【長編】メランコリック・エンジェル
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最近轟くんの様子がおかしい。
学校が再開された日から数日経った今でも轟くんの不機嫌は続いていた。
最初は皆の言う通り疲れているだけなのかな?とも思ったけど何日経っても、いや、寧ろ日が経つにつれて元気になるどころかどんどん塞ぎ込んでしまっているように見える。
何か悩みがあるのならお友達として力になりたいと思うけど原因がわからないのでは何も出来ない。それとなく個別チャットで聞いてみようと試みたものの、チャットは既読すらつかなかった。
轟くんが話したくないのなら詮索するのは良くないかもしれない。話を聞いたところで私では力になれないかもしれない。でもせっかく仲良くなれたのだから私に出来ることがあるのなら何でもしたい。そんな思いがグルグルと回って、結局ただ時間だけが過ぎていた。
そんな風に悩んでいる間も体育祭は待ってはくれない。
先日他の科やB組の人たちが敵情視察と宣戦布告にやってきて、競う相手がA組の人たちだけではないことを思い知らされた。
入試の時、ぶっちぎりで目立っていた爆豪くんの他にも強い個性を持った人たちは何人もいたし、更には轟くんや百ちゃんのような優秀な推薦入学者だっているだろう。20人のクラスメイト達だけでも強敵揃いなのに更にB組や他の科の生徒達とも競うことになると思うと途方もなかった。
分かってはいたけど優勝を目指すのは相当難しそうだ。まだまだ私には至らないところが沢山ある。それにいつも特訓を見てもらっていた相澤先生はUSJの怪我で動ける状態ではないから頼れない。想像していた以上に厳しい状況だった。
「そういや甦世風、練習場の使用許可出たぞ」
「ホントですか!」
「あぁ、20時までだから終わったら鍵返しに来い」
「了解です!」
HRの後、相澤先生に呼び出され何事かと思っていたら申請していた練習場の使用許可が出たとのことだった。
体育祭に向けていくつかの練習場が開放されていて、もちろん私も活用していたのだけど他の生徒も居る中ではなかなか思いきり個性を使うことが出来ず、先生に相談したら個別で予約出来る練習場があるとのことだったので使用許可を申請していた。
通常開放されている練習場ほど広くはないものの、個人や少人数で使うには十分の広さらしい。これで思いっきり特訓が出来る...!
やったぁと一人で小さくガッツポーズをして喜びを噛みしめながら自分の席へ戻る途中、不意に轟くんと目が合った。
轟くんは最近ずっと心ここに在らずといった感じに誰も視界に入っていないような、いや、遠くの誰かを憎んでいるような思い詰めた表情をする事が多かったので久しぶりにキチンと轟くんと視線が交わった気がする。
すぐに目を逸らされてしまったけれど、私は思いきって轟くんに近づき声をかけた。
「あの、轟くん...!もし良かったら今日の放課後一緒に特訓しない?」
「...。」
「一般開放されてる練習場じゃなくてね、個人的に予約出来る練習場が取れたんだ...!そこなら周りを気にせずに思いっきり個性が使えるし、どうかな?」
USJ事件の後、敵 の脅威を目の当たりにしたからか、単純に体育祭に向けて気合いが入っているのか、轟くんは今まで以上に凄まじい気迫で実技演習に臨んでいたのでこういうお誘いなら受けてくれるんじゃないかと考え、声をかけてみた。
読み通り轟くんはしばらくの沈黙の後、「.......それなら。」と頷いてくれた。
***
放課後。
予約制の練習場は一般開放されているところよりも校舎から少し離れている。
2人並んで練習場へと続く道のりを歩く。轟くんの方が足が長い為、私は通常よりも少し早く足を動かさなければ置いていかれそうだ。
それでも轟くんの隣を歩くのはなんだかとても久しぶりな感じがして嬉しかった。
「特訓って何するんだ?」
すごーく久しぶりに轟くんが会話を振ってくれて内心テンションが上がってしまう。
もしも私に尻尾がついていたらブンブンとはしたなく動いていたことだろう。尻尾が無くてよかった。
「せっかく2人だし組み手や個性使用可の模擬戦とか色々やりたいな!
あ!あと爆豪くんみたいに空中移動出来るように練習したい!!」
「.........それは爆豪を誘えば良かったんじゃねぇか」
た、たしかに...!!!
