第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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母が知り合いからデパートの商品券を譲り受けたと言うのだが、仕事で再び海外に渡るから有効に使えと諒の手に渡った。当然有効期限があるので、早速少しずつ使っていくことにする。
『つっても、何に使うかも限られるしなぁ』
「あんまり買い込めないしねー、車で来れれば別なのに」
『免許取れてもこの歳じゃまだバイクだし……四輪乗れなくはないけど』
「乗れたっけ」
『免許は取ってた』
かなり以前の話だが、大学時代に四輪免許を取ってしばらく乗り回していた経験はある。今の身分では無免なので公道を走ることは出来ないが。
「とりあえず買っておきたいもの見てこようかな」
『おー、じゃあ後でロビー集合な』
「了解」
『お前それ誰意識?』
「無論!」
奇妙なまでにいい笑顔を浮かべて、休日のデパートの人波の中に消えていった。あの身の丈だし、迷子だと間違われないことを密やかに願っておこう。さて、と足を進め、フロアを渡り歩くことにする。
『使いどころ狭いのが玉に瑕なんだよな、このテのやつは。食品に使えるだけありがたいけど』
感覚が完全に主婦である。そう言えばこの商品券を貰った時、ついでと言わんばかりに母の職種について尋ねてみたが、どうやらフリーランスのメイクアップアーティストらしい。訳が分からなかった。芸能事務所か何かでタレントや俳優のメイクを担当する訳では無いのだろうか、と疑問は残ったが、恐らくレイヤー時代に培った特殊メイク技術もあり、界隈では重宝されているとか。ハリウッド映画の俳優のメイクさえ雇われて担当することもあるというのだから、腕は確かのようだ。
『あー、だからクリスヴィンヤードともツーショ撮れる訳ね』
いつぞやの謎が今になって解決し、一人でスッキリした。そうしてやや心持ち晴れやかにアパレルフロアを歩いていると、見覚えのある姿を視界に捉えた。
『あれ、確か……』
他の誰とも間違えようのない、小麦色の肌と色素の薄い髪。近所のスーパーで知り合った探偵の青年だ。
『安室さん?』
「あ、古渓さん。奇遇ですね、こんなところで」
『まさか知り合いに会うとは思わなかったですね』
「僕も同意見です。そうだ、折角ですしお茶していきませんか? 今流行りのカフェが入ったとかで、人気らしいですよ」
『あー……いや、今日は妹と来てまして』
「そうでしたか。まぁ是が非でもとは言いませんから、断っていただいて構いませんよ」
『何なら、妹呼び出してお昼にでもしますか? 暇してますから』
実のところ、彼が原作に関わってくる人物なのか測りかねているのだ。杏樹なら恐らく分かるのではと思い、昼下がりのお茶会に乗ることにした。現在地をメールで送り、至急来られよという旨を伝えて待つこと数分、迷子扱いされることもなく合流した。
「兄ちゃん! ……!?」
『お、来た。これが妹の杏樹です』
「……随分、歳の離れた妹さんですね」
「は、はじめましてー、古渓杏樹です」
「初めまして、僕は安室透。君のお兄さんとさっき偶然会ってね、これからお昼でも一緒にどうかなと思って」
「良いですよー、行きましょう! お腹すいたし」
無邪気を装う杏樹の内心は未だかつてないほど混乱していたが、なんとかそれを悟られない程度には押し留めた。
デパート内のレストラン街まで足を運び、話の渦中で出たカフェに入る。丁度昼時のピークも過ぎ、疎らに空いた席の一角に腰を据えて、世間話を交えながら会話を重ねた。どうやら安室は少々話好きの一面があるようだ。
「それにしても、諒さんって本当に表情変わりませんね。ポーカーフェイスですか?」
『元からこんなですけど』
さり気なく呼び方が変わったのは同じ苗字の人間がこの場に二人になったからということにしておこう。そして過去に対面してきた人々に一度は言われてきたこの仕事しない表情筋、久々に言及された気がするが、いつものように流した。本当に意味など無いのだ。
「因みに、歳、おいくつで?」
『……いくつに見えますか?』
ここで馬鹿正直に身分を明かすのは得策ではない。調べられたら終わりなのだが、下手に興味さえ引かなければ大丈夫だろう。いくつに見えるか、などと若作りし始める淑女のような返答をしてしまったことで、予想外だと言うような表情をされたが、なにやら面白そうに推測してくれた。なるほど、探偵には謎を吹っかけてやれば誤魔化せると。
「そうですね……少なくとも20代、前半にしては人間ができ過ぎているように見えますし、半ばと言ったところでしょうか。24、5歳辺りかと」
精神年齢的には大正解である。しかしここで正負を言えば確実に嘘になるので、意地の悪い返しをさせてもらうことにする。
『じゃあ、それだと言うことにしておきましょう』
「あくまでも明かすつもりは無いという事ですか。面白い人だ」
