【長編】メランコリック・エンジェル
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上空から広場を見たとき、すでに相澤先生は脳みそ剥き出しの敵 に組み敷かれていた。
出入口の方も確認したら13号先生までもがやられていた。
しかしクラスメイト達がモヤ敵 を足止めし、飯田くんが演習場の外へと駆けて行くのも見えた。
飯田くんはおそらく他の先生たち を呼びに行ったのだろう。
皆が必死に戦っている時に私は昔のことを思い出してうだうだしていたなんて恥ずかしい...。
でも今は落ち込んでいる時間なんて無かった。事態は一刻を争う。
13号先生の容態も気になるけれど現在進行形で敵 に捕まっている相澤先生の方がどう考えてもピンチだ。先ずは広場の方へ...
「(どうか間に合って!)」
ありったけの風を纏って転ばない限界までスピードを上げ、広場へと急いだ。
***
「平和の象徴としての矜持を少しでもへし折って帰ろう」
私が広場に着いたのは手をいっぱい身に付けた敵 が蛙吹さんの顔に手を伸ばしているところだった。
あの手に触れさせてはいけない...!
直感的にそう思った私は、更にスピードを上げた。
しかしまだかなり距離が離れている。間に合わない...!
私が手の敵 の元へ到達するよりも早く、敵 の手は蛙吹さんの顔面に触れた。
...何も起こらない?
雰囲気的に麗日さんのような触れたものに何か効果を与えるタイプの個性かと思ったのだれど手の敵 に顔を触られた蛙吹さんは特に何も異常が起きていないようだった。
「...........。本っ当かっこいいぜ。イレイザ―ヘッド。」
手の敵 の言葉にハッとして相澤先生の方に視線を送ると相澤先生は脳みその敵 に組み敷かれながらも瞳を赤く光らせていた。
あんなにボロボロになりながらも私たちのことを守ることを第一に考えてくれているなんて。
でもあの状態では一時しのぎにはなってもピンチを脱したわけではない。相澤先生の個性を消す能力もすぐに途切れてしまうだろう。
まだ相澤先生の能力が発動している今のうちに蛙吹さんから手の敵 を引きはがさないと...!
「蛙吹さんから離れてぇえええ!!!」
手の敵 に向かって走ってきた勢いそのままに突っ込む。
風は相澤先生の個性によって消されてしまうかもしれないので抱きつくように全身でタックルをした。
非力な私でも流石にかなりのスピードがのっていたので手の敵 を巻き込んで縺れ合いながら転がることが出来た。
「んだこの女...!」
手の敵 はそう言いながら今度は私に向かって手を伸ばしてきた。被っていたヘルメットを掴まれるとヘルメットは塵のように崩れてしまった。
触れたものを塵にする個性...?触れられたのがヘルメットでよかった。もしさっきの蛙吹さんのように顔面を掴まれていたらと思うとゾッとする。めちゃくちゃ危険じゃないか...!
接近戦はマズイと思い素早く離れて、距離をとる。
手の敵 は舌打ちをし、酷く不機嫌そうに「脳無!」と叫ぶと相澤先生を組み敷いていた脳みそ敵 がこちらに向かってきた。
この脳みその奴が一番ヤバそうだ。オールマイトみたいな速度のそれに一瞬で距離を詰められる。
ヤバっ避けられない...!
「甦世風さん!!!!」
回避は出来ずとも少しでもダメージを減らそうと防御の構えに移行した時、蛙吹さんの隣に居た緑谷くんが勢いよくこちらに飛び出してきた。
「SMASH!!!」
緑谷くんの放ったパンチは『脳無』と呼ばれた脳みそ敵 にしっかりヒットし、凄まじい風圧を生んだ。
広場周辺にいたチンピラっぽい敵 たちは吹き飛ばされ、水辺は大きな波をつくり、照明の一部が割れるほどすごい威力だった。
私まで吹き飛ばされそうになったので咄嗟に逆向きに風を起こし必死に堪える。
しかしそんな凄まじい威力を持ってしても脳無は全くの無傷だった。
「ったく。次から次へと...。しかしいい動きをするなぁ...スマッシュって...オールマイトのフォロワーかい?」
脳無は私から緑谷くんに標的を変え、緑谷くんの拳を掴む。
「まぁいいや君。」
手の敵 がそう呟き蛙吹さんとその隣にいた峰田くんに向かって手を伸ばす。
蛙吹さんは緑谷くんに向かって舌を伸ばし、私は脳無と手の敵 を風で吹き飛ばそうと手をかざす。
私の風圧で吹き飛ばせるかはわからないけれどとにかく今はやるしかない...!
