番外編
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ピロン♪
携帯の通知を知らせる軽快な音が上鳴電気の自室に響いた。
上鳴は思わずベッドの上で正座をし、平時よりも早い速度で脈打つ心臓を少しでも落ち着かせる為にゆっくりと深呼吸をする。そしてわずかに震えている指でチャットアプリを起動し...
「ぃよっしゃあああ!!!」
全力でガッツポーズをした。
***
入学してから数週間、クラスで一人浮いた存在だった甦世風治烏は敵 によるUSJ襲撃事件をキッカケにようやくクラスに馴染むことが出来た。
容姿の良い治烏のことが前々から気になっていた上鳴は治烏と仲良くなるべくさっそく声をかける。
「甦世風、今度飯食いに行かね?」
最早お馴染みになりつつある誘い文句である。
仲良くなるにはとりあえず一緒に飯を食いに行くのが1番!そこから少しずつ距離を縮めていきあわよくば....と考えている上鳴だが、そんな下心がバレているのか、今のところ雄英女子には誰にも相手にされたことがなかった。
しかし甦世風ならワンチャンあるかもしれない...!と上鳴は密かに期待していた。
一見高嶺の花に見える治烏は入学当初は迂闊に話しかけることも出来ないくらい人を寄せつけないオーラを放っていたが、一度懐に入ってしまうと案外人懐っこいようで、クラスの他の女子達と違い誘ったら普通にOKしてくれそうな雰囲気である。
上鳴の期待を裏切ることなく治烏は瞳を輝かせて嬉しそうに「ご飯!行きたい!」と簡単にOKしてくれた。
「いつ行く?」ととても乗り気の治烏に「じゃあ今日の放課後とかどうよ?美味いパスタ屋さん知ってんだ」と提案してみる。
「パスタ...!私麺類大好きなの。楽しみ〜!」
先程よりも更に瞳を輝かせる治烏を見て上鳴はニヤケそうになるのを必死で堪える。
甦世風ならワンチャン...とは思っていたものの、こんなに食いついてくれるとは正直思わなかった。もしかして甦世風って俺に気があるんじゃ...?とすら思ったのも束の間
「百ちゃん百ちゃん!今日の放課後お暇かな?上鳴くんが美味しいパスタ屋さん知ってるんだって!一緒に行かない?」
「まぁ、良いですわね。是非ご一緒したいですわ!」
「なになに、パスタ食べに行くの?私も行きたいー!」
「私もー!」
「わーい皆で行こう!」
自分を置き去りにして勝手に盛り上がる女子達に唖然とする上鳴。妙に乗り気だと思ったらそういうことかよ...と、ガッカリ肩を落とす上鳴の様子に気付かず、治烏は「放課後お友達とご飯行くの夢だったんだぁ!楽しみだね、上鳴くん!」と嬉しそうに笑った。
そんな顔をされては悪い気がしない。
甦世風と2人きりじゃないのは残念だけどハーレムもなかなか美味しくね?!とポジティブに考えることにした。
...しかし上鳴の考えは甘かった。
いざ放課後になってみると何故か切島、瀬呂、緑谷、飯田までもがメンバーに加わっていたのだ。
そんな大所帯で1つのテーブルを囲めるわけもなく、店では男女に分かれて座ることとなってしまった。
無言で恨めしい視線を女子達に送っていると、それに気付いた耳郎にニヤリと笑われる。「(あんたの考えなんてお見通しだよ)」と言われているようで腹が立った。
結局その日はそのままむさ苦しい男共に囲まれてパスタを食べただけでお開きとなった。
***
家に帰宅した上鳴は「こんなのノーカンだ!今度こそ甦世風と飯行ってやる...!」と闘志を燃やしていた。
ちょうど治烏から個別メッセージで
『パスタとっても美味しかったね✨今日は誘ってくれて本当にありがとう!』
と可愛らしいメッセージが届いたので勢いで返事を打つ。
『気に入ってくれたならよかった!』
『でもあんまり甦世風と話せなかったし今度は2人で飯行かね?』
これなら耳郎達に邪魔されることなく甦世風と飯に行けるはずだ。どーだ、やってやったぞ!と最初は高揚していた上鳴だったが、時間が経つにつれて段々と冷静さを取り戻した。
流石にがっつきすぎか...?
