第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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例の一件から十日、術後の経過は順調だということでコナンの見舞いに訪れた。杏樹は先に子供達と訪れることで済ませていたが、諒は一度帰宅してから向かったため探偵団とは入れ違いになった。ロビーには見当たらなかったので病室まで足を運んでみれば、中から密やかな会話が聞こえる。反射的に扉にかけた手を引っ込めた。この会話を折って入っていく事などできそうにない。
「相変わらず人の心は読めても、自分のことになるとさっぱりやな。あの姉ちゃんがほんまに気ィ付いとんのやったら、言わへん理由は一個だけ。待ってるんや、お前の口から話を聞かせてもらうんをな」
それは彼にとってのタブー。諒もあえて触れずにいた絶対の禁忌。他言できるはずのない話。しかし周りを、彼女を欺き続ける事に、疲れているのだろう。だが全てを話すというのは、自分がラクになる逃げ道でしかない。
室内はおおよそセンチメンタルな雰囲気が漂っているだろうが、それを打ち破るべく軽快なノックを転がした。
「はぁい」
先程の余韻も全くない子供らしい声を聞いて、ようやく引き戸を開いた。
『よう、見舞いに来たぞ坊主』
「諒兄ちゃん!」
恐らく今まで一度も顔を見せなかったから、驚きもあったのだろう。見舞いの品に持ってきた林檎を紙袋から出して食べるかと尋ねれば、素直に頷いた。一緒に入れたカバー付きの果物ナイフと家の皿を取り出し、流れ作業でさくさくと切り分けて皮を剥いていく。そんな様子に探偵二人は再び密やかに言葉を交わした。
「おい工藤、誰やこいつ」
「あぁ……クラスメイトの古渓諒だ。今の俺にとっては、友達の兄貴だけど」
「ほー。お前の正体は知っとるんか?」
「いや…多分知らないはずなんだけど、よく分かんねぇんだ」
「何やそれ」
などというやり取りは聞こえない振りをしながら、程なくして切り分けられた林檎に爪楊枝を刺し、家事とは無縁そうな少年達に差し出す。
「ありがとー」
『ん。お前も食うか?』
「お、おぉ、ほんならありがたく」
もとよりそのつもりだったので予定通りというかなんと言うか。わざわざスーパーで卸したてを買って来たからか、瑞々しくシャクシャクといい音を鳴らしている。
「そや、自己紹介がまだやったな。俺は……」
『知ってる。服部平次、大阪の高校生探偵』
「なんやバレとったんか」
『たまに話聞くからな。俺は古渓、残念ながら探偵稼業なんかはさっぱりだ』
わざとらしく肩を竦めると、もったいないとの呟きが返ってくる。そりゃあ推理が出来て真実にたどり着ければ楽しいだろうが、凡人には到底無理だ。
『ま、ここに工藤がいたら面白かったのにな』
「へ?」
『所謂、東と西の推理対決。みたいな』
「ほーん、面白そやないか。いつかやってみたいもんやな」
『とは言っても、実際真相は一つしかねーし勝ちも負けも無いんだろうけど』
「……なんやそれどっかで聞いたことあんで」
それもそのはず、初対面でお前を工藤信者に仕立て上げた教祖様のお言葉だ。なんて曲解した発言をする訳でもなく、あぁそう、と適当に流した。そんな会話が繰り広げられる中、シャクシャクと林檎を齧り続けた名探偵のおかげで皿は空になり、持ち帰れる状態になった。少し汁の溜まったそれを林檎を入れていたビニールに放り込んで口を縛り、ナイフと共に紙袋に戻せば荷造りは終わりだ。あとは適当なところで別れを告げればいいだけ。長々と他愛もない会話をする間柄でもないので、妹が家で腹を空かせて待っているからと理由をつけて、少年達との面会を終えた。
「あれ、古渓くん」
ロビーまでの道を歩けば、先程見舞いの花を新調しに行ったと思われる三人と遭遇する。
「コナンくんのお見舞い来てくれたんだ」
『まぁ、知り合いのヨシミで』
「あの小生意気なガキンチョにも律儀なんだから、古渓くんは」
