第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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入学式を終え、割り振られたクラスに着いて早々諒は頭を抱えるハメになった。何せ、何としても避けたい主要人物3人がものの見事に同じクラスだからだ。これまでの現実の人生でロクにフラグを建てたことも回収したこともない諒だが、これ程までに全力でそのフラグとやらをへし折りたいと思ったのは初めてだ。いやギャルゲなら積極的にフラグ建てに行くけども、と脳内で弁明しつつ、こんな展開あってたまるかとため息をついた。だが諒の葛藤は顔に微塵も出ることなく、ただアンニュイな表情を浮かべているようにしか見えない。そんな様子に早くも一部の女子が噂していることなど1ミリも気づかなかった。
そして教壇に立つ担任によって短いホームルームと、自己紹介とやらの時間が設けられた。なんとも頭の痛い話だ、どうにか人から関心を向けられないように地味な人間として認識させたい。自分が無関心を貫いても向こうから近付いてくるのではシャレにならないのだ。出席番号の若い順に、意気揚々と、もしくは緊張気味に、気恥ずかしそうに、様子はさまざまだが思い思いに名前とアピールポイントを告げていく。さて、問題の場面だ。
「はい、次」
担任が目を向けて合図を送ってくる。それに渋々従いのそりと席を立ち、抑揚なく口を開いた。
『古渓諒、基本ゲームしかやらないっす。以上』
自分を指し示すものと言ったらそれくらいしかないが、それだけ言って腰を下ろした諒に、え? それだけ? という視線が向けられる。勿論担任からも含まれる。それらをすべて黙殺し、頬杖をついたまま欠伸をした。これで少しは、友好関係に関心のない奴だと植え付けられたはずだ。来るとしても同じゲーム好きな奴がどんなのをやるんだと聞きに来る程度に収まってくれるだろう。
そんな諒の思惑の通り、はたまたそんなフラグなど存在しなかったのか、例の3人と接触する事案は起こらなかった。どちらにしても一安心だ。このまま関わりの薄いクラスメイトくらいになれば、下手に事件に巻き込まれることはないだろう。特に、工藤新一が名探偵として名を馳せる頃には。
『死亡フラグは回避に徹するべし』
独り呟いたそんな格言は、誰にも気付かれることなく空に消えた。
入学から三週間、この世界に飛ばされておよそ1ヶ月が経った。クラスでは依然として安全圏で、少し輪の広がったゲーム仲間と通信しながらつるむ程度だ。勿論勉強面は問題ない。諒の地頭はそこそこ良く、過去に学んだものと言うのもあり少し向かい合えばその範囲を容易に思い出せた。それ故まともにノートをとる姿はごく稀だ。それを面白く思わない教員は何かと回答者に諒を選ぶが、だいたい正解が返って来るので何も言えないようだ。ついでに分かりませんと即答する時は全く悪びれていないのもお気に召さないらしい。
学校が終われば家の事だ。どうやら両親は出張と単身赴任が重なり、しばらく妹、杏樹と二人暮らしになっていたようで、分担して家事を行うことを取り決めた。放課後になるのが中学の方が早いからと料理を頼もうとしたが、漫研に入りたいという杏樹の言い分で全てを察した諒が食事面を担当し、掃除や洗濯を任せることにした。
『なんか、今すっげー主婦の気持ち』
オムライスが食べたいと言う杏樹のメールを受け、冷蔵庫の中身を思い出しながら必要な食材を買いにスーパーまで買い出しに来ているが、店内には旦那や子供を持っているであろう婦人ばかりで、高校生、ましてや男子生徒が買い物に来ているという事実がなんとなく異質に見える。まぁ家庭事情を知らない相手から見れば、学校帰りにちょっとお使いを頼まれたくらいに映るのだろうが。