ここまであからさまだと鈍感そうな甦世風にも流石に警戒されてしまうかもしれない。これでは「デートしてください」と言っているようなものだ。いや、言ってるんだけども。
なかなか付かない既読の文字に冷や汗がじんわりと滲んでくる。
少しでも落ち着く為に部屋着に着替えたり普段はあまりやらないストレッチをしてみたりと別のことで気を紛らわそうとするも、携帯が気になってしょうがなかった。
そして冒頭へと至る。
治烏から送られてきた返事は
『ぜひぜひ!じゃあ今度は私が行きたいお店でも大丈夫?
ちょうど雑誌に載ってたお店が一人だと行きづらくて困ってたの』
というものだった。
これはマジで脈アリなんじゃないだろうか...?!甦世風が行きたいと思ってたお店って何処だろう。
一人だと行きづらいってことは周りがカップルだらけのお店とか?!
上鳴は枕を抱えてベッドに転がりながら治烏とのデートに想いを馳せる。
「1人だとなかなか来られないところだから上鳴くんが一緒に来てくれて嬉しいっ
これずっと食べてみたいと思ってたんだぁ!」
そう言って以前は轟にしか向けられていなかった輝く笑顔を自分に向けてくれる治烏の姿を妄想して上鳴は「良い!!!」と更にテンションを上げた。
***
待ちに待ったデート当日。
上鳴は先日の失敗を踏まえ、放課後ではなく休日に約束を取り付けた。これで誰にも邪魔されることはないだろう。
休日なら映画やショッピングなど、よりデートらしいことが出来るんじゃね?と少し期待した上鳴だったが、治烏は病院の手伝いやら特訓やらで多忙らしく本当にご飯を食べに行くだけの時間しか会えないとのことだった。
残念だが仕方がない。休日に2人で出かけたという事実が一番重要だ。と割り切ることにした。
上鳴は念のため集合時間30分前に待ち合わせ場所に着き、治烏が来るのを落ち着かない心地で待った。
治烏が待ち合わせ場所に到着したのは集合時間の10分ほど前だった。
少し離れたところから上鳴の姿を発見した治烏はそこから小走りで近づく。
「ご、ごめん上鳴くん!待たせちゃった?」
「いや、オレも今きたとこ」
このやりとり、なんだかデートっぽい...!と上鳴は内心感動した。
改めて治烏の服装を確認するとVネックのシャツにロングカーディガンを羽織り、ショートパンツと黒タイツにショートブーツというスタイルだった。
ヒーロースーツもショートパンツだったし、甦世風って意外とパンツスタイルが好きなのかもしれないなと上鳴は分析する。
シンプルだし露出もほとんど無いが、元が美人ということもあり極上に可愛い。こんな子とデート出来るなんて幸せだなぁと自然と表情筋が緩んだ。
しかし一つ気になることがある。治烏の大きな瞳と上鳴を隔てる薄いガラス。それは以前にも一度かけている姿を目にしたことがあった。
「甦世風って目悪かったん?」
「うぅん、視力は良い方だよ。これはね、変装!」
治烏は気持ちドヤ顔で眼鏡をクイっと上げた。
その様子を上鳴はポカンと見つめる。
「やっぱり変装といえば眼鏡と帽子だよねっ」
嬉しそうに語る治烏に上鳴は思わず「いやいやいや」とツッコミたくなった。
変装の為に眼鏡と帽子をつけるのは顔を隠す為だ。しかし治烏の被っている帽子はベレー帽なのでツバが無く、顔が全く隠れていない。そんな状態で眼鏡をかけたところでただのオシャレさんだ。
指摘してやろうと口を開きかけたが、せっかくのデートで顔を隠されてしまうのも勿体無いので上鳴は敢えてスルーを決め込むことにした。
しばらく他愛のない会話を交わしながら歩いたところで不意に治烏は足を止める。
「あっここだ!」
「へ...?ここ........??」
「うん!上鳴くん、早く並ぼう!」
嬉しそうに駆け出す治烏に連れられて列の最後尾に並ぶ。流石雑誌に載るだけあって行列が出来るほど賑わっているらしい。
そして同時に治烏一人だと来づらい理由も理解出来た。並んでいる客層。それは上鳴が想像していたようなカップル達ではなく、9割が男性だった。
「ここの豚骨ラーメン、口コミサイトでも常に高評価ですっごく美味しいんだって!楽しみだねぇ」
麺類好きとは聞いていたがまさかのチョイスに上鳴は激しく動揺した。
