第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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どこぞのアパートが全焼したとか、空家にしては広すぎる豪邸に借り暮らしする他人様が現れたとか、街中の交差点のど真ん中で大怪盗がその身で奇術を織り成したとか、特に人が死んだ訳でもない事件はいくつかこの米花町で起きていたわけだが、今の諒が懸念するのはその案件に巻き込まれるというよりも、どう立ち回るのが得策かという方向にシフトチェンジしていた。起きてしまう事件は仕方ないし、それを回避するにはもうすっかり探偵側の領域に片足突っ込んでいるし、どうやらあの名探偵殿は諒にそれなりの推理力があると踏んでいるフシがある。心当たりはあるのでなんとも言えないのだが、今後現場に引っ張られるようなことがあれば考え直していただきたいところである。それでなくとも、諒は組織の人間と姉弟ということもあり、目の届く範囲には置いておきたいと思っているのだろうが、それを危惧するならその人間を娘のように可愛がっている母親の方が些か問題である。だがそれはまだ杏樹にも話していない事案なので、当然他言するつもりは無いことだ。
ところで、諒の現在地は江古田駅前の小洒落たファミレスである。
「ほんとあいつ無理」
『分かる』
以前、誰にも明かせない苦悩の一つ二つくらい聞いてやると兄気分で絆した訳だが、今がまさにそれを達成せしめられているところだ。毎回のように現場に居合わせては奇術のタネをつまびらかにし、宝石の奪還とともに怪盗の身を捉えるべく手を尽くして追い詰めてくる、今やライバルなどと認識されている小さな名探偵にはなかなか苦労させられる。前回の、漏れ出たガソリンに火花をつけ引火させてきた事もそうだが、今回の一件では飛び去るところに噂の殺人ボールを蹴り飛ばしてきたと言うのだから、なんというかそろそろ彼を傷害罪で訴える事を考えてもおかしくない。
さめざめと泣くような身振りをつける黒羽に諒は深く同意した。
「マジなんなのあれ、明らかに人が蹴れるボールの速度と球威じゃないし、それを普通に人に向けて飛ばすとかホント無理」
『まぁ、元々制圧目的の靴だしな。でも軽い火傷程度で済んで良かったじゃねーの』
「普通ボールが掠ってできるのは擦り傷だからな。火傷なんてしねーからな」
『痕は残らねーようにしとけよ』
「分かってるっての、暫くはメイクで隠すし。誰かさんみたいにこういう傷で正体暴いてくる奴も居なくはないし」
匿名の意味はまるでないが、諒に看破された事でその辺りの警戒心は少し育ったようだ。
『っていうか、今回のやつ目当ての宝石とは無縁だったんじゃねーのか? なんでわざわざ』
「売られた喧嘩は買うしかねーだろ。それにキッドを演じるのも嫌な訳じゃねーんだ。それなりに楽しいし、観客の驚きと笑顔も見られるしな」
『マジシャンのサガってやつか』
「そゆこと」
確かに好きな事をして周りがそれを楽しめるなら、エンターテイナーとしてそれほど喜ばしいことはないだろう。こういう時の黒羽は、当事者でありながら客観視した上で楽観的な答えを出す。
「そもそも、パンドラを見つけるってのはキッドの最終目標で、俺自身は親父を超えるマジシャンになること。俺が今キッドをやってんのは、その足掛かりに過ぎねぇってことだ。そのためなら、わざわざ向こうが用意してくれた舞台で最高のイリュージョンを魅せてやるくらい、骨折り損とは思わねぇよ」
『ほー、語るねぇ』
「だから考えなしに喧嘩買ってる訳じゃねぇの。怪盗キッドは怪盗である前に一人のマジシャンだってこと。用意された舞台に適した仕掛けと演目を用意するのも、俺は必要なスキルだと思うし」
随分と、よく考えられた話だ。IQ400の天才が考えることはやはり凡人とは違うのだろうか。
『お前もなかなかジャンキーだよな……』
「は?」
『なんつーか、人生の全てをマジックに注ぎ込んで尚更なる高みを追究し続ける、みたいな。立派な中毒者だろ』
「俺ってそんな風に見えんの。いやでも他のことも考えるし」
『お年頃だもんな』
「……お前さぁ、ちょくちょく俺のことガキ扱いしてくるけど同い年だからな?」
『精神的にはわかんねーぞ。お前子供っぽいし』
「どっちがだよ! ゲームばっかやってるくせに!」
『いや、俺のそれは呼吸と同義』
「お前の方がよっぽどジャンキーじゃねーかよ」
息をするようにゲームに浸る諒も大概だが、自ら父親と同じ道に進み怪盗になる選択をするのも常人の考えることではないのでここでは引き分けとしておく。
『とりあえず、気は晴れたか?』
「……あぁ、ちょっとは」
