくんは何の気なしにやってのけてしまっただけなのだろう。私の気も知らないで。
『こんなの、誰かに見られて誤解されても知らないからね』
「お前と誤解されるなら別にいいけど」
反射的に『何言ってんだこいつ』と口に出さなかった私を誰か褒めてほしい。そんなの、告白してるようなものじゃないか。パーソナルスペースなるものが狭いだけと思っていたけれど、これはひょっとするとひょっとしてしまうのかと小さな期待が湧いてしまう。
『あの……ヒロくん?』
「気付いてなかったか? ……俺のアピールも足りなかったのか」
『もしかして、もしかするとだよ? もしかしてさ? 本当にもしかしてなんだけど、……ヒロくんって、私の事好きなの?』
「……好きでもなきゃこんな事しない」
つーかもしかしてって何回言うんだよ、と一瞬前の真剣な表情から一転してくしゃりと笑うヒロくんに、私は立て続けにノックアウトされてしまったのだ。
「で、返事は?」
返事、と言われて少しばかり思考が停止する。いや、結果的にあの言葉は告白と同義だとは分かるけれど、断定された訳では無いので私だけ言うのは恥ずかしさが際立ってしまう。だからと言って想い人から告白されて保留にするほど図々しくもなれないので答える他ないのだ。だからせめてもの抵抗として、意地の悪い返答で応じた。
『……この手を振り解かないのが答えだよ』
End