第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
杏樹は昼間から、子供たちに誘われホテルのバイキングに訪れていた。
先日、組織に水無怜奈を奪還させてやったことで彼らとの接触の機会は失われた。少なくとも表面上は。後のことは、再び組織に潜り込んだ諜報員による情報の横流しから、新たに捜査を続ける他ない。そんな話をコナンと灰原がしているのを背後に感じながら、杏樹は子供たちと話を合わせていた。
「それで、彼女に話してないでしょうね」
「彼女って?」
「古渓さんよ。彼女の兄と一緒に、あなたとFBIのいる現場に居たようだけど」
「あぁ……話してはいない。俺やFBIの会話をどこまで彼女が理解してるかは分からないけど、古渓が妹を家で一人にさせるわけにはって連れてきただけだし」
「でも、なんでその場に古渓くんが来ることになったのよ」
灰原にしてみれば、何も知らず一時的に組織の人間と接触しただけの一般人。だがコナンは、赤井から彼の過去と組織との繋がりを聞き及んでいたので、理由については納得していた。
「あいつの姉が、イエーガーマイスターって言う奴らの仲間だからだろうな。本人は姉の居場所を探し出そうとしてるような口振りだったし」
「ちょ、ちょっと待って。イエーガーって……その女はヤバイわよ」
「お前知ってたのか?」
「知ってるも何も、噂は有名だったわよ」
科学者だった灰原の元にさえ流れて来ていた噂話は、とても黒いものだった。表情一つ変えずに母親の脳幹を撃ち抜き、幼い弟すら家ごと業火で焼き尽くした悪魔の申し子。
「でも実際古渓は生きてるし、第一あいつは防火シェルターに身を隠してたんだ。そこに隠れるように言ったのが姉なら、古渓を守ったってことになる。母親を撃ったのは……仕方ないにしても」
「……見つかった骨は三人分だったと、彼らは確認してたけど」
「あぁそれは、あいつの父親が研究してた、人工的に人骨を複製するって言う技術の副産物だって、赤井さんが」
一体どうやって調べたのかは定かではないが、信頼するに値する人物ではあるし、虚偽のない情報として受け取った。
「またその名前……一度会ってみたいわね、その赤井って人」
「えっ」
「中身はどうあれあなたの見た目は小学生。そんな子供の言葉にも耳を貸すFBIの切れ者、気になるじゃない」
灰原の興味に歯切れ悪く答えるコナンのせいか、あらぬ疑いをかけられた彼の人に哀れみの念を持ってしまった。いや、後々にそう言われてもおかしくない立ち振る舞いをするようになるのだが。そして、コナンが発したバカという単語に反応して探偵団が二人を振り返り、適当に誤魔化す彼らはそれ以上の会話をやめた。
折角の催し物に招かれたというのに、事件の気配を察知するとすぐに飛んでいく飯より事件な名探偵のおかげで、捜査に加わることになった。それもこれも、運悪く高木がコナンに捕まり、事件の概要を話してしまった事が原因なのだが。しかし迅速に容疑者を絞れたのはさすがと言うべきか、エレベーターが故障していたのも一つの要因だろう。現場の状況も詳しく把握でき、あとはもう名探偵にお任せしてしまえばいい。なぜかホテルの階段でトレーニングをしていたキャメルにはあえて何も触れずに、杏樹は無関与を決め込んだ。
諒は引っかかることが一つあった。組織にいる姉がこの世界で杏樹とは何もつながりがないとするなら、以前写しを取ってきた住民票は何だったのか。元の世界で自分達の共通の姉だった古渓静樹、その名前は住民票にもあったものだが、この世界では、イエーガーは諒の姉であっても杏樹の姉ではない。頭が痛くなりそうな事実に直面したのだ。
『意味が分からん』
誰かに知恵を借りようにも、兄妹の最大禁則事項を明かすことは躊躇われる訳で。当人に話を聞こうにも、簡単に遭遇できる立場になく消息も分からない相手だ。せめて戸籍上の古渓静樹がどこかにいれば、と考えながらもう一度資料に目を落とすと、流し読みで見落としていたものを見つけてしまった。姉の名前の脇にバツ印が書きたされていたのだ。
『……もしかして、既に故人』
さらにややこしい事になってきた。本格的に頭痛がし始めたところで、はたと思い立った。確か監禁まがいの生活を与えられた時、彼女は何と言っていただろうかと記憶を呼び起こす。
──あたしのメイキングの本気を出してみようと思う。
──は?
