第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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何の変哲もない休日に唐突に組み込まれた全国模試、成績には響かないとしてもこれでいくらか進める大学が絞られると言うだけあって、私立高校の参加はほぼ強制。元々公立の温室育ちだった諒はろくに模試もセンターも受けた覚えがなく、ただただ面倒な案件だった。休日にこんな行事を放り込まれ憂鬱な気分を抱えているのは生徒誰しもだが、世間はそれどころではなくなっていたようだ。
昨晩から、東京は混乱状態になりつつあった。どこかに仕掛けられた爆弾のため大規模な捜索が開始され、市民は恐怖を抱く。まだニュースで大々的に取り上げるのは避けられているのか、報道はされていないようだが、杏樹は探偵団バッジに入ってくる通信により、事態を把握していた。警視庁に送られてきた予告文の全容も、それが指し示すものも知っているのだが、それを上手く推理を交えて伝える和術は持ち合わせていないため、通信には応答せず、事件に気付いていないように装った。すると通信口から、歩美が謎の提案をしていた。
「ねぇ、杏樹ちゃんにもこの事伝えようよ。私たちだけじゃ気づかないこと分かるかもしれないもん」
「そうですね! 古渓さん、結構カンが鋭いですし」
「杏樹も俺たち探偵団の仲間だもんな! 抜けがけは悪ぃしよ」
本人がバッジの向こうで聞き耳を立てている事には微塵も気付かず、そんな計画を企てていた。これは直に携帯が鳴るのも時間の問題か、と他人事のように考えながら、爆弾犯の予告文から考えられる一つ目の答えを聞いていた。
徹夜で捜索が行われていたようだが、赤い車体の上り電車の中からはダミーの玩具しか見つからず、本物の爆弾の在処は不明のままだった。文章の関連性から一応野球場も捜索されたそうだが、何も発見されなかったとのこと。諒が模試のため学校へ向かったのを確認して、杏樹は行動を開始した。この時間なら、そろそろ子供たちはそれぞれの家へ送り届けられるため車で移動している頃だろうか。杏樹は携帯の連絡先からコナンの番号を見つけ、移動しながら電話をかけた。
不意に震動した携帯を取り出すと、探偵団が呼ぼうとしていた少女からの着信だった。
「杏樹ちゃんからだ」
通話に応答し、どうしたのかと問いかければ、至って落ち着いた声で予想外の返事が帰ってきた。
「今警察が探してる一つ目の爆弾の在処、多分分かったよ」
「え!? 杏樹ちゃん、あの暗号解けたのか?」
赤いもので連想ゲームじみた事をしていた子供たちもコナンのその驚きの声に飛びつき、電話口の声に耳を傾けた。
「昨日の夜、みんなの話は探偵団バッジで聞いてたよ。三年前の予告文と文体が同じなら、前半部分は二つ目の在処を見当つける地図記号だと思う。だから一つ目のヒントは後半部分、血塗られたマウンド。この辺で一番目立つ赤い建造物と言えば、東都タワーしか無いよね。バッターボックスは垂直に伸びた長方形の空間だから、多分エレベーターのこと。犯人はその場所に警察官に来て欲しいんだから、何かの騒ぎを起こして警察を呼ぶつもりだろうし直に分かることだったと思うけど、伝えておくね」
「東都タワー……そういう事だったのか」
「あたしは取りあえず現場に行ってみるから、コナンくんは東都タワーに来てる客を避難させるように警察に言って」
「うん。高木刑事!」
「分かった!」
「杏樹ちゃん、そっちに着いてもくれぐれもエレベーターには乗らないようにね」
「分かってる。あたしが行ったところで爆弾は見つけられないだろうし、解体なんて余計無理だよ」
身を弁えている懸命な判断だ。多少カンが冴えていてこの暗号を解いてしまった彼女でも、さすがに本物の爆弾が仕掛けられた場所に向かわせることは出来ない。東都タワーの関係者に客の避難を呼びかけている矢先、小規模な爆発が起こったらしい。到着した頃には、タワーの展望台の辺りから煙が上がっていた。高木が状況把握に車を降りると、コナンも続いて車を降りた。探偵団には車で待機するように告げて、タワーに入っていった。
「コナンくん」
「杏樹ちゃん、中の様子何か聞いてない?」
「展望台でエレベーターが止まってるみたい。中に子供が取り残されてるって話だよ」
「サンキュー、杏樹ちゃんはみんなと高木刑事の車で待ってろ」
先に入って行った高木なら、取り残された子供の話を聞いて現場に立ち入っているだろう。救出が滞ってるところを見ると、大人が入れない状態になっているはずだ。子供の身の丈なら連れ出せると推測し、展望台へと駆け上がった。コナンを引き止めようとしなかった杏樹に、僅かな引っかかりを覚えながら。