言われ放題である。突発的に発生したフラグから察していたが、ここでも初対面の相手がいる訳で。
「なぁ蘭ちゃん、この人は?」
「和葉ちゃんは会うの初めてだっけ。古渓諒くん、私達と同じクラスなの」
「へぇー、蘭ちゃん達に男友達おったんやねぇ」
なぜ揃いも揃って本人に自分誰やと聞かないのだろうか。人当たりの良さそうな顔で、よろしゅうなと告げてくるが、こちらとしてはそれほど宜しくできないところである。
『あぁ…そうやって他の男にいい顔してると親分が怒りだすぞ』
んじゃ、と言うだけ言って彼女達の横を通り過ぎて帰路についた。その背後で交わされた彼女達の会話は諒が知るはずもなかった。
「何や、古渓くんって随分無愛想な人やね」
「いつもあんな感じだよね」
「そうそう。あいつの表情筋が仕事してるとこ見たことないわよ。でも鉄仮面の割には砕けたジョークも言えたりするし、全くの根暗って訳でもないのよ」
「慣れれば面白いよね」
「そうなん? って言うか、親分って何のことやろ」
分からないのは当人だけ、と言うべきか、蘭と園子は心の内で「服部くんのことね……」と確信めいたことを考えていた。
迎えた学園祭当日、今年の演劇公演は客入りも上々で客席はほぼ埋まっていた。そんな中、最終調整を行う我がクラスは全員意気込み十分、万全の体制だ。証明が切られ、舞台の幕が上がるとスポットライトを浴びる舞台だけが浮かび上がる。
劇も中盤、国の安寧のために政略結婚を強いられるハート姫の嘆きの場面に合わせ、諒の演じる騎士団長が姫の定めを憂う姿が映される。マッチで火をつけた煙草を蒸す訳だが、実際使うのは当然ココアシガレットだ。火は本物だが、手慣れた動作と相まって本当に吸っているように見えるのは観客に割愛していただこう。
そして場面が移り、姫を護送する馬車が盗賊に囲まれる。騎士団長が一手に引受けるが、虚を突いて馬車の背後に回った盗賊の一人が姫を捉えた。それを救い出すのは、烏の羽と共に降り立った、黒衣の騎士。その存在に恐れをなした盗賊は撤退し、騎士と姫の遭遇に、騎士団長はその場から退き片膝を付いた。台本通りであれば姫の願いの通り黒騎士が仮面を外すのだが、どうやら変更があったようだ。ここまでくれば、この先のシナリオなど無いも同然だと、諒は予定に無い舞台袖に引っ込むという手段をとった。観客の視線は舞台中央に向いているので問題は無い。
「ちょっと、なんで引っ込むのよ。この先も出番あるでしょ」
『誰も見てねーよ。それに舞台上があんなだし、脇に何も無い方が映えるだろ』
「まぁ……確かに」
そしてややあって、最大の山場であるキスシーンというところで、全ての幻想を現実に引き戻すような悲鳴が響き渡った。血塗られた舞台の幕開けというところだろう。
当然劇は中断され、警察が到着すると検死や現場検証が行われる。途中、変装を変装と認められない服部平次による工藤新一モノマネなる茶番が不発に終わったところで、事件の捜査が進む。せめてその訛りを隠してからにするべきだった。工藤の関西弁のできなさは知っているはずだろうに。
他殺だった場合の容疑者は絞られたものの、自殺の可能性が色濃くなりあわや断定されようとしたその時、それを止める凛とした声が響いた。その口調、芝居がかった言葉選びと堂々たる佇まい。疑いようもなく、工藤新一本人がそこにいた。
『目立ちたがりのナチュラルボーンキザ野郎め…』
今は表舞台に立ってはならない身分だと言うのに、探偵とは時に馬鹿なのかと思う。あえて比較するが、怪盗キッドは演技だが、工藤のこれは素でこうなのだからタチが悪い。
前口上もそこそこに、するすると紐解いていく犯行手順と、それが可能なただ一人を確固たる証拠と共に指し示しす。犯人は罪を認め、殺人に駆り立てられた動機を語った。理解はできる話だったが、納得とは程遠い、と言うのは名探偵殿の持論であり、諒は殺人という手段を取られても仕方の無い被害者だったと漠然と考えていた。
これで晴れて舞台の続き、とはいかず。事件を解決した当人は突如として苦痛に襲われ、その場に倒れたのだった。
End