第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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両親がすぐ駆けつけられる距離に居らず、唯一の身元保証人である諒を保護者とすることで杏樹の帝丹小学校への編入手続きが完了した。未成年が保証人と言うのも心許ないと言うのはあるのだろうが、諒と面談した配属クラスの担任は、歳の割には大人びていると評価した。杏樹の配属は1-B、案の定、というやつだ。
「担任、小林先生になってたね」
『しかも子供好きの素の方……少し進んでるみたいだな』
「でも哀ちゃんはまだっぽいし…今のうち主人公からの信用を得ておくことにしよう」
『ホームズ読んどきゃなんとかなるだろ』
「それな」
ホームズ好きに悪い人はいないとか発言していたはずだが、それを間に受けるにはとある記憶がそれを阻むので、同じ趣味の人間がすぐ近くにいる楽しさを植え付けてやろうという魂胆である。幸い杏樹の自室には、以前の杏樹が買い揃えたホームズシリーズや闇の男爵シリーズが本棚に陳列しているので、わざわざ探すまでもない。その他公言できないジャンルの薄い本など様々だが。
諒はあくまでも無関係の位置に居たいため、杏樹に同行することはほとんどしないと約束を取り付け、危ない橋は渡らないことを条件に彼らへの接触を許した。言うまでもなく家に連れてくるのは以ての外だ。
「そんな邪険にしなくてもいいのに、のう兄者」
『妹よ、普通の人間はそんな頻繁に殺人事件を目の当たりにしたらノイローゼになるのだぞ』
「でも過去に一度は見てる事件でしょ?」
否定はしないが納得もしない。諒はいつもの仏頂面で杏樹を見下ろす。小学生の身の丈から見上げるover180cmからの絶対零度の視線たるや、まさに蛇に睨まれた蛙である。
「ごめんて」
『許さない』
「ごめんなさい」
『許さない』
「茎わかめあげます」
『許す』
「くっ……!」
どこかで使われていた応酬を引っ張り出せばすぐにそれを察知して返してくる辺り、本当に兄妹だと痛感する杏樹だった。同時に腹を抱えて笑った。よく表情に出る杏樹は諒とは正反対だ。だからそこそこウマが合うのだろう、相方のような信頼さえあった。他所の兄妹愛とも違った絆が存在している。最も、今でこそ対等だが杏樹が姉と結託するととんでもないモンスターに変貌するので、その時はヒエラルキーを転落させられるのだが、暫くは姉と落ち合うことは無いだろう。
新調したランドセルを背負った杏樹は諒に見送られながら小学校へと向かった。ランドセルを卒業したのは何しろ10年以上昔の話なのでリュックが良いと言ってみたが、1年時からそれはさすがに怪しいからと棄却された。確かに小学1年生となれば、念願のランドセルをようやく背負えるという喜びで満ち溢れているようなものだ。溶け込むならその流れを汲むしかないだろう。
転校生として紹介された杏樹は、持ち前の外面の良さでクラスに馴染み、吉田歩美を筆頭に少年探偵団への勧誘を受けた。面白そう、と即答し、二つ返事で話に乗れば、メンバー紹介が始まった。
「おれが団長の小嶋元太!」
「僕は円谷光彦と言います! よろしく、古渓さん!」
「うん。よろしくー」
「それから、江戸川コナンくん! 今はこの4人で少年探偵団なの。杏樹ちゃんも今日から私達の仲間だよ!」
「ほんと? 嬉しい、あたし推理とか結構好きなんだ」
一般人を装うように子供の仮面をつけて話を合わせる。そんな中、元太はコナンを呼びつけ杏樹を指差し新メンバーだと得意気に言うと、コナンは丸い目をじとっと細めて、あんまり迷惑かけるなと釘を刺した。
「コナンくん、って、変な名前ー」
杏樹がけらけらと笑いながらそう言えば、言われ慣れたと言わんばかりに乾いた笑いが返ってきた。そこですかさず、信用を得るべく用意していた話を切り出す。
「でもコナンって、もしかしてコナン・ドイル?」
「分かるの?」
