【長編】メランコリック・エンジェル
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テーマパークみたいな演習場に着きテンションが上がったのも束の間
「一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで下さい」
13号先生が言ったその言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった気がした。
ーーーーーーーーーーーー
私は昔からとても人見知りな性格だった。
初対面の人の前では表情筋が固まってしまうし、自分から話しかける勇気も無い。
幼稚園に入園した私は周りが続々と友達を作り、楽しそうに遊んでいる姿をただ羨ましそうに見ていることしか出来なかった。
そんな私に声をかけてくれた子がいた。
「あなたとっても可愛いね!わたし、友璃愛って言うの。あなたのお名前は?」
大きな瞳をキラキラと輝かせながら少女特有の可愛らしい声で問いかけてきた。
「.....治烏。」
「治烏ちゃんって言うんだ!お名前もかわいい!」
友璃愛ちゃんは相変わらず表情筋を固まらせたまま小さくポツリと名乗った私に気を悪くすることもなく、嬉しそうに私の名前を呼んでくれた。
「良かったら一緒に遊ぼう?」
そう言って笑顔で私に手を差し出してくれたので戸惑いながらもその手を取った。
最初はなかなか上手くお話出来なかったけれど、そんなこと気にせず気さくに話しかけてくれる友璃愛ちゃんに私はだんだんと心を開いていった。
生まれて初めてお友達が出来た。
もうすぐ4歳になるというある日、ついに私にも個性が発現した。
治癒の能力だった。
でも同時期に個性が発現した双子の妹...美癒の方が強力な治癒能力を持っていることがわかるとお母さんを含めた大人たちはまるで私など存在しないかのように美癒だけを持て囃すようになった。
私もお母さんに褒めてもらいたい。
なんとかお母さんの気を引こうと頑張ってみたけれど逆効果だったみたいで余計に嫌われてしまった。
お母さんに無視されるのは寂しいかった。でも私には大好きなお友達の友璃愛ちゃんがいた。
友璃愛ちゃんは私の半端な治癒能力もいつも「すごい!」と褒めてくれた。
友璃愛ちゃんが喜んでくれるのが嬉しくてよく治癒の力を使っていたら、珍しく私に話しかけてくれたお母さんから「外では絶対に個性を使うな」と叱られてしまった。
もうすぐ小学校に上がるという頃。
その日もいつもの如く友璃愛ちゃんと一緒に公園で遊んでいた。
近所の子達と一緒に、数人で鬼ごっこをしていたら友璃愛ちゃんが転んで足を擦りむいてしまった。
「うぅ...痛いよぉ。」
「友璃愛ちゃん、私がいるから大丈夫だよ!」
痛みによって涙目になってしまった友璃愛ちゃんの手を取って安心させるように微笑む。
(友璃愛ちゃんの怪我を治して...)
そう心の中で念じながら瞳を閉じて手をギュッと握ると見る見るうちに傷が癒えていった。
お母さんに怒られて以来久しぶりに個性を使ったけどどうやら上手く出来たみたいだ。
一緒に遊んでいた近所の子達にすごいすごいと囃し立てられ、友璃愛ちゃんも笑顔になってくれた。
「治烏ちゃんありがとう!治烏ちゃんって治癒してる時、風で髪の毛がふわってなるのが天使の羽根が生えたみたいでとっても可愛いよね。」
「たしかに!治烏ちゃんお顔もとっても可愛いから絵本に出てくる天使さんみたいだね。」
天使さんかぁ...なんだかちょっとくすぐったいけど嬉しいな。
お母さんからの言いつけは破ってしまったけれど、友璃愛ちゃんが笑顔になってくれたんだからちょっとくらい良いだろう。
大好きなお友達が泣いているのを放っておくなんて出来ない。
その時は何故個性を禁止されていたかなんてよく考えず、そんなことを思っていた。
....治癒していたところを悪い人に見られていたなんて気付かずに。
***
「ここは...?」
気付いたら見覚えの無い倉庫のような場所に居た。
どうしてこんなところで寝てたんだろう...?
