第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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二ヶ月に渡る長期出張だなんて聞いてない。というかいつ戻れるかさえ目処が立ってないと言う。そんなエアメールが届き、この世界での母親はなかなか忙しい身分なんだなと認識を改めた訳だが、何を勘違いしたのかいつ戻るんだと国際電話をかけた諒が寂しく思ってると誤解したようで、毎週フォトレターを寄越すようになった。まぁその写真がたいそう楽しそうなのも諒がこめかみを抑えている原因なのだが。
「お母さんこれめっちゃ楽しんでんやん……」
『出張で行ってんだよな、あいつ』
「リゾート満喫してる感すごい」
『それな』
捨てるのも忍びないので、いつか黒歴史にしてやると思いながらフォトアルバムに入れていたのだが、杏樹も諒と同じく生き生きとして写る母の姿に肩を落としている。ついでにこの写真に付いているコメントは「めっちゃ海!! 何かもう昔みたいに併せしたくなったわ!!」……腐ってもレイヤーだ。そして語彙力の消失。
『よし、今週のノルマ終了』
「おつー」
ポストカードを例のアルバムに綴じ、封印するように棚に戻した。朝方からすごく気力を削がれた気がするが、ひとまず朝食を作りリセットすることにした。
「あ、兄ちゃん。あたし今日夕飯いらない」
『ほう』
「新入部員の歓迎会って事で、みんなでファミレス寄ってくんだって」
『了解した』
となると夕食は自分の分だけで良いから、放課後の時間を自由に使えるなと脳内で計画を練ることにした。ついでに杏樹の弁当を包む際、ポチ袋に入れた紙幣2枚ほどを一緒に包み、小遣い足りなかったら使いなさいと書き添えてやった。両親とも家を空けている以上、この家の家計をやりくりするのは必然的に諒だ。5つ上の姉は既に一人暮らしをしながら大学に通っているはずなので、年末くらいしか帰ってこないだろう。そうなると必要に応じて杏樹に小遣いを握らせるのは諒の役目と言う訳だ。他人との食事会ともなれば持ち合わせが足りないとなるとまずいだろうし、少し多めに持たせることにした。そろそろ主夫にでもなった気分だ、と思いながら学校へ向かった。
先日思わぬ遭遇をしてから何となく避けるようにしていたが、数日間海外に行っていたらしくその間に少し話したことなど忘れ去っているようだった。こちらから話しかける予定もないのでそれはありがたい。確か同じ時期に工藤新一もいなかったから、恐らく一緒に行っていたんだろう。それにしてもこの案件、どこかで見た覚えがあるような……と諒は感じていたが、この世界の知識はかなり断片的にしか残っていない。詳しい話を覚えている訳でもないため、事件の内容なんてものもさっぱりだ。巻き込まれなければ何も関係はないのだが、事件そのものを無かったことにできないのは少し妙な気分になる。
「古渓、飯食おうぜ」
『おー』
クラスで初めてゲーム仲間と判明した十和田は、今では友人のような存在だ。攻略情報を交換し合うだとか、共闘だとか、いろいろと世話になっている。
「お前っていつも弁当だよな。玉子焼き美味そう」
『そりゃどーも』
「毎日作ってくれるとかありがてーだろ」
『いや、妹の分と合わせて自作だけど』
「マジか!」
そんなに驚かなくても、と思いながら、分からないでもないと思った。現役の高校時代は母親が作ったり、適当に購買で済ませたりとまちまちだったのだから、今こうして自分で弁当を作っているのが不思議なくらいだ。
「え、親は?」
『海外と仙台』
「共働きか、なるほどなぁ」
でなければ毎日ゲームに勤しんでいられないだろう。第一私立高校は学費がバカ高い訳で、もし天涯孤独なら中卒社会人になっていた可能性もある。まぁ家ごとトリップした時点でそれは無いだろうと思っていたが。しかし、前の世界の記憶があるのは諒だけなのだろうか。家族の趣味は確実に引き継いでいるものの、ここが米花町であることも、諒が帝丹高校に通うことにも違和感というか、反応が全くなかった。生まれた時からこの地で育ったような、そんな立ち回りをしている。ついでに杏樹は最近この世界での大ヒット小説、闇の男爵シリーズに手を出しているようだ。まさかそんなところから謎の繋がりが出来てしまわないことを祈るばかりだ。
