第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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再びの春である。
三月に新たな舞台へ旅立ったはずの三年生が再び三年の教室にいるのと同じように、二年生をやり直して早二週間。周囲の人間はそれに何の違和感も抱かずに、ただ事件の記憶をそのまま持って過ごしているようだ。毎月新しく捲っていたカレンダーは、寸分の狂いなく前と同じ日付の配列をしていた。
「無限ループって怖いよね」
杏樹がそう零すのも無理はない。ループした記憶が残っているのは今回が初めてだった。そんな桜の季節、休みの間にわざわざ大阪から出てきた服部が少しの間毛利探偵事務所に厄介になっていたらしい。後から聞かされた話ではあったが、その内の一部はその時に電話で聞いていた。テレビのロケと偽られ、無人島に渡ったという話で、何をテンパったか、諒の携帯に助言求めて連絡を寄越してきたので、推測できることを話したのだ。おかげで見事、船にくくりつけられた服部のキャップを見つけ、孤島に送られた少年達を迎えに行くことが出来たらしい。
「それにしても熱血探偵見たかった」
『お前割と色黒好きだよな』
「褐色肌えろくない?」
『わかり過ぎて。金髪碧眼だとなおよし』
何気なくそうこぼせば、杏樹は急に神妙な顔をして諒を見遣った。
「兄ちゃんって、知識どこで止まってる?」
『……世良が出てきた辺り』
「もうちょっと後なら褐色肌の金髪碧眼出てきたのに」
『まじか』
それならそうと真面目に本編追いかけたというのに。まぁどちらにせよその頃にはこちらの世界に来てしまったのだが。
もうしばらく経てば長い長い攻防戦の始まり、そして壮大な伏線のオンパレードな事件が幕を開けるだろう。杏樹はこの先に用意された結末に思いを馳せながら、どう入り込もうかと思案した。
イエーガーと言う組織の人間を姉だと話す少年について赤井は個人的に調べていたのだが、面白い事実が見えてきた。本当に親族ならば何らかの処置を取られていると踏んで、過去の証人保護プログラム適用者リストを調べると見事にヒットした。彼はドイツでそれを受け、諒という名前で日本国籍を作られたのち養子縁組で古渓という一般家庭に引き取られた。その家庭にも彼の5つ上の長女がいたようだが、既に逝去していた。恐らく一人娘を失った悲しみを埋めるべく、古渓夫妻は諒を引き取ったのだろう。そしてその後、夫婦の間に誕生したのが妹の杏樹。彼女は両親が家を空ける際、父親の赴任に付いて仙台に行っていたが、どういう訳か単身で地元へ帰ってきたようだ。小学生とは思えない行動力ではあるが、以前対話した限りでは随分と賢い子供という印象を受けたので有り得ない話ではないと結論した。
「本当の家族の方を調べてみるか」
諒の本名から国籍を辿り、およそ六年前に他界扱いになった一家の情報を拾い集めた。
「シュウ、こんなところにいたの」
「……何だ、お前か」
「何だって何よ。調べ物? 珍しいわね」
「どうにも引っかかってな」
「水無怜奈のこと?」
「いや、一時お前の教え子だった少年だ」
その一言で頭に過ぎったのは紛れもなく諒だ。だがジョディには、彼はただの一般人であるようにしか思えなかった。その人物の何が引っかかると言うのかと問いかければ、知る必要は無いとバッサリと切られた。
「ちょっと」
「お前に話すと本人と相対する時に先入観を抱きかねないからな」
「あのねぇ……仕事でそんな馬鹿なことする訳ないじゃない」
「ホー、古渓諒君が既に証人保護プログラムを適用された人物だと知ってもか」
「え?」
このシステム自体、命の危険がある証人を全くの別人として戸籍を置き換えることで保護するもの。それを適用されると言うことは、危険な立場にいたということ。自分もその保護を受けたジョディが、それを察しないはずがなかった。
「彼はイエーガーを実の姉だと話していてね。親族として組織に目をつけられないのなら適用されているだろうと思ってリストを遡ってみたが、やはり受けていたようだな」
「姉が組織に……。じゃあ彼、あの家の家族と血の繋がりが無いってこと?」
「養子扱いにはなっているが。ほらみろ、そう言う人間だと固定概念で考えてるじゃないか」
「単純だって言いたいワケ?」
そうだと言ったら? などと意地悪く返す赤井に、ジョディは眉を顰めジトっとした視線を送るが当人は素知らぬ顔で操作中の画面に視点を戻した。現状ではなかなか謎の多い兄妹達に、ある種の好奇心が根付くのは言ってしまえば必然だった。
「それより、コナン君からの情報よ。毛利さん達の高校に最近来た転校生、本堂瑛祐って子が水無怜奈を探しているらしいのよ」
「ホー」