ここに来る前のことを必死に思い出そうとする。
たしか、近所の子たちと遊んでいて...夕方のチャイムが鳴ったのでいつものように解散した。
今日もお母さんと美癒は遠征に出かけているので友璃愛ちゃんのお家でお夕飯を食べさせてもらうことになっていた。
友璃愛ちゃんの家に2人で向かっている途中で...そういえば知らない大人の人に声をかけられたんだ。
でもそこからの記憶がない。
薄暗い倉庫の中を見回すと近くに友璃愛ちゃんも倒れていた。
「友璃愛ちゃん...!!」
友璃愛ちゃんの元へ駆け寄ったところで倉庫のドアが開いた。
「おや、あと数時間は眠ったままのはずなんだが...お早いお目覚めだねお嬢ちゃん。」
道で声をかけてきた男が倉庫に入ってきた。
男が入ってきたドアから一瞬見えた外はまだ日が沈みきっておらず此処へ連れて来られてからそんなに時間は経っていないようだった。
「...ちょうどいい、まずは君の治癒能力を確かめよう。」
そう言って男がこちらに向かってきた。
思わず身構えると男は私ではなく、まだ眠っている友璃愛ちゃんの腕を掴んだ。
「?!友璃愛ちゃんに触らないで...!」
「君が俺の言うことをちゃんと聞けばそんなに酷いことはしないさ。...こういうことはするけど、ね!」
そう言って男はポケットから大きめの折りたたみ式サバイバルナイフを取り出し、友璃愛ちゃんのお腹に突き立てた。
「っ....!きゃぁあああああああ」
「!!」
突然の衝撃に眠っていた友璃愛ちゃんは目を覚まして悲鳴をあげる。
私はビックリしすぎてその場で固まってしまい、友璃愛ちゃんのお腹がどんどん血に染まるのを見てようやくその場から動けた。
「友璃愛ちゃん!!」
「治烏...ちゃん...........」
友璃愛ちゃんはポロポロと涙を零しながら苦しそうに私を呼んだ。
「さぁ!さっき公園でやってたみたいにこの子を治癒してあげるんだ!!」
男は興奮気味にそう叫ぶとお腹からナイフを抜き、友璃愛ちゃんをこちらに寄越した。
「早く傷口を塞いであげないとその子死んじゃうよ?」
男からのニヤニヤとした視線を受けながら私は震える手を伸ばし友璃愛ちゃんのお腹に治癒の力を送る。
少しだけ傷口が小さくなったみたいだけど出血は止まらず床には血だまりが出来ていた。
ただでさえ私の治癒能力は弱いのに、最近治癒の力を使っていなかったブランクと混乱や恐怖で上手く治癒の力を送ることが出来なかった。
友璃愛ちゃんはどんどん顔色が悪くなって苦しそうに荒い呼吸を繰り返している。
このままじゃ友璃愛ちゃんが死んじゃう。涙が溢れてきた。
「おじさん...私、おばあちゃんや美癒みたいな強い力は無いから....小さな傷くらいしか治せないん、です......。
だから、友璃愛ちゃんを助けて...ください......。」
自分ではどうすることも出来ないのでこの人に助けてもらうしかないと思った。正直に自分の力不足を伝えればこんな意地悪やめてきっと助けてくれるはず。
...でも逆効果だった。
「はぁ?せっかく希少な治癒の個性持ちかと思ったらとんだ没個性かよ。高値で売れると思ったのに使えねぇな。」
「使えない」全くもってその通りだ。
私は親友の大怪我も治せない出来損ない。
ここに居るのが私じゃなくて美癒だったなら簡単に友璃愛ちゃんを助けてあげることが出来ただろう。
なんで私には美癒のような強い力が無いんだろう。
なるべく考えないようにしていたことがじわじわと心を犯す。
