第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
携帯が珍しく着信を告げ、見ればあまり話したくない人物からで、彼女は反射的に眉を顰めた。行動を共にしていた女性達に断りを入れ、不機嫌を隠そうともせず通話に出た。
「何? 今アフターなんだけど」
「お前、映像編集得意だったな」
「できるけど、それが何」
「キールの映像に、病室と入院着を合成しろ」
「……クソコラ動画作れって訳ね」
一晩あればできると告げ、一方的に通話を切った。同胞達とは急な仕事を押し付けられたからという理由で別れ、隠れ屋に戻る。いきなり病室の映像を作れと言われてさっぱり訳が分からなかったが、冷静に考え直すと策は読めた。キールが隔離されているのはどこかの病院、そこはFBIの巣窟と化しているだろうが、電波ジャックなりで病室から復帰コメントを出す水無怜奈をお届けすれば、彼らは間違いなくそこに向かう。それを利用すれば、といった具合だろう。居場所がこちらに知れたとなれば彼らも動かざるを得ない。厳戒態勢の病室よりも、搬送中なら奪還の余地は充分にある。
「ま、あたしとしてはキール程度尋問されて死んだってどうでもいいけど、ボスがお望みなら仕方ないか」
白雪姫を助け出してやろうじゃないか。それぐらいの軽い気持ちで、以前末端が入院していた病室を元に合成映像を作り始めた。
集団食中毒に異臭騒ぎ、さらには火災と、立て続けに事故が相次ぎ杯戸町内は混乱に見舞われた。病人の波は近くの中央病院に集中していることだろう、なかなかに派手な手を打って来たものだ。これで死人が一人も出ない程度にしてあるのが親切なくらいだが、目的は病院内を人で溢れさせる事だろうから、死んでしまっては元も子もないという理由が見え隠れする。
「てか、こんなことが出来るならすぐにでも日本くらい陥落させられそうだよね」
『それは言わないお約束』
昼間からそんな事故が多発して、杯戸町内のいくつかの主要道路は渋滞しているようだ。仕方なく途中でバスを降り病院まで歩いた。玄関口では大勢の怪我人や病人が押し寄せ、まるでパニック映画のように怒号や悲鳴が飛び交っており、対応に追われる看護士や医師達も散々だろう。日本人の美学でもある譲り合いの精神はどこへ行ったのかと揶揄しつつ、身の危険が迫れば誰しも自分本位でしか考えられないのだろうとぼんやり考えた。
『赤井さん』
「あぁ、君か」
本部代わりのワゴン車で待機しているジェームズと二人のシルバーブレッドの姿を捉え、声をかけた。騒ぎを聞きつけて、行き着く先であろうこの病院の様子を見に来たと言うことにして、その場に留まった。
「なんで杏樹ちゃんも?」
「ほら、兄ちゃん心配症だから一人にしておけないって」
「初めて聞いたよ」
「そうだっけ」
つくづく適当なことをでっち上げる妹である。そしてようやく患者が病院内に迎えられ始めると、今度は窓口付近の宅配業者が目立ち始めた。先程ジェームズ宛に爆弾入りの鉢植えが届けられたこともあり、確認してみれば贈り主に死んだ人間の名前が使われており、見舞い品の中にはプラスチック爆弾が仕込まれていた。規模は病室一つが消える程度ではあるが、届けられた数は相当。同時に爆発すれば病院自体が連鎖崩壊しかねない。すぐさま捜索が開始された。
『……やっぱ、おかしいよな』
「諒兄ちゃん、どうしたの?」
『わざわざ死んだ下っ端の名前で贈り物すればFBIが確認しないわけないのに、あえて調べさせて爆弾を見つけさせてる。しかも震撼を抜けば止まるくらいの簡単な仕組みだし、どう考えても爆弾はフェイクだよな』
「うん……僕もそれが引っ掛かってて」
「……みんな爆弾探して走り回ってるし、こんな時に水無怜奈さんが起きたら大変だね」
「え……?」
杏樹が含みのある言葉を呟いたすぐ後、ジェームズの無線に一報が入った。テレビに水無怜奈が復帰コメントを出す映像が流れたという。それも病室をバックに、入院着を着た姿で。皆が皆、既に真偽を確かめるべく病室に向かっているようだ。
「各ブロックのリーダーさんに伝えて、水無怜奈の病室には行くなって!」
コナンがそう告げるも、時すでに遅しと言うところだろう。組織の思惑を直接伝えた方が良いだろうと言うことで、病室に集まりつつある捜査官たちの元に向かった。
