【長編】メランコリック・エンジェル
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◆緑谷視点
2人と別れ、甦世風さんも向かう方向が同じみたいなのでオールマイトの後ろを並んで歩く。
しばらく無言で歩みを進めていると甦世風さんの方から声をかけてくれた。
「あの...緑谷くん......」
おずおずと僕の名前を呼んだ後、何か言いづらそうに口をもごもごさせたり目を泳がせている甦世風さん。
人見知りが発動していた時よりも歯切れの悪い態度が気にかかり、なるべく優しい声で「どうしたの?」と先を促す。
甦世風さんは少し考え、意を決したようにこちらに向き直った。
「あの...違ったらごめんなんだけどね、緑谷くん、轟くんに『あのこと』言ってない...よね?」
甦世風さんに『あのこと』と言われて思いつくことは1つしか無い。
ーーーそう、それはUSJ襲撃事件を終えた後の保健室まで遡る。
ーーーーーーーーーーーー
僕とオールマイト、そして甦世風さんは相澤先生達とは違い、諸々の事情もあって保健室へと運ばれた。
甦世風さんが『個性の使いすぎで昏睡状態になってしまった』と聞いた僕はずっと気になっていたことを思い切ってリカバリーガールに尋ねた。
「あの...気になってたんですけど....甦世風さんって本当に『憂いを帯びた天使 』なんですか?」
「...どういう意味だい?」
「先日の演習後、甦世風さんに治癒してもらっていたはずなのに僕の怪我が治っていなかったことを麗日さんに指摘されて...考えてみると不自然な点が多いなって思って色々と調べてみたんです」
でも『憂いを帯びた天使 』に関する記事はネット上から不自然なくらい無くなっていた。
そこでオールマイトの特集記事の為に保管していた雑誌を改めて読み返していたら『憂いを帯びた天使 』が有名になり始めた頃の古いインタビュー記事を見つけた。
インタビューには『憂いを帯びた天使 』が人びとを治癒するのは何のためか?という質問があり、そこで『憂いを帯びた天使 』は「お姉ちゃんが喜んでくれるから」と答えていた。
「そのインタビューに書いてあった『お姉ちゃん』っていうのがもしかして甦世風さんのことなんじゃないかって。双子だったら同い年だし、『人見知りだけど自分にはよく笑顔を向けてくれる』って特徴も合致していると思うんです」
「...もしそうだったら、緑谷くんは幻滅する?」
「え?」
声のした方に視線を向けるといつの間にか目を覚ましていた甦世風さんが表情の抜け落ちた人形のような顔で俯いていた。
「おや、もう目が覚めたのかい?随分と回復が早くなったようだね。でもまだ本調子じゃなさそうだから事情聴取は日を改めてもらって早く帰りな」
「ありがとう、おばあちゃん。そうする。...でもその前に」
甦世風さんは僕に向き直ってもう一度先程と同じ質問をしてきた。
無表情ながら、よく見ると瞳が不安に揺れているように見えて、僕には甦世風さんがどうしようもなく救いを求めているように感じた。
「緑谷くん、前に『憂いを帯びた天使 』のファンだって言ってたよね。もし私が『憂いを帯びた天使 』じゃなかったとしたら...その......すごくガッカリじゃない?」
消え入りそうな声色で呟かれたその言葉にハッとさせらる。
そうか。そういうことだったのか。
以前その話をした時に甦世風さんが急に静かになってしまった本当の理由がようやく理解出来て仮説が確信へと変わった。
「あの時は勝手に舞い上がっちゃってごめんね。
もし君が『憂いを帯びた天使 』のお姉さんだとしたらとても困らせちゃったよね...」
「........。」
「でも幻滅なんてしてないよ。君が『憂いを帯びた天使 』でもそうじゃなくても君は僕の大切なクラスメイトで...仲間じゃないか」
甦世風さんは少しだけ瞳を見開いたかと思うと儚く笑った。
「......緑谷くんは優しいね」
ーーーーーーーーーーーー
その後、このことは誰にも言わないでほしいと頼まれた。自分のタイミングでいつかキチンと伝えたいとのことだ。たしかに下手に第三者から真実が伝わるよりも本人の口から話した方が良いだろうと思い甦世風さんの意思を尊重することにした。
誰にも言わない約束なので轟くんはもちろん他の誰にも話していない。
「もちろん誰にも言ってないけどどうして?」
「言ってないならいいの!ごめんね、疑うようなこと聞いちゃって...!