私が出来損ないだから..........お母さんすら私を愛してくれなかったじゃないか。
「もういい。お前にはその美癒って子を呼び出してもらおう、か!」
男はそう言いながら私を蹴り飛ばした。
近くにあった棚に背中から激突する。
「うぐっ」
息が詰まって一瞬気を失いそうになった。
痛みでその場から動くことが出来ず床に倒れ伏す。
「その前に俺の手を煩わせた罰だ。テメェが使えない出来損ないなせいでお友達が死ぬのをそこで眺めるんだな!!」
そう叫びながら男は先ほど友璃愛ちゃんのお腹を刺したナイフを振り上げた。
「や、やだ、治烏ちゃん助けて....!!」
そこから先は無意識だった。
プツンと私の中で何かがキレたような感覚がして、気付いた時には友璃愛ちゃんの元に駆け寄っていた。
そのままの勢いで友璃愛ちゃんの身体を突き飛ばすことに成功するも、男が振り上げたナイフは私の腕に深く突き刺さった。
「ぐっ」
「クソっこのガキ...!邪魔しやがって!!」
ナイフの痛みに私が一瞬怯んだ隙に男は素早くポケットからもう一本ナイフを取り出して突き飛ばされた友璃愛ちゃんの方へ走り出そうとした。
「友璃愛ちゃんに...触るなぁああああ!!!!」
刺された腕を押さえながら無我夢中でそう怒鳴ると屋内にも関わらず強風が吹き荒れた。
突然の強風により男の持っていたナイフが吹き飛ぶ。
「んだこの風...!」
自分でも何が起こっているのかよく分からなかった。
今まで風の個性は地面に落ちている葉っぱや花びらを少し舞い上げる程度のそよ風を吹かせるか、治癒の際周囲に少し風が吹くくらいだったのでこんな強力な風が出せるなんて知らなかった。
呆然としていると風は渦巻き状に集まり竜巻となった。
すごい威力のそれは倉庫内のあらゆるものを巻き上げ、倉庫の屋根すら吹き飛ばす。
気付いた時には男はもちろん、友璃愛ちゃんまでもが竜巻の中に巻き込まれていた。
「ま、待って止まって...!!」
暴走したように吹き荒れる風をどうやったら止められるのかわからない。
手を組み祈るように必死で(止まれ、止まれ!)と念じるとしばらくしてようやく竜巻がおさまった。
風がおさまると同時に割れるような頭の痛みと、気を抜いたら眠ってしまいそうなほど酷い眠気が襲ってきた。
頭痛とナイフが突き刺さっている腕の痛みで辛うじて意識を保てている状態で周囲を見回すとあたりは超大型の台風でも通ったかのような悲惨な状況になっていた。
その中に友璃愛ちゃんの姿を見つけ、眠気が一瞬で吹き飛ぶ。
「友璃愛ちゃん...!」
急いで友璃愛ちゃんに駆け寄ると友璃愛ちゃんの身体は男に刺されたお腹の傷の他、一緒に竜巻に巻き込まれた倉庫内にあった物によって打撲だらけになっており、更にこめかみの辺りはナイフかガラス片が当たってしまったのか、ザックリ裂かれて酷く出血していた。
友璃愛ちゃんを助けたい一心で動いていたはずなのに私のせいで余計に酷い怪我を負わせてしまった。
それに、お母さんから特に嫌がられて使うのを控えていた風の個性のことを、自分でも初めて『怖い』と思ってしまった。
けれど今は嘆いている場合ではない。
血を流しすぎているせいか、友璃愛ちゃんの顔色はとても青白くなっていた。
このまま血が流れ続けたら本当に友璃愛ちゃんが死んでしまう。
助けてくれる人なんていない。
私が...私がなんとかしないと。
友璃愛ちゃんを抱きしめ、いつものように手を握り
ありったけの治癒力を送る。
しかしそれだけでは足りない。
何か...もっと沢山治癒力を送れる方法は.....
