第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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怒涛の三日間だった。初日から事前情報の拡散により店内はほぼ満席状態が続き、客を引くまでもなく客足が途絶えることは無かった。それもこれもクラスの2トップが揃って執事に扮していた事に話題性があったからだろう、と言うのは友人、十和田の見解だ。工藤は母親譲りの演技力で完璧にこなしていたからというのは理解できるが、諒はなぜ自分が、という見方をまだしているのでどこか人事のようだ。営業スマイルの欠片も無い無愛想な執事だっただろうに、なんて言われてしまえばそれは否定出来ないが、当日はヘアアレンジされていたのも一つあるのだろう。普段左右に分けている前髪の片側半分をかき上げて後ろに流していたのだ。ホールにいる時にやけに黄色い声が上がっていたが、その対象は言うまでもあるまい。ついでにキッチンに入って卒なく鉄板焼きを焼いていた姿も話題になっていた。
「おーい古渓、死ぬなー」
『むり……走馬灯のように駆け巡ってる……』
「忙しかったのは分かるけど」
『どちゃくそ疲れた……』
一日寝ても疲れが抜けず、もはや机に突っ伏している始末だ。それに加え億劫なのが、靴箱や机に忍ばせられた手紙類。まさかとは思ったがそれぞれの可愛らしいプリントのついた封筒は正しくアレだろう。過去に一度も貰ったことも無かったそれらが、諒の肩の荷を重くした。
「返事してやれよ、モテ男」
『……何かの間違いだろ。過去一度としてモテたことねーよ』
「モテ期ってやつだ」
『嘘やん』
平凡な人生を歩んできた元社会人としては受け入れ難い現実である。ついでにゲーム以外の女子に対してトラウマ的なものも過去にあるせいで、どうにも気が進まない。文化祭の疲れも残っているため、そんな場合じゃないという事にして例の物たちは保留にする方針に変えた。
『そもそも下駄箱も机もポストじゃないんだからやめてほしい、とか言ったら刺されそうだな』
「確実にな。直接渡すなら告白してるも同然だし意味なくなるだろ」
『それはそうなんだが』
ともあれ、打ち明ける勇気を持って形に残した少女達に敬意を表し、スローペースで返答返すくらいのことはしようと思う。
時とは過ぎ去ってしまえばどれだけ密度のあったものでも刹那に等しい。秋から冬を越えた辺りのことなど、思い返せば一瞬だった。この頃にはメディアで名前を聞かない日は無いほど知名度を上げていたり、空手の都大会で優勝するクラスメイトがいたり、着実にその時が迫っていることを示唆していた。諒の持ち合わせの秘密には誰も気付く気配はなく、打ち明けるつもりも当然無い。妙に接点の残る人物とは、あくまでもただのクラスメイトであろうとしていた。
そんな日常の中、気付けば2年生になっていた。恐らく、この先何度もこの年を繰り返す事になるのだろう。ループしていることに気付かない、幾度となく繰り返される季節を覚悟した。その始まりは言うまでもなく、クラスメイトが忽然と姿を消したその日だった。
「工藤休みなのか」
『……みたいだな』
「まぁ本読み耽って寝坊とか有り得そうだけどな」
『分かる』
素行不良の気はほぼ無かったのもあって、無断欠席なんてのも教員側も意外だったのだろう。今朝のHRでそのようにぼやいていた。諒はいよいよ気を引き締めて遭遇を回避しなければと決意を固めた。何気なく歩く道は小学生もそこそこ通るため、ふとした拍子に出くわしてもおかしくない。見かけても無関心に過ぎ去ってしまう事にしよう。などと身構えているほど巻き込まれるような気がしてくるのは、前科があるせいだ。こんな日は飲もう、と棚の奥で眠るビンを思い浮かべるのだった。
『やっぱロックだよなぁ……』