「うん、あたしホームズ読んだことあるよ。難しい字は教えて貰ってね」
「杏樹ちゃんもシャーロキアンなんだ。どのシリーズが好きとかある? ホームズのセリフで一番好きなやつとか」
「やっぱり最後の事件かなぁ、滝壷に落ちる時のあのセリフは忘れられないよ」
「だよな! あの場面であれを言えるのがホームズのすげーとこだよな!」
「まさに愛だよね! 愛しの宿敵を滅ぼす代償が自分の命だとしても受け入れてしまえるホームズさんまじかっけぇ! スパダリか! って噎び泣いたから」
「……ん?」
「そしてそれをあとから知ったワトソン君の未亡人さね」
「ちょっと待った、なんか話ズレてない?」
「え?」
それとなく自分の土俵に話を折ったものの、気付かれてしまったようだ。素の自分を垣間見せるのは案外危険かもしれない。しかしあの流れで論点がズレていることに気付いたとなれば、相手もそれなりの知識があるのではと疑わしい。
「あたし、何か変な事言ったかな」
「いや……杏樹ちゃんみたいに突然難解な単語出してくる人を知ってる気がして」
素知らぬ顔で首をかしげていると、コナンは何か思い立ったように向き直った。
「杏樹ちゃん、もしかして諒ってお兄さんいる?」
「え、何で知ってるの?」
これもすっとぼけて答える。そりゃあ元クラスメイトだったらしいから知らないはずないかと思い浮かべていると、少し口篭ったように、親戚の兄ちゃんから聞いたことあるんだと弁明していた。親戚の兄ちゃんとは言うまでもなく、自身の正体でもある工藤新一のことだろう。そんな分かりきった言い訳に子供ながらに納得してみせると、ほっと肩の力が抜けたようだ。
「なんか嬉しいなぁ、ホームズの事で話せる子がクラスにいて。今まで周りにそんな子いなかったもん、コナンくんと話せるの楽しみになりそう」
杏樹が、自分にしては可愛らしくなったと自負する顔立ちでそう笑いかければ、少年達が少しばかり頬を赤らめた。昔の杏樹は普通に可愛らしい顔をしていたのである。そんな様子に首を傾げて何も気付いていないフリをしつつ、若いなぁ、としみじみ感じていた。
何となく学校へ行く気分ではなくなり、諒はふらふらと歩き回っていた。そういえば駅前と学校帰りのスーパーくらいにしか行ったことがない。まだ見ぬ町内を探索してみてもいいだろうと言う降って湧いた探究心のせいにして、サボリを敢行した。
既知の都心と大まかなところは変わらないが、やはりこの世界だけの改変された街もいくつか存在を確認できた。気がつけば足を踏み入れていたこの江古田町もそうなのだろう。こちら側と対極にあるようで、似たような少年少女たちの舞台。
『……キッドに関わるのは避けたいけど、素のあいつなら大丈夫……だと思いたい。正体知らないふりすれば……』
実際、主要人物達と縁を持ちたくない訳では無いのだ。厄介ごとに巻き込まれる頻度が減れば良い訳で、友人のような立場にもなりたくないと言えば嘘になる。折角同じ世界に生きているのだから、と言うオタク心は諒にもある。そこは杏樹と同じだ。そこでこの場所という訳だ。殺人事件の多発する米花町とは離れているし、暗躍する組織を追いかける名探偵様もいないので治安は良好。怪盗はそもそも人は殺さないし、むしろ新しい記憶の中ではエンターテイナーの気がある。彼が敵視する組織も目当ては宝石。生憎そんなものに手を出す財力は家にはないのだから、目をつけられる理由もまるっきり無い。少しパイプを持ったとしても降りかかる火の粉はほぼ無いだろう。
『杏樹は喜んで食いつくだろうな』
何せ彼はかつて杏樹の最推しだった。ミーハー心ではなく、それこそ公言できない意味で。幼児化して日常に不便が生じる妹へのちょっとした兄心でもある。
町内を散策して、舞台になっていた場所を訪れたり住宅地を宛もなく歩いてみたり、下見に来ているような妙な気分になりながら暇を潰し、生徒の下校時刻に合わせて、この町の公立高校を訪れた。
さて、目的の人物に何と声をかけようか。正門にもたれ掛かりながら思案した。
End