そんな上鳴の様子に気付くことなく治烏はこの店のラーメンについて熱く語り出す。
あまりに熱心に語るので上鳴は思考を止め、菩薩のような顔で相槌を打つのに徹した。
結構な行列だったが回転率が良く、並び始めてから30分ほどで店内に入ることができた。
並んでいる最中に注文を聞かれていたので店内に入るとすぐにラーメンが運ばれてくる。
上鳴はスタンダードな豚骨ラーメン、治烏は超特盛野菜マシマシ豚骨ラーメン。
治烏の前に置かれた通常の倍はあるどんぶりと山のように盛られた野菜にドン引きしている上鳴をよそに、治烏は瞳を輝かせながら素早く写真を1枚撮ると「いただきます」と両手を合わせた。
そして野菜の山に箸を伸ばしたところでようやく上鳴がフリーズしていることに気づく。
「あれ、どうしたの?上鳴くん。早く食べないとラーメン伸びちゃうしお店のご迷惑になっちゃうよ」
「お、おう...」
ツッコミが追いつかない。色々と言いたいことはあるがモヤモヤはラーメンと共に飲み込むことにした。最早ヤケである。
上鳴は勢いよくラーメンを啜った。
「!う、うめぇ!」
「良かったぁ!それじゃ私も...あぅ、眼鏡が曇って見えない...」
「食事中は外した方がいいんじゃね?(付けてても意味ないし...)」
「それもそうだね」と言い眼鏡を外して今度こそラーメンに手をつけた治烏は先程の上鳴と同じく瞳を輝かせ「んまぁい!」と破顔した。
***
「はぁ〜美味しかったねぇ」
「さすが行列が出来るだけあるな」
「1人だとなかなか来られないところだから上鳴くんが一緒に来てくれてよかったよ。本当にありがとね!」
いつかの妄想のように以前は轟にしか向けられていなかった輝く笑顔を自分に向けてくれる治烏に上鳴は心が穏やかになった。
治烏の正直知りたくなかった意外な一面を今日だけで沢山知ることになり、天使なイメージはズタズタに壊されたが、入学初期やテレビでよく見ていたお人形のような無表情よりもこの嬉しそうな笑顔の方が魅力的だと上鳴は思った。
「また一緒に飯食いに行こうな!」
「うん!次はどのラーメン屋さんに行こっか」
「ラーメンは固定なのかよ?!」
「え、ラーメン...嫌......?」
「〜〜ッ!よし、次はオレがもっと美味しいラーメン屋さん見つけてやるから楽しみにしとけよ!」
「やったぁ!楽しみにするする!」
------------------
◆オマケ(上鳴視点)
「上鳴、お前甦世風と二人で飯食いに行ったらしいじゃねぇか...」
甦世風とラーメンを食べに行った翌日、学校に登校すると早速二人で飯を食いに行ったことがクラス中にバレていて物凄い形相の峰田に「抜け駆けしやがって...」と絡まれた。
「治烏ちゃんあんまり男子にホイホイ付いて行ったらダメだよー?変なことされなかった?」
少し離れたところで芦戸が甦世風に注意している。人をケダモノみたいに言いやがって。失礼な!
「上鳴くんだってヒーロー志望なんだよ?変なことなんてするわけないよ〜。また行こうねってもう約束しちゃったし!」
「その油断が命取りなんだよ...。もう約束しちゃったならしょうがないけど今後は...特に峰田とかとは絶対に二人になっちゃダメだからね」
「?うん、わかった」
「んだと芦戸コラー!」
自分の悪口を聞きつけた峰田は素早く芦戸を威嚇した。
それにしても甦世風に信頼されているのは嬉しいけど下心があった身としてはギクリとしてしまう。
「甦世風、また行くなら今度はオイラも仲間に入れてくれよォ!二人きりじゃないなら良いだろ?!」
「ケダモノ2人とか余計心配だわ!治烏ちゃん、それならまた皆誘って行こう?」
「うーん...」
甦世風は少し考えて「皆ともまたご飯行きたいから別途で行こう」と提案した。
そりゃ大人数でラーメン屋さんは行けないわな。と、事情を知っているオレは苦笑いになったが峰田と芦戸は「上鳴とは二人で行きたいの?!」と驚愕する。
それに甦世風は「うん!」と笑顔で肯定するもんだから二人は更に驚き、顔を見合わせた。
実際二人が想像しているような甘い展開はコレっぽっちも無いけれど、こんな優越感を味わえるならラーメン屋巡りも良いかもな、なんて思った。
次は何処のお店にしようか。またこの間のように甦世風が嬉しそうに笑ってくれますように!
