第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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ついこの間まで連日のようにテレビに出ていた人気アナウンサーが、ある時を境にパタリと出なくなった。諸事情で休業しているという噂だが、その真実は一部の人間にしか分からないこと。そして時を同じくして、一人の転校生がクラスに加わった。
本堂瑛祐、消えた人気アナウンサー水無怜奈に目元が良く似た男子生徒である。毛利探偵事務所に出入りするようになっており、蘭が時折、事件の捜査に着いてきた本堂のことを話しに来る。そして、水無怜奈を探しているような素振りを見せているらしい。どちらにせよ、水無怜奈が休業することになった事件のことは諒としても知らないはずの内容のため、接触してくることは何も無いのだが。
『一応、FBIに知らせるべきか……』
以前の事件後、もし組織の人間から何らかのアクションがあった場合は連絡しろと持たされた、赤井のアドレスを携帯画面に表示しながらそう思案した。もしかしたら向こうも気付いている存在かもしれない、下手に関わりを深めれば、FBIの協力者だと疑われかねないため軽率な行動はできない。煮えきらないもやもやした気持ちで、隣町へと足を運んだ。
「古渓じゃん、どうした?」
いつかのように学校の正門前で待ち伏せしていれば、幼馴染みと帰宅するつもりだったであろう友人が、目を丸くしていた。顔の造作は工藤と変わらないというのに、どこか幼い印象があるのは気のせいか。
『いや、なんとなく……顔見に来ただけ』
「彼女かよ」
『アホか』
彼女と言うなら女装にハマるお前の方だろうと心の中で呟いた。普段顔を合わせないもので、わざわざやって来たのが珍しいらしく駅前の喫茶店で屯することになった。その道中、クラスメイトによく似た黒羽の幼馴染みとも名前を知り合う間柄になるのだが、こちらも例外なく、どこか幼さが目立っている。
「へー、古渓くんって快斗のお父さんのファンだったんだ」
『あぁ、風の噂でその一人息子もマジックやるってんで知り合った訳』
「偶然もあるもんだねー」
とまぁのんびりと若者との交流を満喫し、地元で織り成される物騒な案件から言わば現実逃避している。事件もさほど起きない江古田は、数少ないオアシスだ。夜には時折白い翼の怪盗が羽を伸ばす、流血沙汰とは無縁な場所。不思議と心が休まる。
「そう言えば、古渓くん知ってる? 怪盗キッド、今度有名な画家の絵画を盗むって話」
『ホー、宝石にしか興味無い奴がねぇ』
「でもそれ、ホントにキッドの予告なのか?」
「お父さんが言ってたんだもん、予告状に描かれたキッドマークは絶対本物だって」
『そういや、その絵画を守るためとか言って、毛利探偵を呼び寄せるとか。そのおかげでメディアが食いついて、特番組まれるらしいな』
テレビ局からすれば、こんな美味しい話題放送するしかないということだろう。しかし残念ながら、絵画を盗むなどと言う予告はまるっきりの作り話。画家ならキッドマークのようなシンプルなイラストを模写するくらい簡単だろうし、欲しいのは恐らく絵画は盗まれたと言う事実だけ。確かキッドは、律儀に身の潔白を証明するために現地には行くはずだが、諒にはあまり関係の無い話だ。
ややあって青子が躊躇いがちに席を離れ、向かった方向で察した。ここでどこ行くんだと聞いてしまうようではまだ子供だなとぼんやり考えた。
「それで古渓、ホントは何か用があったんじゃねーの?」
『よく分かったな』
「適当に話に乗ってたお前が、青子が席を立った瞬間正面向き直したからなんとなく」
『探偵かよ。顔似てるからタチ悪い』
「うっせ。んで、青子に聞かれたくない話って何だよ」
どうやら内容までは探りようが無いらしく、少しばかり怪訝そうな顔をして問い詰めてくる。聞かれたくないはずなのはお前の方なんだがな、と思いながら、ある案件を打ち明けることにした。
『お前、キッドだろ』