そこでふと、以前おばあちゃんが治癒しているところを見せてもらった時のことを思い出した。
おばあちゃんがしていたように、ダメ元で友璃愛ちゃんのこめかみ辺りに唇を落とす。
すると急速に治癒力が友璃愛ちゃんへ流れるような感覚がした。
そして私は意識を手放した。
「一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで下さい」
13号先生が言ったその言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった気がした。
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私は昔からとても人見知りな性格だった。
初対面の人の前では表情筋が固まってしまうし、自分から話しかける勇気も無い。
幼稚園に入園した私は周りが続々と友達を作り、楽しそうに遊んでいる姿をただ羨ましそうに見ていることしか出来なかった。
そんな私に声をかけてくれた子がいた。
「あなたとっても可愛いね!わたし、友璃愛って言うの。あなたのお名前は?」
大きな瞳をキラキラと輝かせながら少女特有の可愛らしい声で問いかけてきた。
「.....治烏。」
「治烏ちゃんって言うんだ!お名前もかわいい!」
友璃愛ちゃんは相変わらず表情筋を固まらせたまま小さくポツリと名乗った私に気を悪くすることもなく、嬉しそうに私の名前を呼んでくれた。
「良かったら一緒に遊ぼう?」
そう言って笑顔で私に手を差し出してくれたので戸惑いながらもその手を取った。
最初はなかなか上手くお話出来なかったけれど、そんなこと気にせず気さくに話しかけてくれる友璃愛ちゃんに私はだんだんと心を開いていった。
生まれて初めてお友達が出来た。
もうすぐ4歳になるというある日、ついに私にも個性が発現した。
治癒の能力だった。
でも同時期に個性が発現した双子の妹...美癒の方が強力な治癒能力を持っていることがわかるとお母さんを含めた大人たちはまるで私など存在しないかのように美癒だけを持て囃すようになった。
私もお母さんに褒めてもらいたい。
なんとかお母さんの気を引こうと頑張ってみたけれど逆効果だったみたいで余計に嫌われてしまった。
お母さんに無視されるのは寂しいかった。でも私には大好きなお友達の友璃愛ちゃんがいた。
友璃愛ちゃんは私の半端な治癒能力もいつも「すごい!」と褒めてくれた。
友璃愛ちゃんが喜んでくれるのが嬉しくてよく治癒の力を使っていたら、珍しく私に話しかけてくれたお母さんから「外では絶対に個性を使うな」と叱られてしまった。
もうすぐ小学校に上がるという頃。
その日もいつもの如く友璃愛ちゃんと一緒に公園で遊んでいた。
近所の子達と一緒に、数人で鬼ごっこをしていたら友璃愛ちゃんが転んで足を擦りむいてしまった。
「うぅ...痛いよぉ。」
「友璃愛ちゃん、私がいるから大丈夫だよ!」
痛みによって涙目になってしまった友璃愛ちゃんの手を取って安心させるように微笑む。
(友璃愛ちゃんの怪我を治して...)
そう心の中で念じながら瞳を閉じて手をギュッと握ると見る見るうちに傷が癒えていった。
お母さんに怒られて以来久しぶりに個性を使ったけどどうやら上手く出来たみたいだ。
一緒に遊んでいた近所の子達にすごいすごいと囃し立てられ、友璃愛ちゃんも笑顔になってくれた。
「治烏ちゃんありがとう!治烏ちゃんって治癒してる時、風で髪の毛がふわってなるのが天使の羽根が生えたみたいでとっても可愛いよね。」
「たしかに!治烏ちゃんお顔もとっても可愛いから絵本に出てくる天使さんみたいだね。」
天使さんかぁ...なんだかちょっとくすぐったいけど嬉しいな。
お母さんからの言いつけは破ってしまったけれど、友璃愛ちゃんが笑顔になってくれたんだからちょっとくらい良いだろう。
大好きなお友達が泣いているのを放っておくなんて出来ない。
その時は何故個性を禁止されていたかなんてよく考えず、そんなことを思っていた。
....治癒していたところを悪い人に見られていたなんて気付かずに。
***
「ここは...?」
気付いたら見覚えの無い倉庫のような場所に居た。
どうしてこんなところで寝てたんだろう...?