轟くん今日なんか変で...どこか怒ってるみたいだったからもしかしてって思っちゃったの...」
甦世風さんなりにずっと理由を考えていたのだろう。やはり入学してから一番仲が良かった友達の急変は誰よりも気にしているようだ。
僕自身も気になってはいるけれど轟くんに何があったのか分からない状況では何と声をかけるべきかも分からない。
お互い何となく気まずくて無言で歩みを進めた。
仮眠室が近づいて来てそろそろ甦世風さんとも別れる時間だ。
一言挨拶をしようとしたところで甦世風さんは何か思い出したように「あっ」とこぼし歩みを止める。
「緑谷くん!」
「なに?」
つられて僕も足を止めると甦世風さんは内緒話をするように僕の耳元に口を寄せてきた。
ちちちち近い....!!!!!
息が耳にかかるほどの超至近距離に激しく心臓が鼓動し始める。
「皆にはまだナイショなんだけどね、私体育祭で優勝して表彰台の上でみんなに『私は『憂いを帯びた天使 』じゃない!』って言おうと思ってるの」
甦世風さんは「友璃愛ちゃんと約束したんだ」と小声で囁くと、身体を離し、挑戦的な笑みをする。
「だから絶対負けないよ!」
そう言ってヒラリと身を翻し「それじゃまた教室でね〜」と手を振りながら駆けて行った。
取り残された僕はいまだ脈打つ心臓を感じながら熱を持った片耳に手を添える。
オールマイトが心配して声をかけてくれるまでその場でポーッとしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
◆オマケ
「それで治烏ちゃんも敵の主犯格と交戦したんだよね。主犯格の人相や特徴など何か覚えていることはあるかな?」
「はい!なんか手がいっぱいついた怖い人でした!」
「他には...?」
「...手がいっぱいついてました」
「えーっと...個性とか治烏ちゃんなりに何か気付いたところとかなかったかな?」
「うーん...あ!あの人の手に触れられた瞬間ヘルメットを塵にされたのでそれが個性だと思います。」
「そうか、ありがとう」
「いえ、あまりお役に立てずすみません...」
お昼休みに行なわれた事情聴取。
新しい情報は出せず、ほとんど役に立たない証言しか出来ない私に苦笑いの塚内さんを見てとても申し訳ない気持ちになった。
自分の記憶力の無さが恨めしい。
でもあの時はとにかくなんとかしなきゃって気持ちでいっぱいいっぱいだったので敵のことなどよく見えてなかったし、対敵した敵 は手がいっぱいついてた見た目のインパクトが大きすぎてほとんどそのことしか思い出せない。
もっと敵のことをよく観察しなければいけなかったらしい。ヒーローって難しい。
いやでもあんな奇抜な格好をしていたらその印象しか残らないと思う。きっとそれを踏まえてあんなに手をいっぱい付けてるんだ。そうに違いない。うん。
しかし緑谷くんなんかはとても良く敵を観察していたようで、私が出せた情報は既にほとんど緑谷くんが証言していたらしい。すごいなぁ緑谷くん。
「複数人から同じ証言を得られたのも有益な情報だよ」とフォローしてくれる塚内さんに余計虚しさを感じ、次こそはもっと有益な情報を提供出来るように敵 のこともしっかり観察しようと固く心に誓った。
2人と別れ、甦世風さんも向かう方向が同じみたいなのでオールマイトの後ろを並んで歩く。
しばらく無言で歩みを進めていると甦世風さんの方から声をかけてくれた。
「あの...緑谷くん......」
おずおずと僕の名前を呼んだ後、何か言いづらそうに口をもごもごさせたり目を泳がせている甦世風さん。
人見知りが発動していた時よりも歯切れの悪い態度が気にかかり、なるべく優しい声で「どうしたの?」と先を促す。
甦世風さんは少し考え、意を決したようにこちらに向き直った。
「あの...違ったらごめんなんだけどね、緑谷くん、轟くんに『あのこと』言ってない...よね?」
甦世風さんに『あのこと』と言われて思いつくことは1つしか無い。
ーーーそう、それはUSJ襲撃事件を終えた後の保健室まで遡る。
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僕とオールマイト、そして甦世風さんは相澤先生達とは違い、諸々の事情もあって保健室へと運ばれた。
甦世風さんが『個性の使いすぎで昏睡状態になってしまった』と聞いた僕はずっと気になっていたことを思い切ってリカバリーガールに尋ねた。
「あの...気になってたんですけど....甦世風さんって本当に『
「...どういう意味だい?」
「先日の演習後、甦世風さんに治癒してもらっていたはずなのに僕の怪我が治っていなかったことを麗日さんに指摘されて...考えてみると不自然な点が多いなって思って色々と調べてみたんです」
でも『
そこでオールマイトの特集記事の為に保管していた雑誌を改めて読み返していたら『
インタビューには『
