第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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あの晩、事件解決に関わってきた杏樹が帰宅したあと、これまでの一件の終着点を聞き出しにかかった。もちろん久々に再会を果たしたという体で母親との会合を乗り切った後で、中身の年齢層が上がってるなど何も知らない母に内容を聞かれないよう注意を払ってだ。
結果的に言えば、危惧していた事態にはなっていなかった。全て名探偵による計略で、その死を偽装しているそうだ。もちろんこれは他のFBIにも明かされていないことで、原作でも彼が生きていることが明かされるまでかなりの年月を要したらしい。
「でも変装して生活してるから、割とすぐに会うよ」
『え、まさか』
「沖矢昴は知ってんでしょ? あれ赤井さん」
『まじでか』
イメージとかけ離れすぎているせいか多大なる違和感を発揮している。ついでに諒の記憶はバーボンが誰かという辺りで止まっているため、時折意味深な行動を取っていた沖矢昴に疑問符を浮かべていたくらいだ。あれを赤井が立ち回っていたのなら、相当な演技派だと感服する反面笑えてくる。
「まぁでもセリフの端々に赤井さんっぽさ出てる時あったよね」
『あー。……ん? いや、記憶にない』
「そうだっけ。世良ちゃんが出てきたくらいだとそんなもんか」
『あいつって結局赤井さんの親戚なのか?』
「妹だね。ついでに新蘭と過去に知り合ってたような話も出てたよ」
『……つくづく思うけどお前の記憶力何』
「一介のクラスタ」
杏樹がこの世界の殆どを網羅しているのではと思うほどの記憶力を発揮しているが、有り難く頼る以外の用途がないので深くは言及しないことにする。自室に引き籠ってそんな話をしていると、怒気を帯びた母の声がリビングから飛んできた。
「諒! ちょっと来なさい!」
『え、なにこわい』
口だけで怯えてみても何の意味もないのだが、有無を言わさない気配に渋々リビングに降りていく。
『呼ばれたので』
「これどういう事?」
母が手にしていたのは、棚の奥に隠していたはずのバーボンウイスキーの瓶。
「なんであんた達しか居ないのに真新しいウイスキーが置いてあるの? 私はワイン派だし、お父さんもお酒はからっきし。諒、あんたまさか自分で買った?」
『……』
「まぁ、あんたは昔から普通にしてたら年相応に見えないし、やってやれない事は無いんだろうけど、間違っても外で飲むんじゃないわよ」
『え、そっち?』
「私は人の事言えないもの。でもどうせ堂々と買ってるなら、わざわざ隠さなくてもいいじゃない。棚の配置が変わってたから何かと思ったわ」
『あ、ハイ』
因みに母は中学時代からワインを嗜んでいたそうだ。てっきり高校生の分際で酒なんて、などと普通のお叱りを受けると思っていたので拍子抜けした。
「でもバーボンねぇ……悪くは無いけど、私はスコッチの方が好きだわ。今度あんたも飲んでみなさい」
『ほー、そう言えば試したことない』
前世では、と言う前置きを省いているが事実である。諒に酒飲みを教え込んだ上司はアルコール度数の高いものを好んでいたため、アイリッシュを主に飲んでいたのだが、当時の諒は社会に出たての若造だったこともありバーボンを勧められたのだ。ライも同じくらいの度数だと言われはしたが、それでも50度。40まで度数の下がるバーボンに比べると、やや飲みにくさがあったのは覚えている。しかし、酒の話になるとどうしても脳裏に過ぎるのは闇の住人達である。そう言えばバーボンが結局誰なのか聞きそびれたままだ。未だに続いている母の酒談義を右から左に聞き流し、今度杏樹に聞いておこうと記憶に書き入れた。
母にしばらく日本に滞在するから酒を買ってこいと追い出されたのは、自堕落に休日の昼間を満喫していた時だった。酒くらい自分で買ってきたらいいのにと思う訳だが、仕事の相手との約束があるらしく、帰った時に飲みたいとのこと。因みに酒の瓶は重いからいつも通販でしか買わないという王女じみた所業をしていたようで、使いっ走りにされることになった。