ここに来る前のことを必死に思い出そうとする。
たしか、近所の子たちと遊んでいて...夕方のチャイムが鳴ったのでいつものように解散した。
今日もお母さんと美癒は遠征に出かけているので友璃愛ちゃんのお家でお夕飯を食べさせてもらうことになっていた。
友璃愛ちゃんの家に2人で向かっている途中で...そういえば知らない大人の人に声をかけられたんだ。
でもそこからの記憶がない。
薄暗い倉庫の中を見回すと近くに友璃愛ちゃんも倒れていた。
「友璃愛ちゃん...!!」
友璃愛ちゃんの元へ駆け寄ったところで倉庫のドアが開いた。
「おや、あと数時間は眠ったままのはずなんだが...お早いお目覚めだねお嬢ちゃん。」
道で声をかけてきた男が倉庫に入ってきた。
男が入ってきたドアから一瞬見えた外はまだ日が沈みきっておらず此処へ連れて来られてからそんなに時間は経っていないようだった。
「...ちょうどいい、まずは君の治癒能力を確かめよう。」
そう言って男がこちらに向かってきた。
思わず身構えると男は私ではなく、まだ眠っている友璃愛ちゃんの腕を掴んだ。
「?!友璃愛ちゃんに触らないで...!」
「君が俺の言うことをちゃんと聞けばそんなに酷いことはしないさ。...こういうことはするけど、ね!」
そう言って男はポケットから大きめの折りたたみ式サバイバルナイフを取り出し、友璃愛ちゃんのお腹に突き立てた。
「っ....!きゃぁあああああああ」
「!!」
突然の衝撃に眠っていた友璃愛ちゃんは目を覚まして悲鳴をあげる。
私はビックリしすぎてその場で固まってしまい、友璃愛ちゃんのお腹がどんどん血に染まるのを見てようやくその場から動けた。
「友璃愛ちゃん!!」
「治烏...ちゃん...........」
友璃愛ちゃんはポロポロと涙を零しながら苦しそうに私を呼んだ。
「さぁ!さっき公園でやってたみたいにこの子を治癒してあげるんだ!!」
男は興奮気味にそう叫ぶとお腹からナイフを抜き、友璃愛ちゃんをこちらに寄越した。
「早く傷口を塞いであげないとその子死んじゃうよ?」
男からのニヤニヤとした視線を受けながら私は震える手を伸ばし友璃愛ちゃんのお腹に治癒の力を送る。
少しだけ傷口が小さくなったみたいだけど出血は止まらず床には血だまりが出来ていた。
ただでさえ私の治癒能力は弱いのに、最近治癒の力を使っていなかったブランクと混乱や恐怖で上手く治癒の力を送ることが出来なかった。
友璃愛ちゃんはどんどん顔色が悪くなって苦しそうに荒い呼吸を繰り返している。
このままじゃ友璃愛ちゃんが死んじゃう。涙が溢れてきた。
「おじさん...私、おばあちゃんや美癒みたいな強い力は無いから....小さな傷くらいしか治せないん、です......。
だから、友璃愛ちゃんを助けて...ください......。」
自分ではどうすることも出来ないのでこの人に助けてもらうしかないと思った。正直に自分の力不足を伝えればこんな意地悪やめてきっと助けてくれるはず。
...でも逆効果だった。
「はぁ?せっかく希少な治癒の個性持ちかと思ったらとんだ没個性かよ。高値で売れると思ったのに使えねぇな。」
「使えない」全くもってその通りだ。
私は親友の大怪我も治せない出来損ない。
ここに居るのが私じゃなくて美癒だったなら簡単に友璃愛ちゃんを助けてあげることが出来ただろう。
なんで私には美癒のような強い力が無いんだろう。
なるべく考えないようにしていたことがじわじわと心を犯す。
私が出来損ないだから..........お母さんすら私を愛してくれなかったじゃないか。
「もういい。お前にはその美癒って子を呼び出してもらおう、か!」