「じゃあ、安室さんはいくつなの?」
「ん、僕かい? ……いくつだと思います?」
先ほどの仕返しと言うつもりだろうか。言われてみればなかなか読めない。見るからに若そうだし、今の自分とさして変わらないように思えるが、制服のイメージは薄い。
『……じゅ、19、とか』
苦し紛れにそう答えると、隣で冷やを煽っていた杏樹が噎せた。お前、さては知ってたな。と疑いの目を向ける。安室もまさかと言うような表情でぽかんとしていた。そして額を押さえ、控えめに続けた。
「……プラス10してください」
プラス10、つまり、二十九。
『えっ、アラサー!?』
年齢不詳にも程がある。明らかに三十路手前の顔立ちではないだろう。見るからにベビーフェイスで、実年齢を聞いてもせいぜい成人して間も無い新社会人くらいにしか思えない。
「まさか、未成年と間違えられるとは……予想外でしたよ」
『ギャップ大きすぎじゃないですか?』
「それにしたって酷くないですか、第一最初にお会いした時僕お酒買おうとしてたじゃないですか。普通そこで未成年では無いことくらい察してくださいよ」
『あー、言われてみれば』
母上ご所望のグレンフィディックが最後の一本だったため、譲ってもらったのだ。確かにその後彼も別の酒を手にしていた気がする。しかし、若く見えるという事なのだからあまり気に病まないでいただきたいところだが、この様子では童顔なのを気にしている節もあるのだろう。
「まぁでも結論から言えば安室さんイケメンだし、老け顔よりは良いじゃないですか。目の保養ですよ」
「凄いこと言い出す子だな君は」
『こいつの知識偏ってるんで』
「こんな兄ちゃん持てばそうなるよね」
『俺はお前のその異常性癖の扉開いた覚えはねーよ』
「ちょっと、諒さん、小学生に言う言葉じゃないですよ、それ」
『杏樹にしか言わねーですしおすし』
「お寿司」
「え……、え?」
ネットスラングを行使する小学生も嫌だが、何一つ伝わらないまま困惑されるのもとても痛いので適当に誤魔化した。
『まぁとにかく、伝達に齟齬が発生しても特に気にしなくて良いんで』
「そうですか……いや、あまり良くないですけどね、そう言うの」
『とはいえただのネットスラングですから、聞くだけ無駄ですよ』
「はぁ」
「兄ちゃん、安室さんめっちゃ引いてるからやめよう」
『……』
「スンッて顔するのやめて」
「新しい表現だねそれ」
言った傍から界隈の言い回しをぶち込んでくる辺りが杏樹である。グラスに半端に残った冷やを飲み干したところで、不意に安室の携帯が着信を告げた。長さからして恐らくメールだろうが、内容に目を通した直後、表情を変えた。
「すみません、急に依頼が入って……今から向かうので今日はこれで」
会計はこれで済ませてください、と平然と諭吉を置いて足早にカフェを出て行くのを、黙って見送った。と言うより静止する暇もなかった。結果的に奢られてしまった訳だが、お釣りはどうするんだと若干頭を悩ます。別にして置いてあのスーパーで会った時にでも返そう、そう結論を出した。
『ところで、お前が知ってるってことはあの人、探偵サイドに絡んでくるんだな』
「そうなるね……っていうか兄ちゃんが知り合ってたとかホント予想外過ぎたよね。そして未成年だと思われる安室透とか言う二次創作萌えを目の前で再現されたことにあたしの脳内が大変なことになってるよね」
『その感覚は分かんねーわ』
「あむあむ可愛いよあむあむ」
『ごめん黙って』
軽率に関わってしまったことに若干の後悔をしつつ、放っておくと勝手に談義を始める勢いの杏樹を黙らせた。
『……そういや、安室さん、ほんの一瞬組織っぽい気配したんだけど、もしかして』
「待って兄ちゃんいつからセンサー搭載してんの」
『なんか、察知できるっぽい』
「んなアバウトな」
『で、このセンサーの精度はどのくらい的確?』
要は、彼が例の組織と関わりがあるのかと言うことだ。杏樹へのこの信頼感は異常だが、ガセだったことはほとんどないので仕方ない。
「まぁ、コードネーム持ちだよ」
『なるほどね』
ついでに言えば、その気配を感じ取ったのは先程メールを確認していた時だった。それを伝えれば、もしかしたらベルモットからだったのかも、と杏樹は推測した。何故を問えば、何かと行動を共にしている姿が描かれていたとの返答が来る。
「ベルモットの不利になる情報を掴んでるって話だけど、流石に明かされてはいないよ」
『……仲間内で、と言いたいところだが、立場的にはどっち側なんだ?』
「ダブルフェイス」
『そういう事か』
ダブルフェイス、つまりは潜入捜査。立場的には水無怜奈と同じ立場ではあるが、素性については完全に隠しているのだろう。同じ諜報員だと分かっているのであれば、FBIにその情報が行っていてもおかしくない。そうでないとすると、組織の一員として完全に溶け込んでいると見て間違いない。重要そうな新たな情報を頭に入れつつ、いい加減水で粘るには無理が生じてきたカフェから撤退することにした。
End