ウイスキーは香りと味わいを楽しむのが美点だが、冷酒の方が好みだった諒は冷やしたグラスにロックアイスと共に注いでしまうのが自分に合った飲み方だった。この世界での身体を考えてジンジャーで割ったウイスキーバックにして飲んではいるが、少しばかり欲目がでてきた。幸いお気に入りでもあるメーカーズマークは王道で、なんと言っても舌触りの良さと甘さには随分と虜にされている。恋人と称しても良いと思える位置付けだ。そういえばチェイサーとして飲んでいた常備水も減ってしまっているから、専用のミネラルウォーターも買ってしまおう。何せウイスキーを深く味わうなら必須だ。それもこれも、社会人をやっていた頃に酒を嗜む上司からの受け売りなのだが、実際味わえているのだから問題はない。ただ少し、ほんの少し、身体が酒に弱くなっただけだ。
そんなセンチメンタルになりつつも、日常とは素知らぬ顔で流れていくのだから皮肉なものだ。
例の日以来、諒は主要人物との関わりを徹底的に避け、というのは所々出来ていないものの、なんとか巻き込まれるような案件は最低限に抑えてきた。巻き込まれる度にバーボンをストレートで飲み、寝落ちして忘れようとしていたがなかなかそう上手く行かないのが現実だ。リビングで夜を明かした朝も、前日のことは克明に思い出せる。酷い話である。
『……片付けよう』
そろそろ杏樹が起きてくる頃だ。酒気の残る部屋を換気し、ビンを棚の奥に隠す。ミネラルウォーターは冷蔵庫に放り込み、グラスは洗ってカゴに上げた。そして何食わぬ顔で朝食を作り始めた丁度その時、家に悲鳴が響いた。
『何事』
寝ぼけてベッドから落ちて強打でもしたのか、と妹の間抜けな光景をイメージしていたが、火を止め部屋まで様子を見に行けば、何やらややこしい事態になっていた。
『……あず?』
姿見の前で座り込んで屍と化している杏樹は、諒の声でゆるゆると顔を上げた。
「兄ちゃ……若っ! えっ兄ちゃん若っ! どういう事!?」
妙だ。中3の、兄を高2として認識していた妹の発言ではない。発言どころか体格も顔立ちもおおよそ中学生のものではなく、さらに幼い少女のようだ。
『……あず、自分の歳言ってみ』
「え、23」
諒の予想はズバリ的中してしまった。目の前の杏樹は、紛れもなく元の自分がいた世界の妹だ。そして何らかの要因によって幼児化したと思われる。
「って言うか! なにこれ、どうなってんの、なんであたし縮んでるの、なんで兄ちゃん若返ってんの……なにこれ夢? 痛いわ、夢ちゃうわ、なんやねんもう」
独り言と共に腕を抓る杏樹はとてつもなく変な奴に見えるのは一先ずおいておくとして、諒は現実を突きつけるべく言葉を発した。
『杏樹、この世界には工藤新一がいるって言ったら伝わるか?』
「……な、なんやてーーーー!!!!」
二度目の絶叫が朝の早い古渓家を包んだ。
散々いろいろな可能性を一人語りしていた杏樹がようやく落ち着いた頃、朝食を食べるべくリビングに降りていく。そして体が縮んだ杏樹に椅子が合わないためクッションを重ねてみた。不安定だがここは我慢するらしい。いつもと変わらない朝食をつつきながら、さて、何から話したものかと思案し、口を開いた。
『簡潔に言うなら、俺らはトリップしたってことになるな』
「トリップした先で親族まで有知トリップしてるとか前代未聞かよ」
『しかも年の差開いたしな』
「ほんとそれ解せない。今のあたし何? 小学生? これ」
『だろうな。俺が高校だし、ありえない話じゃない』
さすがこの現象に理解があるだけのことはある。現状把握する頃にはすっかり落ち着き、今だと原作のどの辺りなんだろうと推測し始めた。こいつ、まさか混ざっていくスタイルか、と怪訝な顔で見遣ると、至って真面目な顔で返答を寄越してきた。
「どうせ落ち着き過ぎって目ぇつけられるだろうし、探偵団に引き込まれたら完全にアウトなんだしいっそ楽しんだ方がいいじゃん。嫁にも会えるし」
確かに露骨に嫌な顔して巻き込まれるよりはモチベーションは維持できるか、と納得しかけたが、そもそも殺人現場が向こうからやってくるみたいな奴に近付きたいとは諒には到底思えない訳で、死なない程度に頑張れ、とだけ返しておいた。
End