第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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倒れた工藤は保健室に運ばれた後目を覚まし、翌日も平然と登校した。久しぶりの学友との再会に浮かれている節もあるようだ。この先彼の身に降りかかる現実を察している諒には、手放しでは喜べない話だったが。
「あの二人が囃し立てられてんのも久々に見たな」
『むしろあいつ生きてたのか……って思ったわ』
「辛辣」
『好奇心だけで事件に首突っ込んでその内死にそうだよな』
実際その結果が小一に逆戻りした原因だ。そして一部では死んだことになっているのだから間違いではない。例の薬の使用者リスト上では、工藤新一は死亡している。この光景も、本来であれば幻想に過ぎないのだ。
諒は、自分が思うより情に流されやすいらしい、と他人事のように感じていた。待ち受けている現実に傷つき合う二人に、悲愴感を植え付けられるくらいには。こんな時は飲むに限る。早々に帰宅した諒は夕飯は各自調達せよと杏樹にメッセージを残して、買い足したばかりのバーボンを開けた。
後日、案の定工藤は再度休学し、入れ替わりのようにコナンが普段通りに戻った。この二日間のあれは灰原の変装で、纏う雰囲気は全く違う。しかしそれも些細なこと、よく気が付く人間でなければ感じない相違感を抱いている者はほぼいなかった。結果的に、工藤新一と江戸川コナンは別人であると示すことが出来たようだ。
「ひと段落した感じだね」
『あー、こっちもいつも通りだった。悲しいことに』
クラスメイトが一人欠けているのがいつも通りなどと言っていいものか疑問ではあるが、同じ時間軸をループしている間はそれが常であることには変わりない。
大衆の前で事件を解決して見せた工藤の話は他言無用だと言われていたが、ささやかに語られていた噂話が徐々になりを潜めるのにおよそ半月を要した。それくらいにもなると、ちらほら冬の一大イベントに向けての計画なんてものも話題に上がってくるのが世の常と言うべきか。その頃、諒は人知れず違和感を抱くようになっていた。
──なんか尾けられてる気がする。
気のせいか、何かと自分を巻き込もうとする子供たちの仕業か、はたまた疑惑を持った名探偵か、その辺りで見当をつけて気にせずにいたが、流石に連日ともなれば薄気味悪い。あえてタッパのある男に目をつける当たりが余計にだ。誰かに相談しようにも、自意識過剰だと言い竦められるだけだろうから打つ手無し。せめて杏樹にターゲットが移らないことを祈ろう。家に帰るのは別々になることが多々あるため、諒を尾けている何者かの目にはまだ恐らく認知されていないはずだ。
『今日もか……もしかして暇なのか』
この日も学校帰りの道を歩きながら、背後の気配を察知する。ここしばらく尾行のみで、他のアプローチがある訳でもなかったので回り道をして帰宅するだけに留めた。
イチョウの季節、阿笠の50年来の初恋が無事にピリオドを打ち、それに関する謎解きの話を後日談として聞いた杏樹は、なぜあえて暗号にするのかとなんとも言えない心持ちで帰宅することになった。
「ただいまー」
阿笠邸でしばらく屯していたし、先に帰っているだろうと踏んでいたが予想に反して諒の返答はなかった。珍しい、と思いながら、ソファーに身を投げた。料理担当の諒が帰らないことには夕食にありつけないのも、なかなか厄介である。
程なくして帰宅を告げた諒は買い物袋の中身を仕分けて料理に取りかかった。
「今日夕飯何?」
『カツ丼。紛れもなく手抜きだ』
「あーなるほど月曜日」
行きつけのスーパーの中にあるとんかつ屋なのは下げていた袋で分かった。そこは毎週月曜にローストカツが安くなるのでそのためだろう。帰りが遅くなったのは何らかの理由でいつもの時間に買えず、新しく揚がるのを待っていたと言うのが一番考えられる。生活能力が上がった結果、金銭感覚は完全に主婦のそれだ。安定して過不足のない料理にも定評のある、平均的な男子高校生にしてはスペックのそこそこ高い兄だと思う。とは言え中身は25のアラサー目前の成人なのだが。
やがてじゅわりと卵が焼ける匂いが立ち込め、余熱で火が通るのを待つのみだ。丼飯を盛ってカツを乗せ、汁を回しかければ出来上がり。ダイニングで揃って夕食にした。
「ん? なんか今日薄味……?」
『醤油ちょっと減らしたから。ささやかな健康志向ってことで』
「あーそういう。カツ丼とか食べてる時点でなんとも言えないけど」