轟くんの冷静なツッコミに動揺してしまう。
でも私は轟くんと一緒に特訓したいと思ったんだ。
そう言いたかったのに、その言葉が声になることは無く私の中に溶けていった。
...とても気まずい。
さっき私が変に黙ってしまったせいで無言の時間が続いている。
このままでは特訓どころじゃなくなってしまう。なんとかこの重たい空気を変えなくては...!
何か興味をそそるような話題は...と必死に思考を巡らせているととっておきの話題を思い出した。
「あ、そうだ!今日お昼休みに他の科の人達が話してるのが聞こえたんだけどね、なんとうちの学年にあのエンデヴァーさんの息子さんが居るらしいよ!」
ピクッと轟くんが微かに反応を見せた。ふふふ、やっぱりこの話題はヒーローを目指す者なら絶対気になっちゃうよね!
この噂を聞いた時は本当にビックリした。
エンデヴァーさんは万年ナンバー2ヒーローなんて言われているけど、事件解決数はあのオールマイトさんをも凌ぐすごいヒーローだ。
昔、1度だけエンデヴァーさんの活躍を間近で見たことがあり、以来エンデヴァーさんは私の憧れのヒーロー...というか推しヒーローだったりする。
そんなエンデヴァーさんに私達と同い年の息子さんが居て、しかも同じ学校に通っていたと言うんだから驚きだ。
「推薦入学者?らしいから私も全然知らなかったんだけどどんな人なんだろうね?
あのエンデヴァーさんの息子さんだなんて絶対強いだろうから私達も負けないように特訓頑張ろうね、轟くん!.....あれ?轟くん??」
ついつい話すのに夢中になってしまい、隣を歩いていた筈の轟くんがいつの間にか歩みを止め、立ち止まっていたのに気付くのが遅れた。
相手が居ないのに夢中で独り言を呟いていたのかと思うとなんだか恥ずかしくて、その恥ずかしさを誤魔化すように小走りで轟くんの元に駆け寄る。
「と、轟くん、急に止まってどうしたの?どこか調子悪い?」
俯いていてよく見えない顔色を覗きこむよりも早く、轟くんは踵を返した。
「ちょ、ちょっと轟くん?!」
「.....悪りぃ。やっぱり帰る。特訓は1人でやってくれ」
轟くんはそのまま一度も振り返らずにスタスタと帰っていってしまった。
1人取り残された私は訳がわからず、呆然としばらくその場から動くことが出来なかった。
学校が再開された日から数日経った今でも轟くんの不機嫌は続いていた。
最初は皆の言う通り疲れているだけなのかな?とも思ったけど何日経っても、いや、寧ろ日が経つにつれて元気になるどころかどんどん塞ぎ込んでしまっているように見える。
何か悩みがあるのならお友達として力になりたいと思うけど原因がわからないのでは何も出来ない。それとなく個別チャットで聞いてみようと試みたものの、チャットは既読すらつかなかった。
轟くんが話したくないのなら詮索するのは良くないかもしれない。話を聞いたところで私では力になれないかもしれない。でもせっかく仲良くなれたのだから私に出来ることがあるのなら何でもしたい。そんな思いがグルグルと回って、結局ただ時間だけが過ぎていた。
そんな風に悩んでいる間も体育祭は待ってはくれない。
先日他の科やB組の人たちが敵情視察と宣戦布告にやってきて、競う相手がA組の人たちだけではないことを思い知らされた。
入試の時、ぶっちぎりで目立っていた爆豪くんの他にも強い個性を持った人たちは何人もいたし、更には轟くんや百ちゃんのような優秀な推薦入学者だっているだろう。20人のクラスメイト達だけでも強敵揃いなのに更にB組や他の科の生徒達とも競うことになると思うと途方もなかった。
分かってはいたけど優勝を目指すのは相当難しそうだ。まだまだ私には至らないところが沢山ある。それにいつも特訓を見てもらっていた相澤先生はUSJの怪我で動ける状態ではないから頼れない。想像していた以上に厳しい状況だった。
「そういや甦世風、練習場の使用許可出たぞ」
「ホントですか!」
「あぁ、20時までだから終わったら鍵返しに来い」
「了解です!」
HRの後、相澤先生に呼び出され何事かと思っていたら申請していた練習場の使用許可が出たとのことだった。
体育祭に向けていくつかの練習場が開放されていて、もちろん私も活用していたのだけど他の生徒も居る中ではなかなか思いきり個性を使うことが出来ず、先生に相談したら個別で予約出来る練習場があるとのことだったので使用許可を申請していた。
通常開放されている練習場ほど広くはないものの、個人や少人数で使うには十分の広さらしい。これで思いっきり特訓が出来る...!
