第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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夏の戦場を乗り越え、山積みになった課題を切り崩し、なんとかひと夏を終えた後はもう文化祭の時期だ。本格的な準備期間はもう少し先だが、高校生の秋といえば大体文化祭が目標地点だ。そんな行事によって気の迷いが生じる者も少なくない。しかしそんな浮かれ気分も過ぎ去ってしまえば、すれ違いの果てに破局する、なんてパターンもお約束だ。まるで蜃気楼。残暑が見せる幻のようなものである。
クラス委員と文化祭実行委員が結託し、LHRの時間を乗っ取り一足早く文化祭での計画を企てることになった。それにしてもこのクラス、担任の立場が随分と弱い。模擬店などは人気が高く、出店数が予め決められているため計画書を早めに作り提出した方が有利となる。勿論模擬店以外にも出せるものはあるが、どれをやるかを含めてのクラス会議がこの乗っ取りHRという訳だ。
「えー、まず模擬店かゲーム店、演劇のどれに絞るかってところから始めたいと思います」
具体例を上げるとすれば、模擬店は要するに飲食物を扱う屋台もしくは喫茶店。ゲーム店は所謂縁日でよく見られる射的や輪投げなどの屋台。演劇は言うまでもなく、クラス単位での舞台公演。演目はオリジナルでもパロディでも基本的に自由だ。クラスの意見としては、おおよそ模擬店と演劇に二分しているようだ。
「工藤くんと古渓くんがいるんだし、執事喫茶とかやったら絶対人集まるって!」
「その二人がいるから演劇でも花があるんじゃない! ヒロイン枠だって毛利さんいるし!」
「執事とメイド両方やれば良いんじゃない?」
「いっそ男女逆転喫茶とか楽しそう!」
「いやでも演劇で普段と違うキャラで立ち回ってもらうのも行けるかもよ?」
「あ、じゃあ喫茶店の中で寸劇やったら?」
「それだ!!!!」
模擬店派と演劇派が硬い握手を交わしたところで、ようやく女子を中心とした討論が一区切りついた。会話の内容は右から左で全く頭に入って来なかったのだが。何がどうなった。その後も計画書作成のため構想を練り、50分の中でほとんどの形が出来上がっていた。統率力のある人間がいるとここまで事が進むのか、と、もはや感動の域だ。そして流れるように、文化祭で行う内容が伝えられた。
「このクラスの希望として、模擬店、執事メイド喫茶で提出します。スタッフは全員執事とメイドに扮し、ホールに12名、キッチンに8名、呼び込みが10名の内訳で、客の数に応じて呼び込みからキッチンへのヘルプに4枠を作ります。ホールと呼び込みは交代可能、片付けや食材搬入などの裏方も担当します。ここまでは人事!」
「喫茶店の内容は、基本的に飲食の提供、その他エンターテインメントとして寸劇となります。固定のホールスタッフがエンターテインメント担当にもなるので、内容共々今後打ち合わせしていきます。あと、店内での写真、動画撮影の禁止は徹底します。今日決まったのは以上ですが、追い追い喫茶のメニューや人事の詳細も決めていくのでそのつもりで!なにか質問は?」
進行役の解説が完璧過ぎて、不明瞭な点が見つからない。これだけ練って早期提出できれば模擬店選考も通るだろう。定番のものならメニューもすぐに決まりそうだ。誰一人異論を唱えることもなく、濃密な50分の会議が終わった。ともあれ、実行委員にお疲れ様と言いたい。
「よう色男」
『は?』
帰りのHRまでの短い時間に、十和田が不可解な発言とともに席の前を陣取った。
「ちらほら聞いてた話だけど、お前結構女子から人気らしいぜ」
『……どういうことなの』
「高身長でクールでさり気ない優しさがやばいらしい」
『意味が分からない』