健康を気にしている部分など欠片もないメニューに奇妙な感覚を覚える杏樹だった。
「そういえば、兄ちゃんの方最近なんかないの?」
『何かって』
「あの面子の話」
『あぁ……季節外れの仮装パーティー行くとかなんとか』
「へぇ……」
もうそんな時期かと思考を空に飛ばすと、少しの沈黙の後諒は一つの可能性を口にした。
『行きてーの?』
「えっ行ってみたいけど、無理じゃない?」
『話持ちかけてみるけど』
むしろ何をどうしたら入り込めるのだろうか、と望み薄な杏樹だったのだが、後日、例の仮装パーティーに同行できる事になったと告げられ目を丸くするのだった。まさかの事態になった訳だが、想定外とは思えないほど乗り気な様子で衣装を選ぶ。結局自分の身の丈を考え、文字通り小悪魔で落ち着き下準備は完了した。あとは当日、同行者が迎えに来るのを待つだけだ。
夜の港。僅かな街明かりと向き合った二台の車のヘッドライトだけが浮かび上がる闇に、対峙する二人の女の姿があった。優位に立つ側は先ほどから一転二転とし、新たに登場人物が現れる度に状況が変わっていった。タクシーで現れた少女は、銀髪の女にシェリーと呼ばれ銃口を向けられるが、金髪の女が乗っていた車のトランクから少女が飛び出し、シェリーを庇った。銀髪の女、ベルモットがエンジェルと呼ぶ少女は、どう見てもごく普通の市民だ。ベルモットがエンジェルを撃つことに躊躇う隙に、金髪の女、ジョディはライフルの死角に入りベルモットの腕に銃弾を掠めさせた。
それと時同じく、ベルモットが待機させた狙撃手が行動不能に陥ったことで、新たな人影が動いた。コンテナを階段のように飛び降り、ベルモットに銃口を向けた人物は、ジョディも予想していなかった少年の姿をしていた。
「あなた……!」
日本で動く口実として潜入した高校の、生徒の一人、古渓諒だった。一般人であるはずの彼がなぜここに、なぜ銃を向けているのか、何が真実なのか。混乱を来たすには十分だった。
「何のつもり? イエーガー」
イエーガーと呼ばれた彼は何も答えず、どうやらベルモットもこの状況を把握していないようだ。それが更にジョディの思考を妨げるが、新たな足音が響く。狙撃地点にいた仲間だと確信したベルモットは笑みを浮かべた。
「OK、カルバドス。挟み撃ちよ。あなた愛用のそのショットガンで、FBIの仔猫ちゃんを吹っ飛ばして」
「ホー、あの男、カルバドスと言うのか」
予想していなかった、落ち着いた男の声。その主は組織の人間にとって脅威と成り得る人物、赤井秀一。
「ライフルにショットガンと拳銃三丁、どこかの武器商人かと思ったぜ」
やはりあれはこの男の仕業だったかと、イエーガーはコンテナの上で負傷しているカルバドスを横目で見遣った。赤井はカルバドスの酒類に掛けてベルモットを"腐った林檎"と揶揄し、振り向きざまに銃を向けようとした彼女に散弾を浴びせた。銃撃戦対策の装備が動きを限定させているのが裏目に出ているのだろう。イエーガーはベルモットの元まで駆け寄ると、威嚇射撃と共に彼女の腕を引き上げ立ち上がらせた。
『車に乗れ!』
「えぇ」
首尾よく子供を人質に、キーの刺さったままのジョディの車を奪う。イエーガーはFBIに向けて発砲を続けながら、車の天井に飛び乗りベルモットと共に走り去った。追跡を不能にすべく、ベルモットはサイドミラー越しにもう一台の車のガソリンタンクを撃ち抜き、炎上させた。
「やるね。あの状況でミラー越しに撃ち抜くとは…」
「感心してる場合じゃないわよシュウ! それより今の、イエーガーって呼ばれてた男が落としてったメモ……」
「ん?」
「どこかの住所みたいだけど……でも彼、私が潜入した高校の生徒なのよ」
シェリーを守り、先程の銃撃戦の音で気を失った少女。彼女のクラスメイトである少年を思い浮かべる。組織のことはもちろん、このような駆け引きの場にはそぐわない。
「そいつ、イエーガーと呼ばれていたのか?」
「えぇ……知ってるの?」
「何度か顔を合わせたことがある。あれがイエーガーなら、あの姿は奴の変装だ。あいつは女だからな」
変装という事実に驚きはしたが、ベルモットと行動を共にしていたのならありえない話ではない。そして僅かな間ながらも教師として受け持った生徒が組織の一員でない事に安堵した。やがて日本警察のサイレンがこの静寂に滑り込み、ジョディはここで起きた本当の事態を伏せて伝えるためその場に残り、赤井は闇に溶け込むようにして立ち去った。そこにいる茶髪の少女と顔を合わせるわけにはいかない、そう言い残して。
End