デッドエンドランド
煌びやかな遊園地。
浮遊していた自分だけど自分でない身体が地について、回転木馬からの視線に気づくのに一呼吸ぶんの余白。質量のない足音と存在感からの質量が畏怖へと変わると、身体は支えをなくした螺旋のように頽れた。
いつもの休日、いつもの場所。そんな幾重の『いつもの』をいつも通りに過ごしていたはずの僕の身体は、いつも通りに青信号を渡ろうとして、宙を舞ったのだ。
大型トラックの危険運転であえなく死亡した僕の意識は、永夜ののち、この奇妙な遊園地で目を覚ます。
足音の終着点。すなわち僕の前でとまった人物に、顔を弄ばれる。イタズラにしては心地のよい手指に意識が朦朧としてしまう。
『キャスト』と呼ばれる彼らは、この遊園地で死者を出迎える役目を負っているらしかった。そのためなのか時たまこうして顔色をうかがいにきては、近くのアトラクションまで手を引かれて、乗せられて見送られる。
彼らは決して僕たちと同じアトラクションに乗ることはなかった。大抵、僕と同じ境遇の者たちかキャストだけで乗っている。それに気づいたのは4度目に手を引かれたときだった。
天に近くなった声音でおそるおそる手を引いているキャストに問うも、妖艶な笑みとともに手を振られるだけで返事はなかった。ただその表情には、これまで見せなかった悲哀が少しだけ浮いていた気がする。
ひとつアトラクションに乗っては奥へ、奥へと遊園地を進んでいく。そう決められているのか、順路を進むにつれてキャストたちが現れる頻度も増えていった。
最後のアトラクションから降りると目の前に巨大なテントが現れ、促されるまま幕をくぐる。サーカスのような内装に心躍って早足に席へ向かうほかの子たち同様、僕も自分の席へと急いだ。どんな演目が披露されるのだろうと、逸る気持ちをよそに、舞台の幕は緩やかに開かれた。
綱渡り、ブランコ、火の輪くぐり、様々な曲芸。目を輝かせてそれらを見ていた。前のめりになってクマやライオンを追ったし、投げられたバラを手をいっぱいにのばして受け取った。
数多の光が降り注ぎ、会場が最高潮に達したところで、僕はふと我にかえる。自分の身体が淡く光を放っているのだ。周りにいる子たちも同じように光っているのだが、それに気づいているのは僕だけ。うす暗くなった会場内でその光は拡散していき、ひとり、またひとりと透けては消えていく。そこに苦しみや恐怖といった感情はなく、遊園地で満足のいくまで楽しんだ子どものような笑みをみな浮かべている。
僕も消えていく身体にさほど恐れはなかった。このまま座っていれば、あの子たちとともに安らかにいけるのだろう。目を閉じる前に見上げた先、回転木馬にいたキャストと目があった気がした。
浮遊していた自分だけど自分でない身体が地について、回転木馬からの視線に気づくのに一呼吸ぶんの余白。質量のない足音と存在感からの質量が畏怖へと変わると、身体は支えをなくした螺旋のように頽れた。
いつもの休日、いつもの場所。そんな幾重の『いつもの』をいつも通りに過ごしていたはずの僕の身体は、いつも通りに青信号を渡ろうとして、宙を舞ったのだ。
大型トラックの危険運転であえなく死亡した僕の意識は、永夜ののち、この奇妙な遊園地で目を覚ます。
足音の終着点。すなわち僕の前でとまった人物に、顔を弄ばれる。イタズラにしては心地のよい手指に意識が朦朧としてしまう。
『キャスト』と呼ばれる彼らは、この遊園地で死者を出迎える役目を負っているらしかった。そのためなのか時たまこうして顔色をうかがいにきては、近くのアトラクションまで手を引かれて、乗せられて見送られる。
彼らは決して僕たちと同じアトラクションに乗ることはなかった。大抵、僕と同じ境遇の者たちかキャストだけで乗っている。それに気づいたのは4度目に手を引かれたときだった。
天に近くなった声音でおそるおそる手を引いているキャストに問うも、妖艶な笑みとともに手を振られるだけで返事はなかった。ただその表情には、これまで見せなかった悲哀が少しだけ浮いていた気がする。
ひとつアトラクションに乗っては奥へ、奥へと遊園地を進んでいく。そう決められているのか、順路を進むにつれてキャストたちが現れる頻度も増えていった。
最後のアトラクションから降りると目の前に巨大なテントが現れ、促されるまま幕をくぐる。サーカスのような内装に心躍って早足に席へ向かうほかの子たち同様、僕も自分の席へと急いだ。どんな演目が披露されるのだろうと、逸る気持ちをよそに、舞台の幕は緩やかに開かれた。
綱渡り、ブランコ、火の輪くぐり、様々な曲芸。目を輝かせてそれらを見ていた。前のめりになってクマやライオンを追ったし、投げられたバラを手をいっぱいにのばして受け取った。
数多の光が降り注ぎ、会場が最高潮に達したところで、僕はふと我にかえる。自分の身体が淡く光を放っているのだ。周りにいる子たちも同じように光っているのだが、それに気づいているのは僕だけ。うす暗くなった会場内でその光は拡散していき、ひとり、またひとりと透けては消えていく。そこに苦しみや恐怖といった感情はなく、遊園地で満足のいくまで楽しんだ子どものような笑みをみな浮かべている。
僕も消えていく身体にさほど恐れはなかった。このまま座っていれば、あの子たちとともに安らかにいけるのだろう。目を閉じる前に見上げた先、回転木馬にいたキャストと目があった気がした。