『難儀なもんだ』
「どうした?」
『何でも』
口をついて出た独り言を適当に流し、いつものゲームアプリの日課をこなす事にした。
さて、杏樹が夕飯はいらないと言うので暇を持て余すことになった放課後、諒は解き放たれたように近くのゲームセンターに出没していた。昔はアーケードもよくやっていたが、社会人になってからはガチ勢にまぎれてやり込むのも時間的に難しくなりしばらく離れていたのだ。学校帰りともなれば同じような理由で学生が彷徨いているだろうが、見に来たのは置いてあるアーケード機種だ。元の世界とまるっきり同じという訳ではあるまいと踏んでの下見、過去にやり込んでいたものがあればそれをやってみても良いだろうとの考えだ。
『んー……ちょっと前のバージョンっぽいな、全体的にグラフィック落ちてるし……やっぱ少し古いんだな』
周りの人間が持っている携帯は元の世界で言うスマートフォンが多いので、既に普及していることから日本の技術力は有知している通りだと思ったが、よく見れば少しばかり機種が古いものが見受けられる。最先端とまではいっていないらしい。まるでほんの数年前の日本、と言ったところだ。問題のアーケードだが、記憶にあるものでないとすると未開発のコマンドが使えない可能性を考えてやり込むのは諦めた。そのうち最新になるだろう。
その後適当に店内を回ってクレーンゲームの景品を眺めていると、いつぞやに姉が集めていたウサギキャラの特大サイズのぬいぐるみがあった。誰かが挑戦した後なのか、少し初期位置からズレているように見える。
『……両替行ってる訳でもなさそうだけど』
ハイエナ行為はタブーなのだが、このうさぎの触り心地の良さは知っているので取ってみようという気持ちにはなる。目標の位置から重心やアームの強さを推測して待ってみたが、どうやら前に少しばかり動かした人間は諦めて帰っていると判断した。
『いっちょやりますか』
迷わず500円投入し、きっちり6回で獲得した。1プレイボーナスのありがたさたるや。
「古渓くんじゃない?」
この喧騒の中でなんで聞き取ってしまったんだと瞬間的に後悔した、聞き覚えのある声に内心ヤベェ、と冷や汗を流した。
『……なんかよく会うな、毛利サン』
ここでそそくさと撤退すれば良かったのだが、今回はお転婆お嬢様と某名探偵もご一緒ときた。つかなんでこいつらゲーセンなんか来てるんだ、と心の内でぼやいたが、「プリ撮ろうって来てみたら古渓くんがいるなんてすごい偶然じゃん!」なんて何故かテンションを上げるお嬢様の一言でなんとなく状況は読めた。それにしても、彼女達の中で諒は珍種の動物か何かにでもなっているのかと思う発言だ。
「ねぇそれ、古渓くんが取ったの?」
『あー、まぁ』
「随分と可愛い趣味……あ、変な意味じゃなくてね!」
『良いだろもふもふ。かわいいじゃん』
あざとく両腕で抱き抱えて見せてやると、女性陣はその手触りの良さにきゃあきゃあと喜んでいた。それを半目で見ている奴はとりあえずスルーだ。
『んじゃ、俺帰るから』
「え! 折角だし一緒にプリ撮ってかない?」
「丁度4人になるし」
そういえばプリクラの相場は大体どこも400円だったか。割り勘には最適な人数になるから以外の意図はなさそうだが。
『いやー、毛利サンの彼氏の視線がそろそろ痛いんで』
「彼氏じゃないから!」
「彼氏じゃねーよ!」
同時に顔を赤くして同じ事を言う辺りがなんとも言えない。さすが高校生、若いなと人事のように思った。
『夫婦喧嘩も程々にな』
逃げるが勝ちだと言わんばかりに、それだけ言って脱兎のごとく撤退した。あのままずるずるとつるんでいたら今後余計に巻き込まれてしまうだろう。しばらく出歩くのやめようか、と考え始める諒だった。
End