携帯の通知を知らせる軽快な音が上鳴電気の自室に響いた。
上鳴は思わずベッドの上で正座をし、平時よりも早い速度で脈打つ心臓を少しでも落ち着かせる為にゆっくりと深呼吸をする。そしてわずかに震えている指でチャットアプリを起動し...
「ぃよっしゃあああ!!!」
全力でガッツポーズをした。
***
入学してから数週間、クラスで一人浮いた存在だった甦世風治烏は
容姿の良い治烏のことが前々から気になっていた上鳴は治烏と仲良くなるべくさっそく声をかける。
「甦世風、今度飯食いに行かね?」
最早お馴染みになりつつある誘い文句である。
仲良くなるにはとりあえず一緒に飯を食いに行くのが1番!そこから少しずつ距離を縮めていきあわよくば....と考えている上鳴だが、そんな下心がバレているのか、今のところ雄英女子には誰にも相手にされたことがなかった。
しかし甦世風ならワンチャンあるかもしれない...!と上鳴は密かに期待していた。
一見高嶺の花に見える治烏は入学当初は迂闊に話しかけることも出来ないくらい人を寄せつけないオーラを放っていたが、一度懐に入ってしまうと案外人懐っこいようで、クラスの他の女子達と違い誘ったら普通にOKしてくれそうな雰囲気である。
上鳴の期待を裏切ることなく治烏は瞳を輝かせて嬉しそうに「ご飯!行きたい!」と簡単にOKしてくれた。
「いつ行く?」ととても乗り気の治烏に「じゃあ今日の放課後とかどうよ?美味いパスタ屋さん知ってんだ」と提案してみる。
「パスタ...!私麺類大好きなの。楽しみ〜!」
先程よりも更に瞳を輝かせる治烏を見て上鳴はニヤケそうになるのを必死で堪える。
甦世風ならワンチャン...とは思っていたものの、こんなに食いついてくれるとは正直思わなかった。もしかして甦世風って俺に気があるんじゃ...?とすら思ったのも束の間
「百ちゃん百ちゃん!今日の放課後お暇かな?上鳴くんが美味しいパスタ屋さん知ってるんだって!一緒に行かない?」
「まぁ、良いですわね。是非ご一緒したいですわ!」
「なになに、パスタ食べに行くの?私も行きたいー!」
「私もー!」
「わーい皆で行こう!」
自分を置き去りにして勝手に盛り上がる女子達に唖然とする上鳴。妙に乗り気だと思ったらそういうことかよ...と、ガッカリ肩を落とす上鳴の様子に気付かず、治烏は「放課後お友達とご飯行くの夢だったんだぁ!楽しみだね、上鳴くん!」と嬉しそうに笑った。
そんな顔をされては悪い気がしない。
甦世風と2人きりじゃないのは残念だけどハーレムもなかなか美味しくね?!とポジティブに考えることにした。
...しかし上鳴の考えは甘かった。
いざ放課後になってみると何故か切島、瀬呂、緑谷、飯田までもがメンバーに加わっていたのだ。
そんな大所帯で1つのテーブルを囲めるわけもなく、店では男女に分かれて座ることとなってしまった。
無言で恨めしい視線を女子達に送っていると、それに気付いた耳郎にニヤリと笑われる。「(あんたの考えなんてお見通しだよ)」と言われているようで腹が立った。
結局その日はそのままむさ苦しい男共に囲まれてパスタを食べただけでお開きとなった。
***
家に帰宅した上鳴は「こんなのノーカンだ!今度こそ甦世風と飯行ってやる...!」と闘志を燃やしていた。
ちょうど治烏から個別メッセージで
『パスタとっても美味しかったね✨今日は誘ってくれて本当にありがとう!』
と可愛らしいメッセージが届いたので勢いで返事を打つ。
『気に入ってくれたならよかった!』
『でもあんまり甦世風と話せなかったし今度は2人で飯行かね?』
これなら耳郎達に邪魔されることなく甦世風と飯に行けるはずだ。どーだ、やってやったぞ!と最初は高揚していた上鳴だったが、時間が経つにつれて段々と冷静さを取り戻した。
流石にがっつきすぎか...?
