第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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夏が終わり、再びやってきたこの季節に諒は頭を抱えた。文化祭である。クラスメイトの一人が休学扱いになり、周囲に持ち上げられるのをなんとか逃れ細々と過ごしていたのだが、一夏超え想い人を得て一段と逞しくなった園子率いるクラスの女子軍のパワーは凄まじい。今年こそは演劇をするという事で纏まったのはまさに秒速。そしてラブロマンス志向に決定したのは主に園子が元凶である。ヒロインに選ばれたのが蘭だというのは薄々分かっていたことだが、相手役に古渓をという声が上がったのにはこれでもかと言うほど拒否権を振るった。
『セリフなんて覚えらんねーし、第一そこのお嬢様が考えるような小っ恥ずかしいセリフを真顔で言えるわけねーし、そもそも俺はまだどこからともなく現れた工藤に刺されたくねーよ』
いや、真顔で言うことはできそう、などと言う前の席に居座る十和田の呟きは黙殺する。
「じゃあどうする? 蘭の相手役、男子の中で決めてちょうだい」
「そうはいっても……やっぱ古渓しかできそうなヤツいねぇよ」
『やめてくれ。ガチで』
再び向けられる催促の視線をバッサリ切り捨てて保身に走る。変に目立つことをさせないでいただきたい。自ら舞台に上がりたい性分の人種とは分かりあえそうにないのだと、頭を振った。
突飛な案として校医の新出に出ていただこうかという話も出ていたが、文化祭の演劇はあくまでも生徒のためのもの、と諭され、結局園子が男装してこなす事で結論した。因みに新出には、演劇の経験があるというので指南を頼んだらしい。
『にしても、こんな脚本書くとか人間どんな才能持ってるか分からないもんだな』
「この園子様にかかればこのくらい!」
「もう調子乗らないの園子。自分で考えたんだからセリフとちったりしてられないでしょ」
「それは蘭、あんたも同じよ」
ごもっともである。かく言う諒は小道具として高みの見物をするつもりだったのだが、何のための演劇だと押し切られ、ヒロインに仕える護衛として舞台に上げられることになっていた。幸いなことに寡黙で誠実な剣士というキャラクター像だというので、セリフはまぁまぁ少ない。せいぜいそれらしい動きができればいい訳だ。
演劇においての剣術は、本物とはいくらか勝手が違うらしく、動きを魅せなければ腕の立つ剣士に映らない。こういった役回りの教えを乞うのも役者魂というものか、諒は時折空き時間を使って新出に教わることになった。正体を知っている身としては、さすがハリウッド女優だと納得なのだが、周囲の目には好奇の目で見られていたようだ。
「古渓くんって、もしかして新出先生のこと好きなんじゃ……」
『んな馬鹿な』
「うわっ! いつからそこに!?」
『今し方。つーか変な噂流すなよ』
「だって、古渓くんって結構人気あるのに、どんな女の子にも靡かないってもう有名になってるし……」
『だからゲイなんじゃないかってか。アホくさ』
色恋の話に目敏いあまり、そんな突拍子もない噂を捏造する園子に釘を指す。気楽に話せるのは事実だが、それは実年齢が近いというのもあるだろう。正確には、新出の人格を完璧に模写したあの人物の人柄と、という注訳がつくのだろうが。ともかく、あらぬ噂で相手を困らせるなと忠告し、放課後練習に向かった。
以前は博士がテントを忘れて出来なかったキャンプを、改めてやろうと言う話が出た。秋も深まるこの時期、文化祭で行う劇の台本を読み込む諒の姿を考えれば、このキャンプで起こることは容易に思い当った。
「それ、あたしも行かなきゃだめ?」
「何言ってんだよー! この前出来なかったからまたみんなで行くんじゃんか!」
探偵団で出かけることは決定事項らしい。珍しく渋る杏樹に、しばらく音沙汰無かった疑いの眼差しが再度、微かに向けられた。
「ん……? どうしたの哀ちゃん」
「……いえ、何でもないわ」
ふいと視線を逸らす灰原に、杏樹はきょとんと首を傾げておく。我ながらに子供の振りが上達したと、心の内で自嘲しているなど微塵も感じさせずに。
そしてやってきたキャンプの日。今回はちゃんとテントを忘れなかったことを元太に言われ苦笑する阿笠を余所に、杏樹はこの先どう足を踏み入れようかと考えていた。
