第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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『とんだ災難だった』
言葉とは裏腹に、彼は平淡な口調でそう告げた。数週間と拉致監禁されていた人間にしては、あまりにも精神は安定しており心的外傷を負った様子も微塵も感じさせない少年に、赤井は感心せざるを得なかった。
昨夜の接触から一夜明け、赤井は杯戸町の閑静な住宅街を訪れていた。落とされたメモは恐らく意図していたのだろう。細かく所在の記されたそれが他言無用のものなら、弾みで落とすようなヘマはしない。イエーガーの性格はとても繊細とは言えないが、そんなドジを踏むようでは組織の中でコードネームを与えられるはずもないという訳だ。
「ここか」
記された住所と電子地図のGPSを元に辿りついたのは、それなりに築年数のあるアパートだった。残念ながらメモには部屋番号は書いてなかったが、管理人に話を聞けば分かるだろう。それくらいの手間はかけさせてやろうという、彼女の思惑が現れているようだ。大家の部屋を訪ねれば、戸口に出てきたのは歳をめした老人だった。客人とは珍しい、と詠嘆するように呟いていたが、手始めに、最近このアパートに部屋を借りにきた人間が居なかったかと問いかけた。
「いやぁ……もう何年もそんな物好きは来とらんよ。みーんな新しいマンションや、マイホームを買って引っ越してしまって……残ってるのは、何十年と住み続けとる古株くらいじゃ」
「……では、近頃で変わったことは」
「ふぉっふぉ! お前さん、どこかの刑事さんかの?」
若い頃は刑事モノのドラマに熱中してたといういらない情報を語った後、不思議なことならあったと口を開いた。
「三週間くらい前かのぉ……空き部屋の鍵が忽然となくなってしまってな? そりゃあ慌てたもんじゃが、こんな空き部屋だらけのボロアパートにわざわざ住み着く物好きも居るもんじゃのー」
「マスターキーを、ですか」
「気にもせんとほったらかしにしておったら、今朝になってわしの机の上に、ぽつんとその302号室の鍵が置いてあったんじゃよ」
どこか散歩でもしたい気分だったんじゃろうて、とメルヘンチックな感想を聞き流し、302号室が目的の部屋であると確信した。戻したのはあの晩の内だろうし、老人一人の家に忍び込むことくらい容易だろう。折角刑事と勘違いしてくれているので、その体で事情聴取を終わらせ問題の部屋を訪れた。わざわざ自分で鍵を返して人を出向かせたのだから、恐らくは。
「やはり開いていたか」
空き部屋である302号室は施錠されておらず、人の気配を出していた。靴は一足、どうやら監禁されたと見られる少年しかいないようだ。複数人でも生活できる間取りらしく、目の前は突き当たる廊下のみ。一つ息を吐いて上がり込み、一番手前のリビングと思しき部屋を開けた。
「……」
『……』
本当にこの少年は、監禁されていたのだろうか。ソファーに寝転がり、左手にスマホを持ちながらコンビニのサンドイッチを頬張っているという、随分と寛いだ様子だった。明らかに外部と連絡を取る手段を手にしているのも異質で、そもそも部屋のドアにも外付けの鍵は何も無い。逃げようと思えばいつでも外に出られただろうに。少年に逃げる意思や恐怖心は全くなかったようだ。
この場合、なんと声をかければ良いのだろうか。被害者の警戒心を解き、脅威は過ぎ去ったと告げるのがセオリーなのだろうが、彼はこちらを警戒しているようではないし、置かれた状況に怯えていたわけでもなさそうだ。困惑のあまり第一声を出せずにいると、静寂を打ち破ったのは少年の方だった。
『もしかして、解放される感じですか』
「……あぁ。君をここにやった輩は、どこかへ雲隠れしたようでね」
それを聞くと、少年は長く息を吐いた。
『さらばニート生活』
どうやら監禁中の生活の自堕落さが彼の精神を保っていたらしい。その後、拉致された経緯や、あの女とのやり取りを聞き出すため時間を設けた。それを取り付ける際、彼は一つ条件を出した。
『妹が腹空かして帰ってくるはずなんで、場所は自宅でいいですか』
周囲の耳がない場所をと考えていたので、その条件を飲むことにした。彼に変装していた女はしばらくその妹とも顔を合わせていただろうし、充分状況を伝えるに値する。必要があれば証人保護プログラムも適用されるだろう。
愛車であるシボレーに少年を乗せ、彼を自宅まで送り届けた。普通の一軒家が、一般家庭の人間だと示しているようだ。そんな人間になぜイエーガーは目をつけたのか、その疑問は彼の証言から見えてくるだろう。赤井はそう考えながら、少年、古渓諒に案内され、玄関の扉を潜った。
『コーヒーでいいですか』
「……あぁ、別に気を回さなくても構わないが」
『減らないんで、むしろ飲んでやってください』
そういえば彼は高校生だったか。まだコーヒーを嗜むほど早熟ではないのだろうか。雰囲気と身長が相まって、実年齢よりいくらか上に見えていたが、年相応な面を垣間見て少しばかり和らいだ。
『それで、誘拐の件でしたっけ』
「あぁ、話せる事は聞かせてほしい」