ここまであからさまだと鈍感そうな甦世風にも流石に警戒されてしまうかもしれない。これでは「デートしてください」と言っているようなものだ。いや、言ってるんだけども。
なかなか付かない既読の文字に冷や汗がじんわりと滲んでくる。
少しでも落ち着く為に部屋着に着替えたり普段はあまりやらないストレッチをしてみたりと別のことで気を紛らわそうとするも、携帯が気になってしょうがなかった。
そして冒頭へと至る。
治烏から送られてきた返事は
『ぜひぜひ!じゃあ今度は私が行きたいお店でも大丈夫?
ちょうど雑誌に載ってたお店が一人だと行きづらくて困ってたの』
というものだった。
これはマジで脈アリなんじゃないだろうか...?!甦世風が行きたいと思ってたお店って何処だろう。
一人だと行きづらいってことは周りがカップルだらけのお店とか?!
上鳴は枕を抱えてベッドに転がりながら治烏とのデートに想いを馳せる。
「1人だとなかなか来られないところだから上鳴くんが一緒に来てくれて嬉しいっ
これずっと食べてみたいと思ってたんだぁ!」
そう言って以前は轟にしか向けられていなかった輝く笑顔を自分に向けてくれる治烏の姿を妄想して上鳴は「良い!!!」と更にテンションを上げた。
***
待ちに待ったデート当日。
上鳴は先日の失敗を踏まえ、放課後ではなく休日に約束を取り付けた。これで誰にも邪魔されることはないだろう。
休日なら映画やショッピングなど、よりデートらしいことが出来るんじゃね?と少し期待した上鳴だったが、治烏は病院の手伝いやら特訓やらで多忙らしく本当にご飯を食べに行くだけの時間しか会えないとのことだった。
残念だが仕方がない。休日に2人で出かけたという事実が一番重要だ。と割り切ることにした。
上鳴は念のため集合時間30分前に待ち合わせ場所に着き、治烏が来るのを落ち着かない心地で待った。
治烏が待ち合わせ場所に到着したのは集合時間の10分ほど前だった。
少し離れたところから上鳴の姿を発見した治烏はそこから小走りで近づく。
「ご、ごめん上鳴くん!待たせちゃった?」
「いや、オレも今きたとこ」
このやりとり、なんだかデートっぽい...!と上鳴は内心感動した。
改めて治烏の服装を確認するとVネックのシャツにロングカーディガンを羽織り、ショートパンツと黒タイツにショートブーツというスタイルだった。
ヒーロースーツもショートパンツだったし、甦世風って意外とパンツスタイルが好きなのかもしれないなと上鳴は分析する。
シンプルだし露出もほとんど無いが、元が美人ということもあり極上に可愛い。こんな子とデート出来るなんて幸せだなぁと自然と表情筋が緩んだ。
しかし一つ気になることがある。治烏の大きな瞳と上鳴を隔てる薄いガラス。それは以前にも一度かけている姿を目にしたことがあった。
「甦世風って目悪かったん?」
「うぅん、視力は良い方だよ。これはね、変装!」
治烏は気持ちドヤ顔で眼鏡をクイっと上げた。
その様子を上鳴はポカンと見つめる。
「やっぱり変装といえば眼鏡と帽子だよねっ」
嬉しそうに語る治烏に上鳴は思わず「いやいやいや」とツッコミたくなった。
変装の為に眼鏡と帽子をつけるのは顔を隠す為だ。しかし治烏の被っている帽子はベレー帽なのでツバが無く、顔が全く隠れていない。そんな状態で眼鏡をかけたところでただのオシャレさんだ。
指摘してやろうと口を開きかけたが、せっかくのデートで顔を隠されてしまうのも勿体無いので上鳴は敢えてスルーを決め込むことにした。
しばらく他愛のない会話を交わしながら歩いたところで不意に治烏は足を止める。
「あっここだ!」
「へ...?ここ........??」
「うん!上鳴くん、早く並ぼう!」
嬉しそうに駆け出す治烏に連れられて列の最後尾に並ぶ。流石雑誌に載るだけあって行列が出来るほど賑わっているらしい。
そして同時に治烏一人だと来づらい理由も理解出来た。並んでいる客層。それは上鳴が想像していたようなカップル達ではなく、9割が男性だった。
「ここの豚骨ラーメン、口コミサイトでも常に高評価ですっごく美味しいんだって!楽しみだねぇ」
麺類好きとは聞いていたがまさかのチョイスに上鳴は激しく動揺した。
そんな上鳴の様子に気付くことなく治烏はこの店のラーメンについて熱く語り出す。
あまりに熱心に語るので上鳴は思考を止め、菩薩のような顔で相槌を打つのに徹した。
