第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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「Hey! ジェニファー! 早速だが良いニュースと悪いニュースがあるんだが、どっちから聞きたい!?」
どっかのアメリカ映画のようなテンションで電話を寄越してきたのは間違いなく杏樹だ。ジェニファー誰だよ、なんて月並みの返答をする訳でもなく、その流れを汲んで諒は答えた。
『じゃあ良いニュースで』
「OK! 良いニュースってのは、今日ついにあの灰原哀が現れたのさ!」
『ほう? なら悪いニュースは?』
「探偵団に引っ張られて電車に乗せられて帰れないんだ!」
『アホだろ』
「迎えに来てくれジェニファー! 頼むよ!」
『分かったわジャック、降りた駅を教えて』
「裏声気持ちわりーな!」
『死ねよ』
先にやったのはお前だろうが。そのジェニファーで返してやったのに肝心のジャックは非道な発言で締めやがった。暴言に暴言で返した後は何事も無かったように移動した先を聞き出し、家を出た。
二駅ほど移動した駅の交番横にはパトカーが着けられており、黒服の女や共犯が乗せられているところだった。どうやら事件は解決していたらしく、子供たちには特に怪我もなかった。一人嘘泣きしているが。
『杏樹、帰るぞ』
「兄ちゃん」
ふらりと現れた諒に杏樹が振り向けば、それにつられて子供達もこちらを向いた。約一名困惑した顔をしていたが、その姿で会うのは初めてだし何も話さないつもりだ。
「杏樹ちゃんのお兄さん?」
『そうだが』
「わー! かっこいい!」
「そうでもないよ」
『お前が答えるな。否定しないけど』
否定させてもらえないところが腹立つ、とやや乱雑に髪をぐしゃぐしゃにした。
「お兄さん、お名前はなんて言うの?」
『んー……じゃあ村人Bで』
「えーっ!」
『まぁ今後も会うようならそのうち教えるよ』
要はお関わりあいになりたくないという事だ。探偵団もなかなか事件を呼び寄せる。主に名探偵のせいだが。
「じゃあみんな、また学校でね」
杏樹がそう話を切り上げて、足早に過ぎ去っていく。その後を追うように諒も子供達と別れた。幸いここには良心的な警察もいることだし、彼らが家まで送り届けてくれることだろう。
『……俺が迎え行かなくても警察が送ってくれたんじゃ』
「それだと家バレるじゃん。押しかけられても困るでしょ」
『なるほど。そういうのもあるのか』
例の協定に触れそうなものを自主的に避けていたということだ。理解の早い妹で助かるばかりだ。あの連絡の入れ方はとても普通の女とは思えないが。
「名探偵に着いてって正体聞いても良かったんだけどね」
『それはさすがにやばい』
「でも似たような存在な訳だし」
『子供の振りで知らばっくれられるって特典あるだろ』
「まぁ下手に明かすよりはねぇ……」
一方的に知っているが、正体を知っていることを認知されていないというのは下手なことは言えない。なんとも前途多難な話だ。そもそもつい先日仙台から帰ってきたという体で転校してきている訳で、この町で起きた事件を知っているのもおかしいだろう。
『おかしいと言えば、お前の戸籍』
「へ?」
『この前学校サボって黒羽快斗と会ったって言ったろ。その時ついでだから家族分の住民票取ってきたんだが、お前の生まれた年、今の姿に対応してる』
「……へ? じゃあ、元々中学生だったあたしは存在しないってこと?」
『そうらしいな。大体おかしいだろ、中学だったお前の友人って奴からは何一つ連絡ないし、小学校の手続きも保証人の事くらいしか込み入った話になってない。世界事情が改竄されてるとしか思えねぇな』
「でも、名探偵はあたしの顔みて兄ちゃんの妹だって気付いてたよ? 部屋に優作さんのサイン色紙飾ってあったけら、面識あったとしたら不審に思ってるかも」
『……記憶も改竄されているのか、お前が工藤家行った時にあいつがたまたま居なかったのか。妹がいるって話は前にしてたからな』
23歳の杏樹がこの世界に来る以前と今とでは隔絶されているのだろうか。だとすると、どんなに疑われても偽装のされていない本物の戸籍がああなっているのだから心配はいらない。下手なことを言えないのは変わり無いが、基本的には平気なはずだ。降って湧いたような存在に裏付けがあるのも妙な話だが、あるに越した事はない。
