梅花雪花

 凛とした空気、澄んだ音色。
 水辺か、はたまた寺社のようなものか。
 結界のように異世界じみた光景の中で、季節外れに降る雪の冷たさと蕾を開きつつある花の暖かさを、もう何度と繰り返し過ごしていた。
 嫋やかな舞踊と神楽鈴はか弱き一柱の神によるもので、春を告げ、季節の移ろいを促すためのもの。しかしどんなに舞い踊ろうとも、ここ一帯の季節は移ろいきらず、その狭間に留まっていた。

 ことのあらましは、舞が捧げられるこの神聖な領域に自分が落ちてきてしまい、儀式の妨げとなったこと。満身創痍の私に驚いた神は舞を忘れて一心に介抱してくれたが、逃してしまった春の兆しは戻ることなく過ぎ去ってしまう。
 そうとも知らない私は、動けるようになると夢中で反物を織りあげては、舞を踊る神への捧げ物とした。
 羽衣のように軽く、雪のように真っ白な反物。神はそれをいたく気に入ってくれたようで、申し訳なさそうにしながらも受け取り、部屋の隅にある箪笥へと大事に大事に仕舞われた。

 曇の晴れきらない空へは飛び立てず、かといってここが居心地の悪いわけではない。それほどまでに神との交流は得難いものであった。
 けれどいつかは北へ飛び去らねばならない。これ以上はいけないと、今織っている反物を最後にしようと何度思ったことか。そのいつかはとうに過ぎているのに、どうしてもあの神を一柱にすることができずにいた。

 そんな想いを断ち切るため、かの神が舞を踊る合間に飛び立つことにする。飛び立つ羽音に気づいた神は最初、寂しさをたたえた顔をしていたが、すぐに満面の笑みを浮かべてそれを見送った。


1/2ページ
スキ