【長編】メランコリック・エンジェル
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USJ事件の翌日、学校は臨時休校となった。
いつもなら休日はおばあちゃんの知り合いの病院へお手伝いに行っているけれど昨日無理をしたばかりなんだから今日はしっかり休めと言われている。
私は大丈夫なのに。おばあちゃんはスパルタの割に意外と心配症なんだから。
一応お昼過ぎまでたっぷり寝てたらいつも以上に元気になった。昨日の事件でももちろん疲れたけれど、最近校内で知らない人からジロジロ見られるようになってしまったことで地味に疲れが溜まってのがようやくリセットされた気分だ。
このままゴロゴロしていてもいいけれど、せっかくなら身になることをしたい。とりあえず筋トレでもしようかと考えていたところで携帯の通知音が鳴った。
携帯を確認するとクラスのグループチャットに新着のメッセージが届いていた。
一昨日まではおばあちゃんや先生方の名前しか並んでいなかった『友だち』の項目にクラスメイトの名前が並んでいるのを見て思わず頬が緩む。昨日、帰りがけにクラスの皆と連絡先の交換をしたのだ。
...お友達。
そういえばやらなきゃいけないこと、あったじゃないか。ずっと目を背けてきたけれど...またUSJの時みたいに肝心な時に戦えないなんてことにならない為にもいい加減ちゃんと向き合わないといけない。
「よし、行くか...!」
1人しか居ない部屋でひっそりと気合を入れた。
***
メガネに帽子という完璧な変装をし、9年ぶりに訪れた地は幼い頃の記憶よりも少しだけ栄えているように感じた。
街の変化を物珍しく見回しながら昔の記憶を頼りに親友だったあの子の家を目指す。
駅の周辺はだいぶ変わってしまったけれど、よく遊んだ公園や駄菓子屋さんなどは昔のまま残っていてまるでタイムスリップでもしたかのような不思議な気持ちになった。
普段よりゆったりとしてたペースで歩き、時間をかけて辿り着いた親友ー友璃愛ちゃんのお家。
お引越しをしていたらどうしようと少し不安だったけれどあの頃と変わらず立派なお家がそこにあった。
あの頃は背伸びしないと届かなかったインターホンも今では目線より下にある。
チャイムを鳴らそうと手を伸ばしかけたところでふと我に返った。
「いつまでも目を背けてちゃいけない!」という勢いだけでここまで来てしまったけど、よく考えたらアポも取っていないし、そもそも一方的に関係を絶った人間が今さらどんな顔をして会ったら良いのか。友璃愛ちゃんは私の顔なんて見たくないかもしれないし、私と会うことであの事件のことを思い出させてツライ思いをさせてしまう可能性だってある。
だんだんと思考がマイナスの方向へ落ちていき、なかなかインターホンを押せずにいたら
「治烏ちゃん....?」
突然背後から小さく名前を呼ばれた。
反射的に声の方向へ振り向くと私の記憶と雰囲気は変わらず、でも高校の制服を身に纏いしっかりと美人に成長した友璃愛ちゃんの姿がそこにあった。
「友璃愛ちゃ「治烏ちゃーーーーーーーーーん!!!!!!!」ぐえっ」
ものすごい勢いで私の懐に飛び込んできた友璃愛ちゃん。ハグではなく完全にタックルの勢いだった。
突然そんな勢いで向かってこられたら私に踏ん張ることなど不可能でそのまま後方に押し倒され、咄嗟に受け身を取りなんとか頭はぶつけずに済んだものの、地面と友璃愛ちゃんに挟まれた圧力で思わず蛙が潰された時のような声を出してしまった。
このスピードとパワー、もし友璃愛ちゃんがヒーローを目指したら私なんかより全然強いんじゃ...。
昔、膝を擦りむいただけで泣いていたとは思えないほど逞しい成長を遂げた友璃愛ちゃんには驚かされたけれど、すぐに「治烏ちゃん...夢じゃない...本物だぁ.......」と大粒の涙を零しながら私の胸に縋り付いていることに気付き、私はそっと友璃愛ちゃんの頭を撫でた。
***
「さっきは取り乱してしまってごめんなさい」
高そうな紅茶を差し出しながら恥ずかしそうに友璃愛ちゃんは言った。
「ううん、謝るのはこっちの方だよ。...ずっと友璃愛ちゃんに合わせる顔が無いと思って逃げてた...本当にごめんなさい。」
もっと嫌われているものだと思っていた。
でも実際に会った友璃愛ちゃんは私のことを嫌うどころか大泣きしてしまうほど私に会えたことを喜んでくれた。