男はそう言いながら私を蹴り飛ばした。
近くにあった棚に背中から激突する。
「うぐっ」
息が詰まって一瞬気を失いそうになった。
痛みでその場から動くことが出来ず床に倒れ伏す。
「その前に俺の手を煩わせた罰だ。テメェが使えない出来損ないなせいでお友達が死ぬのをそこで眺めるんだな!!」
そう叫びながら男は先ほど友璃愛ちゃんのお腹を刺したナイフを振り上げた。
「や、やだ、治烏ちゃん助けて....!!」
そこから先は無意識だった。
プツンと私の中で何かがキレたような感覚がして、気付いた時には友璃愛ちゃんの元に駆け寄っていた。
そのままの勢いで友璃愛ちゃんの身体を突き飛ばすことに成功するも、男が振り上げたナイフは私の腕に深く突き刺さった。
「ぐっ」
「クソっこのガキ...!邪魔しやがって!!」
ナイフの痛みに私が一瞬怯んだ隙に男は素早くポケットからもう一本ナイフを取り出して突き飛ばされた友璃愛ちゃんの方へ走り出そうとした。
「友璃愛ちゃんに...触るなぁああああ!!!!」
刺された腕を押さえながら無我夢中でそう怒鳴ると屋内にも関わらず強風が吹き荒れた。
突然の強風により男の持っていたナイフが吹き飛ぶ。
「んだこの風...!」
自分でも何が起こっているのかよく分からなかった。
今まで風の個性は地面に落ちている葉っぱや花びらを少し舞い上げる程度のそよ風を吹かせるか、治癒の際周囲に少し風が吹くくらいだったのでこんな強力な風が出せるなんて知らなかった。
呆然としていると風は渦巻き状に集まり竜巻となった。
すごい威力のそれは倉庫内のあらゆるものを巻き上げ、倉庫の屋根すら吹き飛ばす。
気付いた時には男はもちろん、友璃愛ちゃんまでもが竜巻の中に巻き込まれていた。
「ま、待って止まって...!!」
暴走したように吹き荒れる風をどうやったら止められるのかわからない。
手を組み祈るように必死で(止まれ、止まれ!)と念じるとしばらくしてようやく竜巻がおさまった。
風がおさまると同時に割れるような頭の痛みと、気を抜いたら眠ってしまいそうなほど酷い眠気が襲ってきた。
頭痛とナイフが突き刺さっている腕の痛みで辛うじて意識を保てている状態で周囲を見回すとあたりは超大型の台風でも通ったかのような悲惨な状況になっていた。
その中に友璃愛ちゃんの姿を見つけ、眠気が一瞬で吹き飛ぶ。
「友璃愛ちゃん...!」
急いで友璃愛ちゃんに駆け寄ると友璃愛ちゃんの身体は男に刺されたお腹の傷の他、一緒に竜巻に巻き込まれた倉庫内にあった物によって打撲だらけになっており、更にこめかみの辺りはナイフかガラス片が当たってしまったのか、ザックリ裂かれて酷く出血していた。
友璃愛ちゃんを助けたい一心で動いていたはずなのに私のせいで余計に酷い怪我を負わせてしまった。
それに、お母さんから特に嫌がられて使うのを控えていた風の個性のことを、自分でも初めて『怖い』と思ってしまった。
けれど今は嘆いている場合ではない。
血を流しすぎているせいか、友璃愛ちゃんの顔色はとても青白くなっていた。
このまま血が流れ続けたら本当に友璃愛ちゃんが死んでしまう。
助けてくれる人なんていない。
私が...私がなんとかしないと。
友璃愛ちゃんを抱きしめ、いつものように手を握り
ありったけの治癒力を送る。
しかしそれだけでは足りない。
何か...もっと沢山治癒力を送れる方法は.....
そこでふと、以前おばあちゃんが治癒しているところを見せてもらった時のことを思い出した。
おばあちゃんがしていたように、ダメ元で友璃愛ちゃんのこめかみ辺りに唇を落とす。
すると急速に治癒力が友璃愛ちゃんへ流れるような感覚がした。
そして私は意識を手放した。