第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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今のところ、まだクラスには工藤新一の姿を確認できている。と言うか2年に上がってからの事だったか……どうにも把握していない。しかし、ちょくちょく事件現場に出向いて探偵稼業をしているらしく、新聞で見かけることが増えてきた。性根から目立ちたがり屋というのも加わって、高校生探偵と持て囃される度に鼻を高くしていた。諒はと言うと、彼らとの接触を極力しないようにそれとなく避け続けていた。だが、学校行事や授業により逃れられないものも度々あり、どういう訳かメンバーに数えられている節がある。とりあえずは、何事も無ければ良いに越したことは無い。頻繁に事件に遭遇することもなく、平穏無事な学校生活を送れていた。勿論休日に来る遊びの誘いは丁重にお断りし続けているが。理由に出来る妹の存在に少なからず感謝だ。
「夏休みどうする?」
いつの間にかそんな話題で持ち切りとなる季節になっていた。期末テストが待ち構え、その後には課題がここぞとばかりに出されると言うのにお気楽なものだ。そういえばこんな長期休みも久しぶりだ。有給を取ってささやかな連休を作るくらいだったものが、約5週間自由の身になるのだからその長さにはだらけてしまいそうだ。とはいえどこかでは大型イベントをやるはずだし、参戦予定だ。姉がサークル参加して、諒と杏樹で売り子と買い子に駆り出されるのはいつもの事だった。姉が挨拶回りに西へ東へと駆け回っている際に、スペースで一人でBL本を売る男子になっていたのは記憶に新しい。この世界にも夏コミが存在するのは調べがついているため、原稿デッドレースの姉から連絡が来るのを風物詩のように待っているのだ。
「なぁ、古渓は夏休み予定あるか?」
そんな話題を振ってきたのはどういうつもりか工藤だった。完全に面子に数えられているらしい。そろそろこの時期はイベントに向けて忙しくなるため、ただ一言こう告げた。
『戦地に行ってくる』
「ウクライナ!?」
『違う、そうじゃない』
大型の同人誌即売会の人の数と過酷さを表現するのが戦地などという物騒な呼び名だと簡単に伝えて誤解を解いた。
「あぁ……その辺のことはよく分かんねーわ」
『分からなくていいと思うぞ』
そう言うと「知らない事があるって釈然としねぇ」と呟き始めた。まさか調べて乗り込むつもりじゃなかろうか。正直千いくらとするパンフレットを買ってあの待機列を希望も持たずに並ぶなど自殺行為だと思う。もし行く気なら全力で止めねば、と肝を冷やした。と言うかお前が行ったら会場で殺人事件起こりそうだからやめてくれ、とは言えないが。
『って事で、夏はほぼ暇ねーから、悪いな』
「いや、あんま期待はしてなかったからいいけどな。でもその内付き合えよ」
『……善処します』
むしろ巻き込まないでくれるとありがたいんだが、そんなことを面と向かって言えるはずもなくいつもの躱し文句で視線を逸らした。
「つーか、前から思ってたけどお前ってほんと表情筋動かねぇよな」
『唐突ですな工藤さん』
「読みにくすぎて何考えてんのかさっぱり分かんねぇ……なんか悔しい」
『ははー悔しかろう悔しかろう』
「そうやって馬鹿にしてる時でも1ミリも表情変わんねーから余計にな!」
これはもう昔からの事なので今更どうしようもないのだが。昔はよくそれで遠巻きにされていたが、今となっては面倒なしがらみも気にせず趣味に冒頭できたのでそれなりにいい思い出だ。
『まぁ、人間誰しも表情豊かにできてないってことだ』
「難儀なもんだな」
『探偵にもポーカーフェイスって大事だと思うけどな。犯人にカマかける時とか』
「確かに。どんな時でも冷静沈着、それが俺の理想だからな」
それこそホームズみたいな、と希望に溢れた少年みたいに歯を見せて笑う。やはり高校生はまだ子供だと思った。
