第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『伊豆の海だそうだ』
「え、行きたい」
イベントで一夏の気力を使い果たしてきたというのに、夏休みも佳境に入って放り込まれたこの企画に杏樹も乗り気なようで。早速妹が同行したがっていると連絡を入れれば、二つ返事で承諾の返答が来た。どうやら名探偵も旅に同席するのが決まったらしく、せっかくだから誘おうかと話していたところらしい。そんな小さな奇遇を体感しつつ、二泊三日の小旅行の準備を進めることにした。
『つーかなんでお前来る気になった?』
「だって行き先海で宿が安い民宿でしょ? そんなの決まってるじゃん京極さん見たいんだよ」
『なるほど』
単純明快で簡潔な返答で助かる。かくして、再び事件に巻き込まれに行く事には目をつぶり、約束の日を迎えるのである。
意味もなく使い切りカメラでパシャパシャとカップルを激写しては苦々しく一瞥して行く園子の気持ちも分からないでもない。要はこの旅行自体、園子の男探しが目的と言っても過言ではないのだが、思惑通りに声をかけてくる男は大体隣の蘭が目当てなのだ。これはもうリア充に爆発しろと念を込めて冷やかしの一つでもしたくもなる。しかし、彼女のやっかみがいつこちらに飛んでくるかも分からないので、諒は浜辺のビーチパラソルの下でのんびりしておく事にした。
『なぁ杏樹氏』
「なんだい兄者」
『若者らしく海ではしゃいだらどうかね』
「それブーメランですぜ兄貴。って言うか実の兄が逆ナンされるってすごく心苦しいから虫除けになってあげてるんです」
『すまんそれは俺のせいじゃない。趣味の悪い女子もいるもんだ』
「鏡見てから言えよ。不思議なことにそこそこ整った顔してるから。三白眼なのに」
目付きがやや悪いだけで偏差値は高めなのである。これが補正というものなのか、第三者の目にはそのように映っているらしい。他人の評価などほとんど気にしてこなかった諒には少しばかり難解な事案である。そんな調子でぼんやりしていれば、海辺にいた蘭が残りの二人を連れずに戻ってきた。
「一緒に食事でもって誘われたんだけど、古渓くんもおいでよ。もう一人同級生と来てるって言って待ってもらってるから」
『……いや、それナンパだろ。俺行かない方がいいと思うけど』
「そう?でもお昼だし……」
『じゃ、杏樹と先に海の家入ってるから他人の振りしとけば』
そう言いくるめて浜辺を後にした。正直、彼女の言うナンパ男とは顔を合わせたくないというのは本心だし、そもそも捕まえた女が友達と称して男を連れてきたら良い気はしないと、同じ男として当然分かる話だ。それで手を引かれてしまうと、今後の展開に支障を来すので避けたいところでもある。傍観者の立場を徹底する事が、拒否権なく巻き込まれた諒の抵抗手段だ。
一方、食事の同席を断られた蘭は待たせている三人の元に戻り、あの兄妹は来ないことを告げた。
「自分が行かない方がいいかもって」
「ま、古渓くんらしいわ」
「ん? 君達のもう一人の友達って…」
「ええ、男友達です。園子が無理やり連れ出したようなもんですけど」
「へぇー。その彼、どっちかの彼氏とかかい?」
「違いますよ。普通に友達で」
「あいつよく言ってますから、お前らは対象外だから大丈夫って真顔で」
「なかなかおもしろいね、その友達君。こんな美少女と関わって心を掴まれないなんて」
気障ったらしい言葉で締め括られると、園子はほんのり頬を染めた。圧倒的騙されやすさである。そのまま足を運んだのは当然ながら海の家で、手頃の席に着いた先には合流しない体で別れた古渓兄妹が見えた。すぐさま気付いたコナンはそれを指摘しようとするが、他人を振りをしておくことにしていると蘭に耳打ちされ、黙っておくことにした。本題の園子は蘭に話を振ったりしおらしい態度を取ったり、男漁りに精を出す割にまるっきりの初心状態だった。
「道脇さんはどうして伊豆に?」
「ただの失恋旅行さ。彼女にひどい振られ方をしてね……ぼんやり海を眺めてたら、天使を一人見つけたってわけさ!」
そんな背後から聞こえる歯の浮くようなセリフに、飲んでいた冷やを吹き出さなかっただけ諒は堪えた方だ。杏樹に至っては机に突っ伏して笑っているが。
「生ビール、お持ちしました」
会話を阻むように注文の品を置いた無愛想な店員に、しばしば困惑する男はあえてスルーしておく。杏樹は目当ての人物を視線でストーキングし、何やら考えているようだ。
『あ、店員サン。俺にも生一つ』
「ハイ」
喫煙者に注意した去り際にそう声をかけるが、何の疑いもなく注文を引き受けていた。その諒の発言に思わず振り向くコナンだったが、ここで声をかけたら未成年の飲酒が明らかになり事態がややこしくなると考え、思い留まった。
