第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どういう事だ、これは。そんな思考を全面的に出した不機嫌な顔で、前の座席に居座る妹を見下ろした。博士が風邪で使い物にならないから誰か引率者を連れてきてくれと頼まれたらしいが、まさかそれを引き受けてくるとは。おかげでスキーに出かけるという探偵団に付き合わされることになってしまった。バスでそんな場所に出かけるとあれば、思いつく案件は一つだけ。バスジャックの文字が脳裏に駆け巡った。
『降りてぇ……』
よもや事件が起きるのを予期しているから降りたいなどと少年探偵の耳にいれる訳にもいかず、走行音にかき消される程度に小さく呟いた。
程なくして見知った顔が乗車し、偶然の鉢合わせに楽しげな雰囲気に包まれる中、その時はやってきた。こんな街中からスキーウェアを着込んだ二人組の男が乗車口でごそごそやっていると思ったら、掲げられた拳銃と高らかに発せられたハイジャック宣言。やっぱりな、と肩を落とす以外にやることが無かった。
──と言うかこの時の赤井さんめっちゃ怪しい人だよな。
隣に座った、時折咳をしている男を横目で見つつ、バスジャック犯の前口上を聞き流した。
「おいお前! さっさと携帯を出せ!」
『……あ、俺?』
「他に誰がいるってんだ? さっさとしねぇか!」
『勘弁してくんねーか、まだ引継ぎ設定やってねぇから万が一壊れたらすっげー困る……目の前で電源切って絶対出さないから』
「んなモン知るかよ」
『俺の席ならアンタらもバックミラーで監視できるだろ?』
そう言うと男は納得したのか、パワーオフにした際の画面を確認すると引き下がった。その後も隣に座る乗客にも携帯を出せと迫ったり、老人の補聴器や女が噛んでいるガムに苛つくような素振りを見せ、随分荒い気性を表立たせていた。彼はハイジャック宣言時と今し方発砲しており、なかなかに危機的状況なのだろうが、諒にはどうもその危機感が薄い。乗り合わせている名探偵の存在が、解決する以外の可能性はないと指し示しているようで。
都内を宛もなく走るバスに揺られて一時間ほど経過しただろうか。その間、二度ほどコナンがバスジャック犯に睨みを訊かされていた。彼らの仲間は警察の手から逃れ仰せたと連絡を入れ、バスの行き先はトンネルの方に切り替わる。どうやら先ほど話していた人質の開放を、自分達で演じようということだろう。諒の隣の男と、二つ前の新出医師が犯人役に呼ばれ、スキーウェアを着させられた。勿論他の乗客が偽装に利用された二人の無実を知っているが、それを証言できるのは生きて脱出できればの話だ。座席通路の間に置かれた二つのスキーバッグは間違いなく爆弾。銃の弾丸が逸れて当たったらまずいと話していたことからもそれは明らかだ。
そしてこの暗闇に乗じて、探偵団が動き出した。
『さて』
前方から見えないよう座席の影に入り、携帯の電源を入れた。起動が遅いのがやや難点だが、間に合うはずだ。以前、杏樹がコナンの携帯からパクってきたと言う、何人かの警察関係者の連絡先からバスのすぐ後ろに張り付いている人物を探し出し、コールを鳴らす。バスジャック犯は計画の成功を確信しているため、後部座席に俺の姿が見えなくなったところで気にも止めないだろう。数コール後、忙しそうな雰囲気で電話が繋がった。
「誰?」
『ジャックされたバスの乗客です。トンネルを抜けた辺りでこっちは急停止すると思いますが、それから間もなく積み込まれた爆弾が爆発するでしょうから、追跡中の車に退避するようにと。あと一般車も足止めしてくれると被害は最小かと』
「ちょ、ちょっと待って。何でそんなことが……!」
分かるのか、そう聞こうとした女の声は、短い機械音でシャットアウトした。退避を命じられてからものの数秒で爆風を浴びないところまで車を走らせるのは、いくらか無理があるだろう。
『問題は……』