本物の高校生の若さを目の当たりにし、久々に憂鬱な気分になったので晩酌でもしたい気分だ。身体は高校生とはいえ中身は25歳、酒の味もはっきり覚えている。あまり良い手とは言えないが、この際堂々と買っても良いのではないかと思う。身長は以前の自分と大差無い181cmだと判明しているし、私服でも着ていれば成人したての大学生くらいには見えなくもない。親のものではあるがクレジット機能付のキャッシュカードがあるから、それで支払えば年齢確認を省けるかもしれない。クレジットを持てるなら最低でも18歳以上と思われておかしくない。それに加えてこのタッパ……案外行ける気がする。そうと決まれば、先に家に戻り夕飯の下ごしらえをあらかた済ませる。その後で私服に着替え、足りないものを買い足すついでに1本バーボン・ウイスキーを忍ばせてレジを通過した。しれっとした顔をしていたからか、クレジット決済だったからか、何も聞かれることもなく購入できた。
足早に家に戻り、棚の奥の方にウイスキーを忍ばせる。数本のジンジャーエールは冷蔵庫のこれまた奥の方に並べておけば、杏樹にもそうそう見つからないだろう。
『うーん、酒の名前ってなんか因果ありそうなんだよなぁ……ジンとウォッカは察してるけど』
初期からお馴染みのあの二人は記憶に残っている。まぁ関わるつもりは欠片もないので気にしない方向で片付けた。部活でそれなりに忙しくしている杏樹の体調を考えつつ、活力増強スタミナ丼を作りにかかった。
「ただいまー」
『おかえり』
「あれ今日何、お肉?」
『おー、夏バテすんなよって事でスタミナ丼だ』
「最高か! 丁度お肉食べたい気分だったんだよねー」
思考回路がシンクロしてるようにしか思えなかった。
そんなやり取りもそこそこに、着替えの終えた杏樹と向かい合わせで夕飯をつついた。テレビをつけると、つい先日解決した事件についてコメンテーターや専門家やらが議論し、度々解決に導いた工藤新一の名が挙がっていた。
「最近良く聞くね、高校生探偵って」
『あー……あいつは好奇心の塊だしな』
「……兄ちゃん、もしかして知り合い? 工藤新一と」
『クラスメイト』
「うっそ。えっもっと早く言ってよ! 知り合いになれば優作先生にも会えるかもしれないじゃん!」
『えー関わるの怖い』
「チキンか!」
なんとでも言え、と開き直る。工藤家と関わるなど諒にとって自殺も等しい。下手に首を突っ込まない方がいいのだ。
「妹がファンで会いたがってるって伝えてくれるだけでいいから!」
『お前、そんな積極的に神に会うとか言うタチじゃねーだろ』
「神の息子と普通に喋ってる兄ちゃんに言われたくない」
『いや不本意だから』
「とにかく! 会えたらきっと優作先生が存在してるってこと信じられる気がするんだよ分かって!」
イベント会場で追ってる作家さんご本人と対面する腐女子みたいなことを言うな、超人気小説家に。そう言ってやりたいのは山々だが、杏樹が恐らく本人を前に跪いて崇め出す程度だろうことは察しが付いたので、渋々ながら承諾することにした。諒は存外妹に甘いのである。
『怪しい誘いには乗るなよ。それと工藤夫人のペースには呑まれるな、流されて変な約束とかするなよ』
「兄ちゃんは工藤家をなんだと思ってるの」
『変人の巣窟』
「失礼!」
本当に何も知らない人物のことをそんな風に言う訳が無いのだが、諒は断片的とはいえ少なからず知っているのだ。そもそもぶっ飛んだ家庭で育たない限りあんな名探偵も誕生しないだろうという偏見込みだ。
後日、杏樹の件を工藤新一に伝え、工藤優作からの返答を待つことになった。
「しっかし、お前の妹が父さんのファンとはなぁ」
『沼にハマってるからな』
「沼?」
『その作品を好きになり過ぎて他に気が行かない、とかそんなん。その割にはいろんな沼に足突っ込んでるけど』
「……やっぱよく分かんねーわお前らの言葉」
分かってもメリットはないぞ、としか言えず、肩を落とした。
End