第一部
name change
name change後退トリップ(25→16)男主
根っからのゲーオタ。父親はライトアニオタで母親は元レイヤー、姉と妹は腐女子というハイブリッド家族。姉は界隈では有名絵師だとかなんとか。妹のCP談義にも付き合える教養(違う)の持ち主。
(デフォルト:古渓 諒(こたに りょう))
※妹も後退トリップしてキャラに絡み出します。
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事件発生から程なくして犯人は特定され、警察のお縄についた。どれだけ憎むべき相手でも、人の命を奪って許される世界はここには無いということだ。通報者として足止めされていた諒もようやく解放され、杏樹を連れてさっさと帰ってしまおうと目論んだのだが、小さな名探偵によってタダでとは行かなくなってしまった。
その理由については心当たりが無きにしも非ず。恐らく、名探偵が警察を呼べと周囲に伝える前に通報していたせいだろう。それが重複しないように声をかけたことでその場に拘束されることになったのだが、離れたキャッチャーのエリアに居て被害者の生死など分からなかった諒が、なぜ殺人事件と断定できたのかと勘繰っていることだろう。
「でも古渓くんもこのゲーセンに来てたなんてびっくりよねー」
『入荷してたからな、新しいやつ』
「杏樹ちゃんが持ってるやつね。前にもこのうさぎのぬいぐるみ取ってなかった?」
去年の話だというのに、馬鹿にならない記憶力である。蘭は気になっていた妹の存在を知り、勝手にプレゼントに取っていたと解釈しているようだがわざわざ自分の趣味だと訂正するのも億劫なのでそういう事にしておく。
「クレーンゲーム得意なお兄ちゃんがいて良かったね杏樹ちゃん」
「これあたしのじゃないよ。兄ちゃんの趣味」
『おいサラッと兄を売るな妹よ』
「え! 古渓くんってほんとに可愛い系好きなの?」
『可愛いは正義』
「作れるけど」
『こら』
しかしこれぐらいの事バレたところで大した問題ではないのだが。園子が小声で「このギャップが知れ渡れば更に人気出ちゃうわね……」などと呟いているのは当然諒にも聞こえていた訳で、妹に献上してるってことにしといてくれ、と1ミリも下げていない頭でこの通りと頼んだ。
「ははーんどうしよっかなー」
「ちょっと園子……」
悪巧みをするお嬢様はタダでは聞き入れてくれないらしい。蘭はそんな意地悪く企む園子を咎めようとするが、彼女にそれは届いていないようだ。
「じゃあ、今度から私たちの誘いには乗ってもらおうじゃない!」
『……やめてください死んでしまいます』
「なーに言ってんのよ! 去年から私らの誘いは尽く断ってくれちゃってさー、友達としてたまには誘われてくれても良いじゃない、ねぇ蘭!」
「うーん……でも古渓くんだって事情があるんだし……」
どうやら妹がいるからというのを汲んでいるようだ。聖人君子か。ならばそれで押し通してやろう、と杏樹の実年齢をスルーして答えようとするものの、妙に冴えたお嬢様はそれでは納得しないらしい。
「杏樹ちゃんならこの眼鏡のガキンチョと一緒に居たらいいじゃない。二人ともおじさまに任せちゃってさ」
「あ、そっか」
『待って本人の意思は』
「あたしはいいよー」
『おいやめろフラグ建築士』
「じゃあ僕、蘭姉ちゃん達が出かける時は杏樹ちゃんと博士のとこ行ってれば良いんだね」
「よく分かってんじゃない!」
外堀を埋められるとはこういう事かと、あっさりと売ってくれやがった杏樹を渋い顔で見下ろした。牧場から売られていく羊の気分になりながら流されるままに条約を結ぶことになった。理不尽である。
「そういう訳だから、夏休みの予定開けときなさいよ!」
『えー……』
夏の予定はほぼ決まっている、と言いたいところだが、実のところ予期していたイベントは去年は訪れなかった。姉からは依然として連絡は無く、もちろん原稿デッドレースでもなかった。参加した本戦でも姉のサークルを見つけるには至らず、まさかあのお腐れ様が脱オタでも果たしたのかと不信感を抱いたものだ。結果的に暇なだけの夏を過ごしていた。この世界での姉がどこで何をしているのかはよく知らないから、と言うのもあるのだろうか。などと現実逃避している間に、夏の一時の計画に組み込まれてしまったのだった。