その割には随分愉快そうな表情を浮かべているので、これにて落着である。数分前までの刺々しい雰囲気を撒き散らしていたのがすっかりご機嫌になり、メニューを再度開いてハーフアイスケーキを追加注文する始末。当分この子供舌はネタに出来るなと、とうにぬるくなったアメリカンコーヒーを一口啜りながら心の内で呟いた。
「なんだよその顔」
『ん?』
「この甘党が、みたいな顔して見てんじゃねーよ」
『……実際そうだろ』
「ほんとムカつくな! 平然とコーヒーなんて飲みやがって、当てつけか!」
『いや、単にメニュー見て選ぶのが面倒だっただけだし、流石にエスプレッソは得意じゃねーし』
酒は飲めてもこれは無理、という具合に、諒は本格コーヒーが飲めない。アメリカンくらいの薄いものならいいが、エスプレッソやブレンドも物によっては身体が受け付けない。どういう訳か、少しばかりカフェインに弱い体質なのだ。因みに味の問題で紅茶も苦手だ。こればかりは学生時代からなので恐らく変わりようがない。まぁ社会に出てからはそんなことも言っていられないので出されれば飲んではいたのだが。
「何か、古渓って変なとこでガキだし大人だよな」
『メリハリがあると言え』
お前よりはいくらか人生経験を積んでいたんだぞ、などとは言えないため、一言で返答は打ち止める。不自然さは与えていないようで、丁度運ばれてきたアイスケーキの方に意識を傾けていた。一番好きなチョコレート系の味だからか、グルメレポーター顔負けの幸せそうな顔で食べ進める姿はとても男子高校生には見えない。魔が差してマドラー替わりのスプーンで一口攫ってみれば、悪くは無い口当たりがした。
隠してること、あるよね。疑問形ではなく、断定してそう問いかけて来る様はおおよそ、極普通のクラスメイトと信じて疑わなかった少女とは思えなかった。
「な、何の話?」
「うん、そりゃあ惚けるよね。隠し事がある人間なら当然の反応」
「杏樹ちゃん……?」
「前の杯戸中央病院の一件、一から考えてみたけどやっぱりコナン君は飛び抜けて異質だよね。いくら毛利探偵に預かられて影響受けてるって言っても、本人より高い推理力と読みが身に付くわけない。アパート放火の事件もコナン君が解決した訳だし、眠りの小五郎って、本当はコナン君なんじゃないかなって思ってるんだけど」
「……俺がどうやっておじさんの声で話すんだよ。全然違う声で話せるわけないし、第一都合良くおじさんが寝るわけ……」
「コナン君の時計、麻酔銃付きだよね。それといつも持ち歩いてる蝶ネクタイ、あれって変声機なんだね。いろんな人の声が出せて面白かったよ」
脳裏に過ぎったのは、ダイヤルを回した形跡があった変声機のことだ。小学生という身分では逃れられない体育の授業から戻ったあと、いつも所持している蝶ネクタイをふと思い立って見てみれば設定した覚えのない位置でダイヤルが止まっていたのだ。手元を離れた間に誰かが興味本位で触ったことは明らかだったのだが、まさかあれの犯人が杏樹だったとは思わなかった。これで眠りの小五郎のトリックは看破されたことになるのだが、その先の真実には行き着いていないことを僅かばかり願った。
「普通に頼んでも触らせてくれないと思って。ごめんね、泥棒みたいなことして」
「それは、いいんだけど……」
「でもあの推理をコナン君がやってるなら、その知識や思考力はどこで身につけたのかなって思って」
周りの目から見ても、変なことをよく知っていると称されていたように、子供の身でありながら本来の自分の経験則から真実を追求しているのだから当然の疑問と言える。だが、本当にまさかと思ったのはそれが、小学生江戸川コナンの同級生の口から出たことだ。いくら彼女に組織の影がないとしても、暴かれるわけにはいかない真実の扉に手を掛けようとしている。普通に考えれば思い付きもしないことでも、彼女の発想力を鑑みれば想定できる話だ。工藤新一が幼児化し、江戸川コナンとして事件に関わっている、という真相に行き着く事を。
「まぁ、本とかすごいたくさん読んできたのかな。前、図書室の本は全部読んだことあるって言ってたもんね」
杏樹はその解答で自分を納得させ、この話を切り上げた。しかし、コナンが内心安堵のため息をつくと、ところで、と別の話に切り替えた。
「赤井さんって本当に死んだの?」
来葉峠の事件のニュースを見てか、はたまた他の捜査官から情報を得てか。実感が無いという風にそんな確認を入れる杏樹に、コナンは冷静に答えた。ジョディに貸した自分の携帯によって、その身元は確定のものとなった、と。それが警察に引き取られた証拠に、ジョディから返された携帯は貸したものとシリアルナンバーが変わっていた。
「……そっか。コナン君があんまり悲しんでなかったから、そんな事無いと思いたかったけど、そっかぁ」
「杏樹ちゃん……」
「声、聞きたかったなぁ……」
悲哀の色を乗せた笑顔は、とても小学生ができる表情ではなかったが、その違和感を消し去るほどに、コナンの心臓を少しばかり締め付けた。
End