第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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夏本番を迎えて暫くした、久しぶりに雨が降った日。刑事が何者かに射殺される事件が発生した。その後、再び射殺体が発見され、二つの事件に共通することは警察が狙われているということ。そして犯人は警察関係者である可能性が高い、と言うのが、伝え聞いた話だ。
「杏樹ちゃんも蘭お姉さんのお見舞い行くよね」
家の電話にかかった歩美からの連絡によれば、今回の事件に巻き込まれた蘭が記憶を失ってしまったらしい。同じ連絡は諒にも園子から来ていたので、断る余地もない。翌日、教えられた米花薬師野病院に向かうことになった。
「私、吉田歩美! 灰原哀さんに、円谷光彦くん、小嶋元太くん、それから……」
病院内の広い庭で、子供達は記憶を失った蘭を見舞いに来ていた。何かのきっかけになればとメンバーの名前を教える歩美だが、もう一人の姿がまだ見えずにいた。
「歩美ちゃーん!」
「あ、来た! あの子が古渓杏樹ちゃん! その隣は杏樹ちゃんのお兄さんよ!」
遅れてきた杏樹に、元太が遅いと愚痴をこぼすが、この程度のことなら平謝りで通そう。
「ごめんて、バスの時間間違えちゃった」
『休日ダイヤなの忘れてた』
「意外とうっかりさんですよね、お兄さん!」
そんなやりとりを横目に、歩美は本題である蘭に人物関係を話した。彼女は見舞いに対しての感謝と、やはり誰のことも覚えていないと告げた。
「ごめんね……」
「そんなぁ……信じられません」
「あんなに遊んでくれたじゃんかよー」
こう、子供は純粋ゆえに時折心を折りかねない言葉を悪気なく言うのだと思う。
「ワシのことも覚えとらんか? 阿笠博士じゃ! ホレ、君の幼馴染みで同級生の工藤新一君の隣に住んどる天才発明家じゃよ」
「……工藤、新一……」
阿笠の事には思い当たらないようだが、工藤の名前には他の人物とは違う反応を見せた。覚えている訳では無かったのだが、それでも新たな手掛かりになるだろう。当の蘭は分からないと俯きがちになっていた。
「でも蘭ちゃん、覚えてない自分を責めたりしないでね?」
「え……?」
「記憶を無くすってことは、その直前の出来事に心が耐えきれなかったから。蘭ちゃんが自分を守るために忘れたんだと思う。だから無理に思い出すことも無いし、過去が無いなら未来を作ればいい。思い出だってこれから作っていけばいいしね」
「杏樹ちゃん……」
蘭が安堵したように笑ったのは、記憶をなくしてからこれが初めてだった。
「だからみんなも、蘭ちゃんが覚えてない事に悲しそうな顔しないで。記憶を無くした人にとって、そういう反応されるのが一番傷付くんだから」
忘れてしまった事に自責の念を抱く人もいる。それがストレスになり、思い出すのを恐れたり嫌になる可能性も十分考えられるし、何より人間不信にもなりかねない。記憶の無い自分は周囲に求められるその人にはなれないと、今の自分は必要ないと、閉じこもってしまってもおかしくないのだ。
実際に経験したかのような口振りをする杏樹に、コナンが思わず問い正そうと口を開いた。
「杏樹ちゃん……もしかして」
「推しの記憶喪失ネタは定番だよね!」
「やっぱり……」
『想像力逞しすぎて気持ち悪いよな』
実の妹を何の躊躇いもなく貶す諒にも、その内容を否定出来ない事実にも乾いた笑いしか出なかった。
『まぁ、無理に思い出そうと負荷をかけるのは得策じゃねーし、杏樹の言うことも間違いでは無いんじゃねーか?』
「そうだね……」
『それに思い出すきっかけとか、人生のほとんどを一緒に過ごしたお前の事くらいだろ』
「うん……え?」
下方から素っ頓狂な返答が聞こえたのでそちらを見下ろすと、コナンが非常に困惑した表情を浮かべていた。なるほどこれが絶望顔か、と余計なことを考える。しかしそんな顔をしていたら図星だと言っているようなものだ。灰原も焦りを含んだ険しい顔をしているので、何かもうこの二人隠す気があるのかないのか、とやや心配になってきた。
『あ、間違えた。坊主が工藤な訳ねーよな』