高身長しか合ってないだろう、と内心呟くが、女子から見るとそう思えるらしい。一般女子の感性はまるで分からない。腐女子の心理は分かるのに。正直こんな根暗に何を思うんだと諒は考える。
「ま、イケメンは何してもイケメンって事か。頑張れよ稼ぎ頭」
『工藤に言えよそれ』
「何言ってんだお前ら二人だよ」
『なぜに』
諒の否定はここでは的外れらしく、実際よくピンク色の噂をされているのだ。入学当初からミステリアスな雰囲気を醸し出し、話しかければクールな対応が返ってくる。口調は良くはないが、さり気ないフォローや気遣いに長けており、それをひけらかすことも無い紳士の鏡。ついでに頭もいいと言う話が上がれば、女子が憧れを抱くのも無理はない。ルックスもそれなりに良いのだから、文句無しというわけだ。そしてそんな評価に目もくれないところも総じて注目されているという。そのため先程のクラス会議で、表立って人気のある工藤だけでなく諒も筆頭に置こうと言う話が上がっていたのだ。
『なんてこった』
「気付いてなかったのかよ」
『学校とか出席日数稼いでゲームするためにしか来てねーし』
「この本性知ったらどうなんのかね」
『そりゃ他行くだろ』
「自分で言うか」
『過去に言われてるしな。あたしよりゲームの方が大事なの? とかなんとか。正直、その通り。としか』
「ブレねぇな!」
あの時も確か高校時代だった気がする。よく喋る女子だったが、何の気の迷いか告白を受け入れた。絶え間ない、何の面白みもないマシンガントークに耐えかね、適当に相槌を打ちながらゲームをするようになり、それに腹を立てた彼女が離れて行っただけの、つまらない交際だった。そもそも相手の理想に変われる人間など極僅かだ。こちらとしては変わってやる義理はなかったし、相手に理想を求めることはしないつもりだった。お互いのありのままを受け入れてやる方がずっと円滑だと思わないのだろうかと、自論が確立したのもこの頃だ。結果的に、今までそんな相手と巡り会うこともなく25になり、今では高校生に逆戻りしている訳だ。
『……俺の自論もある意味理想か』
「ん? 何がだ?」
『なんでもねー』
なるほど、受け入れ合うと言う理想を押し付けようとしていただけか。その結論も、ストンと腑に落ちた。人間とは実に難儀なものだ。自分で論した言葉の矛盾さえ、何年も気付けないのだから。
数日後、全校生徒は今日から文化祭の内容を取り決めるべし、との通達があった中、大部分を既に決めていたこのクラスは喫茶店のメニューとスタッフの割り振りを事細かに決めていた。
諒は家で料理してるからキッチンで、と先回りして申し出たが、既にホールスタッフに決定していたらしく棄却された。しかし料理の腕があるのは心強いと、呼び込みの中のキッチンヘルプ枠も兼ねることになった。
「古渓くん、料理も出来るとかどんだけハイスペックなの!」
と、女子たちがざわついたのはまた別の話だ。
夕食の席で、前途多難な文化祭の愚痴をこぼすと杏樹が食いついた。
「何やるの?」
『模擬店。執事メイド喫茶だと』
「テンプレだなおい!」
『厨房でひっそりしてるつもりだったのに、接客に駆り出されるとか悪夢か』
「兄ちゃん表情筋死んでるのに」
『ほんとそれな。つらすぎ、死のう』
「生きて」
『むり』
「あたしのご飯」
『生きる』
自炊能力の低い杏樹を残しては逝けないのは事実。釈然としない気持ちになりながら踏みとどまった。
『それで、例のファンサは受けてきたのか?』
「行ったった! 先生存在してた! 生きてた! たまらんおじさまやった!」
『お、おう』
「ほんまやばい書斎も案内してもらったんだけどほんとやばいどこもかしこも本で埋まってるしホームズとかポアロとかシリーズめっちゃ揃ってた。原文のもあった」
『分かった落ち着け、落ち着いて息して』
ノンブレスで語り出した杏樹を宥める、下手に話題振らない方が良いなと認識した。それより、こいつはいつから推理小説沼に落ちたのか、それが謎だ。
End