実際本堂が探しているのは姉だと言うが、瓜二つの水無怜奈をなにかの手がかりとして探していることは間違いない。そして大阪の探偵少年の調査もあり、カンパニーが関係しているということまで明らかになったらしい。幸い、水無怜奈が意識不明のまま入院しているのはこの病院でもごく一部の人間しか知らないため、もしその少年が現れたとしても看護師達は知らないと言うだろう。しかし、今組織も都内の病院を虱潰しに探していることは目に見えている。キールでもある彼女を探す少年と彼らとの接点は恐らく無いだろうが、一般人を巻き込む訳にはいかないため、注意は必要だ。万が一にも、その少年を何も知らせずに組織が利用している可能性もある以上は、現状維持を徹底する方が得策だろう。
この一件から、もし組織と正面切ってケリをつけられるなら、赤井は柄にもなくそんなことを思考の片隅で思っていた。
仲間にも教えていない自分だけの隠れ屋で粗方の支度を揃えて部屋をあとにする。イエーガーにとってキールの所在は大して興味の無いことで、あのメンツが雁首揃えてキール捜索に当たっているのが滑稽で仕方ない。過去にCIAのネズミに捕まり、自白剤を打たれ尋問さえされたというのに何も情報を漏らさなかった賜物だ。敵方の手に落ちたとしても、死ぬまで黙秘を貫いてくれるだろうと踏んでいる。確かにキールの秘めた獣の牙はボスのお眼鏡に叶うほどではあったが、戦力としては切り捨てて痛手を追うほどでもない。イエーガーはその持論により、キール奪還への参加を拒否した。
「そもそも久々の大型併せなんだから仕事なんてやってられないわ」
それが本音である。イエーガーは血を注いだような赤い瞳をサングラスの奥で輝かせ、集まりの場へと向かう、はずだった。
「イエーガー」
この、地獄への案内人のような冷たく低い声に、イエーガーは気分を急降下させた。
「何」
「あの方からの命令だ。キールの捜索に合流しろ、と。それと、お前に連絡がつかないと言っていたが、何かあるのか?」
「え? 着拒した」
「するな」
だって、と切り返し不敵な笑みを浮かべて語った。直接命令が来なければ誰かが代行して伝えてくるからそれまでの時間を自分の為だけに自由に使えるってことじゃない。と、一息で。
「それに付き合わされるのは俺だ。いい加減にしろ」
「あたしを拾ったのはジン、あんたでしょ」
「面倒見てやったのを忘れたか」
「そりゃあ感謝してるわ。あんたの気まぐれがなかったら、あたしは両親共々殺されてたもの。六年前のあの時にね」
あの日、この組織の存在を知ってしまった父親は口封じのため消されようとしていた。自宅に現れた侵入者に、姉弟は咄嗟に身を隠した。父の亡骸に縋る母の姿は今でも思い出せる。母親も侵入者の銃で撃ち抜かれたのを見た姉は、二人で隠れ通すことはできないと悟り、弟に言い残した。
──あたしが囮になるから、あんたは地下室の防火シェルターに隠れなさい。
囮、と言っても、死ぬつもりはあまり無かった。どうせ逃げ延びても怯えながら暮らすことになる。だったらいっそ、この賭けに出ても悔いはない。
姉は隠れていたタンスから男の背後に出た。当然銃を向けられる。男は何やら楽しそうに告げた。
──恨みはねぇが、見られた以上生かしておくわけにはいかないんでな。こいつらのようにあの世に行ってもらうぜ。
──……仲間になるって、言ったら?
──あ?
──あたし、銃は使えるよ。見られたから殺すって事は、あなたの存在を知ってる人がいちゃいけないんでしょう? でも、あなたみたいな人が他にもいるんなら、その仲間になれば、殺される理由はなくなるでしょ?
年の割に頭の切れる子供だった。銃を向けられてなお冷静に言葉を紡ぐ少女に、黒い獣の素質を垣間見た。男は少女を試す。
──なら、試験してやる。こいつで、あの女の頭を撃ち抜いてみろ。
腹を撃たれ、虫の息になった実の母親を標的にした。少女は男から渡された拳銃を手にすると、冷えきった赤い瞳で母を見下ろした。楽にしてあげる、そう心の内で呟きながら、トリガーを引いた。
イエーガーは実の親をその手で殺しているのだ。その身を守り、弟を守るために自らその手を血に染めていた。そして躊躇いもなく母親を撃ち殺した娘としてジンは気に入り、ボスの許しを得て組織に引き入れた。さらに射撃の正確さや体術を教え込むという手塩のかけ方から、「ジンのお気に入り」と組織の中で噂される事になった。
「そう言えば、どこで気に入られたの? 親を殺したくらいじゃ大したことないでしょ」
「……その後の、家ごと焼くって選択がお前から出た時だ」
そう、あの時は弟も一緒に隠れていたのだ。両親の死んだ部屋から出た後、弟も探し出して始末する手筈だったのだが、家ごと焼き払えばどこに隠れても無駄、と彼女が言い出したのだ。実際に家に火を放ったのも彼女。それが決め手だった。紛れもなく、血に飢えた黒い獣だと確信するに至った。
焼け跡からは骨が三人分出てきたことで、真実は上手く隠蔽されたのだ。イエーガーは死んだ両親にささやかに追悼し、生き別れた弟に届くはずのないメッセージを送った。いつかこの組織の息の根を止めて、太陽の元で帰ると。
End