梅雨入りを迎えたは良いが、何やら天気が異常を来しているようで、爆弾低気圧と相まって真冬のような寒さに戻りつつあった。更にそんな中、季節外れの雪まで降り出したとあっては観測史上初のことだ。世の中はとうにしまい込んだ冬物を引っ張り出すハメになり、雪によって交通網は簡単に乱れ、散々な都心である。
「見てみて! また降り出したよ、雪!」
とまぁこの天気を無邪気に喜んでいられるのは若い証拠とでも言うべきか。帰り支度も済んだにも関わらず窓辺に佇んでいた歩美は、弾んだ声で仲間に声をかけていた。その声に誘われ同じく窓辺に駆け寄る少年達もその光景にはしゃいでいた。
「雪かぁ……そういえばかき氷のシロップかけて食べたことあったなぁ」
「何してんだよ杏樹ちゃん…」
コナンは呆れた様子で杏樹の突拍子もない思い出を聞き流した。歩美はまだ距離を感じる灰原にも声をかけるが、彼女の反応は薄い。優れない顔色を心配し触れようとすると反射的に振り払われた。
「灰原さん……?」
困惑する空気をどうにかするべく、杏樹は彼女に歩み寄り口を開いた。
「どうしたの哀ちゃん、めっちゃイライラしてるけど、生理?」
「……そんな訳ないでしょう」
風邪気味で気が立っていただけだと続け、不穏な空気は過ぎ去った。杏樹はと言えば、この灰原哀の言動や雪の降る景色になにか心当たりを覚えていたのだが、それを特定するには至らず神妙な顔をする。ただ、黒い影が密かに迫り来るような、そんな胸騒ぎだけを感じていた。もしやそのままの意味の出来事か、そんな考えに行き着くと、答えは自ずと弾き出された。隣町のホテルで繰り広げられる、表舞台に立てない者達の攻防。断片的な記憶しか残っていない杏樹にはどうすることもできないのだが、ただ記憶にある通りに事が済むのを祈るばかりだ。
雪景色に浮かび上がるような黒い外車。ポルシェであることは間違いなく、それより目の前で行われた車内侵入に愕然とする。一目撃者であるものの、止めさせることは出来ない案件かつ素通りするのも不自然だ。仕方なく近くの路地に引っ込み、小さな侵入者が証拠を消して出てくるのを待って路上に戻った。それにしても、随分と年季が入っているものだ。何年乗り回しているのだろうかとどうでもいいことを考えながら、艶のある黒に包まれた車体を見下ろした。
「こいつに何の用だ」
腸が引き攣るような低い声に、諒は緩く頭を擡げ声の主を見やる。危険な人物だという知識を一旦忘却し、ただの車の持ち主との遭遇を装った。
『あぁ、あんたの車か。いや何、珍しいのが停まってたんで眺めてただけだ。まぁ、見られるのが不快なら、こんな表通りに路駐しないことをお勧めするけど』
諒が付け加えた一言が全くもってその通りなのか、彼らは何も言わずポルシェに乗り込み、その場を去った。さすがにこんな大通りで銃を扱うのは悪目立ちするだろうから、何も手を下さなかったとみえる。
「諒兄ちゃん」
聞き覚えのある声に振り向いてしまったのが運の尽きか、事件を呼び込む名探偵様がいらっしゃった。車の裏とか、最新の車だったら探知されて見つかってるだろと心の内で呆れておくが、子供らしさの欠片もない険しい顔で何を普通に会話してるんだと憤るコナンの姿は怪しさしかない。
『なに、危ない奴らなの? さっきの』
そう問えば、存在すら知らない一般人にその存在を明かしてしまったというミスにハッとする。向こうもただの一般人を無闇に殺す訳でもないだろうと思っていたのは事実だが、必死に子供じみた弁明をする少年探偵が可哀想なので、丸め込まれた振りをしておこう。
あの場で本当のことを言われない限り、彼の中の巻き込めない人物の枠に入れられていると言うことになる。杏樹ならここで面白くないと言うのだろうが、生憎保身を基本方針にする諒には十分だ。内部事情に加わるのもいいが、知らない振りをして外側から眺めておくのも今のところ可能な訳で、傍観に徹することにした。
End