この場で彼らの安否をやきもきしながら待つのは性に合わないのだが、二つ目の爆弾の在処はこの後彼の推理で全て明らかになるので、わざわざ告げることもない。やがてタワーの中から地響きのような音が鳴り、いよいよ爆弾のスイッチが入ったと思われる。爆弾処理犯は外で待機し、エレベーター内に取り残された二人に指示を飛ばしていた。
「佐藤刑事」
「杏樹ちゃん……」
「大丈夫だよ。高木刑事も、コナンくんもね」
「でも、仕掛けられた爆弾が三年前と同じなら……」
恐らく、パネルに表示される悪魔の囁き。爆発三秒前に、二つ目の爆弾の在処のヒントを表示するというまやかしの言葉に耳を貸すのを危惧しているのだろう。犠牲になる以外に、そのヒントを得て答えを出す方法は無いと。
「佐藤刑事、信じて。もう誰も居なくなったりしないから、高木刑事は居なくなったりしないから」
全てを見透かしたような、杏樹の澄んだ瞳を見つめ返した佐藤は少しだけ肩の力が抜けるような感覚を覚えた。不安に揺れることのない、その凪いだ瞳を見ると、そんな気がした。
「不思議な子ね、杏樹ちゃんも。そんな気がしちゃってる……根拠なんてどこにもないのに、本当に……」
「信じて待つのも一つの勇気だよ」
爆破予告まで10分を切り、周囲の住民は避難させられ、車で待機していた子供たちも離れた場所まで避難させられることになった。杏樹も例外なく呼びかけられたのだが、「佐藤刑事に、根拠もなく大丈夫なんて言っちゃったし、せめて見届けなきゃね」と平然と言い返し、現場に残った。不安の色など全くないその様子に、大人は気圧されてしまった。
残り一分を切るといよいよ処理犯も退去命令が出され、タワーに残った二人が助かるには彼らが自分達の意思で爆弾を止める以外に道はない。佐藤は取り乱すまいと、信じ抜こうとタワーを見上げ唇を噛み締めていた。杏樹は腕時計の文字盤を見つめ、静かにカウントする。
「爆発まであと五秒、四、三、二、一……ゼロ」
カウント後も辺りは沈黙を貫き、静まり返っていた。永遠に時が止まったかのような錯覚さえする中、沈黙を破る声が穏やかに言葉を紡いだ。
「予告時間から五秒経過。爆弾は止まったみたいだね」
同時に、高木から解体に成功したとの無線が入り、その場は一気に沸き立った。避難していた市民も舞い戻り、一躍ヒーローとなった少年を称賛して歓声を送った。
「杏樹ちゃんの言う通りだったわね……大丈夫だった、高木くんも、コナンくんも」
「うん。あとは二つ目の爆弾を……」
「佐藤さん! ……すみません」
「良いのよ、高木くん。残り2時間半、二つ目の爆弾を見つけましょう」
「あ、それなんですが」
エレベーターの中でコナンが伝えた、暗号の読解とパネルに出たヒントから導き出された爆弾の在処を伝えているのだろう。もう心配はない。犯人に怒りをぶつけそうになる佐藤のことは、高木が止めてくれるはずだ。
「ねぇ杏樹ちゃん、一つだけ教えてくれる?どうして、大丈夫って言い切れたの?」
「……信じてたから。それだけだよ」
何もかもを悟ったような深い黒を無邪気な笑顔で覆い隠し、彼女は探偵団の子供たちと合流した。
ふと時計を見れば、もう直三時になろうとしていた。やたらと出入りの多かった車を窓から見下ろし、あれが今回騒ぎになっていた爆弾の成れの果てか、とため息をつく。むしろどうやって爆弾を持ち込んで設置したのか、犯人に聞いてみたいものである。丁度蘭と園子がいる窓の死角に犯人の盗聴器があるのだから。どうせ取り外すだろうから風に当たるついでに外してしまおうか、と思案する。
三時を回る直前、テストの出来を聞く振りをして窓に凭れた。
『空き時間に話し込むくらいにはテストの出来良いのか、お前ら』
「古渓くん。まぁぼちぼちかな」
「っかー! 蘭は頭良いもんねぇ……私はまじサイアクーって感じ。古渓くんもどうせ余裕なんでしょ」
『さぁ、ノー勉だしな』
「うっそマジ!?」
他愛もなく会話する内に、時計は三時を回った。もう問題ないだろうと見て、窓の張の裏についていたブツを引っぺがした。
「え、古渓くんなにそれ」
『盗聴器じゃねーの。この学校、爆弾犯の標的にされてたみたいだな』
「嘘ー! じゃあ何? どっかに仕掛けられてるってこと?」
『いや、もう解体されて運び出されてる。昼過ぎから出入りの激しかった車がそれだ』
「なぁんだ、良かったー」
「って言うか、一緒にテスト受けててなんで分かったのよ」
『昨日の夜から騒いでたし……杏樹がいろいろ言ってたしな』
杏樹の探偵団バッジから聞こえてくる情報で、どういう事件の概要なのかはいくらか察していた。その後入室した試験監督の教員に盗聴器を預け、全国模試を無事に乗り切った。
End