「わしと哀君と杏樹君で竈を作るから、君らは薪を拾ってきてくれんか」
こっちに組み込まれるのか、と虚を突かれた訳だが、意気揚々と出発する子供たちと名探偵を見送った。これは期を見て彼らを探しに行けばいいだろうと計画した。
作業を初めてしばらく、そろそろ戻ってきてもいい頃なのだが一向に彼らは現れそうにない。
「遅いのぉ……」
「どうせ森の中でも探検してるんじゃない。好奇心旺盛な探偵さんが引率者だし」
「あたしちょっと見てくるね」
「お、おい杏樹君!」
「それより博士、早く手伝ってくれない?」
杏樹が抜けたとしても問題ないようで、灰原は止めなかった。薪組と同じ方角に歩いていった杏樹を一瞥して、手を動かしながら思考する。気になるのは、彼女がこのキャンプの話を少し渋ったこと。見解としてはただの一般人と言うことで落ち着いたが、バスジャックの件がどうにも引っかかっていた。灰原があの爆弾騒動に紛れて命を絶とうとしていたのは、コナンでさえ予想打にしていなかったはず、さらには自分の身を守ることに必死な状態で、いち早く灰原が避難していないことに気付いたのは杏樹だった。読んでいたとしか、思えなかった。
ふぅ、と溜息を吐き、これ以上考えても仕方ないと、作業の手を進めた。そして数分後、戻ってきた杏樹は一人だった。
「杏樹君、あの子達はどうしたんじゃ」
「それがいなくて。でも、この先にあった鍾乳洞の入口に四人が集めたような薪が置いてあったから、多分入ってったんだと思う」
「何じゃと! 何をやっとるんじゃ、コナン君達は……」
「博士、あとお願いね。古渓さん、その洞窟まで案内してくれない?」
「え? うん」
「おい哀君!」
灰原は二人分の懐中電灯を手に、杏樹と共に森の中に歩を進めた。辿りついた鍾乳洞の入口には、杏樹の証言通り集めた薪が四人分置いてあった。そして入口の脇には、文字が刻まれた石が作為的に置いてあった。大きく「と」が刻まれたそれは、山型のようにも見える。
「ここね…確かに彼らなら興味本位で入って行きそうだけど」
「追ってみる?」
「……そうね」
入り込んだ洞窟は随分と広く、今の所別れ道はないが歩きにくい。その道端で、コナンの眼鏡が落ちているのを発見した。その周囲には転々と発振器がばらまかれ、それは110と読める形になっていた。
「哀ちゃん、向こうに頭を撃ち抜かれた死体が放置してあったんだけど……」
「……戻るわよ。博士と下山して、この辺りの人に鍾乳洞の出口を教えて貰って、そこに警察を呼ぶの」
「みんなは出口に向かってるってことだよね。でもなんで警察?」
「見て、この血。まだ新しい、少し擦ったような痕。きっとどこかを負傷し、この岩に凭れたのよ。しゃがんでいたなら、患部は脇腹……この洞窟でそんな怪我をするのは不自然よね」
「……誰かがこの洞窟に死体を捨てしようとして、それをコナン君達に見られた。口封じの為に殺されそうになったのを、命からがら逃げてるってこと?」
「ええ。急いで戻って、博士に通報してもらうわよ」
理解力が早いのか、そもそも知っていたのか。それを問い詰めるのは今で無くてもいいが、この件が彼らの命に関わるというだけあって、事は至急を要する。二人は来た道を引き返した。
キャンプの拠点に戻り、阿笠に鍾乳洞で起きている事のあらましを説明してすぐさま山を降りた。そしてあの洞窟の出口を現地の住民に訪ね、警察を呼んだ。到着した頃には日はすっかり落ちていたが、やがて逃げ延びた子供の姿が洞窟の奥に確認できた。その背後から物騒な大人が現れると、警察はライトを照射して照らし出し犯人に呼びかけた。その光のおかげか、意識を繋ぎ直したコナンが自分を人質にしようとした男を麻酔銃で眠らせ、強盗犯の男達は御用となった。
コナンは出血が酷く、緊急手術が必要な重傷だった。病院に搬送されたが、同じ血液型の輸血パックが足りないとの事。駆けつけた蘭がドナーとして名乗り出た事で、手術は成功し一命を取り留めたらしい。目覚めたのは翌朝だったと、諒が受けた蘭からの報告だった。無事だったことを杏樹にも伝えてほしいということだろう。
『相変わらず無茶するよな、あいつも』
「ほんと。回避できないフラグだから心臓に悪い」
生死を彷徨った名探偵の見舞いは後日、杏樹は子供たちに便乗し、諒は単独で行く事にした。
End