誰もが逃げ出す中、バスに留まるであろう少女をどうするかだ。記憶にあるような救出劇が本当に可能なのか。
「兄ちゃん」
潜めた声を発したのは、前に座っていたはずの杏樹だ。トンネル内での計画は子供たちと阿笠しか伝えられていないのだから、老人の隣に移動した歩美を確認すれば杏樹がここにいるのも合点が行った。
『ちょうど良かった。お前、外に出る時灰原どうする?』
「……皆、自分が逃げるので精一杯な場面で、気にしてあげられる余裕は普通の人ならないよ。兄ちゃんはそのまま逃げて。あたしが途中で戻る」
『脱出できる確証は』
「無い。でも何とかなる、なってくれなきゃ困るよ」
それもそうだ。ここで誰かが死ぬことが、未来が変わるようなことがあってはならないのだから。
やがてバスはトンネルを抜け、掲げられたスキーバッグに書かれた鏡文字のSTOPを視認した運転手が急ブレーキをかける。状況把握の遅れた犯人達は、コナンや新出、ジョディによって取り押さえられた。だが、捕らえられた犯人の女が青ざめた顔で放った言葉に、乗客は騒然となる。
「今の衝撃で起爆装置のスイッチ入っちゃって、あと30秒で爆発しちゃう!」
開いたドアから飛び出し、なるべく離れた場所まで走り出す。このバスを追跡していた警察も十分距離をとっているし、問題ないだろう。向こうとしては半信半疑だろうが、今はそれよりも車内に意図的に残った少女の方だ。
「コナンくん! 哀ちゃんが来てない!」
「何!? あいつ、まさか!」
バスの昇降口から叫んだ杏樹と、それに瞬時に踵を返すコナンを見送る。そんな二人に気付いた探偵団は驚き、同時に自分のことのように恐怖し心配そうな表情をした。
『大丈夫だ、あいつらなら』
「杏樹ちゃんのお兄さん……!でも、もう時間が……!」
残り2秒もない。バス後方のガラスが弾けた後、小さな人影が三つ、爆発の直前に飛び出した。妙にうまく立ち回る妹に不覚にも感服しながら、姫を救い出した勇者を讃えるような心持ちで迎えに行った。
流れに続いてバスを降りた後、杏樹は赤フードを被った灰原の姿が見えないとコナンに叫び、車内に戻った。必死そうに見せるのは昔から得意分野、よもやこの状況になると知っていたなどと思われるはずもない。
「なにしてるの、哀ちゃん!」
「え……あなた、どうして」
「早く逃げないと死んじゃうでしょ!? 哀ちゃんがいなくなったらあたし泣くよ! みんなだってそう! ほら逃げるよ!」
彼女の腕を引くと同時に、一発の銃弾が後方の窓ガラスを破った。それをした人物は何も言わず、灰原のもう片方の腕を引いて走り出す。杏樹はタイミングを見越して手を離し、二人に続いて駆け出し、バスから脱出した。
「ギリギリだったのか……」
炎上するバスを振り返り、思わず呟いた。コナンは灰原が地面に叩きつけられないように庇っていたため、いくらか怪我をしているはずだ。
「コナン君!」
「高木刑事、この子怪我してんだ。博士やみんなと一緒に病院に連れてって! 事情聴取は僕一人で受けるからさ」
駆け寄ってきた子供たちと共に車に乗せられる灰原に、コナンは当人達にしか到底理解し合えない言葉をかけていた。後に彼女の行動理念となりうる言葉を。
「君も、早く乗りなさい」
「あたしはコナンくんと残るよ」
「え?」
「だって狭いじゃん。あたしは兄ちゃんもいるし」
これでうまく言いくるめられてくれた高木は、そのまま車を走らせて行く。
『無茶二人組』
「あ、兄ちゃん」
「諒兄ちゃん……、無茶はそっちだと思うよ。銃を持った相手に真正面から交渉してるんだから」
『あーあれ、犯人に持ってかれたまま携帯壊れたらやり込んでるゲームデータがパァになるからマジで切実だっただけだ。課金してるから余計に』
度胸の座り方がおかしい、とコナンがなんとも言えない表情を浮かべると、ジョディが彼に声をかける。なぜ三人目の犯人が分かったのか、という話らしいが、諒は杏樹を残して乗客を誘導する刑事らの方に足を向けた。
End