だからと言っても友璃愛ちゃんの好意に甘えてばかりはいられない。例え嫌われていなかったとしても、私が友璃愛ちゃんを傷付けてしまった事実は変わらない。キチンと謝って、償わないといけない。
「本当に今更何をって感じだけど...あの時は私のせいで友璃愛ちゃんを巻き込んでしまって本当にごめんなさい。
私がお外で治癒の能力なんて使わなければ誘拐されることもなかったし、風の力を制御出来なくて友璃愛ちゃんに大怪我させちゃったし...全部、全部私のせい。どれだけ謝っても足りないと思う。でも、何度でも謝らせてほしい。本当に、本当にごめんなさい。」
膝の位置にある机に頭をぶつけん勢いで頭を下げ、その態勢のまま9年間ずっと抱き続けていた気持ちを吐き出した。
友璃愛ちゃんは私の謝罪とも懺悔とも取れる言葉を静かに聞いてくれた。
そして私が言いたいことを全て吐き出し終わったのを確認すると、友璃愛ちゃんは私の肩に優しく触れた。
「治烏ちゃん、顔をあげて」
その言葉に従って、恐る恐る顔をあげる。
「あの時のことは治烏ちゃんのせいじゃないわ。だって公園で個性を使ってくれた時も、風の力が暴走しちゃったのだって、全部私を助ける為だったじゃない。」
「だけど...結果的に友璃愛ちゃんを傷つけてしまったことに変わりはないよ...」
「それは違うわ。治烏ちゃんが居てくれたから私は助かったのよ。
治烏ちゃんが戦って、治してくれなかったら私は今ここに居なかったわ。
でもそうね....一つだけ治烏ちゃんに怒っていることがあるとしたら...」
そこで一旦言葉を区切る友璃愛ちゃん。
友璃愛ちゃんを傷つけてしまったこと以上に友璃愛ちゃんを怒らせてしまったことがあるなんて皆目見当がつかない。緊張で喉がヒリつくのを感じながら先を促す。
「...あるとしたら?」
「...10年近くずっと連絡も寄越さず勝手に居なくなっちゃったことかしら。
治烏ちゃんが居なくなって私、すっごく寂しかったんだから!」
ぷくっと頬っぺたを膨らませて可愛らしく怒ってますアピールをする友璃愛ちゃんの姿を見て思わずポカンとしてしまう。
どんな罵声も謹んで受け入れる所存だったので一瞬「そんなこと?」と思ってしまったけれど、先ほど門の前で号泣していた友璃愛ちゃんの姿を思い出し、冗談っぽく言っていてもその言葉は紛れもなく本心なんだということを悟った。
「そ、それは本当にごめんなさい..........」
「謝るだけじゃ許さないわ。ちゃんと償ってもらわなきゃ。」
「えっと...その罪はどうしたら償わせてもらえる...?」
「ふふっそんなの簡単よ。」
『もう一度親友になってくれたら許してあげる』
花が咲いたような満面の笑みで右手を差し出しながらそう言ってくれた友璃愛ちゃんの姿は、最初ハッキリと見えていたはずなのにだんだんと輪郭がぼやけてちゃんと見えなくなってしまう。
そんな簡単なことで許されてしまって本当にいいのだろうか。
こんなに甘やかされて罰は当たらないだろうか。
でも。
涙ぐむばかりでなかなか手を取らない私に不安を覚えたのか、少し表情を曇らせ「...嫌?」と窺ってくる友璃愛ちゃんのその手を取らないなんて、そんなこと私には出来なかった。
「嫌なんて、そんなことあるはずない...!もう絶対に友璃愛ちゃんから逃げたりしない。だから、こんな私でも良ければ...もう一度親友になってください!!」
両手で力強くその手を掴み、精一杯の気持ちを伝えると友璃愛ちゃんは再び花が咲いたような笑顔になってくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
◆オマケ
「そういえば友璃愛ちゃん、あの事件で酷い怪我だったけど後遺症とか残らなかった?大丈夫?」
「あーーー.....えっと、実はこめかみにちょっとだけ痕が残ってる」
気まずそうにそう言いながら髪の毛を退けた友璃愛ちゃんのこめかみには校長先生のような傷痕がクッキリと残っていた。
髪の毛で隠れていて見えなかったので全然気付かなかった...サーっと血の気が引いていくのを感じる。
「よ、嫁入り前の女の子の顔に傷をつけてしまうなんて....せ、責任とってけけけけ結婚.....」
「もぅ治烏ちゃんったら!結婚なんて簡単に言っちゃダメよ?」