結構な行列だったが回転率が良く、並び始めてから30分ほどで店内に入ることができた。
並んでいる最中に注文を聞かれていたので店内に入るとすぐにラーメンが運ばれてくる。
上鳴はスタンダードな豚骨ラーメン、治烏は超特盛野菜マシマシ豚骨ラーメン。
治烏の前に置かれた通常の倍はあるどんぶりと山のように盛られた野菜にドン引きしている上鳴をよそに、治烏は瞳を輝かせながら素早く写真を1枚撮ると「いただきます」と両手を合わせた。
そして野菜の山に箸を伸ばしたところでようやく上鳴がフリーズしていることに気づく。
「あれ、どうしたの?上鳴くん。早く食べないとラーメン伸びちゃうしお店のご迷惑になっちゃうよ」
「お、おう...」
ツッコミが追いつかない。色々と言いたいことはあるがモヤモヤはラーメンと共に飲み込むことにした。最早ヤケである。
上鳴は勢いよくラーメンを啜った。
「!う、うめぇ!」
「良かったぁ!それじゃ私も...あぅ、眼鏡が曇って見えない...」
「食事中は外した方がいいんじゃね?(付けてても意味ないし...)」
「それもそうだね」と言い眼鏡を外して今度こそラーメンに手をつけた治烏は先程の上鳴と同じく瞳を輝かせ「んまぁい!」と破顔した。
***
「はぁ〜美味しかったねぇ」
「さすが行列が出来るだけあるな」
「1人だとなかなか来られないところだから上鳴くんが一緒に来てくれてよかったよ。本当にありがとね!」
いつかの妄想のように以前は轟にしか向けられていなかった輝く笑顔を自分に向けてくれる治烏に上鳴は心が穏やかになった。
治烏の正直知りたくなかった意外な一面を今日だけで沢山知ることになり、天使なイメージはズタズタに壊されたが、入学初期やテレビでよく見ていたお人形のような無表情よりもこの嬉しそうな笑顔の方が魅力的だと上鳴は思った。
「また一緒に飯食いに行こうな!」
「うん!次はどのラーメン屋さんに行こっか」
「ラーメンは固定なのかよ?!」
「え、ラーメン...嫌......?」
「〜〜ッ!よし、次はオレがもっと美味しいラーメン屋さん見つけてやるから楽しみにしとけよ!」
「やったぁ!楽しみにするする!」
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◆オマケ(上鳴視点)
「上鳴、お前甦世風と二人で飯食いに行ったらしいじゃねぇか...」
甦世風とラーメンを食べに行った翌日、学校に登校すると早速二人で飯を食いに行ったことがクラス中にバレていて物凄い形相の峰田に「抜け駆けしやがって...」と絡まれた。
「治烏ちゃんあんまり男子にホイホイ付いて行ったらダメだよー?変なことされなかった?」
少し離れたところで芦戸が甦世風に注意している。人をケダモノみたいに言いやがって。失礼な!
「上鳴くんだってヒーロー志望なんだよ?変なことなんてするわけないよ〜。また行こうねってもう約束しちゃったし!」
「その油断が命取りなんだよ...。もう約束しちゃったならしょうがないけど今後は...特に峰田とかとは絶対に二人になっちゃダメだからね」
「?うん、わかった」
「んだと芦戸コラー!」
自分の悪口を聞きつけた峰田は素早く芦戸を威嚇した。
それにしても甦世風に信頼されているのは嬉しいけど下心があった身としてはギクリとしてしまう。
「甦世風、また行くなら今度はオイラも仲間に入れてくれよォ!二人きりじゃないなら良いだろ?!」
「ケダモノ2人とか余計心配だわ!治烏ちゃん、それならまた皆誘って行こう?」
「うーん...」
甦世風は少し考えて「皆ともまたご飯行きたいから別途で行こう」と提案した。
そりゃ大人数でラーメン屋さんは行けないわな。と、事情を知っているオレは苦笑いになったが峰田と芦戸は「上鳴とは二人で行きたいの?!」と驚愕する。
それに甦世風は「うん!」と笑顔で肯定するもんだから二人は更に驚き、顔を見合わせた。
実際二人が想像しているような甘い展開はコレっぽっちも無いけれど、こんな優越感を味わえるならラーメン屋巡りも良いかもな、なんて思った。
次は何処のお店にしようか。またこの間のように甦世風が嬉しそうに笑ってくれますように!
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