第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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釣り日和というやつである。
台風が去った後の高波も収まり、水は程よく濁っていて海流も良い、稀に見る好条件だ。日差しがあって低い水温を好む魚は身を隠してしまっているだろうが、こういう時に出てくるのもいるのでそこは目を瞑るとして、以前知り合った釣り人と共に魚釣りに勤しむことになった。
結果は大漁。特に元太の竿にクロダイのかかりが良く、何匹か釣り上げたようだ。これを持ち帰って捌くのが楽しみだと盛り上がったところで、迎えの船が来た。てっきり阿笠が乗っているものだと思っていたのだが、子供たちの迎えに現れたのは、例の工藤邸に仮住まいをするようになった沖矢だった。なんでも、近所に配った発明品に不調が多発し修理に追われた阿笠は来られなくなり、代わりを任されたらしい。
「面倒見良いなぁ」
ポツリと零した杏樹の呟きに、コナンは何気なく、あの人子供といるのは苦じゃないって言ってたな、と思い出していた。灰原はどうにも沖矢を警戒しているが、特に気にすることではないので適当にあしらっておく。
そして夕陽を臨みながら船に揺られているところ、この辺りで一角龍伝説の残る一角岩に立ち寄ることになった。近付く船は一角龍に沈められるというが、子供好きな龍は立ち寄った子供には海の加護をさずけてくれるらしい。
「みてみて、夕陽! みんなで写真撮ろー!」
そんな歩美の提案で夕陽を背に写真を撮ることになった。しかしそこで、背にした岩に刻まれた文字に気付く。
「サバ、コイ、タイ、ヒラメ……?」
「誰かが釣った魚を刻んだんでしょうか……?」
率直に考えればそうとも取れるが、海釣りでコイを釣り上げるのは不可能だろう。さらに近くの岩の裂け目に突き刺さっていたフィンが真新しいことを不審に思い、岩の反対側に言ってみれば、それの持ち主であろう一人の女性ダイバーが遺体となっていた。遺体の口紅が酸素ボンベのレギュレーターに移っていないことから、これは殺人だ。
沖矢の通報で駆けつける警察が到着するまでの間、この岩の散策や事件の概要を子供たちに説明したところ、遺体の身元もおおよそ察しが付いた。そして岩に刻まれた文字も彼女が残したダイイングメッセージだということも。
到着した神奈川県警の横溝が一行を船に乗せた漁師と知り合いだったのは予想外だったが、現場から推理される事件内容は、コナンが先ほど子供たちに伝えたことと全く同じだった。そしてこの亡くなった女性が誰かという話になった時。
「ひかりお嬢様!?」
彼女のダイビング仲間であろう三人が、ここに辿りついた。話を聞けば、彼女は三日前から行方不明で、以前いなくなった時と同じように「あとはヨロシク」とメールが来ていたので暫く放っておいたのだが、流石に何の連絡もないことを不審に思い捜索したらしい。どうやらこの三人の中に犯人がいると見てまず間違いない。
横溝は彼らがそれぞれ顔の一部を隠している眼帯やマスク、絆創膏をつけた理由を尋ねていたが、一人、よく考えれば嘘になる証言をしていた。ごく自然に聞こえる内容だからだろう、この時は何も言及されなかった。
「お兄さん達、お魚さん何が好き?」
唐突な子供たちの問いだが、着眼点は悪くないとのお墨付きを得て容疑者三人に問い正してもらった。しかし三人ともダイバーだからか、どの魚も好きで嫌いな魚もないと答える。陽もだんだんと傾いて来ていると、時計を気にする動作によって、三人が被害者と同じデザインのダイバーズウォッチを着けていることに気付き、裏に刻まれた文字が「AKAMINE ANGELFISH CLUB」だと判明した。被害者のダイバーズウォッチの削られていた部分は「FISH」の文字だった。
「分かりましたよ! あの魚の文字!」
と、声を上げたのは光彦。あの魚の名前に文字を足して、文章にする。という推理だったのだが、規則性のない足し方をしても、それは受け手のこじつけでしかないという理由で論破されてしまう。
「じゃあ文字を足すんじゃなくて引いてみたら? もちろん、それぞれに関連するキーワードに当て嵌めて。今の時点で怪しいのは、なぜか削られていた時計の裏の「FISH」の文字、くらいかな」
何気なく、を装った杏樹の言葉で、全ての点を線とした名探偵はこの事件の真相に辿り着く。
「おいおい、まじで日が暮れちまうぞ。話なら後で、警察に行ってからすりゃいいだろ?」