ワナワナと震える私をクスクスと笑いつつ「日本ではまだ同性婚が認められていないのが惜しいわ〜」と楽しそうに冗談を言う友璃愛ちゃんであった。
いつもなら休日はおばあちゃんの知り合いの病院へお手伝いに行っているけれど昨日無理をしたばかりなんだから今日はしっかり休めと言われている。
私は大丈夫なのに。おばあちゃんはスパルタの割に意外と心配症なんだから。
一応お昼過ぎまでたっぷり寝てたらいつも以上に元気になった。昨日の事件でももちろん疲れたけれど、最近校内で知らない人からジロジロ見られるようになってしまったことで地味に疲れが溜まってのがようやくリセットされた気分だ。
このままゴロゴロしていてもいいけれど、せっかくなら身になることをしたい。とりあえず筋トレでもしようかと考えていたところで携帯の通知音が鳴った。
携帯を確認するとクラスのグループチャットに新着のメッセージが届いていた。
一昨日まではおばあちゃんや先生方の名前しか並んでいなかった『友だち』の項目にクラスメイトの名前が並んでいるのを見て思わず頬が緩む。昨日、帰りがけにクラスの皆と連絡先の交換をしたのだ。
...お友達。
そういえばやらなきゃいけないこと、あったじゃないか。ずっと目を背けてきたけれど...またUSJの時みたいに肝心な時に戦えないなんてことにならない為にもいい加減ちゃんと向き合わないといけない。
「よし、行くか...!」
1人しか居ない部屋でひっそりと気合を入れた。
***
メガネに帽子という完璧な変装をし、9年ぶりに訪れた地は幼い頃の記憶よりも少しだけ栄えているように感じた。
街の変化を物珍しく見回しながら昔の記憶を頼りに親友だったあの子の家を目指す。
駅の周辺はだいぶ変わってしまったけれど、よく遊んだ公園や駄菓子屋さんなどは昔のまま残っていてまるでタイムスリップでもしたかのような不思議な気持ちになった。
普段よりゆったりとしてたペースで歩き、時間をかけて辿り着いた親友ー友璃愛ちゃんのお家。
お引越しをしていたらどうしようと少し不安だったけれどあの頃と変わらず立派なお家がそこにあった。
あの頃は背伸びしないと届かなかったインターホンも今では目線より下にある。
チャイムを鳴らそうと手を伸ばしかけたところでふと我に返った。
「いつまでも目を背けてちゃいけない!」という勢いだけでここまで来てしまったけど、よく考えたらアポも取っていないし、そもそも一方的に関係を絶った人間が今さらどんな顔をして会ったら良いのか。友璃愛ちゃんは私の顔なんて見たくないかもしれないし、私と会うことであの事件のことを思い出させてツライ思いをさせてしまう可能性だってある。
だんだんと思考がマイナスの方向へ落ちていき、なかなかインターホンを押せずにいたら
「治烏ちゃん....?」
突然背後から小さく名前を呼ばれた。
反射的に声の方向へ振り向くと私の記憶と雰囲気は変わらず、でも高校の制服を身に纏いしっかりと美人に成長した友璃愛ちゃんの姿がそこにあった。
「友璃愛ちゃ「治烏ちゃーーーーーーーーーん!!!!!!!」ぐえっ」
ものすごい勢いで私の懐に飛び込んできた友璃愛ちゃん。ハグではなく完全にタックルの勢いだった。
突然そんな勢いで向かってこられたら私に踏ん張ることなど不可能でそのまま後方に押し倒され、咄嗟に受け身を取りなんとか頭はぶつけずに済んだものの、地面と友璃愛ちゃんに挟まれた圧力で思わず蛙が潰された時のような声を出してしまった。
このスピードとパワー、もし友璃愛ちゃんがヒーローを目指したら私なんかより全然強いんじゃ...。
昔、膝を擦りむいただけで泣いていたとは思えないほど逞しい成長を遂げた友璃愛ちゃんには驚かされたけれど、すぐに「治烏ちゃん...夢じゃない...本物だぁ.......」と大粒の涙を零しながら私の胸に縋り付いていることに気付き、私はそっと友璃愛ちゃんの頭を撫でた。
***
「さっきは取り乱してしまってごめんなさい」
高そうな紅茶を差し出しながら恥ずかしそうに友璃愛ちゃんは言った。
「ううん、謝るのはこっちの方だよ。...ずっと友璃愛ちゃんに合わせる顔が無いと思って逃げてた...本当にごめんなさい。」
もっと嫌われているものだと思っていた。
でも実際に会った友璃愛ちゃんは私のことを嫌うどころか大泣きしてしまうほど私に会えたことを喜んでくれた。
