第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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メーデー、メーデー、この声はどこかに届いていますか。届いているのなら、どうか私の願いを聞き届けてください。親愛なる家族へ、どんな道へ進もうとも、いつでも幸せがあなたの上にあるようにと。
か細く口ずさんだ唄は、和訳すればだいたいそんな意味だ。当然こんな詩を唐突に歌うのを誰かに聞かれるわけにはいかず、周囲を見回して人一人といないことを確認してほっと胸を撫で下ろした。血の繋がったたった一人の弟が生存していると匂わせるのは、確固として避けなければならない事態なのだ。インカムには未だに合図は入って来ていない。マイクもミュートしているので、無線のスピーカーに聞かれることもないだろう。手にしたリボルバーのシリンダーを意味もなく回した時、その声は降ってきた。
「唄声は綺麗なんですね」
反射的に銃口を向ければ、その先にいたのは淡いハニーブロンドとスカイブルーの瞳を持った、それらが褐色肌によく映える男だった。
「盗み聞きなんて、まさにズル賢い探り屋ね、バーボン」
「たまたまですよ。あなたの任務の相棒に伝言を頼まれて来てみたら偶然聞こえたんです」
「……パスティスは何て?」
「ターゲットは全て始末した。逃走ルートを張る必要はなくなったから、これで解散。と」
「合図が来ないと思ったら……それで、あんたに伝言託したってことは無線は壊れたのね。とりあえず、パシリご苦労さま」
「不本意ですがね。まぁチャラにしておきますよ、おかげでいいものが聞けましたから」
この男の事だから、恐らくただの賞賛などではない。詩の意味を察してのことだろう。そう推測していれば、案の定言及された。
「家族、とは、誰を指しての事ですか」
厄介な相手に聞かれてしまったものだ。彼の情報収集能力には一目置いているし、組織きっての探り屋と噂されるのも納得できる。しかしそれは、客観視していればの話だ。その矛先がこちらに向いたとなれば、恐ろしく面倒な事態だ。
「まさか、組織の人間なんてことは無いでしょう。いくら仲間と言えど、プライベートまで気心知れた相手なんてほとんど居ないでしょうし」
「……まぁ、そうね。その辺はご想像にお任せしておくわ」
家族なんてもういないけれど、と付け加えるのはやめた。そこを強調すると変に怪しまれる、弟に倣い表情の変化を極力抑えて淡々と答えてやれば、少なくとも動揺を悟られる危険は減だろう。くるくると持て余していたリボルバーを懐にしまい込み、さっさとこの場から撤収することを選んだ。
米花百貨店での騒動から日を跨ぎ、馴染みの警部と自分達の担任に何やら進展が見られた後のこと。帰路に着こうとしていたコナンは杏樹に呼び止められた。以前、眠りの小五郎の実態を知られてから追求は音沙汰無く、沖矢の方からも特に少女が訪ねてきたという連絡もない。逆に探りを入れようと後を追えばまんまと撒かれてしまったくらいには、少々危機感を覚える相手だ。帰りかけた足を止めて杏樹に向き直ると、彼女は至って平静な笑みを携え口を開いた。
「今日、コナンくんの家行ってもいい?」
「……おじさんに相談事? それとも蘭姉ちゃん? でも今日は二人とも帰るの遅くなるって言ってたから行っても」
「そっちじゃない」
ピシャリと言葉を打ち切り、そのまま続けた。
「コナンくんの本当の家だよ」
一瞬、左手がぴくりと震えた。まさか彼女は自分の正体に行き着いているのではないか。急激に渇く喉に唾を流し込んで誤魔化そうとした矢先に、杏樹は「今日の6時に行くから」とすれ違いざまに囁いて教室を出ていった。