「そうだな、じゃあ署の方に……」
「「ちょっと待った!」」
同時に静止の声を上げた二人は、恐らく同じ真相に行き着いていると見て間違いないのだが、謎の譲り合いを発動していた。
「折角の証拠を犯人に隠滅されてしまう恐れがある、そういう事でしょ」
「……まぁな」
「証拠って……」
「この状況下で出てくるとしたら当然、あの人を殺害した犯人の証拠に決まってるよ。だよねコナン君」
そして筋道立てて語られ始める推理で、まず三人の中にしか犯人はいないことが確定する。それどころか、被害者の残したダイイングメッセージがそのまま犯人のフルネームを示していたのだ。
「漢字。刻まれた魚を漢字に直して魚編を消せばいいだけだね」
「サバとかって、漢字あるんですか?」
「あるよ。それぞれ、鯖、鯉、鯛、鮃」
適当な石で地面にその文字を書き、共通して含まれる魚編を打ち消しの斜線で消した。
「もう分かるよね」
「青里周平だ!」
仲間からも疑いの目を向けられ、そんな子供騙しのような理由で、と言い逃れようとするのだが、ダイイングメッセージなど蓋を開ければそんなものだ。犯人の名前をどうにか本人に悟られないように直接書き残す程度のものでなければ意味が無い。どれだけ子供騙しでも謎かけのようでも、それが死者の最期の言葉なのだ。自分を殺した相手はこいつだ、裁きを与えよ、という意思に他ならない。
そして、再び現場を訪れた理由まで見破られると、青里は観念して動機を語り始めた。殺意にまで至った、彼女の罪まで吐露しながら。
──あれ、確かこのあと……。
杏樹は一つの引っ掛かりを覚え、直後事の顛末を思い出した。
「歩美ちゃん!」
咄嗟に彼女を犯人の男から遠ざけるため一歩前に出た瞬間、地面の感覚が足から消えた。
「杏樹ちゃん……!?」
杏樹が予期した通り、青里は人質を取って高飛びの手引きをさせ、一行や仲間をこの一角岩に置き去りにするつもりだったようだ。杏樹は抱えられたままじっと動向を伺う方に徹した。コナンはいつもの装備を身に付けていないため、手の出し用がない。
「おい灰原、何か武器になるようなもの、持ってねぇか?」
「そんな都合のいいもの、持ってる訳……!」
不意に灰原に突き刺さるようなプレッシャーが襲った。その主は徐に口を開く。
「0.12%……犯罪者が高飛びに成功した確率ですよ」
普段よりトーンの低い声、明らかに相手を制圧するような口調で語り始める。
「だが、悪魔の加護を受けた者達の中から、正体を隠し何かに怯えながら暮らし続けることに疲れ、自首したり、自殺した者を除けば、成功者と呼べるのは、限りなく無に等しい。果たして貴方は、その孤独感とプレッシャーに耐え切ることが出来るかな」
青里は沖矢の独特の威圧感に怯むが、逆上してナイフの刃先を向けた。しかし、裏拳一つでそのサバイバルナイフは弾かれ海に放り出された。その虚をつき、杏樹は青里の腕を軸に踵で彼の顎を蹴り上げた。解放されると同時に体重移動の力に従いそのまま宙に放り出されたが、地面に叩きつけられる前に沖矢が抱きとめた。
「おっと」
彼にしてみれば予想外の行動だったとは思うが、黙って守られるだけなのは柄ではないという杏樹のエゴである。
──やっぱり残ってる、ショートホープの香り……。
二十代を生きてきた杏樹が、憧れから時折吸っていた煙草と同じ銘柄の香りが沖矢に染み付いていた。主に素肌にほど近い首元に。
「大丈夫かい?」
「うん。……ありがとう」
杏樹は満面の笑みを浮かべて感謝を告げた。
「さて、署まで高飛びしてもらおうか」
「は……はい」
横溝の強面の前にもはや抵抗する気も削がれた青里はそのまま警察の船で連行され、コナン達も帰路につくため漁師の船に乗り込んだ。その船に揺られる中、子供たちは杏樹を助け出した沖矢を絶賛していた。その流れで自力で犯人の拘束から逃れたアグレッシブな杏樹の行動にも触れられたが、受身の取れない状態の杏樹を受け止めた沖矢の姿を、歩美はヒーローみたいだと形容した。当の杏樹は操縦室の屋根の上で水平線を眺めている。
「でもホントなの? さっきの0.12%の話」
「勿論、出任せだよ。あの状況でナイフの刃先をあの子から離すには挑発するしかないと思ってね」
その選択にも感銘を受ける子供たちである。一層沖矢を警戒するような素振りを見せる灰原にしてみれば、あの時発せられた重圧感は無視出来なかっただろう。そんなやり取りを余所に、杏樹は夜の澄んだ空気で肺を満たすと、不意に浮かんだ曲の一節を口ずさんだ。
End