一触即発の状況の最中、入口の方から『バアン!』という大きな音と共にオールマイト先生が現れた。
「もう大丈夫。私が来た」
いつもの笑顔ではなく、酷く怒ったような余裕のない表情のNO.1ヒーローの姿がそこにあった。あんなオールマイト先生初めて見た。
「オールマイト!」
峰田くんが歓喜の声を上げる。
そして手の敵 が怪しく笑った。
「あぁ...コンティニューだ」
***
先ほどまで入口付近にいたオールマイト先生は目にも止まらぬ速さで広場に居たチンピラ敵 たちを倒し、相澤先生を救出した。
そして次の瞬間には私や緑谷くん達を抱え脳無や手の敵 達から距離を取っていた。
動体視力は良い方だと思っていたけれどオールマイト先生の速さには全く目がついていけなかった。
以前からおばあちゃん絡みでオールマイト先生とは何かと交流があったけれど、本気のオールマイト先生をこんなに間近で見たのは今日が初めてだった。
ゴクリ。と思わず唾を飲み込む。これがNO.1の力....!
「皆、入口へ。甦世風少女、相澤くんを頼んだ。意識がない、早く治癒を...!」
「は、はい!」
オールマイト先生から託された相澤先生は全身ボロボロで特に肘の皮が剥がれて肉が剥き出しになってしまっているところと、顔周りの損傷が激しかった。
この傷を塞ぐにはアレをするしかない。
しかしアレをやると強制的に意識を失ってしまうだろうからこんな敵 のすぐ近くに居ては危ない。もう少し離れなきゃ。
相澤先生の腕を肩にかけ、立ち上がろうと力を込めた.....が、立ち上がれない。
「(お、重い....!!)」
筋力小学生並みの私に成人男性を担ぐなんて芸当が出来るはずなかった。
オールマイト先生に運んでもらうわけにもいかないのでこの中で一番話せそうな人...緑谷くんにヘルプを求めることにした。
「緑谷くんすみません、もう少し敵 から距離を取りたいので相澤先生を運ぶのを手伝っていただけますか?」
「う、うん...」
緑谷くんはオールマイト先生を不安げに見つめていて、私が話しかけた後も後ろ髪を引かれるような思いが顔に出ていたけれども、オールマイト先生に「大丈夫!」と笑いかけられたこともあって渋々相澤先生を担いでくれた。
引きずらないように足の方は峰田くんが持ち上げてくれた。
移動しながら私は口元に手をあて、治癒力と風の力を混ぜ合わせた蝶々を生み出し放った。
私が動けなくなっても13号先生と、演習場の各地に飛ばされたと思われる他のクラスメイト達に少しでも治癒力を届ける為の措置だ。
状況がわからない以上、やれることはやっておくに越したことはない。
「うぉ!?いきなり誰に投げキッスしたんだ?!」
「ひぇ?!あ、えっと、これは私の治癒力と風の力を合わせたエネルギーの集合体でして...効果量は少ないのですが、この蝶々の近くにいる人の傷を治したり体力を回復したり出来るんです。」
集中していたらいきなり峰田くんから話しかけられてとてもビックリした。
声が裏返ってしまったし説明も早口になってしまった。恥ずかしい...。
「その蝶々...入試の時にも出していなかったかしら?私、見覚えがあるわ」
「そう言われればそうだった気がするぜ...!あの蝶々投げキッスから生み出されてたのかよ!!今度出す時はオイラに向かって投げキッスしてくれよな!!?」
「えっ、あ、はい.......?」
「甦世風ちゃん、その子の言うことはまともに聞かなくていいのよ...」
そう言いながら蛙吹さんは舌で峰田くんの頭をスパンッと叩いた。
オールマイト先生が来てくれたという安心感からか、何とも緊張感の無い会話を繰り広げていたら先ほどから広場の方を心配そうにチラチラと見つめていた緑谷くんが急に歩みを止めた。
何かあったのかと広場の方へ目を向けると、オールマイト先生にジャーマンスープレックスをかまされていた脳無の上半身とオールマイト先生の腰元をモヤの敵 が繋ぎ、腰元から顔を出した脳無がオールマイト先生の腰をガッシリと掴むという奇怪な状態になっていた。