つくづく思っていたのだ。工藤と違って黒羽は正体を知る協力者があまりにも少ないと。一人で切り抜けてしまえる頭脳も技術も持ち合わせているからこそ、父の付き人しか仲間と呼べる者がいない。そして、あるとも分からない宝石を追ってひたすら怪盗に身をやつすことに疲れないはずもない。そんな時に打ち明けられる中立の人間くらい、いてもいいのではないかと思っていた。
「何言ってんだよ、俺がキッドな訳ねぇって」
『空中歩行の時、キッドの予告時間にお前の家行ってみたけどいなかった』
「そりゃ、俺だってキッドファンだし、現地行ってたぜ」
『あの博物館から江古田まで最短でも30分、あの場からお前が帰ってきたのもほとんどそれくらいだ。ファンはキッド出現の余韻でほとんどの人がそこに留まってたけど、お前はさっさと直帰した』
「……次の日も学校だから、見たらすぐ帰ろうかなって」
『ほー、江古田高に土曜授業あったのか』
段々と切り返す言葉に詰まり始めている。探偵でもない諒に確信を持って問い詰められていることに動揺でもしているのだろうか。表情からそれは伺えないが。
『でも次の予告日、あの爺さんに化けてトンズラしたあとあの坊主に会ったろ。その時バイクに引火されて、爆発の熱風くらいは浴びたはずだ。それを避けるために土手に飛び降りて多少の怪我をしたはず。後日お前の様子見に行けば、キッドが負った擦り傷と同じ箇所、同じ数だけ治療の痕が残ってた……偶然で同じような怪我する訳ねーよな』
「……」
怪我をすると言うことはつまり素顔だったと指し示している。顔を見られただけの中森に使っていたような、誰の顔にもなれると言って躱す手は使えないだろう。黒羽はしばし口を噤み、やがて観念したように肩を竦めて笑った。
「何が望みだ? それとも看破した推理を引き下げて警察にでも突き出すか?」
案外潔く認めたようだ。諒はそのどちらも否定した。取り引きでも検挙でもなく、むしろ目的は存在しないのだ。
『いや、俺がお前のこと気付いたって知らせときたかっただけ』
「……は?」
『それなら愚痴くらい言えるだろ。凡人の俺にはキッドのサポートはしてやれねーけど、誰にも言えない弱音なら聞いてやれる。それこそ仲間に言ったら気を使わせるようなことでも』
理解するのにしばらくかかりそうな表情で固まる黒羽が、人に初めて優しさをもらった野良猫のようで、何気なしに丸っこい頭を撫でた。幼い頃、妹にそうしてやったように、姉が自分にそうしてくれたように。
『お前はもう少し誰かに寄りかかってもいいんだよ』
年頃の弟を持った気分になりながらそう告げてやれば、黒羽はどこか擽ったそうにはにかんだ。
『ん?』
不意な気配に視線を移せば、なんとも言えない顔で青子が立ち尽くしていた。確実に誤解をされている気がする。
「……快斗?」
「ぁぁぁぁアホ子! ちげーからな! 変な事考えてんじゃねーぞ! 今のはあれだ! ガキの頃親父に撫でてもらった時と似てたっつーか!」
『……まだ親父って歳じゃねーけどな、俺』
「あたりめーだろ同い年なんだから!」
それでなくても、である。勝手にテンパる黒羽にどうにかここが喫茶店だと思い出させ、静かにさせる。周りの視線もチクチクと刺さるので、ざっくり立て替え、まとめて会計し店を出た。
「青子、誰にも言わないよ。快斗が、古渓くんの前で乙女になってたなんて」
「だから違うって言ってんだろ」
『千影さんとか普通に受け入れそうで怖いからその誤解は捨てた方がいい』
「元はと言えばおめーのせいだよ!」
『いや、どう考えてもウブな反応した黒羽が悪い』
「ウブとか言うな」
『お前らなんてまだ産毛のひよこだ』
上手いことを言ったつもりだ。そんなやり取りの何かが面白かったようで隣ではケラケラと青子が笑い出し、不毛な論争はどこかへ消えていった。そのまま黒羽は連られて笑い出したのだが、相変わらず表情筋が働かない諒に頑張って笑えよなどとツッコミが入る始末。そして和やかに、駅で別れた。
帰り道で開いた携帯にはメールの通知が出ており、それを開けば黒羽からだった。「これからはキッドのこともめちゃくちゃ愚痴聞かせてやるから覚悟しとけよ!」という文面の下、空白の先には密やかに「ありがとな」と記されていた。全くもって素直ではないが、やはり弟ができた気分だと、諒の精神を和ませた。
End