第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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怪しまれている、と言うのは肌で感じていた。行動を共にする事が増えてからというもの、何が起きても冷静を保っている杏樹の姿は不信を募らせるには十分異質だ。その落ち着き様は、もはやこれから起こることを予知しているのではないかなんて言う突拍子もない発想さえできるほど。ここ最近は、灰原哀からの視線に警戒心が含まれているように感じられる。
「目立ったことはしてないつもりなんだけど、おかしい」
『そりゃ、子供なら普通怯えるところ全く動じてなければ怪しいとは思うだろ。特にそういう異質なものに敏感な灰原なら尚更』
「リアクション芸人やるしかないのか」
『だから程々にしとけと』
こういう事になるから迂闊に関わるのを避けてきた諒からすれば、それ相応の覚悟をして対策を考えておかなかった杏樹の過失でしかない。
「兄ちゃんの方は何かないの?」
『つってもな……誘いには乗らないようにしてるし、大して代わり映えはねーよ』
最も、つい最近保健医が変わったり、臨時の英語教師が入ったり、なにやら動き出している様子ではある。どうにも時間経過が読めないのだが、こうも早く組織関係の話が動き出すとは思わなかった。徐々に本命に近付いていると言うことで、素知らぬ素振りをするのがなかなか難しくなっている。
「うぅ……FBI見たいよ」
『今度ゲーセンでも行っとくか』
「巻き込まれる予感はしてるけどそれは行くしかないよね」
『ハッキングとかできたらいろいろ楽しいのにな』
「何を知ってても納得される魔法の言葉、少しハッキングさせてもらった、って奴や」
『一生のうちどこかで一度は言いたいセリフ』
そんな技術も知識もないので言う機会など殊更ないのだが。それよりも、どういう訳か休日に設けられた全国統一テストに強制参加させられる帝丹高生に数えられている諒は、成績には響かないしと勉強意欲ゼロの姿勢でいつもの趣味に走ることにした。
彼女には何かある。
深刻な顔をしてそう告げた灰原と同様に、コナンも同じ事を思わないでもなかったのは事実だ。しかし、阿笠に頼んで調べた古渓杏樹の戸籍は間違いなく本物で、偽装された痕跡もなかった。そもそも二人が幼児化したのはあくまでも薬の偶発的な作用によるもので、必ずしもこの現象が起こるはずもない。そんな薬をあえて仲間に飲ませ、発現するか分からない現象が起こるのを待つほど組織も暇ではないだろう。幼児化していることすら気付かれていないのなら尚更だ。その事から彼女に組織の影はないと結論を出したのだが。
「でも、彼女の冷静さは普通の子供じゃないわ。探偵団の子達も段々事件に慣れてきてはいるけど、目の前で殺人事件が起きても全く動揺しない訳じゃないでしょう? 彼女の反応はまるで、そこで事件が起きることを予知していたみたいに……」
「だからって、何かを偽っている様でもないし……考え過ぎなんじゃねーのか?」
「ならこの違和感は何? 確かに彼女からは組織の匂いは感じないけど、100%信頼出来るとは断言できないわ」
「……なら、自分で聞いてくればいいじゃねーか」
「あなた探偵でしょ? 調査を依頼するわ」
「オメーなぁ」
よくまぁ便利屋のように扱ってくれる。実際便利屋のような存在なのだが。コナン自身詳しく彼女の情報を掴んでおきたいところはあるため、学校帰りにでもそれとなく話を持ちかける算段を立てた。
丁度良く体育の授業があり、チーム制のミニゲームが主に行われた。同じチームになった事で、探りを入れるには絶好の機会だろう。他のチームが試合をしている隙に、コナンは木陰で休む杏樹に歩み寄った。
「杏樹ちゃん」
「ん、コナンくんも休みに来たの?」
「まぁね。……この前行った古城、杏樹ちゃんはどう思った?」
「あーあれ、楽しかったよね。秘密の地下通路なんてわくわくしちゃった。どこがスイッチになって扉が開くんだろうって。でも隠された宝が絶景だったって言うのはお約束だったよね」