遠目からだと見えづらいけれど脳無に捕まれている箇所には確かオールマイト先生の古傷があったはず。じんわりと血がにじんでいるような気がする。
先ほどまで少し和やかムードだった私たちはその様子を見て凍り付いた。
「甦世風さん、このあたりまでくれば大丈夫かな...?」
本当はもっと入口の方まで運んでもらいたかったけれど「もう耐えられない」とでも言うように不安げに俯いている緑谷くんをこれ以上引き留めることは出来なかった。
「....大丈夫です。ここまでありがとうございました。」
相澤先生を地面に下ろしすぐにでも駆け出しそうな緑谷くんの手を取り、ほんの少しだけでも体力を送ってあげる。
「緑谷くん...ちゃんと無事で戻ってきてくださいね。...オールマイト先生を頼みます。」
今にも泣き出してしまいそうな頼りない顔をしている緑谷くんを少しでも勇気づけるように、精一杯微笑みながら最後にギュッと手を握ると緑谷くんはハッとして少しだけ引き締まった顔になった。
「...うん。...いってくる...!」
「オールマイトォオオオ!!!!」
そう叫びながら広場の方へ駆けていく緑谷くんの背を見送りながら「よし。」と自分に気合いを入れる。
オールマイト先生の方は緑谷くんに任せて私は私にしか出来ないことをしよう。
「蛙吹さん、峰田くん、申し訳ありませんが私はこれから足手まといになってしまうと思います。」
残った2人に声をかけながら相澤先生の手を握る。
「今の私には重症の相澤を救う方法がこれしか思いうかびません。」
「お、おい、何する気なんだ...?」
『あの事件』以来この方法は封印していた。
身体への負担が大きいからとおばあちゃんから使用を禁止されてしまったから。
「危険なことではないのですが...強制的に眠ってしまうみたいなので、すみませんが私が眠ってしまった後、相澤先生のことをお願いします。
傷口は塞がると思いますが完治させることは出来ないので一刻も早く専門の医療機関に連れていってください。
万が一途中で敵 に襲われても私のことは置いていって構わないので相澤先生だけは助けていただけますか?」
「ケロ...そんなことはしないわ。何をするのかわからないけれど絶対に2人とも助けるわ。」
「!...ふふっありがとうございます。」
皆の足を引っ張りたくないので本心から「置いて行って構わない」と言ったのだけど頼もしい蛙吹さんの言葉に思わず笑みが零れる。
さすが、ヒーロー科の人たちはまだ学生でも志はすでに立派なヒーローだ。相澤先生が見込んだだけのことはある。
私だってヒーローになりたい。
出来損ないじゃなく、助けてもらうだけでもない。
あの日の爆豪くんのように、強くてかっこいいヒーローに。
かなり久しぶりに使うのであの時みたいにちゃんと出来るかはわからない。
けれど風と違って治癒の力はあれから嫌というほど鍛えてきたからきっと大丈夫。
『お前の力は人を助ける為にある。』
轟くんも、そう言ってくれた。
絶対に救ってみせる。
一回深呼吸をして気持ちを落ち着け、集中し、損傷の酷い相澤先生の目元に唇を落とした。
それと同時に私の意識もそこで途切れた。
出入口の方も確認したら13号先生までもがやられていた。
しかしクラスメイト達がモヤ
飯田くんはおそらく他の
皆が必死に戦っている時に私は昔のことを思い出してうだうだしていたなんて恥ずかしい...。
でも今は落ち込んでいる時間なんて無かった。事態は一刻を争う。
13号先生の容態も気になるけれど現在進行形で
「(どうか間に合って!)」
ありったけの風を纏って転ばない限界までスピードを上げ、広場へと急いだ。
***
「平和の象徴としての矜持を少しでもへし折って帰ろう」
私が広場に着いたのは手をいっぱい身に付けた
あの手に触れさせてはいけない...!
直感的にそう思った私は、更にスピードを上げた。
しかしまだかなり距離が離れている。間に合わない...!
私が手の
...何も起こらない?