──母さん直伝のレイヤー魂。
どう考えても古渓家の母親を指しているではないか。本元の母もそうだった可能性も無くはないが、考えられるのは毎週末海外からフォトレターを送り付けてくる彼女しか思い浮かばない。だとしたら繋がりはどこにあったのか。これはいよいよ最大の謎は母親なのかもしれない。
『会えば何か分かりそうなんだがな……』
海外にいるのは確かだが、それがどこなのかは皆目検討もつかない。所在くらいは通達してほしいものだ。エアメールの写真の様子ではいろいろと転々としているようで、写真情報から追跡するのは当に諦めた。諒はこれで頭を悩ませていても仕方ないと溜め息をつくと、ふらふらと外を出歩くことにした。
「あ」
玄関を開けた瞬間、先程まで所在がどうこうと考えていた人物が立っていた。
『……何でいんの』
「母親が家に帰ってきたらだめかしら?」
『帰ってくるなら連絡くらいしてくれ』
「驚かせようと思って。あら、杏樹は?」
『友達と出掛けた』
「そう、仙台から一人で帰ったって聞いたから会いたかったのに」
よもや帰国して来るとは完全に想定していなかった母との対面である。挙動は記憶にある通りだが、これはこれで姉のことは聞き辛い。この世界では、古渓家の長女は他界していると思われるため、下手に口を挟む訳にもいかないだろう。適当にコーヒーを淹れると、見ないうちに少し紳士になったわね、と揶揄われた。それを言うなら社会人スキルがついたと言う方が合っている、と心の内で返答すると、母は突飛な話を始めた。
「そうそう、この前静樹に会ったわ」
『は?』
何を言っているんだ。その名前を持つ娘は死んでいるはずだが、と表情には出さずに困惑していると、母は「あ、私が勝手にそう呼んでるだけよ。本当の名前は知らないもの」と訂正を入れる。いや、そうだとしても死んだ娘の名で呼ぶってどうなんだ、と間髪入れずに言及する。
「似てるのよ、あの子。静樹が生きてたら同い年だし、放っておけなかったのよ」
『ほー。どこで知り合ったんだ』
「四年前にね、私の滞在先の近くで血まみれで倒れてたのよ。傷は小さかったからあの子の血じゃないとは思ったけど、拳銃を隠し持ってたからきっと何かあると思って連れ帰ったの」
これまた物騒な話である。確かに返り血を浴びた小娘が行き倒れ、そんな物を所持していればただならぬ状況だと勘繰ってもおかしくないが、それで自室に連れ込む度胸は常人のそれではない。肝っ玉母ちゃんか、と心の内で呟いた。
「まぁ目が覚めたあの子に、なんで助けたのって聞かれたんだけど、普通に答えてあげたわ。人を助けるのに理由なんて要らないけど、強いて言うなら、あなたが死んだ娘に似てたから。って」
『それで、彼女は?』
「目を真ん丸くして驚いてたわ。きっと助けられるのに慣れてなかったのね。ルビーみたいな瞳を潤ませて、少しだけ泣いてたわね」
赤い瞳、これはほぼ確定ではないかと直感した。母の言う娘が諒の実の姉なら、血まみれで倒れていたのも組織の任務と考えれば説明がつく。恐らく組織に入り、安堵を覚える事もほとんどなかったと言うなら、自分を娘に似ていると言って助けた女性に安心感を覚えてもおかしくない。その証拠に母の話の続きでは、娘は彼女に母と呼んでもいいかと聞いたらしい。
「当然OKしたけど、あの子は名前を聞かれるのに何となく抵抗あるみたいだったから、静樹って呼ぶことにしたのよ」
『なるほど』
「ついでに私がいろいろ教え込んだから、今やなかなかのレイヤーよ」
『若者を毒牙にかけたと』
「人聞き悪い。同志に迎え入れたと言ってほしいわ」
まんまと同じ土俵に引き込んだという訳だ。まぁそれもあってか、以前顔を合わせた姉はなかなか生き生きとしていた。そして引っかかっていた疑問も解け、少しばかりすっきりした気分で日暮れを迎えることになった。久々に誰かが食事を作ってくれるという状況に妙な気持ちになりながら、杏樹の帰りを待つのだった。
「──たった今入ったニュースをお伝えします─」
不意に耳に入ったテレビの音声が、速報を出していた。
「──今日午後7時過ぎ、来葉峠の路上で乗用車が一台炎上する事故がありました。炎上したのは黒いシボレー、乗っていたのは20代から30代の男性で、目撃した警察官の目の前で突然爆発した模様です。遺体には拳銃で撃たれた痕が残っているため、警察は殺人事件との見方を強め、車のナンバーや唯一やけ残った右手の指紋から身元を確認し捜査を進める方針です」
淡々と流れるアナウンサーの言葉と同じように、諒は画面に映し出された現場映像をじっと見つめた。本当にこれは、思っている通りの事実なのだろうか。確かあの名探偵はこの一件を読んでいたはずなのだ。何らかの手は打っていた、そう判断していた。
『どういうことだ、これは……』
これは早急に、杏樹に確認しなければならないな、とソファーに身を預けて決意した。
End