やったぁと一人で小さくガッツポーズをして喜びを噛みしめながら自分の席へ戻る途中、不意に轟くんと目が合った。
轟くんは最近ずっと心ここに在らずといった感じに誰も視界に入っていないような、いや、遠くの誰かを憎んでいるような思い詰めた表情をする事が多かったので久しぶりにキチンと轟くんと視線が交わった気がする。
すぐに目を逸らされてしまったけれど、私は思いきって轟くんに近づき声をかけた。
「あの、轟くん...!もし良かったら今日の放課後一緒に特訓しない?」
「...。」
「一般開放されてる練習場じゃなくてね、個人的に予約出来る練習場が取れたんだ...!そこなら周りを気にせずに思いっきり個性が使えるし、どうかな?」
USJ事件の後、
読み通り轟くんはしばらくの沈黙の後、「.......それなら。」と頷いてくれた。
***
放課後。
予約制の練習場は一般開放されているところよりも校舎から少し離れている。
2人並んで練習場へと続く道のりを歩く。轟くんの方が足が長い為、私は通常よりも少し早く足を動かさなければ置いていかれそうだ。
それでも轟くんの隣を歩くのはなんだかとても久しぶりな感じがして嬉しかった。
「特訓って何するんだ?」
すごーく久しぶりに轟くんが会話を振ってくれて内心テンションが上がってしまう。
もしも私に尻尾がついていたらブンブンとはしたなく動いていたことだろう。尻尾が無くてよかった。
「せっかく2人だし組み手や個性使用可の模擬戦とか色々やりたいな!
あ!あと爆豪くんみたいに空中移動出来るように練習したい!!」
「.........それは爆豪を誘えば良かったんじゃねぇか」
た、たしかに...!!!
轟くんの冷静なツッコミに動揺してしまう。
でも私は轟くんと一緒に特訓したいと思ったんだ。
そう言いたかったのに、その言葉が声になることは無く私の中に溶けていった。
...とても気まずい。
さっき私が変に黙ってしまったせいで無言の時間が続いている。
このままでは特訓どころじゃなくなってしまう。なんとかこの重たい空気を変えなくては...!
何か興味をそそるような話題は...と必死に思考を巡らせているととっておきの話題を思い出した。
「あ、そうだ!今日お昼休みに他の科の人達が話してるのが聞こえたんだけどね、なんとうちの学年にあのエンデヴァーさんの息子さんが居るらしいよ!」
ピクッと轟くんが微かに反応を見せた。ふふふ、やっぱりこの話題はヒーローを目指す者なら絶対気になっちゃうよね!
この噂を聞いた時は本当にビックリした。
エンデヴァーさんは万年ナンバー2ヒーローなんて言われているけど、事件解決数はあのオールマイトさんをも凌ぐすごいヒーローだ。
昔、1度だけエンデヴァーさんの活躍を間近で見たことがあり、以来エンデヴァーさんは私の憧れのヒーロー...というか推しヒーローだったりする。
そんなエンデヴァーさんに私達と同い年の息子さんが居て、しかも同じ学校に通っていたと言うんだから驚きだ。
「推薦入学者?らしいから私も全然知らなかったんだけどどんな人なんだろうね?
あのエンデヴァーさんの息子さんだなんて絶対強いだろうから私達も負けないように特訓頑張ろうね、轟くん!.....あれ?轟くん??」
ついつい話すのに夢中になってしまい、隣を歩いていた筈の轟くんがいつの間にか歩みを止め、立ち止まっていたのに気付くのが遅れた。
相手が居ないのに夢中で独り言を呟いていたのかと思うとなんだか恥ずかしくて、その恥ずかしさを誤魔化すように小走りで轟くんの元に駆け寄る。
「と、轟くん、急に止まってどうしたの?どこか調子悪い?」
俯いていてよく見えない顔色を覗きこむよりも早く、轟くんは踵を返した。
「ちょ、ちょっと轟くん?!」
「.....悪りぃ。やっぱり帰る。特訓は1人でやってくれ」
轟くんはそのまま一度も振り返らずにスタスタと帰っていってしまった。
1人取り残された私は訳がわからず、呆然としばらくその場から動くことが出来なかった。
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