雰囲気的に麗日さんのような触れたものに何か効果を与えるタイプの個性かと思ったのだれど手の
「...........。本っ当かっこいいぜ。イレイザ―ヘッド。」
手の
あんなにボロボロになりながらも私たちのことを守ることを第一に考えてくれているなんて。
でもあの状態では一時しのぎにはなってもピンチを脱したわけではない。相澤先生の個性を消す能力もすぐに途切れてしまうだろう。
まだ相澤先生の能力が発動している今のうちに蛙吹さんから手の
「蛙吹さんから離れてぇえええ!!!」
手の
風は相澤先生の個性によって消されてしまうかもしれないので抱きつくように全身でタックルをした。
非力な私でも流石にかなりのスピードがのっていたので手の
「んだこの女...!」
手の
触れたものを塵にする個性...?触れられたのがヘルメットでよかった。もしさっきの蛙吹さんのように顔面を掴まれていたらと思うとゾッとする。めちゃくちゃ危険じゃないか...!
接近戦はマズイと思い素早く離れて、距離をとる。
手の
この脳みその奴が一番ヤバそうだ。オールマイトみたいな速度のそれに一瞬で距離を詰められる。
ヤバっ避けられない...!
「甦世風さん!!!!」
回避は出来ずとも少しでもダメージを減らそうと防御の構えに移行した時、蛙吹さんの隣に居た緑谷くんが勢いよくこちらに飛び出してきた。
「SMASH!!!」
緑谷くんの放ったパンチは『脳無』と呼ばれた脳みそ
広場周辺にいたチンピラっぽい
私まで吹き飛ばされそうになったので咄嗟に逆向きに風を起こし必死に堪える。
しかしそんな凄まじい威力を持ってしても脳無は全くの無傷だった。
「ったく。次から次へと...。しかしいい動きをするなぁ...スマッシュって...オールマイトのフォロワーかい?」
脳無は私から緑谷くんに標的を変え、緑谷くんの拳を掴む。
「まぁいいや君。」
手の
蛙吹さんは緑谷くんに向かって舌を伸ばし、私は脳無と手の
私の風圧で吹き飛ばせるかはわからないけれどとにかく今はやるしかない...!
一触即発の状況の最中、入口の方から『バアン!』という大きな音と共にオールマイト先生が現れた。
「もう大丈夫。私が来た」
いつもの笑顔ではなく、酷く怒ったような余裕のない表情のNO.1ヒーローの姿がそこにあった。あんなオールマイト先生初めて見た。
「オールマイト!」
峰田くんが歓喜の声を上げる。
そして手の
「あぁ...コンティニューだ」
***
先ほどまで入口付近にいたオールマイト先生は目にも止まらぬ速さで広場に居たチンピラ
そして次の瞬間には私や緑谷くん達を抱え脳無や手の
動体視力は良い方だと思っていたけれどオールマイト先生の速さには全く目がついていけなかった。
以前からおばあちゃん絡みでオールマイト先生とは何かと交流があったけれど、本気のオールマイト先生をこんなに間近で見たのは今日が初めてだった。
ゴクリ。と思わず唾を飲み込む。これがNO.1の力....!
「皆、入口へ。甦世風少女、相澤くんを頼んだ。意識がない、早く治癒を...!」
「は、はい!」
オールマイト先生から託された相澤先生は全身ボロボロで特に肘の皮が剥がれて肉が剥き出しになってしまっているところと、顔周りの損傷が激しかった。
この傷を塞ぐにはアレをするしかない。
しかしアレをやると強制的に意識を失ってしまうだろうからこんな
相澤先生の腕を肩にかけ、立ち上がろうと力を込めた.....が、立ち上がれない。
「(お、重い....!!)」
筋力小学生並みの私に成人男性を担ぐなんて芸当が出来るはずなかった。
オールマイト先生に運んでもらうわけにもいかないのでこの中で一番話せそうな人...緑谷くんにヘルプを求めることにした。
「緑谷くんすみません、もう少し
「う、うん...」
緑谷くんはオールマイト先生を不安げに見つめていて、私が話しかけた後も後ろ髪を引かれるような思いが顔に出ていたけれども、オールマイト先生に「大丈夫!」と笑いかけられたこともあって渋々相澤先生を担いでくれた。
引きずらないように足の方は峰田くんが持ち上げてくれた。
移動しながら私は口元に手をあて、治癒力と風の力を混ぜ合わせた蝶々を生み出し放った。
私が動けなくなっても13号先生と、演習場の各地に飛ばされたと思われる他のクラスメイト達に少しでも治癒力を届ける為の措置だ。