架空の存在である江戸川コナンに、本当の家など存在しない。つまり彼女が言っているのは、コナンを演じている工藤新一本人の住まいという事になる。あの言い方では、おそらく確信しているはずだ。だが、なぜ気付かれた。少なくとも杏樹に、工藤新一との面識も共通点を見出す要素も無いはずだ。
「……古渓か?」
推理はからっきしだと話していた割に、なかなかカンの働く友人を思い出す。そういえばいくらか前に、正体に気付いているような発言をされた気がする。その時は勘違いとして流していたようだが、もしあのままの認識でいたとしたら……察しのいい彼なら、或いはおかしくない。わざわざ妹を差し向ける理由は分からないが、もし正体が暴かれているのなら、こちら側に取り込まなければならないだろう。何せ他言される訳には行かない案件だ。
一足先に工藤邸に向かい、沖矢にはここの書斎を見たいと言う友達が来ると言って、リビングに居てもらうことにする。絶対な信頼を置いている相手ではあるが、まだ自分の正体については明かしていないため、恐らく杏樹から語られるであろう話を聞かれるわけには行かないのだ。18時を少し過ぎた頃チャイムが鳴り、一応留守預かりの沖矢が出迎える。訪れたのは杏樹一人だった。沖矢はコナンが設定した書斎見物の話の通りに迎え入れ、一番奥の書斎まで杏樹を案内した。待機していたコナンが、飲み物は運んであるから気を回さなくても良い、と告げ、円柱型に伸びる広い空間に二人だけになる。
「……昴さんは知らないんだ、コナンくんが本当は誰なのか」
「そういう杏樹ちゃんは、誰から聞いたんだ、俺が誰なのか」
「聞いたんじゃないよ、知ったんだ。コナンくんは、今行方不明の高校生探偵工藤新一だって」
杏樹の返答をどこかで予期していたように、内心は平静に近かった。彼女の発想力は常人から逸していて、この答えに行き着く事をどこかで覚悟していたのかもしれない。
「なら聞かせてもらおうじゃねーか、その推理」
「……コナンくんが毛利探偵に成りすまして事件を解決させてる時点で、名探偵足る推理力があるってことだよね。じゃあその知識や思考力をどこで培ったのかって話になる。前にコナンくん、帝丹小の図書室の本は全部読んだって言ってたけど、コナンくんが図書室で本を借りた形跡は皆無。その代わり、ある少年の名前が貸出カードに残ってたよ。特に、滅多に借りられたことのない小難しい本の殆どに。それが工藤新一。気になってクラスメイトだった兄ちゃんに聞いてみたら、急に学校に来なくなったって言うでしょ? そして同じ時期にコナンくんが現れた……疑わない方がおかしいよ」
「……じゃあ、帝丹高校の文化祭の時、同一人物であるはずの二人が同時に現れたカラクリはどう説明するんだ? まさか分裂でもしたって?」
蘭の疑いを晴らすためだったが、この事実がある意味での砦だ。杏樹がこれをどう看破するのか、楽しんでいる自分がいる。
「あの時いたコナンくん、哀ちゃんだったんでしょ? 少し色白だったし、目付きはそのまま。事件が起きて真っ先に乗り込んでいくはずのコナンくんが、その時だけはただ見ているだけだったことを考えれば、別人が変装してるのは明らか。哀ちゃん自身もその間風邪で休んでる事になってたしね。そして多分哀ちゃんも、コナンくんと同じ境遇で今の姿をしている……だから君の正体を隠すことに協力した。どこか違ってる?」
「……いや、完璧だよ。でもそれを認めるには、杏樹、お前が何者なのかハッキリさせてもらおうか」
「調べはついてるんじゃない? あたしはただの小学生の古渓杏樹。戸籍も本物でしょ?」