だからと言っても友璃愛ちゃんの好意に甘えてばかりはいられない。例え嫌われていなかったとしても、私が友璃愛ちゃんを傷付けてしまった事実は変わらない。キチンと謝って、償わないといけない。
「本当に今更何をって感じだけど...あの時は私のせいで友璃愛ちゃんを巻き込んでしまって本当にごめんなさい。
私がお外で治癒の能力なんて使わなければ誘拐されることもなかったし、風の力を制御出来なくて友璃愛ちゃんに大怪我させちゃったし...全部、全部私のせい。どれだけ謝っても足りないと思う。でも、何度でも謝らせてほしい。本当に、本当にごめんなさい。」
膝の位置にある机に頭をぶつけん勢いで頭を下げ、その態勢のまま9年間ずっと抱き続けていた気持ちを吐き出した。
友璃愛ちゃんは私の謝罪とも懺悔とも取れる言葉を静かに聞いてくれた。
そして私が言いたいことを全て吐き出し終わったのを確認すると、友璃愛ちゃんは私の肩に優しく触れた。
「治烏ちゃん、顔をあげて」
その言葉に従って、恐る恐る顔をあげる。
「あの時のことは治烏ちゃんのせいじゃないわ。だって公園で個性を使ってくれた時も、風の力が暴走しちゃったのだって、全部私を助ける為だったじゃない。」
「だけど...結果的に友璃愛ちゃんを傷つけてしまったことに変わりはないよ...」
「それは違うわ。治烏ちゃんが居てくれたから私は助かったのよ。
治烏ちゃんが戦って、治してくれなかったら私は今ここに居なかったわ。
でもそうね....一つだけ治烏ちゃんに怒っていることがあるとしたら...」
そこで一旦言葉を区切る友璃愛ちゃん。
友璃愛ちゃんを傷つけてしまったこと以上に友璃愛ちゃんを怒らせてしまったことがあるなんて皆目見当がつかない。緊張で喉がヒリつくのを感じながら先を促す。
「...あるとしたら?」
「...10年近くずっと連絡も寄越さず勝手に居なくなっちゃったことかしら。
治烏ちゃんが居なくなって私、すっごく寂しかったんだから!」
ぷくっと頬っぺたを膨らませて可愛らしく怒ってますアピールをする友璃愛ちゃんの姿を見て思わずポカンとしてしまう。
どんな罵声も謹んで受け入れる所存だったので一瞬「そんなこと?」と思ってしまったけれど、先ほど門の前で号泣していた友璃愛ちゃんの姿を思い出し、冗談っぽく言っていてもその言葉は紛れもなく本心なんだということを悟った。
「そ、それは本当にごめんなさい..........」
「謝るだけじゃ許さないわ。ちゃんと償ってもらわなきゃ。」
「えっと...その罪はどうしたら償わせてもらえる...?」
「ふふっそんなの簡単よ。」
『もう一度親友になってくれたら許してあげる』
花が咲いたような満面の笑みで右手を差し出しながらそう言ってくれた友璃愛ちゃんの姿は、最初ハッキリと見えていたはずなのにだんだんと輪郭がぼやけてちゃんと見えなくなってしまう。
そんな簡単なことで許されてしまって本当にいいのだろうか。
こんなに甘やかされて罰は当たらないだろうか。
でも。
涙ぐむばかりでなかなか手を取らない私に不安を覚えたのか、少し表情を曇らせ「...嫌?」と窺ってくる友璃愛ちゃんのその手を取らないなんて、そんなこと私には出来なかった。
「嫌なんて、そんなことあるはずない...!もう絶対に友璃愛ちゃんから逃げたりしない。だから、こんな私でも良ければ...もう一度親友になってください!!」
両手で力強くその手を掴み、精一杯の気持ちを伝えると友璃愛ちゃんは再び花が咲いたような笑顔になってくれた。
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◆オマケ
「そういえば友璃愛ちゃん、あの事件で酷い怪我だったけど後遺症とか残らなかった?大丈夫?」
「あーーー.....えっと、実はこめかみにちょっとだけ痕が残ってる」
気まずそうにそう言いながら髪の毛を退けた友璃愛ちゃんのこめかみには校長先生のような傷痕がクッキリと残っていた。
髪の毛で隠れていて見えなかったので全然気付かなかった...サーっと血の気が引いていくのを感じる。
「よ、嫁入り前の女の子の顔に傷をつけてしまうなんて....せ、責任とってけけけけ結婚.....」
「もぅ治烏ちゃんったら!結婚なんて簡単に言っちゃダメよ?」
ワナワナと震える私をクスクスと笑いつつ「日本ではまだ同性婚が認められていないのが惜しいわ〜」と楽しそうに冗談を言う友璃愛ちゃんであった。