その後、園子達は写真の話や、道脇の提案で夕食を近くのレストランでとろうという約束を取り付けていたところ、近くの林で遺体が見つかったという事件の臭いを嗅ぎ、名探偵は飛び出していった。初めて対面すると奇妙極まりないのは言わずもがな、なんとも言えない表情のままの道脇と女性陣一行はコナンの後を追って店を出て行った。
『……よくもまぁ毎度事件が起きるよな』
「まぁそういう仕様だしね」
ぼんやりと側面から眺めた感想をこぼせば、とても都合のいい一言で結論してしまった。つくづく「仕様」とは便利な言葉である。喉越しはさして上質でもない生ビールを飲み干し、諒も杏樹を連れ店を後にした。
後から聞いた事件の概要はこうだ。発見された遺体は茶髪の女性で腹部を刺されており、それは一年前に起きた事件と一致している。当時の犯人が捕まっていないことを考えても、同一犯の可能性が高いとのことだ。そんな中で夕食を外で食べると言うから思考回路を疑った。いくら車で、年上の同伴者が迎えに来るとはいえ少しばかり用心した方が良いだろう。最も、空手娘にはそんな心配は無用そうだが。
『例によって誘われてるのはお前らだけだし、こっちは宿の食堂の厄介になるわ』
「なんか、ごめんね古渓くん。折角一緒に来てくれてるのに」
『別に、目の前にナンパ野郎がいる状況とか指差して爆笑しかねないから』
クサいセリフを言っておけば簡単にオチると思い込んでる醜態を見て笑わない方がおかしい、と言うのが諒の見解だが、それを聞いていた三人は「古渓(くん)が爆笑……?」と不思議なものを見るような顔をした。万年無表情の諒に笑うという挙動ができるのかどうかさえ怪しまれているようだ。
玄関先で別れて食堂に屯していれば、暫くして出掛けるはずの三人が戻って来ていた。もう一人は完全に成り行きだろうが、写真がどうとか、翌朝の予定を話し込んでいた。内容によれば、帰るときばかりは別行動できないために諒と杏樹もその場に同席する算段になったらしい。その晩は、諸事情により移動になった部屋に泊まることになった。
翌朝、昨日行くはずだったレストランに道脇の車で向かったが、昨夜眠れなかった園子が車内で仮眠するというので、他のメンバーだけで食事することになった。
「それにしても、古渓君と言ったっけ。本当に園子ちゃんやこの子に想いを寄せたりしてないのかい?」
『普通に対象外だから』
「ほら、園子が言った通りでしょう?」
などとよく分からない会話をしながら、朝食にはいくらか重いフルコースをご馳走になる。だが、不意に見た窓の外で、園子を乗せた車がゆっくりと斜面を下り始めており、慌てて外へ駆け出した。後方の二人は店員に呼び止められて会計をしてからだが。その後から悠々と店を出た諒が追いつく頃には、一行が歩いて警察署に向かうと意思を固めたところだった。杏樹には遅いと小言を言われはしたが、飛び出して行ったところでできることは何も無かったからだと言えば、反論の余地はない。
線路沿いまで歩いたところで、先日からこちらを見張っていた男に尾行されているのに気付き、林の中に駆け込んだ。杏樹も続いてついて行ったのだが、諒は歩調を変えることなく、後をつけていた男が駆け抜けてから林に踏み入った。
『サンダルなのに靴下って、違和感やべーはずなのに誰も突っ込まなかったな』
一人そんなことを呟き、枝を踏まないように相変わらずのペースで雑木林を歩く。どこまで走っていったのやらと溜息をつきつつ、脇の線路を走り去る電車を見送った。奥の方に続いている道をカンを頼りに歩いていくと、ようやく見たことのある姿が見え、一先ず安堵する。場面としては、ナイフを持った男が園子に詰め寄っているところなのだが、これについては特に心配はしていない。颯爽と彼女を助け出すヒーローがいることを知っている。
『杏樹が見たがる訳だな』
蹴撃の貴公子、京極真。この世界における人類最強ではと思えるほどの強さである。ナイフをその身に受けながらも何の問題もなく道脇を蹴り飛ばした姿は、まさにパーフェクトヒーロー、吊り橋効果を抜きにしても惚れるしかない。
「すっげー……」
「これは間違いなく惚れる」
杏樹の空気の読まない発言はこの際放っておく。京極は園子の身を案じ、ストーカー呼ばわりされるのも承知の上で見守っていたそうだ。空手の試合会場で必死に蘭を応援する姿に心惹かれ、今回のように助ける形になったと言う。ついでに園子の今の服装にも忠告しつつ、さらりと想いを告げ、それさえも戯言として聞き流しても構わないと。ほんとに高三か、と疑いたくなるくらいにはよく口が回る男である。
『その腕、手当してけば』
「これですか……後でやりますよ」
『鈴木、お前がやってやれよ』
「えっ? っていうか古渓くん、応急グッズ持ち歩いてんの?」
『女子力』
全く表情筋の動いていない顔でそうVサインを向ける諒は相当奇妙な訳だが、何故か許されてしまうのである。その後手当てを通じていい雰囲気になる二人をこの小旅行の収穫として、地元へ帰還するのだった。
End