「そのインタビューに書いてあった『お姉ちゃん』っていうのがもしかして甦世風さんのことなんじゃないかって。双子だったら同い年だし、『人見知りだけど自分にはよく笑顔を向けてくれる』って特徴も合致していると思うんです」
「...もしそうだったら、緑谷くんは幻滅する?」
「え?」
声のした方に視線を向けるといつの間にか目を覚ましていた甦世風さんが表情の抜け落ちた人形のような顔で俯いていた。
「おや、もう目が覚めたのかい?随分と回復が早くなったようだね。でもまだ本調子じゃなさそうだから事情聴取は日を改めてもらって早く帰りな」
「ありがとう、おばあちゃん。そうする。...でもその前に」
甦世風さんは僕に向き直ってもう一度先程と同じ質問をしてきた。
無表情ながら、よく見ると瞳が不安に揺れているように見えて、僕には甦世風さんがどうしようもなく救いを求めているように感じた。
「緑谷くん、前に『
消え入りそうな声色で呟かれたその言葉にハッとさせらる。
そうか。そういうことだったのか。
以前その話をした時に甦世風さんが急に静かになってしまった本当の理由がようやく理解出来て仮説が確信へと変わった。
「あの時は勝手に舞い上がっちゃってごめんね。
もし君が『
「........。」
「でも幻滅なんてしてないよ。君が『
甦世風さんは少しだけ瞳を見開いたかと思うと儚く笑った。
「......緑谷くんは優しいね」
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その後、このことは誰にも言わないでほしいと頼まれた。自分のタイミングでいつかキチンと伝えたいとのことだ。たしかに下手に第三者から真実が伝わるよりも本人の口から話した方が良いだろうと思い甦世風さんの意思を尊重することにした。
誰にも言わない約束なので轟くんはもちろん他の誰にも話していない。
「もちろん誰にも言ってないけどどうして?」
「言ってないならいいの!ごめんね、疑うようなこと聞いちゃって...!
轟くん今日なんか変で...どこか怒ってるみたいだったからもしかしてって思っちゃったの...」
甦世風さんなりにずっと理由を考えていたのだろう。やはり入学してから一番仲が良かった友達の急変は誰よりも気にしているようだ。
僕自身も気になってはいるけれど轟くんに何があったのか分からない状況では何と声をかけるべきかも分からない。
お互い何となく気まずくて無言で歩みを進めた。
仮眠室が近づいて来てそろそろ甦世風さんとも別れる時間だ。
一言挨拶をしようとしたところで甦世風さんは何か思い出したように「あっ」とこぼし歩みを止める。
「緑谷くん!」
「なに?」
つられて僕も足を止めると甦世風さんは内緒話をするように僕の耳元に口を寄せてきた。
ちちちち近い....!!!!!
息が耳にかかるほどの超至近距離に激しく心臓が鼓動し始める。
「皆にはまだナイショなんだけどね、私体育祭で優勝して表彰台の上でみんなに『私は『
甦世風さんは「友璃愛ちゃんと約束したんだ」と小声で囁くと、身体を離し、挑戦的な笑みをする。
「だから絶対負けないよ!」
そう言ってヒラリと身を翻し「それじゃまた教室でね〜」と手を振りながら駆けて行った。
取り残された僕はいまだ脈打つ心臓を感じながら熱を持った片耳に手を添える。
オールマイトが心配して声をかけてくれるまでその場でポーッとしていた。
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◆オマケ
「それで治烏ちゃんも敵の主犯格と交戦したんだよね。主犯格の人相や特徴など何か覚えていることはあるかな?」
「はい!なんか手がいっぱいついた怖い人でした!」
「他には...?」
「...手がいっぱいついてました」
「えーっと...個性とか治烏ちゃんなりに何か気付いたところとかなかったかな?」
「うーん...あ!あの人の手に触れられた瞬間ヘルメットを塵にされたのでそれが個性だと思います。」
「そうか、ありがとう」
「いえ、あまりお役に立てずすみません...」
お昼休みに行なわれた事情聴取。
新しい情報は出せず、ほとんど役に立たない証言しか出来ない私に苦笑いの塚内さんを見てとても申し訳ない気持ちになった。
自分の記憶力の無さが恨めしい。
でもあの時はとにかくなんとかしなきゃって気持ちでいっぱいいっぱいだったので敵のことなどよく見えてなかったし、対敵した
もっと敵のことをよく観察しなければいけなかったらしい。ヒーローって難しい。
いやでもあんな奇抜な格好をしていたらその印象しか残らないと思う。きっとそれを踏まえてあんなに手をいっぱい付けてるんだ。そうに違いない。うん。
しかし緑谷くんなんかはとても良く敵を観察していたようで、私が出せた情報は既にほとんど緑谷くんが証言していたらしい。すごいなぁ緑谷くん。
「複数人から同じ証言を得られたのも有益な情報だよ」とフォローしてくれる塚内さんに余計虚しさを感じ、次こそはもっと有益な情報を提供出来るように