「そ、そうだよ、急におかしな事言うから僕びっくりしちゃった。あははは」
『似てるからつい』
「よく言われる、新一兄ちゃんとは親戚だから」
相変わらずの真顔のせいで本当に気付かれたと思ったことだろう。勘違いだと繕えば、簡単に安堵していた。実際は知っているのだが、これを明かすにはまだ面白くない。来る時までその嘘を暗黙の了解としておこう。
そんなやり取りをしていると、何者かがこちらを窺っている気配を感じ取った。おおよそこの事件の犯人だろうが、一般人ゆえ何も気付かない振りをした。
蘭の疲労を考え、面会も一区切りしたところで探偵団は博士の車で帰ることになった。諒は来た時と同じくバスに乗るつもりだったのだが、杏樹諸共子供達に捕まりなし崩し的に帰路を共にする事になった。
「ところでお兄さん、そろそろ名前教えてくださいよ!」
「そうだよ! もう何回も会ってるし、最初に言ってたもん、これからも会うようなら教えるって!」
『目敏いな……君のようなカンの良いガキは嫌いだよ』
「そこでボケるんじゃないよクソ童貞」
『いよいよをもって死ぬがよい』
「これこれ、喧嘩はよさんか……」
「ねぇ杏樹ちゃん、どーてーって何?」
「吉田さん、間違っても江戸川くんに聞いちゃダメよ。あなたも余計なこと言ってないで」
「ごめんて。あと兄ちゃんの名前なら諒だよ」
正規ルートを蹴飛ばして、杏樹が探偵団に知りたがっていた情報を伝えた。わざわざ名乗るのがかったるいと言う意思を会話の流れで汲み取っていたのだ。突然もたらされた回答に一瞬虚が生まれるが、素直に受け取った子供達は一様に諒の名前を口にした。
『そう何度も呼ばれても』
「まぁまぁ、子供は名前を呼び合うことに親しみを覚えるものじゃ。邪険にせんでやってくれんか」
『はぁ……まぁ留めておきます』
普通にいいことも言えるのか、と、最近の挙動からボケが始まっていそうだった阿笠にそんな感想を持った。その後、家まで送られるのは少しばかり躊躇われたので、用があるからと言って駅前で降ろしてもらい、探偵団一向と別れる。当然用事など何も無いのだが、疑うことを知らない彼らは明るく手を振った。
「それにしても、映画の時間軸がぶち込まれてくるなんて」
『それな。絶対別次元だと思ってた』
「これは後後に期待するしかないね」
『それはお腐れの話か?』
冷めきった視線を向けてやれば、杏樹はなんとも言えないにんまりとした笑みで無言の返答をよこした。何を考えているかというのは分からないでもないが、我が道を闊歩し過ぎではなかろうか。
「本能のままに生きようと思う」
『元からそうだろ』
「前は学業やらと仕事に阻まれてましたし」
確かに、杏樹が今のように道を踏み外したのは常に学業に追われる身になってから。その後バイトから正規職員になって仕事に就き、思いのままに没頭する時間が減ったのは事実だ。それが今や小学生という比較的自由の利く身空になって、実に生き生きとしている。気分を変える冒険も、周囲が勝手に持って来てくれるという訳だ。
『よし、買い出しして帰るか』
「なぜ今」
『何か腹立った。お前荷物持ちな』
「いたいけなロリになんてことを!」
『うっせー違法ババア』
「ある意味ではそうだけど何かちがくない?」
唐突に風当たりを強くしたが、荷物持ちと言っても軽いものをいくつか持たせるだけの良心設計である。ついでにこっそり買うつもりだったウイスキーを杏樹に気付かれた時は「えっバーボン買ってんの!? ライは!?」と、やや見当違いな驚愕をされたが、ライだときつい、と弱音を吐いておいた。
「って言うか飲んでたの?」
『既に一本空けてます』
「全然気づかなかったぞ」
『俺の隠蔽工作は達人級だともう忘れたか』
「そういやそうだった!」
実際年齢詐称して買っているのであまり誇れることではないが、杏樹がこの世界の中学生だった頃には既に家にはあった。隠れて晩酌するのは習慣になってしまった訳だが、この際オープンでいいだろう。もちろん家の外では口外できないが、これは例の知識と同等に扱えばいいだけのことだ。
酒を買えると言う事実に希望を見出した杏樹は、次はフォーギヴンを買って来ないかと所望した。
その三日後の夜、例の事件の解決と共に蘭の記憶も戻ったと言う連絡が舞い込んだ。
End