やはり戸籍を調べられていることも察していたのか。しかしそれでは割に合わない。自分の知識量は工藤新一として培って来たものだが、杏樹はそれに及ばずとも劣らない物を生まれて7年程で身につけたことになる。どう考えても普通の事ではない。そして時折見せる、まるで達観したような表情。全ての創造主が生み出した有象無象に向ける慈愛のような、別の世界から見守るような、そんな表情をどう説明すればいいのだろうか。
「素直に喜べばいいのに、協力者が一人加わったって。そんなに疑われると、困るよ。あたしの存在を示すものに何の嘘も偽りもないんだから」
「……本当に7歳なのかは疑わしいけどな。まぁ俺達にとって都合の悪い相手じゃないのは確かだし、そういう事にしておくよ。古渓……お前の兄貴も、俺の事は察してるんだろ? 組織との繋がりも少なからずあるみたいだし、こっち側の人間としてカウントするから、伝えといてくれ」
「組織って、この前FBIの人達と迎え撃ったって言う悪い人達のこと?」
「あぁ。それと、俺や灰原をこんな姿にした毒薬を開発した連中だよ。まぁ、作ったのは、その灰原なんだけどな」
正体を見破られたからには、こちら側の事情を把握してもらわなければならない。組織を追っている理由についてのあらましを説明すれば、理解と納得を得られた。
「さてと、君の正体を看破したところでもう一つ教えてもらおうかな」
「へ?」
「赤井さん、本当に死んだの?」
そっちの方が重要だと言わんばかりに、先程までの余裕の笑みを引っ込めて問う。
「前に聞いた時、ハッキリと死んだとは断定しなかったよね。ただ、死んだと思われる証拠を教えてくれただけ。何か、知ってるんじゃない? コナンくん」
急に呼び方を戻した杏樹の言動で真意を察しつつ、求められた真実を口にした。
「赤井さんは、……生きてるよ、沖矢昴さんとしてね」
「……そっか」
吐息とともに小さく呟いた後、杏樹は向日葵のような笑顔を浮かべる。
「良かったぁ」
その笑顔に不覚にも動揺した。
「まぁ誤魔化されたら、ここに置いてあるショートホープのケースを指紋照合するだけだったんだけどね」
「恐ろしいことをサラッと言うな……」
「昴さんから嗅いだことのある煙草の匂いがしたからそんな気はしてたし」
「……何で煙草の香りなんて知ってるんだ?」
「家に、置いてあるんだ。火をつけるだけなら喫煙にはならないでしょ? だから、たまーに火を付けてるんだ。まぁそれは前に一度うちに来た赤井さんが置いてったんだけどね」
そう告げた時、不意に書斎の扉が開かれ、新たな声が響いた。
「置いて行ったんじゃない、君がくすねたんだろう」
「あ、赤井さん……」
「やっぱりバレてました?」
「懐にある物が無くなっていれば普通気付くさ。それに、あの時盗み取れるほど近付いたのは嬢ちゃんだけだろう」
「でも、気付いてた割には何も言わなかったですね」
「過ぎた事を掘り返したところで何が得られる訳でもない事だったんでね。それとも手癖の悪さを露呈させられたかったか?」
「いーえ!」
揶揄じみた返しにも関わらず、杏樹は上機嫌なままだ。徐に携帯を取り出すと、因みにこれ通話中なんだけど、と爆弾を投下した。通話の先は諒だった。つまり、コナンの正体はもちろん赤井の生存についても認知されたということだ。どこまでも油断ならない兄妹だ、と心の内で賞賛を送った。
「君達の事だから、情報が漏洩するなんてことは無いとは思いたいが、くれぐれも俺の生存は伏せるように」
「もちろん。じゃないと向こうに舞い戻った水無怜奈さんの身が危ういってことでしょ?」
「ホー、そこまで察しているなら問題は無いな」
理解が早くて助かる、と判断しているのは明白だ。杏樹はその代わり、と切り出す。
「一つお願いが」
「ん?」
子供らしくちょこちょこと赤井の前に立つと、はにかみながら両手を伸ばして核弾頭並みの言葉を言い放った。
「抱っこしてください」
End