状況がわからない以上、やれることはやっておくに越したことはない。
「うぉ!?いきなり誰に投げキッスしたんだ?!」
「ひぇ?!あ、えっと、これは私の治癒力と風の力を合わせたエネルギーの集合体でして...効果量は少ないのですが、この蝶々の近くにいる人の傷を治したり体力を回復したり出来るんです。」
集中していたらいきなり峰田くんから話しかけられてとてもビックリした。
声が裏返ってしまったし説明も早口になってしまった。恥ずかしい...。
「その蝶々...入試の時にも出していなかったかしら?私、見覚えがあるわ」
「そう言われればそうだった気がするぜ...!あの蝶々投げキッスから生み出されてたのかよ!!今度出す時はオイラに向かって投げキッスしてくれよな!!?」
「えっ、あ、はい.......?」
「甦世風ちゃん、その子の言うことはまともに聞かなくていいのよ...」
そう言いながら蛙吹さんは舌で峰田くんの頭をスパンッと叩いた。
オールマイト先生が来てくれたという安心感からか、何とも緊張感の無い会話を繰り広げていたら先ほどから広場の方を心配そうにチラチラと見つめていた緑谷くんが急に歩みを止めた。
何かあったのかと広場の方へ目を向けると、オールマイト先生にジャーマンスープレックスをかまされていた脳無の上半身とオールマイト先生の腰元をモヤの
遠目からだと見えづらいけれど脳無に捕まれている箇所には確かオールマイト先生の古傷があったはず。じんわりと血がにじんでいるような気がする。
先ほどまで少し和やかムードだった私たちはその様子を見て凍り付いた。
「甦世風さん、このあたりまでくれば大丈夫かな...?」
本当はもっと入口の方まで運んでもらいたかったけれど「もう耐えられない」とでも言うように不安げに俯いている緑谷くんをこれ以上引き留めることは出来なかった。
「....大丈夫です。ここまでありがとうございました。」
相澤先生を地面に下ろしすぐにでも駆け出しそうな緑谷くんの手を取り、ほんの少しだけでも体力を送ってあげる。
「緑谷くん...ちゃんと無事で戻ってきてくださいね。...オールマイト先生を頼みます。」
今にも泣き出してしまいそうな頼りない顔をしている緑谷くんを少しでも勇気づけるように、精一杯微笑みながら最後にギュッと手を握ると緑谷くんはハッとして少しだけ引き締まった顔になった。
「...うん。...いってくる...!」
「オールマイトォオオオ!!!!」
そう叫びながら広場の方へ駆けていく緑谷くんの背を見送りながら「よし。」と自分に気合いを入れる。
オールマイト先生の方は緑谷くんに任せて私は私にしか出来ないことをしよう。
「蛙吹さん、峰田くん、申し訳ありませんが私はこれから足手まといになってしまうと思います。」
残った2人に声をかけながら相澤先生の手を握る。
「今の私には重症の相澤を救う方法がこれしか思いうかびません。」
「お、おい、何する気なんだ...?」
『あの事件』以来この方法は封印していた。
身体への負担が大きいからとおばあちゃんから使用を禁止されてしまったから。
「危険なことではないのですが...強制的に眠ってしまうみたいなので、すみませんが私が眠ってしまった後、相澤先生のことをお願いします。
傷口は塞がると思いますが完治させることは出来ないので一刻も早く専門の医療機関に連れていってください。
万が一途中で
「ケロ...そんなことはしないわ。何をするのかわからないけれど絶対に2人とも助けるわ。」
「!...ふふっありがとうございます。」
皆の足を引っ張りたくないので本心から「置いて行って構わない」と言ったのだけど頼もしい蛙吹さんの言葉に思わず笑みが零れる。
さすが、ヒーロー科の人たちはまだ学生でも志はすでに立派なヒーローだ。相澤先生が見込んだだけのことはある。
私だってヒーローになりたい。
出来損ないじゃなく、助けてもらうだけでもない。
あの日の爆豪くんのように、強くてかっこいいヒーローに。
かなり久しぶりに使うのであの時みたいにちゃんと出来るかはわからない。
けれど風と違って治癒の力はあれから嫌というほど鍛えてきたからきっと大丈夫。
『お前の力は人を助ける為にある。』
轟くんも、そう言ってくれた。
絶対に救ってみせる。
一回深呼吸をして気持ちを落ち着け、集中し、損傷の酷い相澤先生の目元に唇を落とした。
それと同時に私の意識もそこで途切れた。