後から聞いた話とは、随分感じていたものが違うように聞こえた。最初にコナンが忽然と姿を消し、捜索するも見つからず、それから博士や元太も何者かに捉えられ。灰原と一緒にいた歩美は恐怖心を目一杯に募らせていると分かる状況。そんな出来事を思い出せば、みんな無事で何より、といった言葉が出てくるのが自然だが、全てを解決する頃に合流した杏樹は当たり前のように、全員無事な事を確信していた。だからだろうか、あの隠し通路に目を輝かせていた事しか語らない。
「みんなが消えていって、不安じゃなかった?」
「心配なら歩美ちゃんがしてたし、悪い方向に考えて怯えてたらラチ開かないでしょ? みんなも大丈夫だと思ってたしね」
「……それって、誰も死なずに解決するって分かってた、ってこと?」
「そんな気はしてたよ? 絶対コナンくんがそうさせるともね」
あっさりとした口調で答える杏樹に迷う素振りはなく、そう考えていたのは本当だろう。だがその根拠の出どころは何なのか。ただの仲間への信頼か、もしくは本当にあの一件を予知していて、結末を知っていたのか。後者の可能性は限りなくゼロに近いが、前者だとしてもその精神力はただの子供では考えられない。それともう一つ、探りの話題はある。
「そう言えば、杏樹ちゃんって事件に鉢合わせてもあんまり驚かないよね」
「そうかな。結構びっくりしてたんだけど」
「杏樹ちゃんはよく表情に出る方だけど、そういう時は全然そんな風に見えないよ。まるで、事件が起こるって知ってたみたいな」
「そんな訳ないよ。そんな事分かる人がいたら、警察いらないでしょ? もちろん探偵もね」
「それだけじゃない。殺人事件だったとして、遺体を見て平然としていられる小学生なんて、どう考えても不自然だよね。慣れてるんじゃない? 人の死に」
コナンの顔付きは既に同級生に向けるそれではなく、犯人を問い詰める探偵の顔をしていた。同じ言葉をそっくり返してしまっても良かったが、表情を悟られないように俯いて答えた。
「うん、慣れてるよ」
何一つ変わらない口調でそう告げると、コナンは微かに息を呑んだ。
「だって、一時期あたしが好きになるキャラが尽く死んでいくジャンルにハマっちゃってね!? もう毎回泣きながらゲーム進めて、アニメで改めてストーリー追って箱ティッシュ半分位消費したこともあってね!? もう慣れたよね!?」
「へ?」
「どんなに無残な散り際でもいっそ美しいよ! つらい!」
スイッチが入ったように熱弁する杏樹にすっかり押され、コナンは返答する言葉を失った。荒ぶる杏樹がそのまま思い出し泣きし、困惑は大きくなるばかりだ。
「あー! コナンくんが杏樹ちゃん泣かせてるー!」
「歩美ちゃん!? いやこれは……!」
あらぬ誤解を招き、もはや問答どころではなくなってしまった。結局、核心は有耶無耶になってしまった訳だが、コナンの中から杏樹への疑心はどこかに消え失せた。彼女は、ただ少し知識の偏った、漫画好きの少女だ。
尋問のようなやり取りを受けたと聞いたが、それ以来刺のような視線は影を潜めているようだ。妙な疑いをかけられるのは大変に心苦しい。事実以上のものが存在しないのに、違和感だけを与えているようで忍びない。まぁ、スプラッターに耐性があると思わせられたのなら、その後も問題ないだろう。落ち着きがあるだけで、謎解きができる訳でもないのだから。
『……マズったな』
「兄ちゃんにしては迂闊だったね」
現在地、杯戸町のゲームセンター。こちらは私服だが、見慣れた制服姿が二つと、この場に似合わない小学生の姿がある。確実に何かある。
『入荷日だから来ただけなのに』
「と言うかなんで兄ちゃんぽてうさ集めてんの……ファンシー過ぎかよ」
『もふもふは正義』
「真顔で言わないでくれるかな」
向こうがこちらに気付かないまま終わればそれに越したことは無いのだが、用事が終わるまで持つだろうか。
だがこの時、正直に言えば、巻き込まれる予感はしていた。
End