「正体知ってることいつ明かそうかなー」
『やめとけ。猫被りに内心笑うだけにして差し上げろ』
「元祖"あれれぇ〜?"来たらほんとに吹きそうだから」
『分かる』
そんなやり取りをあの少年は知るはずもなく、岐路を辿った。途中、杏樹を連れている諒が警官に職質されたのはここだけの話である。
週明け恒例の母親からのエアメールには、珍しくツーショット写真が同封されていた。いつもは誰かに写してもらった、背景がメインのピン写なのだが、今回のは人物がメインだそうで、金髪のいかにも外国人といった顔をした女性と並んで写っていた。その外人には、杏樹共々見覚えがありすぎた。
『仕事で海外行ってんだよな……』
「楽しみ過ぎか? って言うかこの一緒に写ってる人さ、めっちゃクリス」
『それな。何をどうしたらハリウッドスターと写真撮る間柄になるんだ』
もしかしたら一番の謎はこの母親かも知れないと思い始めた。
「そういえば、今度探偵団と出かけるかもしれない」
『ご冥福をお祈りします』
「死ぬ前提で言うんじゃねーよ」
『あいつらと出かけるとか死亡フラグしかないだろ』
正論を投げつけてやれば返す言葉もなく押し黙っていた。なんでもキャンプに行くらしいのだが、正直あのメンバーでのキャンプなど分岐が激しすぎて何一つ分からない。決まってタチの悪いことに巻き込まれることは目に見えているので危険度は大差ないが。
「まぁ、下手な行動しなければ死にはしない、と思いたい。って言うかこの前の哀ちゃん参戦時は歩美ちゃんの身代わりやっちゃったしさぁ……」
身代わりと言えば、よく捕まってしまうあの少女も散々だろう。抵抗する手段を何一つ持っていないのだから当然といえば当然だが、小学一年生でする経験ではない。助かると分かっている杏樹が代わってやったのも無理のない話だ。
「とにかくあたしは女の子には紳士でいたい」
『腐女子が言うことかよ』
「あの、腐女子がみんな女キャラアンチとか思うのやめてくれませんか」
『そこまでは言ってない。ただ、無機物さえホモにするお前がそんな器用なことできるのかって話』
「それはそれ」
杏樹に言わせれば世界線が違うとの事。分からないでもないのが悩ましいと思う諒だった。
その後予定通り探偵団がキャンプに繰り出していった頃、諒の携帯には立派な古城の写真が送り付けられていた。
『……あぁ、これだったか』
確かカラクリが張り巡らされた城を縦横無尽に駆け回っていた気がする。死人は出なかったはずなので特に心配はないだろう。それより今はこの場をどうするか、だ。
「どうした?」
『別に、なんでもねー』
向かいに座る黒羽が、携帯に目をやって一人ごちた諒に疑問符を投げかける。現在、どういう訳か黒羽家に迎えられ、なぜか上機嫌な彼の母親と夕飯を拵えていたのだ。後はグラタンが焼き上がるのを待つだけなので、ダイニングで寛がせてもらっている状態だ。
「さっきは本当に助かったわ、諒君。あのタイムセールで買えてなかったら、今頃夕食は出前だったもの」
『いえ、俺が取り違えたのを丁度譲れただけですから』
「偶然ってあるものね。それに誰かと料理するなんて久しぶりで楽しかったわぁ。快斗が女の子だったらお婿に来てほしかったのに……」
「おい母さん、無茶言うなよ。古渓が困るだろ」
軽いトーンで問題発言を落とす母親をすかさず咎める黒羽だが、諒はさして動揺を見せることもなく、それどころか便乗して悪ノリした。
『アメリカに渡れば同性婚できますけどね』
「あら!」
「おい古渓!」
『冗談だ。お前には幼馴染の彼女いるもんな』
「それも違ぇ!」
からかいやすさに定評のある高校生、などと言う諒の中のカテゴリーに放り込まれている限りは、その手のからかいから逃れるのは不可能に近い。表面的には同学年でも諒の精神がやや達観しているせいだ。無表情を貫いてるのも要因の一つだろうが、そこは無意識下だ。
オーブンにセットされたグラタンが丁度いい焦げ目を付け始め、タイマーが焼き上がりを告げる。諒お手製のマカロニグラタンを一口食した二人からは、普通に美味しい、と言う率直な言葉を受け取った。
End