『あ、ケチャップもう無かったな。あれ、あと1本あったっけ……買っとけばいいか、安いし』
あればいいがなかった場合メニューがチャーハンに変わることになるので、念のため買うことにした。やはりうろ覚えで来るのは良くない。今度は買うものメモってから来よう、と決意を固めた。
『付け合せはレタスがまだ残ってるし……あとはトマトか。そういやあいつ、弁当の梅干しは蜂蜜漬けにしろって言ってたな』
以前白米の段が寂しいので入れてやったらしそは好かんと怒っていた。お茶漬けに入れたのは食うくせに、訳が分からない。そんな憎たらしくもあり可愛くもある妹を思いながら食品売り場を歩いた。
「あれ、古渓くん?」
この声は、と怪訝そうに振り返ると、思った通りの人物がいた。唐突すぎる、と心の中で悲鳴を上げながら、平淡な口調で応答した。
『はー、奇遇ですねー毛利サン』
全力で他人行儀を貫く方針だ。だが彼女は人当たりのいい笑顔で、今の諒にとっては凶器のような笑顔で、ホントに偶然! などと弾んだ声で話を繋げた。
「まさかこんなところで会うなんて思わなくて、ビックリしちゃった」
『俺もビックリした。覚えてられてたのかって』
「そっち? 同じクラスなんだし覚えてるよ」
『へー、毛利サン、工藤以外の男見てないと思ってた』
「な、なんでそこで新一が出てくるの!? そんな事ないって!」
『へーほー』
「ちょっと古渓くん信じてないでしょ!」
名前を出しただけで顔を赤くするのだから、これで気が無いと言うならもはや詐欺だろうと思う。生憎中身の年齢もあって女子高生を恋愛対象に見る気は無いが、初心な子供をからかうくらいなら見ていて面白いとは思った。
「もう、そんな話どうでも良くて。古渓くんとスーパーってなんかすごい組み合わせだけど、お使いとか?」
『んーまぁそんな感じ。妹がオムライス食いたいっつーから買い出し』
「古渓くんの妹!?」
『食いつくなよ』
妹がいる事実に反応した彼女がいろいろと聞きたそうにしているが、諒はあまり話す気分にはなれない。なにしろ杏樹は所謂"腐っている"のだ。他人には隠しているが家ではかなりのオープンなのでその性癖は知っている。だがその内容はとてもじゃないがこの純心無垢な少女には言えたものじゃない。ただ一言、漫画好きな奴とだけ伝えてそれ以外は黙秘した。
「あれ? でもご両親は?」
『海外出張と単身赴任、今の所どっちも家にはいねーよ』
「そっか、だから古渓くんが家のこと……なんか親近感湧くなぁ。私も家のこと全部やってるから」
『それはご苦労さま』
「もう慣れてるし、楽しいからいいんだけどね。家にいるのもどうせお父さんだけだから、部活で私が家事できない時は適当に済ませるし」
脳裏には鮮明にあの毛利小五郎の姿を思い浮かべられる。居候として預かる子供がまだ現れていないことから、記憶に新しい姿よりも更にズボラなことだろう。まぁそんな事言えもしないので、普通の父子家庭か何かだと解釈したように納得した。そんな素振りをしていると、彼女は急におかしそうに笑った。
「普通に喋ってたけど、古渓くんって結構喋る人なのね」
『……そりゃ必要なら喋るだろ』
「だって自己紹介の時とかほんの一言で終わらせちゃうから、普段は無口なのかなって思ってたし」
『他に言うこと無かったから』
厳密に言えば心底面倒だっただけだが、それは言わなくてもいいだろう。それにしても随分と長話をした、そろそろ帰って夕飯を作り始めたい頃だ。
『俺はそろそろ帰るけど、毛利サンは?』
「私も帰るよ、みりん買いに来ただけだし」
『あ、そう』
「古渓くんの家ってどっち?」
『あっち』
「反対なんだ。じゃあ、また明日」
『おー』
できればもうあまり会いたくはないのだが。そんなことを考えてるなど億尾にも出さずに分かれた。これが何かのフラグなのだとしたら、今こそそれを全力でへし折ってやりたいと思った。
End