『あずは探偵団とどっか行ってるし、この家の女性陣自由過ぎかよ』
そんな呟きは自分しかいない家に虚しく響くのみだった。仕方なしにラフな服装のまま街に繰り出し、目的の一本を探す。いっそ海外出てから買えば酒税でぼったくられることもないのに、と思いながら、早々に見つけたグレンフィディックに手を伸ばした。
『あ』
同じところに伸びていた手とぶつかった。それを辿っていけば、おや、と思った諒と同じ顔をした人物がいた。
「あ、すいません。あなたもこれを?」
『まぁ、はい』
これが可愛らしい少女なら某アーティストの曲がバックに流れ出しそうなものなのだが、あいにく相手は諒とさして身長も変わらない、落ち着いた声をした若そうな男だった。
「最後の一本ですね……お譲りしますよ。僕は他のにしますから」
『けど、あんたもこれ買いに来たんじゃないんですか?』
「あなたは最初からこの銘柄を買うつもりでまっすぐここまで来たじゃないですか。余程の定番か、誰かへの贈り物、もしくは頼まれたものであるのは明白。後者二つの可能性を考えれば、気まぐれでどれにしようか迷っていた僕が譲るべきでしょう? 簡単な推理ですよ」
『はぁ、どうも』
「棚に並べてある酒のラベルを確認していたのも決め手でしたよ。いつも買っているものなら、置いてある場所も把握しているだろうと。当たってました?」
『仰る通りで。どこかの探偵みたいですね』
「あぁ、僕、これでも私立探偵ですから」
理屈っぽく饒舌な様を見てどこぞの名探偵を思い出していたら、彼も本当に探偵だったようだ。よもや今後主要人物の一人になろうとは、この時は思ってもいなかった。というか普通に会話しても酒を買うことに疑問を持たれない辺り成人だと思われているようで、何を言われるわけでもなくそのまま解散した。
他の買出しも含めて精算しのそのそと帰路を辿るのだが、先ほどの青年と奇妙な縁でスーパーを出る際に再び鉢合わせたのである。そこまではたまたまだろうと思ったが、向かう方向まで同じだと判明した時はお互いそこに話が及んだ。
『どの辺なんですか?』
「この先の割と新しいマンションですよ。最近そこに引っ越して来たんです」
『え、あれ結構家賃張りません?』
真新しく設備の整ったあのマンションは、とても私立探偵の収入で毎月払い倒せるとは思えないコストだった気がするのだが、苦笑気味に依頼は比較的来るので、と返され、どこかのポンコツ探偵様よりよっぽど頭の回る探偵なのだろうとぼんやり考えた。
「そう言うあなたは?」
『その手前の住宅街ですよ』
「と言うことは実家暮らしですか? 僕の見立てでは所帯を持っている様には見えませんし、一軒家で一人暮らしという訳でもなさそうですし」
『まぁこの買い物袋を見ればお察しの通り一人暮らしではないですね』
いつもなら自分と杏樹の分だけで、さして一人暮らしの出費と変わらないのだが、しばらく日本にいる母親を頭数に入れ、数日分をまとめ買いすればこうなるのも無理はない。
『そういえば、名前も存じ上げないんですけど』
「あぁ、名乗っていませんでしたね。僕は安室透と言います」
『古渓諒です』
相手は探偵、名前一つ明かすことであらゆる事を調べ上げてしまえるような存在に、あっさりとその一情報を伝えてしまった自分にいくらか驚いた。しかし変に隠したところで余計探られるか、と考えると、うまく正当化出来てしまった。
「そうだ、これ仕事用の連絡先です。探偵の力添えが必要とあらばお受けしますよ」
『あ、どうも。周りでストーカーがどうのとかあった時にでも』
「ええ」
丁度家路に向かう曲がり角に差し掛かったところで、道なりに直進する安室と別れた。
『……褐色肌の金髪碧眼……』
視覚的特徴を思い出し、そういえばやけに整った顔立ちをしていたな、と心の内で呟いた。そこでふと、いくらか前に杏樹が話していた事案を思い出す。確か、彼の特徴に当てはまる人物が後に登場すると言っていたはずだ。よもやあの青年ではあるまいな、と冷や汗を滲ませた。
『確認取るの怖ぇな……』
事実を知りたいような知りたくないような奇妙な感覚になりながら帰宅した訳だが、杏樹はまだ帰っていないようで結局この件を他言することはなかった。
End