「嬢ちゃんも気付いていたのか」
「うーん、ぼんやりね。爆弾が引っ掛けなら、他の何かがくっ付いてるはずでしょ? 盗聴する意味は無いから有り得るのは発信機、それを持たせて場所を知りたいのはきっと水無怜奈さんの病室しかないから、目覚めてるのを知ったらみんなびっくりしてそこに行くかもって」
「……結局その通りになってしまったな」
「もっと早く気付いてたらよかったのに、ごめんなさい」
「君が気に病むことは無い。そこまで考えが及ばなかった我々の失敗だ」
他の捜査官はともかく、赤井は気付いていただろう。ただ相手の一手の方が早かっただけのこと。真相を仲間に伝え、水無怜奈を伴ってこの病院から撤退するという最後の手段に出ることが決まった。決行までの時間に、諒は密かにコナンに話を切り出した。
『わざと奪還させようって腹か』
「……諒兄ちゃん、どこまで気付いてる?」
『水無怜奈が半分こっち側の人間だってことか? あの人の気配薄いから、相反する立場でもあるとは思ってたけど』
「へぇ、だから奴らに渡してまた潜入させようとしてるって分かったんだね」
『それで坊主の事だから、その先のことも読んでると思って』
そこでスッとコナンが真剣な顔をする。諒ならその先をどう読むか、子供らしさの欠片もない声色でそう問いかけた。
『あの人はきっとタダでは戻れないだろうな。長らく敵の管理下にあった人間をただ懐に収めるには疑心が出てくる……あの人を使って罠を張ってくると思う』
「そう、そして標的は間違いなくFBIの切り札、赤井さんだ」
『……みすみす死なせるなんてこと、しねーよな』
諒の記憶では、赤井は来葉峠で頭を撃たれ、愛車と共に燃えた。それを目前にした今、それがどうにも引っかかる。組織の計略をここまで読んでいるのだから、この名探偵なら何かしら手を打つのは容易に考えられる。しかし赤井の死が確認出来なければ水無怜奈は組織に居続けることが出来ない。暗に、どうやって切り抜けるつもりだと問い掛けたつもりだったのだが、コナンは不敵に笑みを返すのみだった。
杏樹なら、自分よりも先の話を知っている彼女なら、この答えを知っているだろうか。
そして事の顛末は、小さな名探偵の筋書き通りに運んだのだった。
追っていた車が急に挙動を狂わせ、ガードレールにぶつかって止まった。どうやらキールは持たされたC4で運転手のFBIを殴り、自力で脱出を試みたらしい。なんとも不運なドライバーである。後ろに仲間でも乗せていればこんな事態にもならなかったというのに。
追悼の意を込めて射殺されようとした時、例のC4が爆発し、ドライバーは濃紺のワゴン車と共に炎上した。昼間の路上爆発で、通りかかった一般人が集まってくるため、即座に退却した。イエーガーはずっと車内に残っていたため、その迂闊な挙動を高みの見物状態だった。
「あら、あなたも来てたの、イエーガー」
「ジンに拉致されて仕方なくよ。あたしは別にあんたの奪還劇なんでどうでも良かったけど。あんたをFBIから助け出そうとも思ってなかったし」
「そうでしょうね、あなたは私が嫌いみたいだし」
「こっちはプライベートの予定を潰されてイラついてるの。もう話しかけないでくれる?」
「おいイエーガー」
「何よ」
「助手席を蹴るんじゃねぇ」
「うるさい」
目に見えて荒れているお陰で物に当たるという子供じみた一面を見せるイエーガーに、キールは人知れず肩をすくめた。
「次あたしの邪魔して呼びつけたら今度こそライジン凌辱本描いてあの方に叩きつけるわよ」
「やめろ」
一体どちらの立場が上なのかものの見事に分からなくなりつつも、キールは本題の話を切り出した。入院していた杯戸中央病院には組織の手にかけないように、と。FBIに手を貸したのなら野放しには出来ないが、キールの話ではあの病院の医者や看護師は事情を知らされていなかったらしい。
「キール。あの病院に、何かあるのか?」
「別に、曲がりなりにも私を手当してくれた人達を殺すのに、あまりいい気がしないだけ」
こちらの事が何も知られていないのなら、気にすることもないだろう。この場は果敢にも自力で逃げ延びたキールを立ててそういう事になった。
End