『じゃあ、最初から』
前置きもそこそこに、諒はここ一ヶ月余りの出来事を淡々と語り始めた。
前兆は連日尾行されていたこと。気配を感じた以外にも動向を見張られていたのだろうが、気付くのは大体学校帰りだけ。不審には思っていたが、ただの悪戯だろうと回り道して帰るだけだった。そしてある時、突然薬を嗅がされ意識を失い、あの一室に拉致された。目覚めると、玄関までしか行けないように足枷と鎖がかけられていたが、食料品はテーブルにいくつか置いてあった。空き家というのはすぐに分かったが、電気が使えないとなると暇でしかなくなり寝る以外の行動はできなかった。
そこへ現れた、諒を拉致した女。それはいくらか見知った顔をしていた。
「見知った顔?」
『姉だったんです。5つ上の、一人暮らしをしながら大学に行ってるはずの』
「……だとしても若いな。彼女の進路について家族は把握しているのか?」
『いや、俺は何も。親とも姉の話はほとんどしませんし』
「そうか」
家族も何も知らないとなると、イエーガーは組織側の人間という可能性は高い。諜報機関からの潜入は年齢からして考えにくい。そもそも赤井が組織にいた三年ほど前には、彼女もコードネームを与えられる程の立場だったのだ。だが、組織の人間の親族など、奴らが放って置くだろうか。宮野姉妹のように、親族を割り出して末端として引き入れるくらいのことはあってもおかしくない。
気になることは多々あるが、監禁中の彼らの接触について聞き出すのが先決だ。続けてくれ、と顔を向け直すと、水を一口飲み下してから再び口を開いた。
諒の姉は、しばらくここで隠れ住むように告げてきた。脅迫のような色もなく、ただの頼みごとのように。そして生活に必要なものはこちらで用意するとも。
──そこで、なにか必要なものは?
──んじゃあ、ネット回線とWi-Fi。
──ん?
──三度の飯よりゲームがやりたい。
──あ、そう。
数日間は情報環境での動向を見張られていたようだが、諒が助けを求めたり逃げ出すような素振りを見せなかったため、監視もなくなり初日にかけられていた足枷を外された。知り合いからいろいろと連絡が来ることも無いので、誰かが自分に成り済まして溶け込んでいるのだろうと言うのは察していた。どうやら尾行されていた時期は、成り代わるために行動を観察されていたということらしい。
『それからはちょっと引きこもり生活満喫してました。姉はちょくちょく顔出しに来ては駄弁ってましたし』
「……なるほど、君に対して悪意はなかったという事か」
『まぁ、そうですね。最後に来た時は意味深なこと言って行きましたけど』
「と言うと?」
『「あたし以外の誰かが来たら、そこであんたの役目は終わり。晴れて自由の身って訳」と。その後あんたが来たから、監禁される理由はなくなったんだと』
だからあの時、諒は真っ先に解放と言ったのか、と妙に納得した。あの場合イエーガーの仲間だと思われてもおかしくは無かった。まぁそうだったとしても彼の場合平然としていた気もするが。
『なんと言うか、とんだ災難だった』
言葉通りの感想など1mmも抱えてい無さそうな平淡な口調でそう締め括る諒は、本当に高校生なのか疑わしいくらいだった。
「協力、感謝する。報酬と言ってはなんだが、君の姉について一つ教えておこう。彼女の通称だ」
機密情報の一部ではあるが、親族である彼には名前一つでどうするということも無いだろう。
"イエーガーマイスター"
それが奴のコードネームだと、コナンは確信した。
あの晩、ベルモットに不意をつかれ麻酔銃を自分に食らってしまったのだが、その後自分を連れ去ったベルモットの車で気が付き眠った振りを続けた。しかしまさか、あのカルバドスと言う狙撃手以外にも仲間がいたとは。バックミラーで確認した姿は、馴染みのある姿をしていた。元クラスメイトでもある古渓諒。自分を遠ざけるためのあの船に妹を送り込んでいることも疑いを色濃くしていた。そんな中、ベルモットがどこかへ連絡を取っている音を聞いていた。
『油断したなベルモット』
「え?」
『その坊主、起きてるぞ』
気付かれていたのか。焦りを表に出さないよう、駆け引きを開始した。自分が殺されたり、発信器を潰されれば、録音されたものが仲間へ流れるようになっている。
『俺は降りるからな、あとは勝手にやれ』
面倒事からは手を引く、そう決めていたように、古渓はバックドアに手を掛けた。去り際に、一つのピースを残して。
『計算高い名探偵を称して、一個教えてやるよ。"A patron saint of hunter"それが俺だ』
それを告げる彼の口元は、確かに笑みを浮かべていた。
結局あの後ベルモットとの賭けには破れ、目覚めた時には彼女の姿はなく録音機は破壊されていた。唯一手に入ったのは、古渓が残した言葉。
直訳で"狩人の守護聖人"だ。自分のことをそう指しているのだから、恐らくはコードネーム。そんな日本語訳を持つ酒と言えば、"イエーガーマイスター"。酒類としては、56種ものハーブを使ったリキュールで、濃い赤色をしている。
「赤……?」
そう言えば最近蘭が、「古渓くん、たまに赤目のカラコン入れてるみたいなんだよね」と話していた。
「じゃあ、まさか……」
End